『トイ・ストーリー』はこの作品へのオマージュ カレル・ゼマン『クリスマスの夢』

 カレル・ゼマンの記念すべき監督デビュー作です。
 画面がちょっと暗くて、見づらいですが、なんとか作品の雰囲気は伝わるでしょうか。



 【物語】
 クリスマスに新しいおもちゃを買ってもらった少女は、新しいおもちゃを目にしたとたんにそれまで大事にしていた手縫いの人形を部屋の隅に放り出してしまう。
 その夜、手縫いの人形は、ピアノを弾いたり、踊ったりして、少女の気持ちを取り戻そうとする。が、あわや、扇風機によって大惨事が起きそうになったり……。
 夢から醒めて、現実に戻ってみると、手縫いの人形はまだ部屋の隅に放りだされたままであった。

画像

 【解説】
 少女の気を引くために手縫いの人形が一所懸命に踊ったりするところは、のちの『水玉の幻想』につながるところで、リリカルな雰囲気自体も『水玉の幻想』と似ています。

 『クリスマスの夢』は、どちらかといえば少女向き(あるいは児童や幼児向き)の作品で、のちに少年向きの作品をたくさん作ったカレル・ゼマンとしては、作風が異なりますが、これは元々ヘルミナ・ティールロヴァーが監督して制作していたのを、カレル・ゼマンが引き継いだからで、最初からティールロヴァーの好みが濃い作品だったのだと考えられます。

 ティールロヴァーからゼマンに監督が交替したのは、現像所の火事でネガが消失してしまい、せっかく人形を1コマずつ動かして撮影したフィルムが失われ、それまでの苦労が水の泡になってしまったことに、ティールロヴァーが失望し、再撮影する気力を失ってしまったからだ、と伝えられています。

 そういうこともあって完成した本作は、第1回カンヌ国際映画祭に出品されて、シナリオ大賞を受賞し、同じく出品されていたイジー・トルンカの『動物たちと山賊』がアニメ大賞を受賞したのと合わせ、世界にチェコ・アニメの力を印象づけることになりました。

 物語の内容からは、どうしたって『トイ・ストーリー』を思い浮かべてしまいますが、ジョン・ラセターが『クリスマスの夢』を知らないとも思えないので、『トイ・ストーリー』はジョン・ラセターによる『クリスマスの夢』へのオマージュ、もしくはリメイクと考えていいと思います。

 この作品で監督としてデビューしたゼマンは(この時36歳)、次作からは最初から単独で監督を務めることになりますが、しばらくはティールロヴァーの作品世界に近い、子ども向けのほのぼのとした作品を作っていくことになります。

 ◆作品データ
 1945年/チェコスロバキア/11分
 台詞なし/日本語字幕なし
 人形アニメーション

 *この作品は、DVD『幻想の魔術師 カレル・ゼマン「クラバート」 短編「クリスマスの夢」』に収録されています。

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 ◆監督について
 カレル・ゼマン
 1910年 オーストリア・ヘンガリー帝国(現・チェコ)のオストロムニェジェに生まれ、1989年 プラハで没。
 幻想の魔術師、映像の錬金術師、チェコアニメ3巨匠の1人などと称される。

 少年の心をくすぐる冒険ファンタジー、次々と襲い来る試練とロマンの物語、イマジネーションあふれる“未来の”マシーンやメカの創造(特に空を飛ぶ乗り物)、技術の不足をアイデアで補った特撮、……。子ども向けの作品ばかりでありながら、(今となってはレトロとも思える)その作品の魅力にとりつかれたファンは多い。

 父親は貝ボタン職人。
 幼い頃から人形劇が好きだった。
 フランスの広告美術の学校で学び、マルセイユのスタジオに就職。最初に手がけた仕事はスープの広告。
 帰国後も広告の仕事がしたいと考え、まずは、ショーウィンドウのディスプレイのデザインなどを担当した後、ズリーンのクゥドロフ・スタジオに広報担当として就職(1943年)。そこで、アニメーション作家ヘルミナ・ティールロヴァーと出会い、アニメーションの制作に興味を持つ。
 1945年 ティールロヴァーと共同で『クリスマスの夢』を監督。正確には、撮影所の火事でフィルムが焼失してしまったことで失望して降板したティールロヴァーに代わって、カレル・ゼマンが再撮影を買って出る。実写部分をボジヴォイ・ゼマンが監督。この作品は、1946年のカンヌ国際映画祭で最優秀アニメーション賞を受賞。
 1947年 ゼマンとしての最初のプロジェクト「プロコウク氏」シリーズを手がける。
 1950年 最初の中編『王様の耳はロバの耳』を制作。この作品でアニメーションの監督として国内でも知られるようになる。
 1955年 俳優を使った、最初の実写作品『前世紀探検』を制作。
 続いて、ジュール・ヴェルヌ原作の『悪魔の発明』、『ほら男爵の冒険』、『彗星に乗って』など、子ども向けのSFや冒険ファンタジーを制作して、一躍人気監督となる。

 1987年には第2回国際アニメーションフェスティバルに国際名誉会長として来日している。

 娘のリュドミラ・ゼマンは、1984年にカナダに移住し、父の『シンドバッドの冒険』のアニメーターだったEugene Spalenyと結婚(http://www.bookcentre.ca/gg/lzeman.htm)。Eugene Spalenyは、“Certík Fidibus”(1981)、“Lord of the Sky ”(1992)等の監督作品を発表している。

 【フィルモグラフィー】
 ・1945年 『クリスマスの夢』
 ・1946年 『ハムスター』
 ・1946年 『幸福の蹄鉄』
 ・1947年 『プロコウク氏 在役中の巻(靴屋はいやだの巻)』
 ・1947年 『プロコウク氏 試練を受けるの巻(家作りの巻)』
 ・1947年 『プロコウク氏 ボランティアの巻』
 ・1947年 『プロコウク氏 映画製作の巻』
 ・1947年 『生者の中の死者』
 ・1947年 『労働者』
 ・1948年 『水玉の幻想』
 ・1949年 『プロコウク氏 発明家の巻(発明の巻)』
 ・1950年 『王様の耳はロバの耳(ラーヴラ王)』
 ・1952年 『鳥の島の財宝』
 ・1955年 『前世紀探検』 1958年日本公開
 ・1955年 『プロコウク氏 動物の友の巻』
 ・1958年 『悪魔の発明』 1959年日本公開
 ・1958年 『プロコウク氏 探偵の巻』
 ・1959年 『プロコウク氏 アクロバットの巻』
 ・1961年 『ほら男爵の冒険』 2004年日本公開
 ・1964年 『狂気のクロニクル』 2003年日本公開
 ・1966年 『盗まれた飛行船』 1987年日本公開
 ・1970年 『彗星に乗って』 1987年日本公開
 ・1971年 『シンドバッドの冒険 第1話 はじめての冒険』
 ・1972年 『シンドバッドの冒険 第2話 ふたたびの海へ』
 ・1972年 『プロコウク氏 時計屋の巻』
 ・1973年 『シンドバッドの冒険 第3話 巨人の島(巨人の国)』
 ・1973年 『シンドバッドの冒険 第4話 磁石の山』
 ・1973年 『シンドバッドの冒険 第5話 空飛ぶじゅうたん』
 ・1974年 『シンドバッドの冒険 第6話 閉じ込められた魔神(かいならされた悪魔)』
 ・1974年 『シンドバッドの冒険 第7話 海のサルタン』
 ・1976年 『千一夜物語』
 ・1977年 『クラバート』 2003年日本公開←1981年 池袋西武スタジオ200にて上映
 ・1980年 『ホンジークとマジェンカ』 2003年日本公開
 ・1981年 『カレル・ゼマンと子供たち』

 *資料によりデータ(邦題、制作年、作品そのもの)が異なる場合があります。

 *2003年にシアター・イメージフォラムにて<カレル・ゼマン レトロスペクティブ>が開催され、長編8作品(『鳥の島の財宝』『前世紀探検』『悪魔の発明』『狂気のクロニクル』『盗まれた飛行船』『彗星に乗って』『シンドバッドの冒険』『クラバート』『ホンジークとマジェンカ』)、短編5作品(『クリスマスの夢』『プロコウク氏 映画製作の巻』『水玉の幻想』『王様の耳はロバの耳』『鳥の島の財宝』『カレル・ゼマンと子供たち』)が上映されました。2004年 同劇場で『前世紀探検』『ほら男爵の冒険』が上映されました。

 *参考書籍
 ・『アニメーターズ1 カレル・ゼマン』(日本出版社)
 ・『夜想35 チェコの魔術的芸術』(ペヨトル工房) 
 ・『チェコアニメの巨匠たち』(エスクァイア マガジン ジャパン) 

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