なるほど、グランプリ! 『カリフォルニア・ドリーミン』 クリスチャン・ネメスク

 2007年 カンヌ国際映画祭 ある視点部門グランプリを受賞したルーマニア映画『カリフォルニア・ドリーミン』が東京国際映画祭で上映されたので、さっそく観てきました。

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 上映の前に監督クリスチャン・ネメスクが2006年にこの映画の編集中に交通事故死したこと、それでこの作品は編集中のままであること、にもかかわらずこの作品がカンヌ国際映画祭ある視点部門でグランプリを受賞していることが、インサートで入れられます。

 今年6月に当ブログでルーマニア映画についてまとめた時には、この映画の物語を「1999年のコソボ紛争の最中、鉄道主任がNATOの軍用列車の運行を妨害する。」と紹介していますが、実際は……。

 【物語】
 1944年5月
 [説明字幕] “連合国軍は、ルーマニアからナチス・ドイツへと物資が送られるのを遮断するためにルーマニアに空襲を落としていた。”
 (モノクロ)一家が食事をしていると空襲警報が流れ、みんなでシェルターに急ぐ。
 途中で、おじいちゃんを置いてきてしまったことに気づいて、父親が戻ろうとする。しかし、空襲が激しくなり、階段を不発弾がゴロゴロと転がってくる。爆発しないままに止まった不発弾にはカリフォルニア製と刻印されている。

 1999年5月
 カパルニツァ村。
 村に村長はいるが実際に村を牛耳っているのはカパルニツァ駅長のドヤル。列車を止めて、貨物のチェックを名目に積荷から多くの品物を盗み出し、転売している。おかげで、村の工場は閉鎖もやむなしという状況で、工場内ではストライキも起きている。
 ドヤルの娘モニカは、そんな父親との暮らしが嫌で、早くここから抜け出したいと思っている。

 そんなドヤルの元に1本の電話が入る。あと15分ほどで駅をNATOの軍用列車が通るがそのまま通過させろという。
 NATOの軍用列車は、コソボ紛争を解決するためにパラボラアンテナを設置するための機器を搭載しており、アメリカ海軍のジョーンズ大佐(Captain Jones)が指揮を執っていた。

 しかし、ドヤルは、列車を止め、通関の書類もなしにこの駅を通過させるわけには行かないと言って、列車を別の線に移し、気動車を連結から外して、ここからどこへも行かせないようにする。

 村にアメリカ人が来ているというニュースが伝わると、村長は、アメリカ人はきっと大金を落とすであろうから村で彼らを歓待しようと村民をあおり、明晩、百年祭をやると発表する。娘たちは若き米兵に目をつける。
 列車からルーマニアの政府に知らせが届くが、連絡はたらいまわしにされ、すぐには効果的な手段は講じられない。米兵たちはただ待つしかない。
 ジョーンズは、ドヤルと交渉し、政府も了承してるんだし、お金を払うから行かせてくれないかと2000ドル提示するが、ドヤルは規則は規則だからと認めない。

 2日目
 百年祭(本当の百年祭はつい最近やったばかりだったが)の準備が進められる。
 曹長であるデイヴィッドは、部下たちが百年祭に行きたがっているとジョーンズに報告し、ジョーンズもそれを認める。
 百年祭では、村長は娘マリアを通訳にして、カパルニツァとジョーンズの故郷と姉妹都市を結ばないかとジョーンズに持ちかけたりするが、ジョーンズはそれはお門違いだからとやんわり退ける。
 ショーが進み、村の女たちは若い米兵たちとダンスをする。
 モニカは、目をつけていた曹長デイヴィッドと踊る。モニカは英語ができなかったので、デイヴィッドとなかなか意思の疎通ができない。

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 そこに工場労働者がプラカードを持ってやってくる。米兵は、プラカードには何で書かれてあるのかと聞く。村長は歓迎してるんだと答えるが、労働者たちを制止しきれず、乱闘が起こってしまう。

 3日目
 モニカは、デイヴィッドと話がしたくて、友だちに相談するとアンドレイなら英語が得意だと聞かされて、アンドレイに通訳を頼む。
 デイヴィッド「いくつなの?」
 モニカ「18よ」
 アンドレイ(デイヴィッドに)「18って言ってるけど、本当はぼくの同級生で17なんだ」
 モニカ「恋人はいる?」
 デイヴィッド「君はかわいいよ」
 アンドレイ(モニカに)「いっぱいいるってさ」

 その夜は若者を中心にしたパーティーが開かれる。
 デイヴィッドと結ばれるモニカ。
 都市部で漏電が起こり、戦時中から保管してあった不発弾が爆発。ルーマニア一帯が停電になる。

 モニカはデイヴィッドを誘い出して町へ。

 ジョーンズは、歓迎会から独り抜け出して、ホテル(?)でテレビのニュースを見たり過ごす。

 4日目
 ドヤルの元に外務省から副大臣がやってくる。
 副大臣は、クビにするぞと脅したり、工場を買い取りたいと考えているドヤルに便宜を図ってやるぞと言ったりするが、ドヤルは規則は規則だから書類が揃うまでは列車は通せ以内の一点張り。

 デイヴィッドは、アンドレイを通して、モニカにドヤルのことを聞く。
 一方、ジョーンズもドヤルを自宅に訪ねる。
 ドヤルの両親は、ナチスに製品を納めていたため、戦後、ロシアに逮捕され、そのまま帰って来ず、ドヤルはそれからこの地で叔父に育てられたことがわかる。
 「ずっとアメリカ人が来てくれるのを待っていた。それがようやく来てくれたわけだ」

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 モニカは、アンドレイと2人きりになると、彼に英語を教えてくれと頼む。
 アンドレイは、モニカに英語を教えるが、英会話を通して彼女に恋の告白をする。こっそり匿名でメールを送っていたのはボクなんだと。
 興奮したのか、アンドレイは鼻血を流し、モニカが手当てをする。「あなたって、意外と悪い人じゃないのね」

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 ジョーンズは、村長に人を集めさせ、この村を悪くしているのはドヤルだ、みんなで団結してドヤルを倒そうとハッパをかける。村民もその気になり、ドヤルがバシレ警察署長と手を組んで抵抗してきたなら、援護しようとジョーンズは約束する。

 ドヤルの元に政府の役人が書類を揃えてやってくる。「これで列車は早朝には出発できる。だが、あんたはこれでクビだ。」

 5日目
 ドヤルが、いつも列車を妨害していたゴロツキをつかまえたという連絡を受けて出て行こうとする。モニカは大事な話があるから聞いてと言うが、ドヤルは後にしてくれと言って聞かない。それでも、モニカは「ブカレストの大学に行きたい」となんとか伝える。

 ドヤルは、警察署長らとともにゴロツキたちがいるというところに行くが、それは罠で、そこにはジョーンズにハッパをかけられた村民がドヤルをやっつけようと待ちかまえている。乱闘が始まる。

 モニカは、出発するデイヴィッドたちを駅で見送っている。電話番号を教えてというデイヴィッドに、彼女は彼の手のひらに書く。
 別れを惜しむ間もなく、モニカはドヤルが乱闘に巻き込まれていると聞かされる。

 モニカがかけつける直前にドヤルは首を切りつけられる。モニカが駆け寄るが、どうすることもできず、ドヤルは絶命してしまう。

 列車の中のデイヴィッド。
 手のひらを開けてみると、そこには電話番号ではなく、スマイルマークが書かれてある。

 [説明字幕]
 “6月9日にパラボラアンテナの設置が完了するが、その2時間前に、セルビアとNATO軍の休戦が成立した。”

 2004年
 カフェにいるモニカ。そこにアンドレイが入ってくる。
 「どう?」「大学の授業は楽しいわ。」
 「次の授業は15分後だから」とモニカが店を出るというので、アンドレイも一緒に店を出ることにする。そして店の前で左右に分かれる。
 クレジットがロールアップしてくる。BGMは“California Dreaming”。

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 設定が、1999年5月ということは、ルーマニア革命でチャウシェスク政権が倒れてから、まだ半年も経っていないわけで、民主化したとはいうものの、地方までまだしっかりと行き届いてはいないという時期ということになるでしょうか。

 警察とも組んで、地域の富を独り占めにしているドヤルという人物は、制度を利用して、私腹を肥やし、他人が苦しむのを見て見ぬフリをしていたということで、チャウシェスクにイメージが重ねられていることは言うまでもありません。
 といっても必ずしも極悪人ではなく、第二次世界大戦の結果、両親を失い、いつかきっとアメリカ人が自分を救いに来てくれるのではないかと夢見て挫折し、アメリカ人に愛憎半ばする思いを持っているということも明かされ、また、妻に先立たれて男手一つで娘を育てていて、ただ娘の幸せを願っているというような描写もあって、共感できる人物としても描かれています。

 第二次世界大戦と、さらにその後のチャウシェスク政権時代。これら2つの時代が清算しないまま放置してきたことを、ところどころで小さく爆発させつつ、笑いとほろ苦さを込めて描いたのがこの作品ということになるでしょうか。それと同時に、「ここではないどこか」へ出て行きたいと思っている若者特有の夢やあこがれも描かれています。その点で、実はモニカとドヤルは重なってくるわけですが、これが本作のサブタイトルに“endless”とうけられている理由(の1つ)でしょうか。

 監督が完全に編集が済む前に亡くなっているということが先入観としてあるためか、冗長だったり、つながりがおかしいと思ったりすることもありますが(ジョーンズがドヤルにロール・キャベツをごちそうになり、彼の人柄を知ったと思った後で、村人に彼を倒せとたきつけたり、結局自分たちは何もしないで去ってしまったり。モニカとデイヴィッドが2度も結ばれる必要があったのかとか、昔、米軍機が墜落して村に黒人兵がやってきたというエピソードも必ずしも必要だったのかという気もします)、そんなに気になるほどではありません。というか、かなり面白くて、整理すれば、もっと短くなったはずですが、155分があっという間でした。

 この手の映画では、自国民を理性的に、アメリカ人を単純なアホに描く傾向がありますが、本作では、アメリカ人に対しても誠意を持って描かれているのが、好感が持てていいですね(政府の官僚はアホとして描かれていますが)。

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 映画の舞台となったカパルニツァは、ウクライナから南部から延びるカルパチア山脈の末端近く、山脈の西側にあって、ルーマニアの真ん中あたりに位置しています。
 列車のルートがよくわからなかったのですが、黒海からルーマニアを突っ切って、ユーゴスラビア、もしくはハンガリーへ向かうルートを取ったということでしょうか。

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 異国の中で進むことも戻ることもできない外国人というシチュエーションは、大島渚『飼育』(1961)、『ウェールズの山』(1995)、『鬼が来た!』(2000)、『トンマッコルへようこそ』(2005)を思い出させたりもしました。

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 【キャスト】

 ジョーンズ大佐:アーマンド・アサンテ
 どっかで見たことがあると思ったら、アーマンド・アサンテでした。融通の利かない、権威主義的な軍人ではなく、タフさを兼ね備えているだけでなく、話せばわかる道理の通じる人間らしい軍人として描かれていて、好感が持てます。顔に刻まれた皺もこれまで歩んできた人生の豊かさを思わせて、いい年の取り方をしているように見えました。
 1949年 ニューヨーク生まれ。
 主演作も多いようですが、日本ではほとんど公開されていません。一番最後は『奇跡の歌』(1998年。日本公開は2002年)あたりでしょうか。
 2007年の“When Nietzsche Wept”では、なんとニーチェを演じています。

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 デイヴィッド軍曹:ジェイミー・エルマン
 1976年 ニューヨーク生まれ。
 ほとんどTV中心に活躍している俳優。映画では『JM』(1998)、『ニュースの天才』(2003)などに出演。“When Nietzsche Wept”で再びアーマンド・アサンテと共演し、フロイトを演じる。

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 ドヤル:ラズヴァン・ヴァシレスク
 1954年 ルーマニアのプロイエスチ生まれ。
 約30年近いキャリアを誇るルーマニア映画界のベテランですが、日本での公開作はありません。主な出演作は、“Balanta”(1992)、“Trahir”(1993)、“Lotus”(2004)、“Second-Hand”(2005)、“Offset”(2006)など。そのほか、TVドラマ『セックス・トラフィック』にも出演している。

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 モニカ:マリアナ・ディノレスク
 1981年 ブカレスト生まれ。ということは実年齢より10歳近く若い役を演じたことになります。デイヴィッドと愛し合うシーンで彼女は美しい肢体を披露してくれますが、そのシーンで私は何か違和感を感じてしまったのですが、それは、だからでしょうか(笑)。
 ルーマニア映画を中心に活躍しているので、日本で知られているような出演作はありませんが、この作品で注目されて、国際的に活躍の場を広げつつあるようです。
 唇とあごのちょうど真ん中あたりにあるホクロが印象的。若い頃のオルネラ・ムーティにちょっと似ているでしょうか。

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 【スタッフ】

 監督:クリスチャン・ネメスク
 1979年、ブカレスト生まれ。
 2003年 ブカレスト演劇映画アカデミー(the Academy of Theater and Film in Bucharest)卒業。
 これまでいくつかの短編を発表し、国際的に注目される。特に“Poveste la scara 'C'”は2003年にベルリン国際映画祭に出品されて、短編部門のグランプリを受賞。
 本作は、初長編作品だったが、この作品の編集に当たっている真っ最中であった2006年夏に交通事故に遭い、死亡。しかしながら、2007年のカンヌ国際映画祭のある視点部門に出品されてグランプリを受賞した。

 その他、撮影、編集、アート・ディレクションなども、若いスタッフによって手がけられた。

 公式サイト(ルーマニア語):http://www.californiadreaminnesfarsit.ro/

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 本作は、オランダでは2007年11月公開、フランスとベルギーでは2008年1月公開が決定しています。
 残念ながら、監督は亡くなっていますが、ルーマニア映画の勢いを感じさせる1本でもあるし、日本で劇場公開するに決して見劣りしないどころか、かなり見ごたえのある作品だとっ思のですが。どこか買わないかな? ネックはやはり上映時間の長さですかね。155分では1日3回しか上映できないし。

 東京国際映画祭では、あと1回観るチャンスがあります(10月26日)。

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 なお、日本語字幕では、Captain Johnesのことをジョーンズ長官と訳してありましたが、「長官」はおかしいのではないかと思い、ここでは「海軍大佐」としてあります。

この記事へのコメント

2007年11月13日 22:48
こんばんは。
ウズベキスタンから帰国した日にこれ見に行きましたよー。
好みのタイプ作品でした。とてもよかった!
そうそう、カパルニツァってどこらへんだろうって、一昨年ルーマニアに行った私はすごく気になったんですが、地図帳では発見できなかったんだった。
スッキリしました。
endless!
umikarahajimaru
2007年11月14日 00:56
帰国した日に映画祭行っちゃうなんて、相変わらず凄い行動力ですね~。
ルーマニア映画、もっと上映してくれるといいんですけどね。

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