シルヴァン・ショメの原点 『老婦人とハト』
『パリ、ジュテーム』に参加し、『ベルヴィル・ランデブー』が日本でも紹介されたシルヴァン・ショメ監督の初監督作品が『老婦人とハト』です。
Part1
Part2
【物語】 パリのエッフェル塔の下には多くの観光客が訪れ、ハトにエサをやっている。
そこをパトロールする警官の彼は、どういう事情からか、ひどく貧しい食生活をしていて、人が見ていなければ、観光客が落としていったスナック菓子にも手を出してしまう始末。
彼は、カフェでパンを食べようとしている人を横目に見つつ、公園に向かう。その公園のハトはなぜかブクブクと太っている。たくさんのハトが向かう先に目をやると、ベンチに座っている老婦人がハトにケーキをやっていて、彼は目が離せなくなる。
その夜、警官はその老婦人の夢を見る。ベンチにいる老婦人の前に行くと彼女は豚の丸焼きを投げ出してくれるのだ。彼が、喜び勇んで、それにかぶりついていると、後ろから服を着た、彼よりも背が高いハトたちが睨みつけてくる。そして、怒って、集団で、彼の体に食らいてくるのだった。
彼は、謎の老婦人の後を尾行して、彼女のアパートを確認する。彼女の部屋の窓の外にも丸々と太ったハトがいて、その1匹が落ちてくる。彼は、そのハトを警棒で殴って持ち帰る。
彼は、ハトの羽をちぎり丸裸にするが、だからといって、そのハトを食べるわけではない。ハトのかぶいものを作るのだ。
彼は、ハトのかぶりものをかぶって、あの老婦人の部屋を訪ねる。
老婦人は、お茶を出してくれるが、彼は食事を要求する。老婦人は、彼に食事を要求した後、アルバムを出してきて、「はて、この子はどの子だったかな」と写真を調べてみるが、もちろん思い出すことはできない。
彼は、毎日毎日、ハトのかぶりものをかぶって、老婦人の部屋を訪ねるようになる。すると、彼はどんどん太っていく。
ついにドアから入るのもやっとというほど彼が太ったクリスマスの頃、彼は、老婦人が別の部屋で、今まさに研いだばかりのハサミを使って、やはり彼女が世話したらしい太ったネズミ(?)を処分しようとしているのを目撃する。そこで彼はようやく彼女の目的と自分の運命を悟る。彼は慌てて逃げ出そうとするが、老婦人に見つかってしまう。
彼は追いつめられて窓から地面に落ちるが、雪が積もっていたため、命拾いする。
エッフェル塔の下。いつものように多くの観光客が訪れている。警官だったはずの彼は、気が触れてしまったのか、今は上半身裸で、ハトと一緒になってエサに群がっている。
それを写した観光客のビデオは、フィルムが焼けて、写っていた彼ともども跡形なく溶けてしまう。
この映画の中に、羽をむしられて、丸裸にされるハトがゴキブリを追いかけ回すシーンが出てきますが、その後に、同じハトが今度は死んでゴキブリに群がられるシーンがあります。この2つのシーンがこの映画を象徴しているようで、弱肉強食というか、食物連鎖というか、食べる者がいつかは食べられる側にまわるということを言っているようです。物語的にはちょっと『ヘンゼルとグレーテル』を思い出したりもしますね。
『ベルヴィル・ランデヴー』も多少グロテスクなところのある物語でしたが、シルヴァン・ショメ監督は、こういう物語が好みなのでしょうか。
この物語は、元々は、老婦人を主人公とする3話のオムニバス映画(老婦人とハト、老婦人と自転車、老婦人とカエル)の構想があったのが、考えていくうちに2話目が膨らんでいったため、1話目だけ独立させ、出来上がったのが本作だということのようです(第2話は、第3話を取り込む形で、『ベルヴィル・ランデブー』として完成しました)。
アニメーションの監督であるショメ監督が、実写を前提とする『パリ、ジュテーム』の監督の1人に抜擢されたということが私には意外だったのですが、この作品を観て、納得しました。彼は、街と人を描くことが得意で、アニメーションではありますが、この作品でもきっちりパリを描写してたんですね。
◆作品データ
1998年/仏・英・カナダ/20分(あと5分長いバージョンもあるようです)
英語台詞あり(ただしメイン部分には一切台詞なし)/仏語字幕あり
アニメーション
1997年 BAFTA(英国アカデミー賞)短編アニメーション賞受賞、アヌシー国際アニメーションフェスティバル グランプリ受賞、ジェニー賞(カナダ・アカデミー賞)短編アニメーション賞受賞
1998年 米国アカデミー賞短編アニメーション賞ノミネート、セザール賞短編アニメーション賞ノミネート、広島国際アニメーションフェスティバル グランプリ受賞。
*エグゼクティブ・プロデューサーのBernard Lajoieは、のちにアレクサンドル・ペトロフの『老人と海』のプロデューサーを務めることになります。
*『老婦人とハト』は、クレジット上では1998年作品となっているのに、1997年の賞をいくつも受賞していますが、これは1997年に完成して映画祭に出品し、その後、1998年にフランス国内で劇場公開されたので1998年作品としている、ということなのだろうと思われます。
*この作品は、DVD『ベルヴィル・ランデヴー エディシオン・コレクトール』にも収録されています。
*追記:この作品は、つい最近、シネフィル・イマジカで放映されたようです。
◆監督について
シルヴァン・ショメ
映画監督、アニメーター、脚本家、コミック作家
1963年 フランス、パリ近郊のメゾン=ラフィットで生まれる。
1982年に高校を卒業後、応用芸術の学校でスタイリストの勉強をするが、すぐに道を誤ったことに気づき、コミック方面の勉強をするためにアングレームの学校に入り直す。そこで、ユベール・シュヴィヤールとニコラ・ド・クレシーに出会う。
在学中の1986年に最初のコミック“The Secrets of Dragonfly”を出版。学校は1987年に卒業。
1988年にロンドンのRichard Purdum studioに入り、アニメーターとして働く。
同年の9月にはフリーランスとなり、ルノーやスイス航空のCMを手がけるようになる。
1991年に初監督の短編アニメーション『老婦人とハト』に着手。ニコラ・ド・クレシーに背景画を任せる。
1992年には、SFコミックユベール・シュヴィヤールの“The Bridge in Mud”の脚本を手がける。
1993年には、ニコラ・ド・クレシーのコミック“Léon-la-Came”( 雑誌À Suivreに掲載)の脚本を書き、1995年に出版。“Léon-la-Came”は、1996年にRené Goscinny Prizeを受賞。
1993年と1995~1996年にかけて、カナダで『老婦人とハト』の仕上げの作業をする。
1997年、7年の歳月を費やして完成された『老婦人とハト』はアヌシー国際アニメーションフェスティバル グランプリをはじめ数々の賞を受賞。
1997年には、再びニコラ・ド・クレシーと組んでコミック作品“Ugly, Poor, and Sick,”を手がける。この作品はAngoulême Comic Strip Festivalで Alph-Art Best Comic Prize を受賞。
初の長編アニメーション『ベルヴィル・ランデブー』は、2004年の米国アカデミー賞最優秀アニメーション賞&オリジナル歌曲賞ノミネート、インディペンデント・スピリット・アワード 外国語映画賞ノミネート、セザール賞作品賞&初監督賞ノミネート。
2004年にはエジンバラにDjango Filmsという自分のスタジオを設立。
2006年には、パリを舞台としたオムニバス映画『パリ、ジュテーム』に参加し、初めて実写作品「エッフェル塔」を完成させた。
最新作は、ジャック・タチの未映画化台本を映画化した長編アニメーション“The Illusionist”で、ジャック・タチがアニメーションで出演するようです。
インタビューによれば、アニメーションよりマイムに影響を受けていて、チャールズ・チャップリン、バスター・キートン、ルイ・ド・フュネスからジャック・タチ、ローワン・アトキンソンらが好きということのようで、「エッフェル塔」や“The Illusionist”にもそれがはっきりと窺われます。
テックス・エイヴリーやリチャード・ウィリアムズも好きだそうです。
・1998年 『老婦人とハト』
・2003年 『ベルヴィル・ランデブー』
・2006年 「エッフェル塔」(『パリ、ジュテーム』)
・2009年 “The Illusionist”
*Django Filmsの公式サイト:http://www.djangofilms.co.uk/
*ショメが手がけたWinterthurのCM:http://www.boardsmag.com/screeningroom/animation/2397/
*当ブログ関連記事
・アヌシー国際アニメーションフェスティバル グランプリ リスト!
・米国アカデミー賞短編アニメーション賞 リスト!
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Part1
Part2
【物語】 パリのエッフェル塔の下には多くの観光客が訪れ、ハトにエサをやっている。
そこをパトロールする警官の彼は、どういう事情からか、ひどく貧しい食生活をしていて、人が見ていなければ、観光客が落としていったスナック菓子にも手を出してしまう始末。
彼は、カフェでパンを食べようとしている人を横目に見つつ、公園に向かう。その公園のハトはなぜかブクブクと太っている。たくさんのハトが向かう先に目をやると、ベンチに座っている老婦人がハトにケーキをやっていて、彼は目が離せなくなる。
その夜、警官はその老婦人の夢を見る。ベンチにいる老婦人の前に行くと彼女は豚の丸焼きを投げ出してくれるのだ。彼が、喜び勇んで、それにかぶりついていると、後ろから服を着た、彼よりも背が高いハトたちが睨みつけてくる。そして、怒って、集団で、彼の体に食らいてくるのだった。
彼は、謎の老婦人の後を尾行して、彼女のアパートを確認する。彼女の部屋の窓の外にも丸々と太ったハトがいて、その1匹が落ちてくる。彼は、そのハトを警棒で殴って持ち帰る。
彼は、ハトの羽をちぎり丸裸にするが、だからといって、そのハトを食べるわけではない。ハトのかぶいものを作るのだ。
彼は、ハトのかぶりものをかぶって、あの老婦人の部屋を訪ねる。
老婦人は、お茶を出してくれるが、彼は食事を要求する。老婦人は、彼に食事を要求した後、アルバムを出してきて、「はて、この子はどの子だったかな」と写真を調べてみるが、もちろん思い出すことはできない。
彼は、毎日毎日、ハトのかぶりものをかぶって、老婦人の部屋を訪ねるようになる。すると、彼はどんどん太っていく。
ついにドアから入るのもやっとというほど彼が太ったクリスマスの頃、彼は、老婦人が別の部屋で、今まさに研いだばかりのハサミを使って、やはり彼女が世話したらしい太ったネズミ(?)を処分しようとしているのを目撃する。そこで彼はようやく彼女の目的と自分の運命を悟る。彼は慌てて逃げ出そうとするが、老婦人に見つかってしまう。
彼は追いつめられて窓から地面に落ちるが、雪が積もっていたため、命拾いする。
エッフェル塔の下。いつものように多くの観光客が訪れている。警官だったはずの彼は、気が触れてしまったのか、今は上半身裸で、ハトと一緒になってエサに群がっている。
それを写した観光客のビデオは、フィルムが焼けて、写っていた彼ともども跡形なく溶けてしまう。
この映画の中に、羽をむしられて、丸裸にされるハトがゴキブリを追いかけ回すシーンが出てきますが、その後に、同じハトが今度は死んでゴキブリに群がられるシーンがあります。この2つのシーンがこの映画を象徴しているようで、弱肉強食というか、食物連鎖というか、食べる者がいつかは食べられる側にまわるということを言っているようです。物語的にはちょっと『ヘンゼルとグレーテル』を思い出したりもしますね。
『ベルヴィル・ランデヴー』も多少グロテスクなところのある物語でしたが、シルヴァン・ショメ監督は、こういう物語が好みなのでしょうか。
この物語は、元々は、老婦人を主人公とする3話のオムニバス映画(老婦人とハト、老婦人と自転車、老婦人とカエル)の構想があったのが、考えていくうちに2話目が膨らんでいったため、1話目だけ独立させ、出来上がったのが本作だということのようです(第2話は、第3話を取り込む形で、『ベルヴィル・ランデブー』として完成しました)。
アニメーションの監督であるショメ監督が、実写を前提とする『パリ、ジュテーム』の監督の1人に抜擢されたということが私には意外だったのですが、この作品を観て、納得しました。彼は、街と人を描くことが得意で、アニメーションではありますが、この作品でもきっちりパリを描写してたんですね。
◆作品データ
1998年/仏・英・カナダ/20分(あと5分長いバージョンもあるようです)
英語台詞あり(ただしメイン部分には一切台詞なし)/仏語字幕あり
アニメーション
1997年 BAFTA(英国アカデミー賞)短編アニメーション賞受賞、アヌシー国際アニメーションフェスティバル グランプリ受賞、ジェニー賞(カナダ・アカデミー賞)短編アニメーション賞受賞
1998年 米国アカデミー賞短編アニメーション賞ノミネート、セザール賞短編アニメーション賞ノミネート、広島国際アニメーションフェスティバル グランプリ受賞。
*エグゼクティブ・プロデューサーのBernard Lajoieは、のちにアレクサンドル・ペトロフの『老人と海』のプロデューサーを務めることになります。
*『老婦人とハト』は、クレジット上では1998年作品となっているのに、1997年の賞をいくつも受賞していますが、これは1997年に完成して映画祭に出品し、その後、1998年にフランス国内で劇場公開されたので1998年作品としている、ということなのだろうと思われます。
*この作品は、DVD『ベルヴィル・ランデヴー エディシオン・コレクトール』にも収録されています。
*追記:この作品は、つい最近、シネフィル・イマジカで放映されたようです。
◆監督について
シルヴァン・ショメ
映画監督、アニメーター、脚本家、コミック作家
1963年 フランス、パリ近郊のメゾン=ラフィットで生まれる。
1982年に高校を卒業後、応用芸術の学校でスタイリストの勉強をするが、すぐに道を誤ったことに気づき、コミック方面の勉強をするためにアングレームの学校に入り直す。そこで、ユベール・シュヴィヤールとニコラ・ド・クレシーに出会う。
在学中の1986年に最初のコミック“The Secrets of Dragonfly”を出版。学校は1987年に卒業。
1988年にロンドンのRichard Purdum studioに入り、アニメーターとして働く。
同年の9月にはフリーランスとなり、ルノーやスイス航空のCMを手がけるようになる。
1991年に初監督の短編アニメーション『老婦人とハト』に着手。ニコラ・ド・クレシーに背景画を任せる。
1992年には、SFコミックユベール・シュヴィヤールの“The Bridge in Mud”の脚本を手がける。
1993年には、ニコラ・ド・クレシーのコミック“Léon-la-Came”( 雑誌À Suivreに掲載)の脚本を書き、1995年に出版。“Léon-la-Came”は、1996年にRené Goscinny Prizeを受賞。
1993年と1995~1996年にかけて、カナダで『老婦人とハト』の仕上げの作業をする。
1997年、7年の歳月を費やして完成された『老婦人とハト』はアヌシー国際アニメーションフェスティバル グランプリをはじめ数々の賞を受賞。
1997年には、再びニコラ・ド・クレシーと組んでコミック作品“Ugly, Poor, and Sick,”を手がける。この作品はAngoulême Comic Strip Festivalで Alph-Art Best Comic Prize を受賞。
初の長編アニメーション『ベルヴィル・ランデブー』は、2004年の米国アカデミー賞最優秀アニメーション賞&オリジナル歌曲賞ノミネート、インディペンデント・スピリット・アワード 外国語映画賞ノミネート、セザール賞作品賞&初監督賞ノミネート。
2004年にはエジンバラにDjango Filmsという自分のスタジオを設立。
2006年には、パリを舞台としたオムニバス映画『パリ、ジュテーム』に参加し、初めて実写作品「エッフェル塔」を完成させた。
最新作は、ジャック・タチの未映画化台本を映画化した長編アニメーション“The Illusionist”で、ジャック・タチがアニメーションで出演するようです。
インタビューによれば、アニメーションよりマイムに影響を受けていて、チャールズ・チャップリン、バスター・キートン、ルイ・ド・フュネスからジャック・タチ、ローワン・アトキンソンらが好きということのようで、「エッフェル塔」や“The Illusionist”にもそれがはっきりと窺われます。
テックス・エイヴリーやリチャード・ウィリアムズも好きだそうです。
・1998年 『老婦人とハト』
・2003年 『ベルヴィル・ランデブー』
・2006年 「エッフェル塔」(『パリ、ジュテーム』)
・2009年 “The Illusionist”
*Django Filmsの公式サイト:http://www.djangofilms.co.uk/
*ショメが手がけたWinterthurのCM:http://www.boardsmag.com/screeningroom/animation/2397/
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この記事へのコメント
おお、やはり、ショメは、チャップリン、キートン、タチなどが好きなんですね。納得。
「パリ、ジュテーム」の「エッフェル塔」は、そんなチャップリンやタチに通じる温かな喜劇性に心うたれました。
それでいて、ブラックでシュールなところも魅力的なんですよね。
コメントありがとうございました。
「エッフェル塔」、意外と(?)好きだっていう人が多いんですよね。