アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトウ “Powder Keg”(火薬樽)

 以前、当ブログでウォン・カーウァイ編を紹介した、BMWをフィーチャリングした短編シリーズ“The Hire”のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ編が“Powder Keg”(火薬樽)です。日本語字幕はついていませんが、字幕がなくてもストーリーはわかりますし、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥがこんな作品を!という驚きもあり、ウォン・カーウァイ編と見比べる楽しみもあります。


 【物語】
 揺れる葦(?)の原。草の間から、銃を持った男たちが捕らえた人々を連れてくるのが見える。
 草の間から、向こうを窺うカメラマンの粗い息づかいが聞こえる。
 銃を持った男たちは、つれてきた者たちをその場で銃殺。カメラマンはシャッターを切って、その様子をカメラに収める。そして急いでその場を去る。
 <2001年1月13日。「タイム」誌の報道カメラマンハーヴェイ・ジャコブズは、Nuevo Colinでの虐殺を目撃した後、負傷していた。国連軍は、彼を救出するために、1台の車を送った。>
 中南米を思わせる街の中を、車体に弾痕の残るBMWが進む。街にはあちこちに銃を持った兵士が立っていて、不審な動きがないか見張っている。
 車の助手席には傷ついたハーヴェイが乗っている。
 「ドライバー」は、彼を国境まで無事に連れていくために、後続車に気を配り、一方、ハーヴェイはぼそりぼそりと自分のことを話し始める。
 「この写真があれば、きっと何かが変えられるはずだ」とハーヴェイ。
 「ドライバー」は不審な動きをする車に気づき、ハーヴェイに身をかがませろと言う。上空にはヘリコプターのプロペラ音も聞こえる。
 しかし、なんとか行き交う車をやり過ごす。
 「何でカメラマンになったんだ?」
 「わからん。見たものを母親に伝えたかったからかもしれん」
 出血がひどくなっていることに気づいたハーヴェイはフィルムを編集部に届けてくれと頼む。
 「大丈夫だ。自分で届けられる」と「ドライバー」。
 ハーヴェイは首にかけていたペンダントをはずして、「これを母親に届けてくれ」と「ドライバー」に頼む。
 「それはなんだ?」「“Powder Keg”(火薬樽)さ」
 検問が近づいてくる。
 「ドライバー」は検問で車を止める。
 「何の用だ? どこへ行く?」「アメリカ大使館の仕事で、国境に向かっている」
 そのやりとりをカメラに収めようとしているカメラマンを見て、兵士は怒り、銃を向けてくる。
 「ドライバー」はハーヴェイに撮影をやめさせようとするが、ハーヴェイはやめない。
 一発の銃声とともに「ドライバー」は車を出す。草っ原を抜け、国境を越える。
 「やったぞ!ハーヴェイ!」
 傍らを見ると、ハーヴェイは銃弾を浴びてぐったりとしている。
 車を止めて、ハーヴェイの体を揺するが、既に彼は息絶えている。
 「くそっ!」
 「ドライバー」はやり場のない怒りをどうすることもできない。

 一軒の家を訪ねる「ドライバー」。
 母親に、ハーヴェイのことが載った新聞を手渡す。母親は目が不自由らしい。事態がよくのみこめないらしい彼女にハーヴェイのペンダントを渡す。すべてを悟った彼女に「ドライバー」は「I’m really sorry」と言って、立ち去ることしかできない。

画像

 ◆解説
 物語は、実際に1995年にメキシコで起きた「Aguas Blancasの虐殺」を元にしていると言われています。
 「Aguas Blancasの虐殺」とは、失踪した仲間に関して平和的な抗議行動を起こしていた農民組織を、警官たちがAguas Blancas近くで虐殺した事件のことで、その後、警官が逮捕され、政府も罪を認めたものの、結果的には正当な裁きは行なわれずじまいになったそうです。そして、同様の人権侵害はその後も続いていると伝えられています(http://www.incl.ne.jp/ktrs/aijapan/1996/jun/0623.htm)

 脚本は、『アモーレス・ペロス』以降、イニャリトゥと組んでいるギジェルモ・アリアガ。
 『アモーレス・ペロス』では、元々は11の物語があったということですから、『アモーレス・ペロス』に採用されなかったそのうちの1つが本作に発展した可能性もあります。(クレジットでは、原案はデイヴィッド・カーターで、彼とイニャリトゥも脚本に参加している、ということになっています)

 撮影は、オリバー・ストーンと組むことが多いロバート・リチャードソン(http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=3278)。本作では、手持ちカメラによるドキュメンタリー・タッチの映像が作品に緊迫感を生み出すのに大いに役に立っています。狭い車の中でどうやって撮影したのか(アングルを変えて繰り返し撮影した?)、観ている間は全く意識させません。

 エモーショナルな音楽は、ベテランの作曲家ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ(http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=87188)が手がけています。

 カメラマン役はステラン・スカルスガルド(http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=43167)、母親役はロイス・スミス(http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=45840)

 BMWをフィーチャリングすることが目的の短編でありながら、本作でのBMWは最初からオンボロで、物語の中でさらにガタガタにされてしまいますが、このシリーズでは、そういう風なBMWの使い方も許されていたようです。

 ハードボイルドで、スタイリッシュであり、主観的な思い入れたっぷりのウォン・カーウァイ作品に比べ、イニャリトゥ作品は、シリアスで、ドキュメンタリー・タッチであり、雰囲気もかなり違います。一応、「ドライバー」役は、クライブ・オーウェンで共通していますが、単に彼が「ドライバー」を務めるというだけで、シリーズを通してのクライブ・オーウェンの役柄はそれぞれ異なっているのかもしれません。

 タイトルの「Powder Keg」は、火薬を詰めておく火薬樽のことで、転じて、「紛争地帯」を意味しています。カメラマンから「ドライバー」へ、「ドライバー」から母親に渡ったペンダントは、兵士の認識票のようにも見えますが、カメラマンは確かに「Powder Kegだ」と言っているので、火薬樽型のペンダントということなのでしょうか。少なくともカメラマンの母親にだけはわかる何かの思い出の品であることは確かだろうと思われます(点字が刻み込まれているようです)。

 ◆作品データ
 2001年/米/9分8秒
 英語台詞あり/日本語字幕なし
 実写作品

 *2001年当時には、BMWのHPで日本語字幕つきで観ることもできたようです。

 *参考サイト
 ・ds44さんのブログ「44D」:http://d.hatena.ne.jp/ds44/20060826/p1
 ・DVD Times:http://www.dvdtimes.co.uk/content.php?contentid=4109

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 ◆監督について
 アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ Alejandro González Iñárritu

 メキシコ出身の映画監督。社会矛盾を背景に、人間の内なる葛藤、欲望、挫折感、気持ちのすれ違い等を描く手腕には定評がある。
 主人公の異なるいくつかの物語をからみ合わせて、より大きな物語やテーマを描くスタイルが特徴的。
 俳優の才能を引き出す能力にも長け、『アモーレス・ペロス』では、ガエル・ガルシア・ベルナルを一躍注目のスターにしたほか、『21g』でナオミ・ワッツとベニチオ・デル・トロを、『バベル』で菊地凛子とアドリアナ・バラーザを、それぞれ米国アカデミー賞ノミネートに導いた。

 1963年 メキシコシティ生まれ。
 1984年 メキシコのラジオ局WFMのDJとしてキャリアをスタートさせる。
 同時期に映画製作や演劇についても学ぶ。
 1980年代後半には6本のメキシコ映画の作曲を手がける。
 1990年代には、テレビ製作会社Televisaの最年少のプロデューサーとして活躍。
 1991年にTelevisaを辞め、自身の製作会社Zeta Filmsを起こし、CMやテレビ番組を手がけるようになる。(その頃手がけたCMには、コカコーラ、フォルクス・ワーゲン、マルボロ、スプライト、バーガーキングなどがある)
 一方で、映画製作についてもロサンゼルスやメインで学び続けていて、1995年にはTelevisaのために中編“Detrás del dinero”を監督。
 脚本家ギジェルモ・アリアガの書いたメキシコの矛盾を描く11の物語の中から3つを選び、最初の長編『アモーレス・ペロス』を完成させる。
 『アモーレス・ペロス』は、カンヌ国際映画祭批評家週間グランプリ受賞、米国アカデミー賞外国語映画賞ノミネートをはじめ、世界的に高い評価を受け、商業的にも成功した。
 2003年には、ハリウッドで『21g』を監督。
 2006年の『バベル』は、カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品されて、監督賞とエキュメニカル審査員賞を受賞。2007年米国アカデミー賞では、作品賞と監督賞にノミネートされ、監督賞にノミネートされた最初のメキシコ人となった。
 2007年には、ベネチア国際映画祭の審査員を務めた。

 アルフォンソ・キュアロン、ギジェルモ・デル・トロとは仲がよく、互いの監督作品をサポートし合っている。

 脚本家ギジェルモ・アリアガとは『アモーレス・ペロス』“The Hire:Powder Keg”『21g』『バベル』と組み、作曲家グスタボ・サンタオラヤとは、『アモーレス・ペロス』「メキシコ」『21g』『バベル』で組んでいる。

 CMも多数手がけていて、ブラッド・ピットを起用したEDWINのCMもその1つ。

 【フィルモグラフィー】
 ・1986年 “Un Macho en la cárcel de mujeres”(監督:Víctor Manuel Castro) [作曲]
 ・1987年 “Un Macho en el salón de belleza”(監督:Víctor Manuel Castro) [作曲]
 ・1987年 “Fiera solitaria”(監督:Hernando Name)[作曲]
 ・1989年 “Garra de tigre”(監督:Hernando Name)[作曲]
 ・1995年 “Detrás del dinero”(TV)[監督・脚本]
 ・1996年 “El Timbre”[監督・脚本]
 ・2000年 『アモーレス・ペロス』[監督・製作]
 ・2001年 “The Hire:Powder Keg” [監督・脚本]
 ・2002年 「メキシコ」(『11'09''01 /セプテンバー11』) [監督・製作・脚本]
 ・2003年 『21g』[監督・製作]
 ・2005年 『美しい人』(監督:ロドリゴ・ガルシア) [製作総指揮]
 ・2005年 “Toro negro”(監督:Carlos Armella、Pedro González-Rubio) [製作総指揮]
 ・2006年 『バベル』[監督・製作・脚本]
 ・2007年 “Anna”(『それぞれのシネマ』) [監督・脚本]
 ・2008年 “Rudo y Cursi”(監督:Carlos Cuarón)[製作]
 ・2008年 タイトル未定 ロドリゴ・ガルシア作品[製作]
 ・2009年 タイトル未定 アルフォンソ・キュアロン作品[製作]
 ・2009年 タイトル未定 [監督・製作・脚本]

 *参考サイト
 ・'Boards:http://www.boardsmag.com/articles/magazine/20020201/directorinarritu.html?print=yes

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