アレクサンドル・ペトロフ 『おかしな男の夢』

 『春のめざめ』のアレクサンドル・ペトロフの第2作『おかしな男の夢』。

 見つけた動画は、台詞がロシア語で、日本語字幕がついていないものだったので、よく意味が汲み取れない部分があり、鑑賞の手助けとなるような作品紹介の記事がどこかにないかなあと思って調べていたら、この作品が収録されたDVD『アレクサンドル・ペトロフ作品集』が来週7月25日に発売されるという情報を発見!
 DVD『アレクサンドル・ペトロフ作品集』は、3作品『雌牛』『おかしな男の夢』『マーメイド』を収録した作品集で、税込み3990円。Amazonで買うと税込み2993円! アート・アニメーションのDVDは、通常5000円以上するのが普通なのに、こんな値段で買えるなんて!と思い、思わず予約注文してしまいました(発売前に予約注文するなんて初めて!)。発売元は違いますが、7月18日に発売になった『春のめざめ』(税込み3990円)と併せて買ってもらえるように、定価を低めに抑えたんですね、きっと。未見である『雌牛』も観られるとあって、今からとても楽しみです。

 

 ※再生がスムーズに行なわれない場合は、いったん一時停止にして(bufferingが完全に済むまで)しばらく待ってから再生すると滞りなく観ることができます。

 【物語】
 列車の中であることを思わせる音が先行。
 闇の中にランタンが揺れる。
 列車の中で、だらしなく眠っている人々の姿が映し出される。
 テーブルにひじをついて物思いにふける男。
 裸の人々の乱舞や炎に焼かれる人々のイメージ、自らこめかみに銃を当てて引き金を引くイメージが重なる。
 宇宙空間を思わせるイメージから、闇の中へ。

 夜の石畳の街角。
 男がたたずんでいると、何やら少女が助けを求めてやってくる。母親に何かあったらしい。
 しかし、男はそれを振り切って歩き出す。なおもしがみついてくる少女を男は突き飛ばす。
 靴が片方だけ落ちているのをみつけるが、放り捨てて先へ急ぐ。人にぶつかってもおかまいなしに人波をかきわけてどんどん先へ。
 街の人々の営み。
 扉から急に飛び出して人を驚かそうとする仮面の男。
 ロウソク1本で照らし出される部屋の中。
 まるで自殺しろと言わんばかりに布の下にあった銃が手の中に滑り込んでくる。
 男は風に揺れるロウソクの下に少女の幻を見る。
 ぬっと現れる仮面の男のイメージ。
 男は自分の胸に銃を当てて引き金を引き、倒れる。
 どんどん闇の中を落ちていく。そして宇宙空間へ。

 ふいに明るい世界の中に放り出される。
 気がつくと男は穏やかな波打ち際に立っている。人を恐れることなく、小鳥たちも舞い寄ってくる。
 波が砂の城を洗う。その向こうに別の城を作っている幼女が見える。
 男が転ぶと幼女が駆け寄ってくる。
 男の胸には銃痕があったが、少女が手を当てるとそれは見る見るうちに消え去っていく。
 自然と豊かさに満ちあふれた世界。
 男は老人に体を見てもらっている。
 それをみつける黒犬。
 幼女が水甕から手に何かをすくって男の元にやってくる。やってくる間に幼女は娘へと姿を変えていく。
 娘は、男の手に何かを握らせてくれる。
 手を開いてみると、それは小さな赤ん坊で、見ているうちに赤ん坊は小鳥へと姿を変え、飛び立っていってしまう。
 黒犬が横たわっていると、そこに子犬がやってきて、母犬の乳を吸い、そのとなりに人間の赤ん坊もやってきて、同じ乳房に仲良くしゃぶりつく。
 老人が大地に杖を突き立てて、太陽に向かって歩き出していく。すると、老人の姿は太陽の光に溶けるようにして消える。大地に突き立てられた杖は、大きな木となって枝葉を繁らせる。

画像

 (急に場面が変わって)列車の中。男は夢を見ていたことに気づく。

 再び楽園。
 上半身裸で眠っている娘をじっと見つめる人物。そのまま娘に近寄っていってキスをする。
 キスしたのは主人公の男で、仮面を取って、娘に素顔を見せる。少し考え込んでいた娘も、すぐに男に微笑みかけ、男の手から仮面を取って駆け出していく。
 何かまずいことでもしてしまったのかと男は考え込む。腕に蜘蛛が這い上がってきたので、慌てて払いのける。
 牙を剥く黒犬。
 仮面をめぐって、笑いさんざめき、追いかけあう人々。
 人が死ぬ。
 人々は、自分の家のまわりにレンガで塀を作って、他家との境界をはっきりさせるようになる。
 獣の頭蓋骨をかぶった若者が、雄叫びを上げ、レンガ塀を破壊し、棒を持って暴れまわる。
 若者はやがてつかまり、木にくくりつけられて石を投げられる。
 男は人々にやめるように言うが、誰も聞かない。
 若者は投げられた石で埋まってしまう。
 皆既日食が起こる。
 明るかった楽園に闇が訪れる。
 何かの儀式なのか、火の輪くぐりが行なわれる。
 人々は火の輪をくぐりぬけた後、火のついた体で踊り続ける。
 すべてのものが焼け落ちて、楽園が失われていく。
 チェス盤の上に作られた人間ピラミッド。
 その土台が欠けただけでピラミッド全体が崩れていく。
 砂ぼこりの中から争う人々の姿が見える。
 それを見ていた男の手には、嘲笑う小さな男がいて、男を見上げて自殺を演じると砂となって崩れてしまう。
 こぼれた砂はなだれとなって、砂の城を作って遊んでいた女の子を飲み込もうとする。
 それを見ながら、男の体は砂に埋もれていく。

 男が絶叫を上げた時、意識は列車の中へと舞い戻ってくる。
 目の前の座席には少女が座っている。
 男は頭を抱え、人が助け合うということはどういうことかを思い出す。

 夜の石畳の街角。
 少女の手を引いて男は歩いていく。

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 原作は、ドストエフスキーが最晩年に書いた短編『おかしな人間の夢』で、ドストエフスキーのすべてがつまっていると評される作品です。

 台詞がロシア語なので、話されている言葉はわかりませんが、映像から大体の物語は読み取ることができると思います。
 この作品のテーマは、人間社会はもろく崩れやすいもので、自分勝手な行動(自殺も含めて)やエゴを捨て、みんなが助け合うことで、明るい未来へと導くことができる、ということになるでしょうか。

 アレクサンドル・ペトロフの「動く油絵」は、もう見慣れたものなので、そう驚きはしませんが、油絵によってしか得られないような美しい描写とその質感(石畳の街角、街の人々の営み、など)はやはり素晴らしく、得意のメタモルフォーズするシーン(歩いてくる幼女が見る見る娘へと成長してくるシーン、手のひらの赤ん坊が小鳥になってはばたいていくシーン、老人が太陽に溶け、杖が木になるシーン、など)も目に心地よく、観る楽しみを与えてくれます。“メタモルフォーズ”という手法は、マジカルなシーンやそういうシーンが出てくる作品によく似合うという気もしました。

 この作品に出てくる宇宙空間のようなイメージは、原作でも主人公が宇宙を旅しているというイメージということのようです(実際は夢を見ている、その導入部)。

 以前から、ペトロフのモラリティー(どちらかと言えば古いタイプの道徳観)が気になっていたのですが、この作品でもそういうものが顔を覗かせています。ベースにそういうものがあるような作品ばかり題材に選んでいるような気もしますね。
 この作品を作った時は、ペトロフはまだ45歳だったはずですから、もう少し感覚的に若くてもいいのではないかと私は思ったりもしました。もっとも頑固なくらいの真面目さがなくては、油絵を何百枚何千枚と描くような地道な動画作品を作ったりはしないとも思うのですが。

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 ◆作品データ
 1992年/ロシア/19分54秒
 ロシア語台詞あり/日本語字幕なし
 アニメーション

 *この作品は、1992年 オタワ国際アニメーション フェスティバルで観客賞&OIAFアワード(10~30分作品部門)受賞、1993年 クラクフ映画祭 スペシャル・メンション受賞。

 *『世界と日本のアニメーションベスト150』(ふゅーじょんぷろだくと)で168位。

 ◆監督について
 アレクサンドル・ペトロフ
 1957年ヤロスラヴリ州プリスタチャ村生まれ。

 美術専門学校で絵画を学ぶ。卒業後、モスクワのゼンソ映画大学アニメ画学部に入学し、イワン・イワノフ=ワ—ノの講座をとる。3年の時にユーリ・ノルシュテインの『話の話』を観て衝撃を受ける。81年、卒業と同時にウラルのスベルドロク(現エカテリンブルグ)の映画スタジオで、アニメーション美術を担当する。
 その後、改めて映画大学の“アニメーションの監督とシナリオライターのための特別コース”に入学し、ユーリ・ノルシュテインに教わる。

 卒業制作作品『雌牛』で広島国際アニメーションフェスティバル グランプリ受賞。

 ガラス板に油絵の具で絵を描くという手法(ガラス・ペインティング)を得意とし、文芸色の強い作品を発表し続けている。

 日本・カナダ・ロシアで共同製作した『老人と海』でアカデミー賞短編アニメーション賞を受賞。
 『マイラブ 初恋』は、広島国際アニメーションフェスティバルで観客賞&国際審査員特別賞を受賞。タイトルを『春のめざめ』と変えて、三鷹の森ジブリ美術館の配給で2007年3月17日より、東京・渋谷シネマアンジェリカにて劇場公開(同時上映『岸辺のふたり』)。「『春のめざめ』原画展」が2007年1月27日より三鷹の森ジブリ美術館ギャラリーで開催。

 アレクサンドル・ペトロフ選出によるベスト・アニメーション(『世界と日本のアニメーションベスト150』(ふゅーじょんぷろだくと))は―
 『クラック!』『木を植えた男』『話の話』『霧につつまれたハリネズミ』『あおさぎと鶴』『岸辺のふたり』『禿山の一夜』『手』『灰色のめんどり』『草上の朝食』『タンゴ』『ボニファティウスの休暇』『犬が住んでいました』『ストリート』『がちょうと結婚したふくろう』『丘の農家』『ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ!』『作家』『柔和な女』『ストリート・オブ・クロコダイル』。

 ・1981年 “Khalif-aist”<TV>[脚本]

 ・1984年 “Poteryalsya slon”[プロダクション・デザイナー]

 ・1986年 “Dobro pozhalovat”(Welcome)[アート・ディレクター]

 ・1988年 “Marathon”[アニメーター]

 ・1989年 『雌牛』 “Korova”(Cow)[監督]

 ・1991年 “I vozvrashchaetsya veter...”(And the Wind Returneth)[プロダクション・デザイナー]

 ・1991年 “Tsareubiytsa”[セット・デザイナー]

 ・1992年 『おかしな男の夢』 “Son smeshnogo cheloveka”(Сон смешного человека、The Dream of a Ridiculous Man)[監督]

 ・1997年 『マーメイド(水の精)』 “ Rusalka”(Mermaid)[監督]

 ・1999年 『老人と海』 “The Old Man and the Sea” [監督]

 ・2003年 『冬の日』の「影法の暁寒く火を焼きて あるじは貧にたえし虚家」(杜国)を担当[アニメーション制作]

 ・2006年 『春のめざめ(マイラブ 初恋)』 “My Love” [監督]
 *当ブログ関連記事 「見直してみたら、凄かった! 『春のめざめ』」

 ・2006年 ニューファンドランド・ラブラドール州 プロモーション用アニメーション “Pitch Plant” [監督]

 ・2007年? “Pacific Life” [監督]

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