ティム・バートンが手がけたアニメーション『ステインボーイ』 1.ステアガール

 ジョン・シュレシンジャー版の映画『スウィーニー・トッド』は、行方不明になった人物を探してフリート街にやってきた主人公がスウィーニー・トッドの理髪店にたどりつき、事件の真相に気がつくという物語で、それしか知らなかった私は、ティム・バートン版の『スウィーニー・トッド』を観て、「あれっ、『スウィーニー・トッド』ってこんな話だったっけ?」というか、「なんだか話が違うなあ」という印象を持ってしまいました。どちらも殺人理髪師と人肉パイは出てくるものの、ジョン・シュレシンジャー版には復讐譚という要素はなく、猟奇的殺人事件を題材としてスリラー的な作品だったので、ティム・バートン版にはとまどってしまったんですね。まあ、ティム・バートン版の方がミュージカル版に忠実らしいのですが。

 とはいうものの、ティム・バートン版『スウィーニー・トッド』は、これまた実にティム・バートンらしい映画になっていました。
 これまでティム・バートンが監督した作品がすべて彼自身のやりたかった作品で、すべて彼の満足できる作品に仕上がっているのかどうかはわかりませんが、彼のほとんどの監督作品には、共通のテーマ(ストーリーライン)のようなものを見て取ることができます。

 それは、ズバリ「よいいじめられっ子が悪いいじめられっ子を懲らしめる」(もっと単純には、「いじめられっ子が、年月を経て、かつての恨みを晴らすべく復讐に立ち上がるが、逆に懲らしめられてしまう」)というものです。

 もともとオリジナルがあった『バットマン』がその典型で、ティム・バートンはただの雇われ監督であったはずですが、このストーリーラインがティム・バートン作品の1つのパターンのようになります。いじめられっ子のメンタリティーを持つ作り手の、「かつていじめられた仕返しをしたい、しかし、仕返しをするとどういう目に遭うかはわかっている」というアンビバレンツな思いが、こうした物語を作り出すのだろうと考えられるわけですが、もともとティム・バートンにこういう精神構造があったのか、『バットマン』を手がけたことでこういうメンタリティーに目覚めたのかは定かではありません。

 『バットマン』に先立つ『ビートルジュース』にも、その後で作られた『スリーピー・ホロウ』にもそういう面があり、今回の『スウィーニー・トッド』にもそれが見られるというわけです。
 いじめっ子登場以前に物語が終わってしまうのが『エド・ウッド』(この場合の「いじめっ子」は彼を理解しない世間)で、いじめられっ子というよりはむしろいじめっ子の視点でやりたい放題やったのが『マーズ・アタック!』であり、いじめられっ子のメンタリティーからようやく解放されて制作した(と私には思えました)のが『ビッグ・フィッシュ』ということになります。

 『ビッグ・フィッシュ』以降、ティム・バートンは違った方向へと進むのかと思ったりもしたのですが、『スウィーニー・トッド』を観ると、全然変わっていないですね。すっかりハリウッドに受け入れられて、精神的には落ち着いているはずですが、それだからこそ、余裕を持ってこうした作品が作れる、ということなのかもしれません。

 『ステインボーイ』(2000)は、自作の絵本『オイスター・ボーイの憂鬱な死』(1997)から発展させたwebアニメーションですが、私が上に書いたようなメンタリティー(ストーリーライン)をはっきりと読み取ることができます。

 

 このシリーズは、ステインボーイ(触れるものすべてがシミになってしまう少年)で、彼が毎回ボス(グレンデール巡査部長)の命令を受けて、世間のやっかい者、トラブルを引き起こしている者を捕まえてくるというストーリーになっています。
 ステインボーイが捕まえてこなければならない相手というのが、どれも悲しい宿命を背負った者ばかりで、やはりティム・バートンはこういうキャラクター、こういう設定に惹かれるんだなあ、ということがわかります。

 ファースト・エピソードのターゲットは、「ステアガール」で、相手をじーっと見つめて困らせているという設定の女の子で、『オイスター・ボーイの憂鬱な死』では「じーっと見つめる女の子」(Staring Girl)としてp16~27が割かれています(『オイスター・ボーイの憂鬱な死』では、彼女のキャラクター紹介だけで、ステインボーイとの対決はありませんが)。

画像

 ◆作品データ
 2000年/米/3分55秒
 英語台詞あり/日本語字幕なし
 フラッシュ・アニメーション

 *この作品は、2005年8月にshockwave.comで日本語字幕つきで配信されたようですが、現在は日本語字幕つきのバージョンを観ることはできません。

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 ◆監督について
 ティム・バートン Tim Burton

 1958年カリフォルニア州バーバンク生まれ。
 幼い頃から絵を描いたり、古い映画を観たりするのが好きで、家に引きこもりがちな少年だった。
 13歳の時に、スーパー8を使って、H・G・ウェルズの『ドクター・モローの島』からインスパイアされたアニメーション“The Island of Doctor Agor”(1971)を作った。
 9学年の時に描いた「ゴミ散乱防止」のポスターは、ローカルの賞を獲り、彼のポスターが1年間ゴミ収集車に貼られた。
 高校卒業後、ディズニーの美術学校California Institute of the Arts(通称Cal Arts)に入学。彼が入ったのはディズニーがアニメーションの人材養成のために作ったクラスで、クラスメートには、ジョン・ラセターやブラッド・バードがいた。
 在学中に、鉛筆画によるアニメーション“Stalk of the Celery”(1979)を作り、これがクラスで話題になり、映画『マペットの夢見るハリウッド』(1979)に参加するきっかけとなった。
 卒業後、彼は、ディズニーの実習生として、『きつねと猟犬』(1981)のアニメーターの仕事を得るが、この仕事は自分には向いていないと思うようになり、ディズニーの仕事をする傍ら短編アニメーション“Doctor Doom”(1980)を作ったりしていた。
 その後、ディズニーは、バートンの企画を認め、彼は、ヴィンセント・プライスのようになりたいと考える少年を主人公とした短編『ヴィンセント』を制作。この作品は評論家からの評判もよく、オタワ国際アニメーションフェスティバルでは観客賞を受賞した。引き続き、彼は実写による数編の短編を監督。
 彼が監督した短編『フランケンウィニー』(1984)を観た俳優ポール・ルーベンス(ピーウィー・ハーマン)は、彼を『ピーウィーの大冒険』(1985)の監督に抜擢。この作品で彼は20代半ばで長編監督デビューすることになった。
 『ピーウィーの大冒険』は予想外の成功を収め、彼にはスピン・オフ作品など多数の監督依頼が舞い込むが、新しいものを作りたいと考えた彼は、3年間新作映画を撮ることはなかった。
 2本目の長編映画『ビートルジュース』(1988)は、マイケル・キートンと初仕事で、この作品のヒットで、ワーナー・ブラザースがキートンを主役にして『バットマン』を作るように依頼。『バットマン』は年間最大のヒットとなり、バートンは新作を自由に作る権利を得た。これで彼が作ったのが『シザーハンズ』(1990)で、ジョニー・デップとの初めてのコラボレーションとなった。
 続いて監督した『バットマン・リターンズ』(1992)は、前作よりも暗めの作品だったこともあってか、興行的に失敗し、シリーズ第3作の『バットマン・フォーエヴァー』(1995)ではバートンは製作にまわることになった。
 ヘンリー・セリックを監督に据えて初めての長編アニメーション『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993)を製作した後、再びジョニー・デップを主役として『エド・ウッド』(1994)を発表。この作品はマーティン・ランドーにアカデミー賞助演男優賞をもたらした。
 彼の作り出す世界観が次第に明確になるにつれ、世界中に彼のファンが増え、その一方で、評論家からの評価も高まり、2003年に作った『ビッグ・フィッシュ』では数多くの監督賞にノミネート&受賞し、初めて監督を手がけた長編アニメーション『ティム・バートンのコープスブライド』(2005)でも米国アカデミー賞長編アニメーション賞にノミネートされた。
 結果的に、ティム・バートンは、ゴシック、ホラー、ファンタジーなどのジャンルの作品で独自の世界観を追求し、80年代後半以降最も人気のある監督の1人となった。

 ・1993年には初の絵本『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』を出版。1997年には『オイスター・ボーイの憂鬱な死』を出版した。

 ・ヴィンセント・プライス、マリオ・バーヴァ、ロジャー・コーマン、バーバラ・スティール、ラス・メーヤーらが好きであることが知られている。

 ・彼の作品によく登場するモチーフとして、かかし、病気または死にかけの犬、雪の降る夜、クリスマス、ハロウィンなどがある。

 ・最初の妻はドイツ人アーティストLena Gieseke(1989~1991)。二度目の妻は、モデル・女優のリサ・マリー(1992~2001)で、『エド・ウッド』(1994)から『PLANET OF THE APES 猿の惑星』(2001)までは彼女がバートンのミューズであり、製作にも関わった。『PLANET OF THE APES 猿の惑星』で、ヘレナ・ボナム=カーターと出会い、未入籍のまま1男1女をもうけた(ジョニー・デップが息子の名づけ親になった)。

 ・同じキャスト、同じスタッフを起用することが多い。特にジョニー・デップとは6作で組んでいる。ほとんどの作品の音楽はダニー・エルフマンが担当。ホラーやSF、ファンタジー作品の出演者を起用することも多い。

 ・1997年にはカンヌ国際映画祭の審査員を務めた。

 ・これまでに監督候補としてティム・バートンの名前の挙がった作品に『ザ・フライ』『スーパーマン』『カリガリ博士』などがある。

 【フィルモグラフィー】
 ・1971年 “The Island of Doctor Agor”<短編>[監督]
 ・1979年 “Stalk of the Celery”<短編>[製作・監督]
 ・1979年 『マペットの夢見るハリウッド』[マペット・パフォーマー、声の出演](監督:James Frawley)
 ・1980年 “Doctor Doom”<短編>[監督]
 ・1981年 『きつねと猟犬』[アニメーター](監督:テッド・バーマン、リチャード・リッチ、アート・スティーブンス)
 ・1982年 『トロン』[アニメーター](監督:スティーブン・リズバーガー)
 ・1982年 『ヴィンセント』<短編>[監督]
 ・1982年 『ヘンゼルとグレーテル』<TV>[監督]
 ・1982年 “Luau”[製作・監督・出演](監督:ティム・バートン、ジェリー・リース)
 ・1984年 『フランケンウィニー』<短編>[監督]
 ・1985年 『フェアリー・テール・シアター/アラジンと魔法のランプ』<TV>[監督]
 ・1985年 『ピーウィーの大冒険』 [監督]
 ・1985年 『コルドロン』“The Black Cauldron”[コンセプチュアル・アーティスト](監督:テッド・バーマン、リチャード・リッチ)
 ・1985年 『アラジンと魔法のランプ』(『フェアリー・テール・シアター』)<TV>[監督]
 ・1985年 『ファミリー・ドッグ』(『世にも不思議なアメージングストーリー』)<TV>[キャラクター・デザイン]
 ・1986年 『ザ・ジャー』(『新ヒッチコック劇場』)<TV>[監督]
 ・1988年 『ビートルジュース』 [監督]
 ・1989年 『バットマン』 [監督]
 ・1990年 『シザーハンズ』 [監督・製作・原案]
 ・1992年 『バットマン・リターンズ』 [監督・製作]
 ・1992年 『トイズ』[コンセプチュアル・アーティスト](監督:バリー・レヴィンソン)
 ・1992年 『シングルズ』[出演](監督:キャメロン・クロウ)
 ・1992年 『ホッファ』[出演](監督:ダニー・デヴィート)
 ・1993年 『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』[製作・原案]
 ・1993年 『ティム・バートンのナイトメアー・ビフォア・クリスマス/ディズニー デジタル 3-D』[製作・原案](監督:ヘンリー・セリック)
 ・1993年 『キャビン・ボーイ/航海、先に立たず』[製作] (監督:ヘンリー・セリック)
 ・1994年 『エド・ウッド』 [監督・製作]
 ・1995年 『バットマン・フォーエヴァー』[製作](監督:ジョエル・シュマッカー)
 ・1996年 『マーズ・アタック!』 [監督・製作]
 ・1996年 『ジャイアント・ピーチ』[製作](監督:ヘンリー・セリック)
 ・1998年 “Gnome in the Garden”<CM>
 ・1999年 『スリーピー・ホロウ』 [監督]
 ・2000年 『ステインボーイ』<Webアニメーション>[監督]
 エピソード1:「ステアガール」Staregirl
 エピソード2:「有毒少年ロイ」Toxicboy
 エピソード3:Bowling Ball Head
 エピソード4:Robot Boy
 エピソード5:Match Girl
 エピソード6:Stainboy’s Birth
 ・2000年 “Timex”<CM>[監督]
 ・2000年 『マリオ・バーヴァ 地獄の舞踏』“Mario Bava: Maestro of the Macabre”<TVM>[出演](監督:ゲイリー・S・グラント)
 ・2000年 “Lost in Oz”<TV>[製作総指揮](監督:Michael Katleman)
 ・2001年『PLANET OF THE APES 猿の惑星』 [監督]
 ・2003年 『ビッグ・フィッシュ』 [監督]
 ・2005年 『ティム・バートンのコープスブライド』 [監督・製作]
 ・2005年 『チャーリーとチョコレート工場』 [監督]
 ・2006年 “Bones”<ミュージック・ビデオ>[監督]
 ・2007年 『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』 [監督]
 ・2008年 “9”[製作](監督:シェーン・アッカー)
 ・2009年 “Frankenweenie”[監督・製作]
 ・2009年 “The Spook's Apprentice” [監督]
 ・2010年 『不思議の国のアリス』“Alice in Wonderland” [監督・製作]

 *参考サイト
 ・The Tim Burton Collective:http://www.timburtoncollective.com/
 ・ティム・バートンに関するWikipedia:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%B3
 ・IMDb:http://www.imdb.com/name/nm0000318/
 ・SPACEMAN’S MOVIE & TV PAGE:http://www52.tok2.com/home/spaceman/director/T/TimBurton/TimBurton.htm

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