砂に描いたカフカの『変身』 キャロライン・リーフ

 今年1月に、当ブログで[tantano 短編映画を楽しむ]を始めた頃、キャロライン・リーフの作品もYou Tubeで見つけて、「お気に入り」に入れておいたのですが、いざ紹介しようという段になって、覗いてみたら、動画は削除されていて観られなくなっていました。
 久しぶりに検索したら、なんと9ヶ月ぶりにキャロライン・リーフ作品に再会することができました!
 また削除されないうちにというわけで、今回は、キャロライン・リーフ作品の中から、カフカの同名小説のアニメ化作品『変身』を紹介したいと思います。
 この作品は、ガラスの上に砂を敷き詰めて、それで濃淡をつけることで絵を描き、下からライトを当てて、1コマずつ撮影していく“サンド・アニメーション”という技法で作られた作品です。
 “サンド・アニメーション”は、アニメーションの中の1つの技法として確立されていて、何人ものアニメーション作家がこの技法を使って作品を発表していますが、キャロライン・リーフはその第一人者のようなアニメーション作家で、この『変身』は“サンド・アニメーション”の代表のような作品です。



 砂の濃淡だけで描く絵ということで、ある程度平板だったり、デフォルメした絵にならざるを得ないのは仕方ないとしても、それでもこれだけのことができるのかということには驚きを禁じえません。

 平板な絵を砂で表現するだけでも大変そうなのですが、この作品では、実写作品でカメラがアングルを変えるように、ズババッとアングルが変わったり、ギューッとアップになったり、スーッとカメラが引いたり、回り込んで来たりもします。

 ザムザ氏が、部屋の中から窓を通して、雨が降っている外を眺めているシーンなどは、特に立体視化が成功しているシーンだと思われます(それぞれの面に違うタッチ、違う方向性を与え、微妙な動きをさせている)。

 出来上がった作品を観ているからそう思うのかもしれませんが、物語の異様さと、なんともいえないシュールな絵のタッチ、そして作品から感じられる閉塞感が、このサンド・アニメーションという技法と見事にマッチしているような気がします(特に闇の中で得体の知れないものが蠢く感じが)。

 原作では、ザムザ氏が死んでしまうところで終わっていますが、この作品では、ザムザ氏が暗闇の中でただ独り聞き耳を立てるところで終わっています。何か置き去りにされたような感じのエンディングですが、これはずっとこのままなのかもしれないというザムザ氏の“たまらなさ”にも通じるもので、一思いに殺されるよりつらくみじめで、印象的なエンディングと言えるかもしれません。

 なお、この作品を作っていた時、リーフは2作品同時に制作を進行させていて、昼は『ストリート』を作り、夜は『変身』を作っていたのが、『変身』はなかなか進まず、結局完成させるまでに2年近い歳月がかかってしまったそうです。

画像

 ◆作品データ
 1977年/カナダ/9分42秒
 英語?台詞あり/字幕なし
 サンド・アニメーション

 *この作品は、1978年 クラクフ映画祭グランプリ&C.I.D.A.L.C. Award - Special Mention、オタワ国際アニメーションフェスティバル 審査員特別賞などを受賞しています。

 *この作品は、『世界と日本のアニメーションベスト150』(ふゅーじょんぷろだくと)で109位。

 *この作品は、DVD『NFB傑作選』に収録されています。

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 ◆監督について
 キャロライン・リーフ
 70~80年代のカナダNFBを代表するアニメーション作家の1人で、サンド・オン・グラス(またはサンド・アニメーション)(ガラスの上に砂を敷き詰め、下から光を当てて、砂に濃淡をつけることで絵を描き、撮影してはまた少し動かすということを繰り返していく技法)、ペイント・オン・グラス(グリセリンを絵の具と混ぜて使うことで絵の具を乾かないようにし、ガラスの上で描いた絵を少しずつ動かしていく技法)の第一人者でもある。

 1946年 米国 シアトル生まれ。
 小さい時から読書と絵を描くことが好きで、ハーバード大学の提携校であるラドクリフ大学でビジュアル・アートを学ぶ。そこの絵画の先生にアニメーションを教えていたデレク・ラム(Derek Lamb)を紹介される。
 最初はあまりアニメーションに乗り気ではなかったが、第1作“Sand or Peter and the Wolf”(1969)で、砂を使って表現するという方法を見出してからアニメーションにのめりこむようになる。第2作“Orfeo”(1972)では、ガラスに直接描くという技法を試みる。
 第3作“How Beaver stole fire”(1972)を制作後、カナダのNFBに招かれ、1991年までNFBでアニメーター&監督として作品を制作することになる。
 第4作の“The Owl Who Married a Goose: An Eskimo Legend”(1974)は、エスキモー伝説にインスパイアされて作った作品で、この作品でサンド・オン・グラスという技法を確立する。この“The Owl Who Married a Goose: An Eskimo Legend”は、数多くの映画賞を受賞し、続く『ストリート』(1976)とカフカの同名の原作を映画化した『変身』(1977)で、リーフは国際的に知られるようになる。
 『ストリート』は、ペイント・オン・グラスという技法で制作された作品で、米国アカデミー賞短編アニメーション賞にもノミネートされ、1984年にロサンゼルスで開催されたアニメーション・オリンピックではベスト50の第2位にランクインしている。

 1981年~1986年は、実写のドキュメンタリー作品を手がける。

 1986年に、アニメーションに復帰し、70mmフィルムをスクラッチし、35mmで再撮影するという技法で、1990年に『姉妹』を完成させる。この作品は、アヌシーやオタワをはじめ様々の映画祭でグランプリを受賞している。

 1991年にNFBを離れてからは、いくつかのドキュメンタリー作品を手がけている。

 2004年には、地下鉄道(Underground Railroad)に関する映画のアニメーション部分を制作した。

 近年は、ロンドンに移住し、The National Film and Television Schoolで教鞭を取っている。

 1994年には、オタワ国際アニメーションフェスティバルよりNorman McLaren Heritage Award を贈られ、1996年 ザグレブ国際アニメーションフェスティバルより生涯貢献賞が贈られた。

 ・1969年 “Sand or Peter and the Wolf”
 ・1972年 “Orfeo”
 ・1972年 “How Beaver stole fire”
 ・1974年 “The Owl Who Married a Goose: An Eskimo Legend(Le Mariage du hibou: une légende eskimo)”
 1976年 BAFTA最優秀アニメーション賞ノミネート、1976年 オタワ国際アニメーションフェスティバル OIAFアワード Films for Children受賞
 ・1976年 『ストリート』 “The Street(La Rue)”
 1976年 オタワ国際アニメーションフェスティバルグランプリ受賞、1977年 米国アカデミー賞短編アニメーション賞ノミネート、クラクフ映画祭銀賞受賞
 ・1977年 『変身』 “The Metamorphosis of Mr. Samsa”
 1978年 クラクフ映画祭グランプリ&C.I.D.A.L.C. Award - Special Mention受賞、オタワ国際アニメーションフェスティバル 審査員特別賞受賞
 ・1979年 “Interview”
 1979年 モントリオール国際映画祭審査員賞受賞、1980年 メルボルン国際映画祭グランプリ受賞
 ・1981年 “Kate and Anna McGarrigle”
 ・1981年 “The Right to Refuse”
 ・1982年 “An Equal Opportunity”
 ・1983年 “Pies”
 ・1985年 “The Owl and the Pussycat”
 ・1986年 “The Fox and the Tiger: A Chinese Parable(Le Tigre et le renard)”
 ・1986年 “A Dog's Tale: A Mexican Parable”
 ・1990年 『姉妹』 “Two Sisters (Entre deux soeurs/Caroline Leaf and Her Two Sisters)”
 1991年ワールド・アニメーション・セレブレーション グランプリ受賞、アヌシー国際アニメーションフェスティバル 最優秀短編アニメーション賞受賞、1992年 オタワ国際アニメーションフェスティバル グランプリ&Craft Award(脚本に対して)受賞
 ・1991年 “I Met a Man”
 ・1992年 “Bell Partout”
 ・1994年 “Fleay’s Fauna Centre”
 ・1995年 “Brain Battle”
 ・1995年 “Radio Rock Détente”
 ・1996年 “Drapeau Canada”
 ・1998年 “Absolut Leaf”
 ・2001年 “Odysseus & the Olive Tree”
 ・2004年 “Slavery”

 *参考サイト
 ・公式サイト:http://www.carolineleaf.com/
 より詳細なバイオグラフィーやフィルモグラフィー、絵画作品などを紹介しているアート・ギャラリーなどのコンテンツもあります。
 ・キャロライン・リーフに関するWikipedia(英語):http://en.wikipedia.org/wiki/Caroline_Leaf
 ・NFB PORTRAITS:http://www.nfb.ca/portraits/fiche.php?idcat=284&lg=en&v=h
 ・NFB Play Films:http://www.nfb.ca/animation/objanim/en/films/film.php?sort=director&director=Leaf%2C+Caroline&id=26014
 “The Owl Who Married a Goose: An Eskimo Legend”『ストリート』『姉妹』の動画を観ることができます。
 ・Acme Filmworks:http://www.acmefilmworks.com/director/0/47/leaf.html

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