ハンガリアン・フォークテイルズ 『貧者と利口な馬』

 ユーロスペースのレイトショーで、1週間ずつ2プログラムに分けて上映される<ハンガリアン・フォークテイルズ>のAプログラムを観てきました。

 事前の情報が全くない状況で、ユーロスペースからの案内でこの上映会を知って、ちょっと観てみようかなと思ったのは、このところハンガリー映画がちょっと盛り上がりを見せているからで、じゃあ、ハンガリー・アニメというのも珍しいし、ちょっと観ておこうかなというくらいの心づもりでの鑑賞でした。

 この上映会は、昼に上映されている<ファンタスティック!チェコアニメ映画祭>の関連企画のようですが、<ファンタスティック!チェコアニメ映画祭>がかなり以前から告知されていたのに対し、<ハンガリアン・フォークテイルズ>は直前までチラシも出回っていなかったし、急遽決まったプログラムという印象があります(本当はどうかわかりませんが)。
 たった1週間ずつの上映では、興行収入も限られていますから、これは元々DVD化を前提とした上映会だったのでしょうか(これも本当のところはどうなのかわかりませんが、DVD化を前提としたものであったとすれば、数ヶ月中に結果は判明すると思われます)。

 配給は、アニメーターの交流団体で、アニメーションの研究も行なうアニドウ(代表=なみきたかし)です(これも観てみようかなと思った動機の1つでした)。

 事前の情報が、<ハンガリアン・フォークテイルズ>がいったい何なのかという説明もない1枚のチラシ情報しかなく、私は、いつも通り、観る前にあまり情報を入れずに観たのですが、最初は、イントロダクションなのか本編なのかもわからない短いアニメーション(字幕なし)が立て続けに上映されて、混乱してしまいました。

 ケレシュテス・ドーラの短編3つ、マリア・ホルヴァットの短編4つとカチカメート映画祭のロゴ・アニメーションがいくつか、イシュトヴァーン・オロスの短編3つ、そして<ハンガリアン・フォークテイルズ>が6編(これは字幕つき)が上映されたのだと理解したのは、上映後、「上映作品変更のお知らせ」が付け加えられたチラシを見てからでした。

 わかりにくいですよ、アニドウさん! 他の作品にも字幕(少なくとも作品名と監督名くらい)を入れてほしかったですね~。

 まあ、それはそれとして、<ハンガリアン・フォークテイルズ>がハンガリーにおける「まんが日本昔ばなし」のようなもので、それを紹介するのが、今回の上映会のメインであることは、<ハンガリアン・フォークテイルズ>の6編の上映が始まってようやく私にもわかってきました。

 帰宅後、調べてみたら、<ハンガリアン・フォークテイルズ>はけっこう動画サイトにも投稿されていて、日本語字幕はついていませんが、多数の作品を無料で観ることができるんですね~。

 Aプログラムで上映されたのは、『フィドルになったお姫さま』『少年の見た夢』『貧乏な男と悪魔たち』『妬みの報い』『双子の王子の冒険』『貧者と利口な馬』の6編です。

 ここでは、『貧者と利口な馬』をご紹介してみたいと思います。



 【物語】
 貧乏な男がいて、いつも荷馬車を使い、2人の息子と仕事をしていました。
 荷馬車を引いていたのは、1頭の馬でしたが、その馬は、ある日、貧乏な男に声をかけます。
 「荷物が重いから馬を2頭にしてくれよ」
 貧乏な男は、馬が口を利いたことに驚きながらも、「貧しいから馬をもう1頭買うことなどとてもできない」と答えます。
 「ボクを自由にしてくれたら、もう1頭、馬を連れてくるよ」と馬。
 貧しい男は、馬に逃げられるのではないかと心配しながらも、馬を信用して、彼を自由にしてやります。
 馬は、森に入っていき、キツネの巣穴をみつけると、その入口をふさぐように体を横たえる。
 キツネの巣穴にいたのは母キツネと2匹の子ギツネ。
 子ギツネは、入口がふさがれているのを見て、「母さん、入口が雪でふさがれてしまったよ」
 今は夏のはずなので、そんなはずはないと思った母キツネは、別の穴を掘って外に出、入口を確認すると、馬の死体が入口をふさいでいることを発見します。「これで、しばらくは食料の心配をする必要がなくなった」と母キツネは喜びますが、馬は重くて、そこから動かせません。
 そこで、母キツネは、近くに住むオオカミに声をかけて、手伝ってくれるように頼みます。
 しかし、2人でも馬を動かすことはできません。
 母キツネは、オオカミに「馬のしっぽとオオカミさんのしっぽをしばって、それでひっぱってみたらどうだろう」と提案します。
 オオカミは言われた通りにしますが、その通りにしたとたん、死んでいると思った馬が起き上がり、しっぽにオオカミをつけたまま走り出してしまいます。
 馬はそのまま飼い主のところまで帰ると、「このオオカミの毛皮で、馬をもう1頭買ってください」。
 貧乏な男は、オオカミの毛皮で馬をもう1頭買い、荷馬車は2頭立てになりましたとさ。
 おしまい。

 【コメント】
 民話では、貧しくても正直者が得をし、いじわるな者、欲張りな者、自分勝手な者などが損をするというのが常道(貧しい庶民の願いを託したもの)ですが、この物語は、必ずしもそういう展開ではないというのがちょっと面白いですね。

 結果的に見れば、馬は飼い主にああは言ったものの、特にもう1頭の馬を手に入れるプランはあったわけではないし、キツネに協力したばかりに皮を剥いで殺されることになるオオカミはとんだとばっちり、ということになります。

 物語が終わった後で、物語を振り返ってみてそう思うわけですが、鑑賞中は「馬がどうやってもう1頭の馬を連れてくるのか」という興味にそそられて、物語を追っていき、意外な展開、全く予想もしていない結末に、見事にノセられてしまいます。ストーリーテリングの勝利というところでしょうか。

 ハンガリアン・フォークテイルズをいくつか観た限りでは、ハンガリーの民話には「正直者は得をする」というよりは、「うまくすると幸運が勝手に向こうから転がり込んでくる」というような他人頼みの傾向がある気がしましたが(それも庶民の素朴な願い)、どうでしょうか。

画像

 ◆作品データ
 2002年/ハンガリー/7分1秒
 ハンガリー語台詞あり/日本語字幕なし
 アニメーション

 *この作品は、2007年12月に<ハンガリアン・フォークテイルズ>と題した特集でユーロスペースにて上映されました(Aプログラム)。

 
 ↑ ↑ ↑ ↑
 クリックしてね!

 ◆監督について
 マリア・ホルヴァット(マリア・ホルヴァシュ) Horváth Maria
 アニメーション作家、イラストレーター。
 1952年西部のペーチェ生まれ。ペーチェの美術高校で彫金を学んだ後、1971年のカチカメート・アニメーション・スタジオの創立に参加する。「詩とアニメーションの融合」を目指した短編アート・アニメーション作品を発表。平行して民話をモチーフとした<ハンガリアン・フォークテイルズ>のシリーズの監督も務めている。
 <ハンガリアン・フォークテイルズ>は、カチカメート・アニメーション・スタジオが手がけるアニメーションの人気シリーズで、1977年から現在まで続いている。監督には、マリア・ホルバットのほか、Jankovics MarcellやNagy Lajosがいる。
 マリア・ホルバットには、2人の娘と1人の孫がいる。

 2003年に彼女が一連の<ハンガリアン・フォークテイルズ>を出品した飛騨国際メルヘンアニメ映像祭(http://www.hida-anime.jp/top.html)における、審査員・片渕須直(アニメーション監督)の講評は以下の通り。
 「マリア・ホロバット氏は今回一連の作品群を連ねて応募してきたが、その中の代表的な一作を取り上げて審査委員団から特別賞を進呈することとなった。
 アニメーションに「メルヘン」を冠しての作品募集は実は難しい。定義に幅があること以上に、アニメーションの若いつくり手たちはそこに多くの自負心を見つけることに熱中し、結果として例えばメルヘンの意味を逆手に取った「怪談」として仕上げるとか、民話的な題材に仮託して卑近な人生の機微を物語ろうなどとしがちになってしまう。
 ホロバット氏の今回の応募作は、すべて民話的なモチーフによって構成されたものだったが、それらはすべて屈託のない素朴な喜びを表現するためのものだった。必ず最後には王子さまとお姫さまが、男の子と女の子が、生き別れになっていた双子の兄弟が抱きいだきあい、「めでたし、めでたし」となる筋立てこそ、実は『メルヘンアニメ映像祭』と名打ったコンテストが、内心もっとも望んでいたものだったのではなかったか、という気にすらさせられてしまう。  この受賞作はひとつのレファランスとして今後のこのコンテストへの応募者たちに示されるだけの価値がある。」

 ◆フィルモグラフィー
 ・1982年 『夜の奇跡』“Az éjszaka csodál(Miracles of the Night)”
 オタワ国際アニメーションフェスティバル 第1回監督部門2位
 ・1983年 『ドアNo.8』“Atjó 8”
 1984年カンヌ国際映画祭短編部門コンペティション出品、クラクフ映画祭スペシャルメンション
 ・1983年 『ドアNo.9』“Atjó 9”
 ・1985年 “Filmszemle szignál”(カチカメート映画祭ロゴ1)
 ・1987年 『ドアNo.2』“Atjó 2”
 ・1987年 『ドアNo.3』“Atjó 3”
 ・1988年 “Filmszemle szignál”(カチカメート映画祭ロゴ2)
 ・1992年 『グリーンツリーストリート66番地』“Zõldfa u 66”
 1992年 Espinhoフェスティバル カテゴリー第1位、1993年カチカメート映画祭審査員特別賞受賞
 ・1993年 “Filmszemle szignál”(カチカメート映画祭ロゴ3)
 ・1996年 “Filmszemle szignál”(カチカメート映画祭ロゴ4)
 ・1997年 “Kis emberek dalai(Small Folks’ Songs)”
 1998年 ハンガリー レティナ国際映画祭(RETINA98’) 最優秀アニメーション賞受賞
 ・1997年 “Széles ember meséi”
 ・1998年 “Kecskemét Katona József Theater is 100 years old”
 ・1999年 “Filmszemle szignál”(カチカメート映画祭ロゴ5)
 ・2000年 『静寂(ある日の風景画)』“Allokepek “Rajzok egy élet tájairól”(Stills(Drawing about a Landscape of a life))”
 2000年(ハンガリー)国際フィルム&ビデオフェスティバル Sellye市賞受賞
 ・2004年 “Mesél a kõ(The Telling Stone)”
 2004年 CICDAF 審査員特別賞受賞

 <ハンガリアン・フォークテイルズ>“Magyar Népmesék Ⅳ sorozat”
 ・1980年“Egyszemű, kétszemű, háromszemű”(1つ目、2つ目、3つ目)(Jankovics Marcellと共同監督)
 ・2002年『魔法の南京錠』“A bűbájos lakat”
 ・2002年『妬みの報い』“A kerek kő”(丸い石)
 ・2002年『少年の見た夢』“A kékfestő inas”
 ・2002年『天使の羊』“Angyalbárányok”
 ・2002年『貧者と利口な馬』“A szegény ember meg a lova”
 ・2002年『金の毛の子羊』“Az aranyszőrű bárány”(Nagy Lajosと共同監督)
 ・2002年『ツェルセルーシュカ』“Cerceruska”
 ・2002年『貧乏な男と悪魔たち』“Hetet egy csapásra”(1打で7倒)
 ・2004年? 『双子の王子の冒険』“A kővé vált királyfi ( The Prince Who Turned into Stone)”
 2004年 飛騨国際メルヘンアニメ映像祭 第2回メルヘンアニメ・コンテスト審査員特別賞受賞
 ・2005年“Gyöngyvirág Palkó”(真珠の花 Palkó)

 *参考サイト
 ・アニドウのHP:http://www.anido.com/html-j/yurospace.html
 ・カチカメート・フィルム Kecskemétfilm:http://www.kecskemetfilm.hu/kfilm.html
 ・Pannonia film studio  History 50 Years in the Forefront of Animation:http://www.mediaguide.hu/pannoniafilm/story.html
 ・ハンガリアン・フォークテイルズに関するWikipedia(ハンガリー語):http://hu.wikipedia.org/wiki/Magyar_n%C3%A9pmes%C3%A9k_(sorozat)
 ・Directory of Hungarian Links:http://www.wideweb.hu/hungary/business-investments/entertainment-film-industry
 ・ハンガリー語翻訳サイト InterTran:http://www.tranexp.com:2000/Translate/result.shtml

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック