詳細! 米国アカデミー賞2011 長編ドキュメンタリー賞候補 ショートリスト 15作品発表!

 米国アカデミー賞2011 長編ドキュメンタリー賞候補のショートリスト15作品が発表されました。(11月18日)

 ショートリストというのは、既にこの段階で絞り込みが行なわれているということを意味し、今年は、この部門に9月1日の締め切りまでに応募された作品のうち、有資格となったのは101作品あり、それが15作品にまで絞り込まれたそうです。

 ショートリスト15作品は、以下の通りです。

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 ・“Client 9: The Rise and Fall of Eliot Spitzer” 監督:アレックス・ギブニー
 ニューヨーク州知事にまで上りつめながら、高級売春クラブ通いを暴露されて辞任に追い込まれたエリオット・スピッツァーに関するドキュメンタリー。
 監督は、『エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?』、『「闇」へ』(アカデミー賞受賞)などで知られるアレックス・ギブニー。
 トロント国際映画祭2010 REAL TO REEL部門出品。

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 ・“Enemies of the People”(カンボジア・英) 監督:Rob Lemkin、Thet Sambath
 クメール・ルージュに家族を殺された若きジャーナリストが、虐殺を起こした加害者と親しくなり、ショッキングな事実を明るみに出していく。
 サンダンス映画祭2010 審査員特別賞受賞。
 サンタバーバラ国際映画祭2010 最優秀ドキュメンタリー賞受賞。
 香港国際映画祭2010 優秀ドキュメンタリー賞受賞。
 クラクフ映画祭2010シルバー・ホーン特別芸術賞(The Silver Horn for Special Artistic Merit)受賞。
 ブリティッシュ・インディペンデント・フィルム・アワード2010 ドキュメンタリー部門ノミネート。

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 ・“Exit through the Gift Shop”(米・英) 監督:Banksy
 イギリスのグラフィティ・アーティストBanksyが、自分のことを撮影しているフランス人店主がいるのを見て、それなら自分で自分を撮ってしまおうということで自ら手がけた“グラフィティ・アーティストBanksy”に関するドキュメンタリー作品。
 ブリティッシュ・インディペンデント・フィルム・アワード2010 ドキュメンタリー賞ノミネート。
 英国グリアソン・アワード2010 エンタテインメント賞受賞。
 IDAアワード2010 長編ドキュメンタリー賞ノミネート。

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 ・“Gasland”(米) 監督:Josh Fox
 噴出する猛毒、死んでいく家畜、可燃性の吹き溜まり、天然ガス採掘で健康を害する人々……。ガスにスポットライトを当てたドキュメンタリー。
 サンダンス映画祭2010 審査員特別賞受賞。

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 ・“Genius Within: The Inner Life of Glenn Gould”(カナダ) 監督:Michele Hozer、Peter Raymont
 グレン・グールドの精神世界にスポットライトを当てたドキュメンタリー。
 トロント国際映画祭2009 REAL TO REEL部門出品。
 IDAアワード2010 長編ドキュメンタリー賞ノミネート。

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 ・“Inside Job” 監督:チャールズ・ファーガソン
 2008年の金融危機に関する原因と犯人探しのドキュメンタリー。米国アカデミー賞2008 長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた“No End In Sight”のチャールズ・ファーガソン監督最新作。
 カンヌ国際映画祭2010 特別上映作品。
 トロント国際映画祭2009 REAL TO REEL部門出品。
 ゴッサム・アワード2010 ドキュメンタリー賞ノミネート。

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 ・“The Lottery”(米) 監督:Madeleine Sackler
 ロッテリーと言っても、この映画が焦点を当てるのは宝くじそのものではなく、宝くじの収益によって運営される独立校、いわゆるチャータースクール(Charter School)のこと。現在、全米の伝統的公的教育は危機状態にあって、アフロアメリカンの4年生の58%が読み書きができないと言われ、そうした学校に子供を通わせている親たちは、なんとかもっとよい教育環境に子供たちを移らせたいと考えている。そんな中、親とのしっかりした連携と理解を得て、教育を進めているチャータースクールは、教育環境としても素晴らしく、確実に成績もアップさせていて、希望の光のようにもみえる。本作では、そうしたチャータースクールに子供たちを入学させている4つの家族を追うとともに、現代の公的教育の問題点を明らかにする。

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 ・“Precious Life”(イスラエル) 監督:Shlomi Eldar
 先天性の不治の病を持つ赤ん坊を抱え、助けを求めるパレスチナ人の母親と、手を差し伸べることができるイスラエルの小児科医が、それぞれの現実に抗いつつ、不可能を可能にしていく様子を追ったドキュメンタリー。
 トロント国際映画祭2010 REAL TO REEL部門出品。
 テルライド映画祭2010出品。

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 ・“Quest for Honor”(クルディスタン・米) 監督:Mary Ann Smothers Bruni
 元教師で、現在は、地方の法律家やクルディスタンの政府系機関、そして仲間たちとともに働く運動家である主人公は、クルディスタンの部族間の「名誉の殺人」(名誉を傷つけられたからと殺人を行なう)について調べ、根絶しようと努めている。
 サンダンス映画祭2009 出品。

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 ・“Restrepo”(米) 監督:Tim Hetherington、Sebastian Junger
 2人のフィルムメーカーが、タリバンとの戦いのために送られた小隊に参加して、兵士たちの仕事や戦い、友情をカメラに収めていく。
 サンダンス映画祭2010 審査員グランプリ。

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 ・“This Way of Life”(ニュージーランド・カナダ) 監督:Thomas Burstyn
 ピーターは、ヨーロッパ人だが、ニュージーランドのマオリ族の一家に育てられた。今、彼は、30代前半で、肌の色こそ違うが、すっかりマオリ族の一員となっている。彼は、妻と、6人の子供たちを家族に持ち、50頭の馬とともに、物質文明の行き届かぬニュージーランドの美しい大自然の中で、日々の暮らしを送っている。そんな彼らの生き方を4年以上の歳月をかけて撮影したドキュメンタリー。
 ベルリン国際映画祭2010 ジェネレーション部門出品。スペシャル・メンション受賞。
 レインダンス映画祭2010 ドキュメンタリー・コンペティション出品。

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 ・“The Tillman Story”(米) 監督:Amir Bar-Lev
 フットボールのスター選手をむざむざアフガニスタンで殺させてしまったことに対し、彼の家族が、米政府に対し、行動を起こす。
 サンダンス映画祭2010 出品。

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 ・“Waiting for ‘Superman’ ”(米) 監督:デイヴィス・グッゲンハイム
 さまざまなエピソードを紡いで、アメリカの公共教育が抱える問題点を浮き彫りにする。
 『不都合な真実』“It Might Get Loud”のデイヴィス・グッゲンハイム監督最新作。
 サンダンス映画祭2010 観客賞受賞。

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 ・『ヴィック・ムーニーズ/ごみアートの奇跡』“Waste Land”(ブラジル・英) 監督:ルーシー・ウォーカー
 国際的なアーティストヴィック・ムーニーズ(Vik Muniz)が、リオ・デ・ジャネイロの埋立地でゴミ漁りをする人々とコラボレートして、人々の生活がいかに変わったかを検証する。
 ルーシー・ウォーカーは『ブラインドサイト 小さな登山者たち』の監督。
 サンダンス映画祭2010 観客賞受賞。
 ブリティッシュ・インディペンデント・フィルム・アワード2010 ドキュメンタリー賞ノミネート。
 IDAアワード2010 長編ドキュメンタリー賞ノミネート。
 東京国際映画祭2010にて上映。

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 ・“William Kunstler: Disturbing the Universe”(米) 監督:Emily Kunstler、Sarah Kunstler
 マーティン・ルーサー・キング、マルコムX、シカゴ・セブン(あるいはChicago 10)の弁護士で、公民権運動家として知られ、その一方で「アメリカで最も嫌われる弁護士」とも呼ばれるウィリアム・クンスラーを、彼の娘たちがドキュメントした作品。
 サンダンス映画祭2009 出品。

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 サンダンス映画祭出品作が、過半数、15本中8本もあります。2010年国内部門の受賞作6本のうち4本が選ばれています。

 過去のアカデミー賞受賞者&ノミネート経験者も多くて―
 アレックス・ギブニー:『「闇」へ』“Taxi to the Dark”(2008年受賞)、『エンロン:巨大企業はいかにして崩壊したのか?』(2006年ノミネート)
 チャールズ・ファーガソン:“No End in Sight”(2008年ノミネート)
 デイヴィス・グッゲンハイム:『不都合な真実』(2007年受賞)
 ルーシー・ウォーカー:『ブラインドサイト 小さな登山者たち』(2006年受賞)

 ジャンル的には、今年は分類しにくい作品が多いのですが、あえて分類すると―
 ・人物ドキュメンタリー(文化):2本
 ・人物ドキュメンタリー(政治・社会):2本
 ・経済:1本
 ・医療:1本
 ・教育:2本
 ・環境:1本
 ・外国の文化・社会・ライフスタイル:4本
 ・戦争(アメリカ):2本
 ・戦争(東南アジア):1本
 という感じになるでしょうか(複数のジャンルにまたがる作品もあります)。

 エンタテインメント寄りの作品がほぼ見当たらないといってよく、昨年度この部門で賞レースを争った食文化にまつわる作品が消え、代わりに教育を題材とする作品が2本登場しています。

 全体的には、シリアスで、真面目で、遊び心のある作品が乏しい(「おっ、面白そう! 観てみたいな」という作品が少なくて、公開されたら、勉強のために一応観ておくかなという作品ばかり)ように思います。

 これまでのノミネーションの傾向を探ると――
 ① 歴史(的事件)に隠された真実に迫った作品(『フォッグ・オブ・ウォー』『ブラック・セプテンバー』等)
 ② アメリカの現在を鋭くえぐってみせるような作品(『不都合な真実』『エンロン:巨大企業はいかにして崩壊したのか?』『ダーウィンの悪夢』『ボウリング・フォー・コロンバイン』『チャレンジ・キッズ』等)
 ③ 知られざる国・地域の知られざる実情を描いた作品(『未来を写す子どもたち』『プロミス』『らくだの涙』等)
 ④ 題材のユニークさが光る作品(『マーダーボール』『スーパーサイズ・ミー』『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』『マン・オン・ワイヤー』等)
 ⑤ 個性的な人物をクローズ・アップした作品(『マイ・アーキテクト』『戦場のフォトグラファー』『モハメド・アリ かけがえのない日々』『クリントンを大統領にした男』等)
 ⑥ 誰も観たことがないような驚異の映像を収めた作品(『WATARIDORI』『皇帝ペンギン』等)
 などが選ばれる傾向にあります。

 今回のショートリストをこれに当てはめると――
 ①“Enemies of the People”
 ②“Gasland”、“Inside Job”、“The Lottery”、“Restrepo”、“The Tillman Story”、“Waiting for ‘Superman’ ”
 ③“Precious Life”、“Quest for Honor”、“This Way of Life”、『ヴィック・ムーニーズ/ごみアートの奇跡』
 ④
 ⑤“Client 9: The Rise and Fall of Eliot Spitzer”、“Exit through the Gift Shop”、“Genius Within: The Inner Life of Glenn Gould”、“William Kunstler: Disturbing the Universe”
 ⑥

 ここでもちょっとムリに分類に押し込んだようなところがありますが、④や⑥に当たる作品が見当たらないのが、「今年のラインナップは真面目~な作品が多い」という印象を持たせる原因でもあるようです。

 ノミネーションの可能性が高いのは、評判の高さから考えると、“Enemies of the People”、“Inside Job”、この2作品は、まず当確で、あとは、『ヴィック・ムーニーズ/ごみアートの奇跡』、「教育」の2本から“Waiting for ‘Superman’ ”。残る1本は、“Restrepo”か“The Tillman Story”のどちらかか、“Exit through the Gift Shop”、というところでしょうか。

 後者の3作品は、選定委員会の好みにより、“Gasland”、“The Lottery”、“Precious Life”、“Quest for Honor”、“This Way of Life”、“Genius Within: The Inner Life of Glenn Gould”のどれか1本と差し替えということもありそうですが、ちょっとパーソナルに過ぎるかもと思われる“Client 9: The Rise and Fall of Eliot Spitzer”や“William Kunstler: Disturbing the Universe”が選ばれる可能性は低いように思います。

 受賞の可能性は、現在のアメリカがどんな問題が重要であり、向き合う必要があると考えているかに係っていると思います。とすると、“Inside Job”や“Restrepo”、“The Tillman Story”が突きつけてくるものに向き合うより、問題として社会的・一般的に共有しやすい“Waiting for ‘Superman’ ”の方を選ぶのではないか。なので、米国作品としては、“Waiting for ‘Superman’ ”、外国作品としては“Enemies of the People”が有力ではないかと私は考えます。

 下馬評には挙がっていながら、今回、エントリーされなかった作品には、“The Oath”(米)、“Last Train Home”(カナダ)、“A Film Unfinished”(イスラエル・独)、“Joan Rivers: A Piece of Work”(米)、『四つのいのち』(伊)、“Armadillo”(デンマーク)、などがあります。

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 *当ブログ記事
 ・米国アカデミー賞2011 長編アニメーション賞候補 ロングリスト:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201011/article_24.html
 ・米国アカデミー賞2011短編ドキュメンタリー候補ショートリスト:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201010/article_25.html
 ・米国アカデミー賞2011 外国語映画賞各国代表65作品:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201010/article_22.html

 ・米国アカデミー賞2010 長編ドキュメンタリー賞候補 ショートリスト:http://umikarahajimaru.at.webry.info/200911/article_31.html

 ・サンダンス映画祭2010 受賞結果:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201002/article_1.html
 ・SXSW映画祭2010 受賞結果:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201003/article_31.html
 ・シルバードックス映画祭2010 受賞結果:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201007/article_5.html
 ・グリアソン・アワード2010 受賞結果:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201005/article_23.html
 ・IDAアワード2010 ノミネーション:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201011/article_27.html

 ・映画祭&映画賞カレンダー 2010年5月~2011年2月:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201005/article_23.html

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