ブニュエル的? カフカ的? 『部屋』 ヤン・シュヴァンクマイエル

 シュールな部屋に突然放り込まれた男の物語。

 前半


 後半


 【物語】
 ドアの取っ手がまわって、男が転がり込むようにして部屋の中に飛び込んでくる。
 男が入ってきたドアは直後にひもで縫いつけられて開かなくなってしまう。
 部屋にはチョークで矢印が書かれてあり、男がたどっていくと、ドアの取っ手に着く。
 その取っ手をまわしてみるが、はずれてしまうだけ。
 部屋をぐるりと見回す。
 鏡があったので、覗いてみると自分の後ろ姿が映る。
 暖炉があったのでマッチを摺って火をつけようとすると、暖炉からは水があふれ出してくる。
 壁には額に入った集合写真と左胸と口の部分に穴の空いた女性のヌード写真が飾ってある。しかし、まっすぐにはなっていないので直そうとすると、もう一方の額が曲がってしまう。椅子の乗って再度直そうとすると、椅子は急に低くなってしまう。おかしいなと思って椅子をながめていると、椅子は犬か猫のように男の手から飛び出して、元の位置に戻ってしまう。
 急にランプが揺れ始める。壁に当たってランプが割れると思ったら、壁の方に穴が開く。
 その穴を覗くと、反対側からパンチが飛び出してくる。
 テーブルの上には食事が用意されていたので、食べることにする。しかし、パンを手に取ると中からネズミが出てきて、パンは空洞。スープを飲もうとすると、スプーンは穴だらけでスープをすくうことができない。
 グラスは飲もうとするとサイズが変わってしまう。
 卵は硬くで、スプーンは折れてしまうし、器も壊れてしまう。しまいにはテーブルを突き破って足の上に落ちる。怒って壁に投げつけると壁に突き刺さってしまう。
 壁から卵を取り出そうとすると、手が抜けなくなる。折れたスプーンでほじくり出すが、卵はもう食べられたものではない。
 テーブルに手をつくと、テーブル板が抜けて、顔がスープまみれになってしまう。
 顔を洗おうと水道の蛇口をひねると中から石が出てくる。
 ポテトに手を出そうとしたところで、戸棚から物音が聞こえてくるのに気がつく。戸棚を開けると中から犬が飛び出して、ポテトをすべて平らげた後で、また戸棚に戻っていく。
 何も食べることができないまま、ベッドに横になると、一瞬のうちにベッドはおがくずに変わってしまう。
 服についたおがくずをはらおうとするとすべてのボタンが取れる。なぜかズボンが壁に縫いつけられてしまったので脱ぐ。手をついたところに袖も縫いつけられてしまったので、上着も脱ぐ。
 どうしようもなくなってドアをたたくと、向こうからニワトリを抱いた男性が現れる。
 男性は彼に斧を手渡して、別のドアの向こうに消える。
 彼は、その斧でドアを壊すが現れたのは、石の壁。
 その壁には、たくさんの名前が書かれてある。
 彼も下がっていた鉛筆で、JOSEFと書き込む。

 【コメント】
 気づいたら見も知らぬ部屋に放り込まれたというパターンの映画といえば、他に『CUBE』や『ZOO』の「SEVEN ROOM」が思い出されます。
 事態が予想されるのとは全く違う方向にシュールに進むといえば、ブニュエルの『自由の幻想』、食べたいのになかなか食べられないといえば、同じくブニュエルの『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』が思い出されます。
 ルイス・キャロル的、もしくはカフカ的といってもいかもしれません。

 「主人公がシュールな状況に放り込まれて、何がどうなっているのかわからず困惑する物語」は、シュヴァンクマイエルにもいくつかありますが、『庭園』や『地下室の怪』『アリス』など、そんなに多くはありません。それ(主人公を困惑させる)よりは、主人公たちが当たり前に受け入れているシュールな状況を観客に見せて、観客を困惑させる(あるいは面白がらせる)作品の方が圧倒的に多いようです。

 物事が、本来の機能を果たさないことがわかったら、どういうルールが働いているのか試してみるべきだと思うのですが、まあ、シュヴァンクマイエル作品の主人公がそんなに積極的な行動を起こすはずがありません。顔を水で洗いたくなったら、暖炉にマッチの火を入れればいいし、丈夫な壁はランプで壊していけばいいんじゃないかと思うのですが(笑)。

 ちょっと気になるのはこの映画のラストで、シュヴァンクマイエル作品のラストは、最初に戻るか、仕組みや循環が破壊されて終わるかのどちらかが多いのですが、この作品ではそのどちらにも当てはまりません。壁に名前を刻むということは、男が運命を受け入れたことを示す、すなわち(これまでにこの部屋にやってきた人の末路と同様に)男の死を暗示するものなのでしょうか。

画像

 ◆作品データ
 1968年/チェコスロバキア/13分5秒
 台詞なし/字幕なし
 実写+アニメーション

 *この作品は、DVD『シュヴァンクマイエルの不思議な世界』に収録されています。

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 ◆監督について
 ヤン・シュヴァンクマイエル
 1934年 プラハ生まれ。
 1942年 クリスマス・プレゼントとして人形劇のセットもらい、以後、人形に魅せられるようになる。
 1954年 プラハの芸術アカデミー演劇学部人形学科に入学する。
 1960年 セマフォル劇場で仮面劇を上演。
 1962-64年 視覚芸術ラテルナ・マギカに演出家として加わる。ここで初めて映画と出会う。
1964年 ラテルナ・マギカを離れ、以降は、フリーの立場で活動。
 1964年 最初の短編『シュヴァルツェヴァルト氏とエドガル氏の最後のトリック』を制作
 1970年 シュルレアリスト・グループのメンバーとなる。

 当局による改変要求を受け付けず、上映禁止や国内で映画が撮れないという状況を度々経験しながらも、映画制作を続け、今ではチェコ・アニメを代表する映画作家の1人となっています。

 国際的な評価としては―
 カンヌ国際映画祭には、これまで 『J・Sバッハ G線上の幻想』(1965)、 『レオナルドの日記』(1972)、 『男のゲーム』(1988)と3度短編部門のコンペに出品し、 『J・Sバッハ G線上の幻想』でグランプリを受賞。
 ベルリン国際映画祭には、 『対話の可能性』(1982)を短編部門のコンペに出品し、金熊賞(グランプリ)を受賞。 『闇・光・闇』(1989)では名誉賞を受賞。
 そのほか、 『棺の家』(1966)でマンハイム国際映画祭ジョゼフ・フォン・スタンバーグ賞受賞、 『陥し穴と振り子』(1983)でモントリオール国際映画祭短編部門作品賞を受賞しています。

 日本でのチェコ・アニメやアート・アニメーションが続々と公開されるようになったのは、ヤン・シュヴァンクマイエル作品が契機になったと言ってもいいほどで、現在でもシュヴァンクマイエルは監督名だけである程度のお客さんが見込めるほとんど唯一のアニメーション作家だと言っていいと思われます。

 ・1964年 『シュヴァルツェヴァルト氏とエドガル氏の最後のトリック』 11分43秒
 ・1965年 『J・Sバッハ G線上の幻想』 9分49秒
 ・1965年 『石のゲーム』 9分
 ・1966年 『棺の家』 10分19秒
 ・1966年 『エトセトラ』 7分15秒
 ・1967年 『自然の歴史(組曲)』 8分55秒
 ・1968年 『庭園』 16分50秒
 ・1968年 『部屋』 13分05秒
 ・1969年 『ヴァイスマンとのピクニック』 11分05秒
 ・1969年 『家での静かな一週間』 20分14秒
 ・1970年 『ドン・ファン』 32分45秒
 ・1970年 『コストニツェ』 10分29秒
 ・1971年 『ジャバウォキー』 13分52秒
 ・1972年 『レオナルドの日記』 11分44秒
 ・1973-79年 『オトラントの城』 17分57秒
 ・1980年 『アッシャー家の崩壊』 15分40秒
 ・1982年 『対話の可能性』 11分45秒
 ・1982年 『地下室の怪』 15分20秒
 ・1983年 『陥し穴と振り子』 14分55秒
 ・1987年 『アリス』 84分30秒
 ・1988年 『男のゲーム』 14分35秒
 ・1988年 『アナザー・カインド・オブ・ラヴ』 3分33秒
 ・1989年 『肉片の恋』 1分05秒
 ・1989年 『闇・光・闇』 7分30秒
 ・1989年 『フローラ』 30秒
 ・1990年 『スターリン主義の死』 9分45秒
 ・1992年 『フード』 17分
 ・1994年 『ファウスト』 96分
 ・1996年 『悦楽共犯者』 82分40秒
 ・2000年 『オテサーネク』 127分
 ・2006年 『ルナシー』 123分

 当ブログでは、ヤン・シュヴァンクマイエルについて、かなり突っ込んで書いているので、詳しくは以下の記事を参考にしてください。

 ・ヤン・シュヴァンクマイエル 本と作品

 ・ヤン・シュヴァンクマイエル 日本公開史

 ・もっとシュヴァンクマイエル スタッフ&カンパニー篇

 ・もっとシュヴァンクマイエル テーマ&モチーフ篇

 ・造形と映像の魔術師 シュヴァンクマイエル展

 ・チェコ映画祭2006、または、エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァー

 ・ヤン・シュヴァンクマイエル 2007年 夏! 

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