ロッテ・ライニガー 『シンデレラ』

 『シンデレラ』(1954)は、ロッテ・ライニガーがBBCのために作った児童向け短編シリーズの1本です。英語の台詞がついていますが、おなじみの物語なので、英語が聞き取れなくても、影絵アニメーションとして十分楽しむことができます。

 

 本作は、おなじみの『シンデレラ』の物語を、特に自己流の解釈を加えたりせずに、オーソドックスに影絵アニメーションとして再現したものですが、ちょっと面白いと思うのは、“顔”が問題にされない『シンデレラ』の物語性と、シルエットでしか顔がわからない(伝えられない)影絵アニメーションという手法に奇妙な「親和性」が感じられることです。

 「なぜ普通のアニメーションではなく、影絵アニメーションなのか」そして「影絵アニメーションにふさわしい物語とはどういうものか」ということはロッテ・ライニガー自身もずっと自問自答し続けていた自身の一生のテーマだったはずですが、“顔”ではなく“形”(ガラスの靴)で恋に落ちた相手を探すという『シンデレラ』のストーリー性は、“顔”ではなく“形”(シルエット)しか示しえない影絵アニメーションの特殊性を生かすのにピッタリの素材なのではなかったか、というわけです。ま、ライニガー自身がこの作品を手がける時、特にこんなことを意識していたかどうかはわかりませんが。

 この作品自体は、ロッテ・ライニガーがシリーズとして次々と童話の影絵アニメーション化に挑んでいた時期の作品で、技法的にはもう手馴れたものだったと思われますが、それでもいくつかの見せ場は予め考えていたと推察することができます。
 この作品の場合のそれは、おそらく王子さまとシンデレラのダンスのシーンで、シンデレラの、つま先から、腰つき、そして手首に至るまでの動きが実に見事で、モーション・キャプシャーを使って再現したのではないかと思われるほど、リアルであり、優雅さすら感じ取ることができます。
 あと、王子さまがシンデレラをみつけて、彼女を抱き上げるシーン、そしてキスするシーンもいいですね。これは、この小さな作品の中でも、特にエモーションが感じられるシーンであり、作り手がここで何かアクセントをつけようとしたという意図(工夫)が感じられます。

 作品的には、同じ年に作られた『小さな煙突屋さん』といくつかの共通点(家の内部の見せ方や、家の玄関から通りの見せ方、屋外の風景、など)を指摘することができます。

 なお、『シンデレラ』は、ロッテ・ライニガーにとって、32年ぶり2度目の映画化になります。

画像

 ◆作品データ
 1954年/英/10分29秒
 英語台詞なし/日本語字幕なし
 影絵アニメーション

 *この作品は、DVD『ロッテ・ライニガー作品集 DVDコレクション』に収録されています。

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 ◆監督について
 ロッテ・ライニガー(1899-1981)

 1899年 ベルリン生まれ。
 幼い頃から切り絵細工が好きで、よく家族の前で切り絵細工による人形劇を演じていたという。
 10代になると、映画に夢中になり、ジョルジュ・メリエスやパウル・ヴェゲナーの作品を好んだ。
 15歳の時にパウル・ヴェゲナーの所属するマックス・ラインハルト劇団に参加。
 彼女が最初に携わった作品もヴェゲナーの“Rüezahlls Hochzeit”(1916)。
 その後、いくつかの作品の影絵パートを担当した後、1918年に初の短編影絵作品“Das Ornament des verliebten Herzens”(美しき魂の飾り)を完成させる。
 1926年には初長編『アクメッド王子の冒険』を3年がかりで完成。興行的にも批評的にも大成功を収める。
 1928年の『ドリトル博士の冒険』は、英語作品を原作とする初めての作品で、作曲にはクルト・ヴァイルも参加している。
 1929年の“Die Jagd nach dem Glück”は初の実写作品で、キャストにはジャン・ルノワールも参加している。
 ナチスの台頭によって、制作が制限されるようになると、国外を転々とするようになるが恒久的なビザを取得することができず、第二次世界大戦が始まった時点でもベルリンにいた。戦時中は制作を続けることができず、国外の移動を繰り返した。
 1948年にロンドンで活動を再開し、自身のプロダクションPrimrose Productionsを作った。その後、BBCのために児童向けの短編シリーズを制作。『ジャックと豆の木』(1955)は初のカラー作品となった。
 1972年にドイツ映画賞で名誉賞を受賞。
 1975年にカナダのNFBに招かれて、“Aucassin and Nicolette”を制作。
 1981年 ドイツのデテンハウゼンで没。

 夫であるカール・コッホ(1892-63)もアニメーター&監督で、『アクメッド王子の冒険』(1923-26)や“Die Jagd nach dem Glück”(1930)、『長靴をはいた猫』(1954)で共同監督を務めたほか、いくつかのロッテ作品ではアニメーター等で制作に協力した。2人の出会いはヴェゲナーの紹介による。

 影絵アニメーションというのが、ジャンルとして存在するのか、ある時期に流行ったものなのか、こういう作品を発表したのがロッテ・ライニガーだけではないとしたら、ロッテ・ライニガーは影絵アニメーションの中でどういうポジションを占めるのか、ということが当然、疑問となってでてくると思うのですが、IMDbのキーワード検索で“silhouette”を調べると、上がってくる作品は大半がロッテ・ライニガー作品でした。ということは、影絵アニメーションを手がけたのもほとんどロッテ・ライニガーだけということになりそうです。
 インドネシアには、ワヤン・クリという影絵芝居があり、また、007シリーズのタイトル・バックなどでも影絵が使われたりしますが、映画の中で影絵で物語を語らせようとし、それに人生を賭けたのは、ほとんどロッテ・ライニガー以外になく(空前絶後!)、作者も作品もとてもユニークなものだと言っていいようです。

 ・1916年 “Rüezahlls Hochzeit”(ポール・ヴェゲナー) [影絵]
 ・1916年 “Die schöne Prinzessin” [衣裳、セット、特殊効果]
 ・1918年 “Apokalypse” [影絵]
 ・1918年 “Der Rattenfänger von Hameln(The Pied Piper of Hamelin)”[影絵、アニメーション]
 ・1919年 “Das Ornament des verliebten Herzens”
 ・1920年 “Der verlorene Schatten” [アニメーション]
 ・1920年 “Amor und das standhafte Liebespaar”
 ・1921年 『空飛ぶカバン』 “Der fliegende Koffer(The Flying Trunk)”
 ・1921年 “Der Stern von Bethlehem”
 ・1921年 『マルケスの秘密』 “Das Geheimnis der Marquisin”
 ・1922年 “Dornröschen(Sleeping Beauty)”
 ・1922年 “Aschenputtel(Cinderella)”
 ・1923年 『ニーベルンゲン』(フリッツ・ラング) [影絵シーン原案]
 ・1923-26年 『アクメッド王子の冒険』 “Die Abenteuer des Prinzen Achmed”
 ・1926年 『人騒がせな中国人』 “Der Scheintote Chinese”
 ・1927年 “Heut’ tanzt Mariette”[影絵]
 ・1928年 『ドリトル博士の冒険』(『ドリトル先生アフリカ行き』『ドリトル先生とサルの橋』『ドリトル先生とライオンのねぐら』) “Dr. Dolittle und seine Tiere ”
 ・1929年 “Die Jagd nach dem Glück”
 ・1930年 『モーツァルトの幻想』『10ミニッツ・モーツァルト』 “Zehn Minuten Mozart ”
 ・1931年 『恋の猟人』 “Harlekin”
 ・1932年 “Sissi”
 ・1933年 “Don Quixote”(G・W・パブスト)[影絵]
 ・1933年 『カルメン』 “Carmen”
 ・1934年 『車輪の歴史』 “Das rollende Rad”
 ・1934年 “Der Graf von Carabas(Puss in Boots)”
 ・1934年 『盗まれた心』 “Das Gestohlene Herz”
 ・1935年 『小さな煙突屋さん』 “Der Kleine Schornsteinfeger(The Little Chimneysweep)”
 ・1935年 『ガラテア』 “Galathea: Das lebende Marmorbild”
 ・1935年 『パパゲーノ』 “Papageno”
 ・1936年 “The King’s Breakfast”
 ・1937年 “The Tocher”
 ・1937年 『ラ・マルセイエーズ』(ジャン・ルノワール)[影絵シーン原案]
 ・1939年 “Dream Circus”
 ・1939年 “L’Elisir”
 ・1944年 『金のガチョウ』 “Die Goldene Gans”
 ・1951年 “Mary's Birthday”
 ・1953年 『アラジンと魔法のランプ』 “Aladdin and the Magic Lamp”
 ・1953年 『魔法の馬』 “The Magic Horse”
 ・1953年 『白雪と赤バラ』 “Snow White and Rose Red”
 ・1954年 『三つの願い』“The Three Wishes”
 ・1954年 『アリとキリギリス』 “The Grasshopper and the Ant”
 ・1954年 『勇ましい仕立て屋さん』 “The Gallant Little Tailor”
 ・1954年 『眠れる森の美女』 “The Sleeping Beauty”
 ・1954年 『かえるの王子さま』 “The Frog Prince”
 ・1954年 『カリフの鶴』 “Caliph Storch”
 ・1954年 『シンデレラ』 “Cinderella”
 ・1954年 『長靴をはいた猫』“Puss in Boots”
 ・1954年 『小さな煙突屋さん』 “The Little Chimney Sweep”
 ・1955年 『親指姫』 “Thumbelina”
 ・1955年 『ヘンゼルとグレーテル』 “Hansel and Gretel”
 ・1955年 『ジャックと豆の木』 “Jack and the Beanstalk”
 ・1956年 『ベツレヘムの星』 “The Star of Bethlehem”
 ・1957年 『トロイの美女』 “Helen la belle”
 ・1958年 『ハレムの一夜』 “The Seraglio”
 ・1960年 “The Pied Piper of Hamelin”
 ・1961年 “The Frog Prince”
 ・1963年 “Cinderella”
 ・1974年 『放蕩息子』 “The Lost Son”
 ・1976年 “Aucassin and Nicolette”
 ・1979年 “The Rose and the Ring”
 ・1980年 “Dusselchen and the Seasons”

 *フィルモグラフィーは、資料によって作品や制作年に違いがありますが、ここでは下記William Moritzのサイトをベースとしました。このほかにも多数の広告作品があります。

 *監督作以外の作品は、[ ]で特記しました。

 *参考サイト
 ・<ロッテ・ライニガーの世界>公式サイト:http://www.reiniger-world.com/

 ・Lotte Reiniger by William Moritz:http://www.awn.com/mag/issue1.3/articles/moritz1.3.html

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