『それぞれのシネマ』 アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ編

 『それぞれのシネマ』の、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ編が“Anna”(アンナ)です。
 動画をスタートさせても、なかなか映像が出て来ません(スクリーンで観るともう少し何か見えるのかもしれません)が、それには監督の意図があるようです。3分45秒の作品の2分40秒までは、ほとんど闇で、その部分を飛ばして、いきなり2分40秒先を観てしまっても問題ないと言えば問題ないのですが……。



 【物語】
 闇。
 ここが映画館の中らしいとわかる。
 ぼんやりと聞こえてくる映画の音声のほかに、何やらぼそぼそ囁く声が聞こえる。
 (2分40秒後)客席を出て、映画館のロビーの明るい光の下に出る女性。
 彼女はタバコに火をつけ、ただ静かに涙を流す。
 遅れて男性も出てきて、「アンナ」と呼びかける。そして、彼女を抱きしめ、彼女の言葉にやさしく頷く。

画像

 【解説】
 客席を出て、彼女がタバコに火をつけた(仕草をする)ところで、ようやく彼女が盲目であったということがわかってきます。そして、彼女が盲目だとわかった時点で、その前の客席内での「ぼそぼそ」が、彼が彼女に映画で今何が起こっているか、内容の説明をしていたのだとわかります。

 冒頭からずっと続く闇は、主人公の女性が感じているものと同じものを観客にも味わわせようという意図があるのだろうと思われます。

 この映画館で上映されていた映画は、ゴダールの『軽蔑』で(これがわからないとこの映画の意味するところの半分もわかってことにならないのですが、これはちょっと難しいですね)、彼女はこの映画の内容を知って感極まったということになります。

 『軽蔑』というのは、気持ちがすれ違ってしまった夫婦の話で、盲目であるがゆえに、彼女には、自分の思いが愛する相手に伝わらないということが、より切実なこととして胸に迫ったということなのでしょう。

 「気持ちのすれ違い」というのは、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥが繰り返し取り上げているテーマであり、本作の主人公は、『バベル』で菊地凛子が演じていた役とオーバーラップする部分がかなりあります。

 この『それぞれのシネマ』では、ウォン・カーウァイもゴダール(『アルファヴィル』)を引用していましたが、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ編もそうだったということで、改めてゴダールの影響力の大きさをうかがわせてくれます。
 そこから考えると、本作のタイトル「アンナ」の意味するところも明白で、ある時期のゴダール作品のミューズであったアンナ・カリーナへのオマージュ、と推測できます。

 本作のプロデューサーは、『21g』でアシスタント、「メキシコ」でプロダクション・コーディネーター、『バベル』でアソシエイト・プロデューサーを務めたコリーヌ・ゴールデン・ウェーバー(Corinne Golden Weber)。撮影監督は、メキシコ出身のエマニュエル・ルベツキ(http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=1603)で、イニャリトゥとはこの作品で初めて組むことになります。

 主人公のアンナを演じたのは、新進女優のルイサ・ウィリアムズ(http://www.luisawilliams.com/UntitledFrameset-1.htm)です。

 ちなみに、本作は、ボーイフレンドが盲目の彼女に耳打ちする形で映画の内容を教えているという設定ですが、目が不自由でも映画を「観たい」「体験したい」と思う人はいるわけで、そういう人に向けて「ボイス・オーバー・ナレーション」で補足説明を加える(ワイヤレスで専用のイヤホン付受信機に飛ばす)という形での上映会が、非常に稀ではありますが、開催されることがあります(しんゆり映画祭など)。演劇では、劇団昴が同種の試みを継続的に行なっています。

 ◆作品データ
 2007年//3分45秒
 西語?台詞あり/日本語字幕なし
 実写作品

 この作品は、カンヌ国際映画祭の60回大会を記念して、35人の監督で制作された33編の映画館にまつわる短編で、2008年の同映画祭で上映されました。
 日本では東京フィルメックス2008で上映されました。

 *当ブログ関連記事
 ・デイヴィッド・リンチ編 “Absurda”
 ・ウォン・カーウァイ編 “I Travelled 9000 km To Give It To You”

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 追記:スクリーンで観ると、前半部分は、暗闇ながらも、主人公がすぐ隣のボーイフレンドらしい男性に台詞を教えてもらっている様子がはっきりと見てとれます。

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 ◆監督について
 アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ Alejandro González Iñárritu

 メキシコ出身の映画監督。社会矛盾を背景に、人間の内なる葛藤、欲望、挫折感、気持ちのすれ違い等を描く手腕には定評がある。
 主人公の異なるいくつかの物語をからみ合わせて、より大きな物語やテーマを描くスタイルが特徴的。
 俳優の才能を引き出す能力にも長け、『アモーレス・ペロス』では、ガエル・ガルシア・ベルナルを一躍注目のスターにしたほか、『21g』でナオミ・ワッツとベニチオ・デル・トロを、『バベル』で菊地凛子とアドリアナ・バラーザを、それぞれ米国アカデミー賞ノミネートに導いた。

 1963年 メキシコシティ生まれ。
 1984年 メキシコのラジオ局WFMのDJとしてキャリアをスタートさせる。
 同時期に映画製作や演劇についても学ぶ。
 1980年代後半には6本のメキシコ映画の作曲を手がける。
 1990年代には、テレビ製作会社Televisaの最年少のプロデューサーとして活躍。
 1991年にTelevisaを辞め、自身の製作会社Zeta Filmsを起こし、CMやテレビ番組を手がけるようになる。(その頃手がけたCMには、コカコーラ、フォルクス・ワーゲン、マルボロ、スプライト、バーガーキングなどがある)
 一方で、映画製作についてもロサンゼルスやメインで学び続けていて、1995年にはTelevisaのために中編“Detrás del dinero”を監督。
 脚本家ギジェルモ・アリアガの書いたメキシコの矛盾を描く11の物語の中から3つを選び、最初の長編『アモーレス・ペロス』を完成させる。
 『アモーレス・ペロス』は、カンヌ国際映画祭批評家週間グランプリ受賞、米国アカデミー賞外国語映画賞ノミネートをはじめ、世界的に高い評価を受け、商業的にも成功した。
 2003年には、ハリウッドで『21g』を監督。
 2006年の『バベル』は、カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品されて、監督賞とエキュメニカル審査員賞を受賞。2007年米国アカデミー賞では、作品賞と監督賞にノミネートされ、監督賞にノミネートされた最初のメキシコ人となった。
 2007年には、ベネチア国際映画祭の審査員を務めた。

 アルフォンソ・キュアロン、ギジェルモ・デル・トロとは仲がよく、互いの監督作品をサポートし合っている。

 脚本家ギジェルモ・アリアガとは『アモーレス・ペロス』“The Hire:Powder Keg”『21g』『バベル』と組み、作曲家グスタボ・サンタオラヤとは、『アモーレス・ペロス』「メキシコ」『21g』『バベル』で組んでいる。

 CMも多数手がけていて、ブラッド・ピットを起用したEDWINのCMもその1つ。

 【フィルモグラフィー】
 ・1986年 “Un Macho en la cárcel de mujeres”(監督:Víctor Manuel Castro) [作曲]
 ・1987年 “Un Macho en el salón de belleza”(監督:Víctor Manuel Castro) [作曲]
 ・1987年 “Fiera solitaria”(監督:Hernando Name)[作曲]
 ・1989年 “Garra de tigre”(監督:Hernando Name)[作曲]
 ・1995年 “Detrás del dinero”(TV)[監督・脚本]
 ・1996年 “El Timbre”[監督・脚本]
 ・2000年 『アモーレス・ペロス』[監督・製作]
 ・2001年 “The Hire:Powder Keg” [監督・脚本]
 ・2002年 「メキシコ」(『11'09''01 /セプテンバー11』) [監督・製作・脚本]
 ・2003年 『21g』[監督・製作]
 ・2005年 『美しい人』(監督:ロドリゴ・ガルシア) [製作総指揮]
 ・2005年 “Toro negro”(監督:Carlos Armella、Pedro González-Rubio) [製作総指揮]
 ・2006年 『バベル』[監督・製作・脚本]
 ・2007年 “Anna”(『それぞれのシネマ』) [監督・脚本]
 ・2008年 “Rudo y Cursi”(監督:Carlos Cuarón)[製作]
 ・2008年 タイトル未定 ロドリゴ・ガルシア作品[製作]
 ・2009年 タイトル未定 アルフォンソ・キュアロン作品[製作]
 ・2009年 タイトル未定 [監督・製作・脚本]

 *参考サイト
 ・'Boards:http://www.boardsmag.com/articles/magazine/20020201/directorinarritu.html?print=yes

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