少年心をくすぐる! 『カレル・ゼマンと子どもたち』

 以前『水玉の幻想』を動画つきで紹介したカレル・ゼマン。本作は、彼の映画作りの舞台裏を覗ける短編ドキュメンタリーです。

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 英語によるナレーションがついていますが、それが全くわからなくても、映像が多くのことを語っているのでほとんど気になりません。映像を観ているだけで、子ども向けのSFや冒険ファンタジーを作り続けたカレル・ゼマンの作品世界やその舞台裏に迫ることができ、そうした空想世界を現出しようとした大人たちに魅了され、幸せな気持ちになってしまいます。

 今のように何でもCGで出来てしまえる時代ではない時代に、実際に人間が目にすることができなかった宇宙や有史以前の時代、そして海底世界などを、いかにそれらしく見せるか。
 すべてが手づくりのSFXで、今から見れば、微笑ましいと思えるものもありますが、子どもだましでやってるわけではなくて、作り手サイドも楽しんで本気でやっていることが伝わってくるからいいんですね。

 本作には、カレル・ゼマンの各作品の本編の一部がふんだんに盛り込まれていて、それだけで十分楽しいのですが、やっぱりまた本編が観たくなりますね。

 前半
 

 後半
 

 ◆作品について
 本作は、冒頭部分以外は、カレル・ゼマンのフィルモグラフィーに合わせて進行しているようです。おぼろげな記憶を頼りにそれぞれのシーンを作品に対応させていくと――

 ・稲妻~たぶん『盗まれた飛行船』
 ・プロペラ機、旅客機、ロケット~『盗まれた飛行船』
 ・ネモ船長の秘密基地~『盗まれた飛行船』
 ・水中自転車~『悪魔の発明』
  水槽ごしに水中の風景を撮影する。

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 ・ペリカン~『鳥の島の財宝』
 ・ガラス細工~『水玉の幻想』

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 ・恐竜の型取り~『前世紀探検』
  恐竜も絵を描いてから型を取り、型ができたら色を塗る。
 ・ステゴザウルスの背中に乗る少年たち~『前世紀探検』

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  遠近法を使って、平板の恐竜の上に登っているように見せる。
 ・キラキラ輝く太陽~『彗星に乗って』
  太陽のキラメキ効果を出すのに、裏側から、スリットの入った2重の円盤を回転させて光を当てる。
 ・火星の爆発~『彗星に乗って』
  水槽に何種類もの絵の具を垂らして、背景に使う。
 ・蒸気機関車が煙を出して走る~『悪魔の発明』
  煙を発生させて、それに平板に描かれた蒸気機関車を重ねる。

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 ・馬で断崖を越える~『狂気のクロニクル』?
 ・ペガサスに乗った恋人たちが空を翔る~『ホンジークとマジェンカ』

 娘のルドミラ・ゼマンは、1984年にカナダに移住し、父の『シンドバッドの冒険』のアニメーターだったEugene Spalenyと結婚し、Eugene Spalenyは、“Certík Fidibus”(1981)、“Lord of the Sky ”(1992)等の監督作品を発表している。また、『アニメーターズ1 カレル・ゼマン』(日本出版社)によれば、映画で祖父にアニメーションの魅力を教わっている4人の孫のうちの1人は、現在、祖父の業績を伝えるべく、映画で使われた人形や写真、解説パネルで構成した<カレル・ゼマン展>のディレクターとして世界を飛び回っている、ということのようです。
 本作における、子どもたちにアニメーションを教えているシーンは、ひょっとすると「演出」だったのかもしれないんですが、実際にこうして偉大なアニメーションのパイオニアの仕事が継承されていっている、というのはいいエピソードですね。

 ※ルドミラ・ゼマンは絵本作家でもあり、邦訳されているものもあります。
 『ギルガメシュ王ものがたり』(岩波書店)、『ギルガメシュ王のたたかい』(岩波書店)、『ギルガメシュ王さいごの旅』(岩波書店)

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 ◆作品データ
 1981年/チェコ?/17分
 英語ナレーションあり/日本語字幕なし
 ドキュメンタリー

 本作には、“Karel Zeman et Les Enfants”、“Karel Zeman Detem”、“The Special Effects of Karel Zeman”など複数の別題があります。

 *日本版サイト:http://www.net-broadway.com/nsw/cine/karel_zeman/karel_zeman_detem/

 *本作は、DVD『カレル・ゼマン DVDコレクターズ・ボックス』に収録されています。
 ※カレル・ゼマンのDVDは、世界中のファンが待ち望んだものらしく、海外のファン・サイトでも日本版DVDが紹介されています。

 
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 ◆監督について
 カレル・ゼマン
 1910年 オーストリア・ヘンガリー帝国(現・チェコ)のオストロムニェジェに生まれ、1989年 プラハで没。
 幻想の魔術師、映像の錬金術師、チェコアニメ3巨匠の1人などと称される。

 少年の心をくすぐる冒険ファンタジー、次々と襲い来る試練とロマンの物語、イマジネーションあふれる“未来の”マシーンやメカの創造(特に空を飛ぶ乗り物)、技術の不足をアイデアで補った特撮、……。子ども向けの作品ばかりでありながら、(今となってはレトロとも思える)その作品の魅力にとりつかれたファンは多い。

 父親は貝ボタン職人。
 幼い頃から人形劇が好きだった。
 フランスの広告美術の学校で学び、マルセイユのスタジオに就職。最初に手がけた仕事はスープの広告。
 帰国後も広告の仕事がしたいと考え、まずは、ショーウィンドウのディスプレイのデザインなどを担当した後、ズリーンのクゥドロフ・スタジオに広報担当として就職(1943年)。そこで、アニメーション作家ヘルミナ・ティールロヴァーと出会い、アニメーションの制作に興味を持つ。
 1945年 ティールロヴァーと共同で『クリスマスの夢』を監督。正確には、撮影所の火事でフィルムが焼失してしまったことで失望して降板したティールロヴァーに代わって、カレル・ゼマンが再撮影を買って出る。実写部分をボジヴォイ・ゼマンが監督。この作品は、1946年のカンヌ国際映画祭で最優秀アニメーション賞を受賞。
 1947年 ゼマンとしての最初のプロジェクト「プロコウク氏」シリーズを手がける。
 1950年 最初の中編『王様の耳はロバの耳』を制作。この作品でアニメーションの監督として国内でも知られるようになる。
 1955年 俳優を使った、最初の実写作品『前世紀探検』を制作。
 続いて、ジュール・ヴェルヌ原作の『悪魔の発明』、『ほら男爵の冒険』、『彗星に乗って』など、子ども向けのSFや冒険ファンタジーを制作して、一躍人気監督となる。

 1987年には第2回国際アニメーションフェスティバルに国際名誉会長として来日している。

 娘のルドミラ・ゼマンは、1984年にカナダに移住し、父の『シンドバッドの冒険』のアニメーターだったEugene Spalenyと結婚(http://www.bookcentre.ca/gg/lzeman.htm)。Eugene Spalenyは、“Certík Fidibus”(1981)、“Lord of the Sky ”(1992)等の監督作品を発表している。

 【フィルモグラフィー】
 ・1945年 『クリスマスの夢』
 ・1946年 『ハムスター』
 ・1946年 『幸福の蹄鉄』
 ・1947年 『プロコウク氏 在役中の巻(靴屋はいやだの巻)』
 ・1947年 『プロコウク氏 試練を受けるの巻(家作りの巻)』
 ・1947年 『プロコウク氏 ボランティアの巻』
 ・1947年 『プロコウク氏 映画製作の巻』
 ・1947年 『生者の中の死者』
 ・1947年 『労働者』
 ・1948年 『水玉の幻想』
 ・1949年 『プロコウク氏 発明家の巻(発明の巻)』
 ・1950年 『王様の耳はロバの耳(ラーヴラ王)』
 ・1952年 『鳥の島の財宝』
 ・1955年 『前世紀探検』 1958年日本公開
 ・1955年 『プロコウク氏 動物の友の巻』
 ・1958年 『悪魔の発明』 1959年日本公開
 ・1958年 『プロコウク氏 探偵の巻』
 ・1959年 『プロコウク氏 アクロバットの巻』
 ・1961年 『ほら男爵の冒険』 2004年日本公開
 ・1964年 『狂気のクロニクル』 2003年日本公開
 ・1966年 『盗まれた飛行船』 1987年日本公開
 ・1970年 『彗星に乗って』 1987年日本公開
 ・1971年 『シンドバッドの冒険 第1話 はじめての冒険』
 ・1972年 『シンドバッドの冒険 第2話 ふたたびの海へ』
 ・1972年 『プロコウク氏 時計屋の巻』
 ・1973年 『シンドバッドの冒険 第3話 巨人の島(巨人の国)』
 ・1973年 『シンドバッドの冒険 第4話 磁石の山』
 ・1973年 『シンドバッドの冒険 第5話 空飛ぶじゅうたん』
 ・1974年 『シンドバッドの冒険 第6話 閉じ込められた魔神(かいならされた悪魔)』
 ・1974年 『シンドバッドの冒険 第7話 海のサルタン』
 ・1976年 『千一夜物語』
 ・1977年 『クラバート』 2003年日本公開←1981年 池袋西武スタジオ200にて上映
 ・1980年 『ホンジークとマジェンカ』 2003年日本公開
 ・1981年 『カレル・ゼマンと子供たち』

 *資料によりデータ(邦題、制作年、作品そのもの)が異なる場合があります。

 *2003年にシアター・イメージフォラムにて<カレル・ゼマン レトロスペクティブ>が開催され、長編8作品(『鳥の島の財宝』『前世紀探検』『悪魔の発明』『狂気のクロニクル』『盗まれた飛行船』『彗星に乗って』『シンドバッドの冒険』『クラバート』『ホンジークとマジェンカ』)、短編5作品(『クリスマスの夢』『プロコウク氏 映画製作の巻』『水玉の幻想』『王様の耳はロバの耳』『鳥の島の財宝』『カレル・ゼマンと子供たち』)が上映されました。2004年 同劇場で『前世紀探検』『ほら男爵の冒険』が上映されました。

 *参考書籍
 ・『アニメーターズ1 カレル・ゼマン』(日本出版社)
 ・『夜想35 チェコの魔術的芸術』(ペヨトル工房) p58-69
 ・『チェコアニメの巨匠たち』(エスクァイア マガジン ジャパン) p69-79

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