8パートからなる博物誌 ヤン・シュヴァンクマイエル『自然の歴史(組曲)』

 ヤン・シュヴァンクマイエルによる、8つのパートで構成された博物誌。フォックストロット、ボレロ、メヌエット……という風にパートごとに異なるBGMが使われ、組曲仕立てにもなっています。




 各パートは――
 1.水生類/フォックストロット
 2.昆虫類/ボレロ
 3.魚類/ブルース
 4.爬虫類/タランテラ
 5.鳥類/タンゴ
 6.哺乳類/メヌエット
 7.類人猿/ポルカ
 8.人類/ワルツ

 冒頭に、ジュゼッペ・アルチンボルドの絵が示され、「皇帝ルドルフⅡ世に捧げる」というメッセージが出て、この作品が、マニエリスムを擁護した皇帝ルドルフⅡ世とその代表的な芸術家であるジュゼッペ・アルチンボルドへのオマージュ作品であることが示されています。
 といいながら、アルチンボルドのトレードマークである“見立ての美学”よりは、博物誌的な興味の方が前面に出た作品になっています。

 「すべての生物の頂点にいるのが人類であり、人類は、進化論的に下位にある生物を食することでそれらを支配しているつもりでいるが、自身もまた博物誌の一部にすぎない。それは、肉体を剥がして骨だけにしてみればよくわかる」、とシュヴァンクマイエルはこの作品を通して主張しているようでもあります。

 各パートの生物は、決められた枠や檻を抜け出そうともがいているようにも見えます。

 この作品の面白さの1つは、各パートに異なる音楽を割り振り、その音楽に映画のリズムやカット割りを合わせたことですが、これに大きな役割を果たしたのが音楽監督であるズデニェク・リュカです。
 リュカは、シュヴァンクマイエル作品には欠かせない人物だったのですが、70年代半ばに没してしまい、「彼に代わる人物をとうとう見つけることができなかった」と、シュヴァンクマイエルを嘆かせることになります。

 シュヴァンクマイエルが「食べる」ことにグロテスクさ(強迫観念)を感じているのは、この作品からもよく伝わってきます。

 ◆作品データ
 1967年/チェコスロバキア/8分55秒
 台詞なし/字幕なし
 実写+アニメーション
 1968年オーバーハウゼン映画祭マックス・エルンスト賞受賞

 *この作品は、DVD『シュヴァンクマイエルの不思議な世界』に収録されています。

画像

 ◆監督について
 ヤン・シュヴァンクマイエル
 1934年 プラハ生まれ。
 1942年 クリスマス・プレゼントとして人形劇のセットもらい、以後、人形に魅せられるようになる。
 1954年 プラハの芸術アカデミー演劇学部人形学科に入学する。
 1960年 セマフォル劇場で仮面劇を上演。
 1962-64年 視覚芸術ラテルナ・マギカに演出家として加わる。ここで初めて映画と出会う。
1964年 ラテルナ・マギカを離れ、以降は、フリーの立場で活動。
 1964年 最初の短編『シュヴァルツェヴァルト氏とエドガル氏の最後のトリック』を制作
 1970年 シュルレアリスト・グループのメンバーとなる。

 当局による改変要求を受け付けず、上映禁止や国内で映画が撮れないという状況を度々経験しながらも、映画制作を続け、今ではチェコ・アニメを代表する映画作家の1人となっています。

 国際的な評価としては―
 カンヌ国際映画祭には、これまで 『J・Sバッハ G線上の幻想』(1965)、 『レオナルドの日記』(1972)、 『男のゲーム』(1988)と3度短編部門のコンペに出品し、 『J・Sバッハ G線上の幻想』でグランプリを受賞。
 ベルリン国際映画祭には、 『対話の可能性』(1982)を短編部門のコンペに出品し、金熊賞(グランプリ)を受賞。 『闇・光・闇』(1989)では名誉賞を受賞。
 そのほか、 『棺の家』(1966)でマンハイム国際映画祭ジョゼフ・フォン・スタンバーグ賞受賞、 『陥し穴と振り子』(1983)でモントリオール国際映画祭短編部門作品賞を受賞しています。

 日本でのチェコ・アニメやアート・アニメーションが続々と公開されるようになったのは、ヤン・シュヴァンクマイエル作品が契機になったと言ってもいいほどで、現在でもシュヴァンクマイエルは監督名だけである程度のお客さんが見込めるほとんど唯一のアニメーション作家だと言っていいと思われます。

 ・1964年 『シュヴァルツェヴァルト氏とエドガル氏の最後のトリック』 11分43秒
 ・1965年 『J・Sバッハ G線上の幻想』 9分49秒
 ・1965年 『石のゲーム』 9分
 ・1966年 『棺の家』 10分19秒
 ・1966年 『エトセトラ』 7分15秒
 ・1967年 『自然の歴史(組曲)』 8分55秒
 ・1968年 『庭園』 16分50秒
 ・1968年 『部屋』 13分05秒
 ・1969年 『ヴァイスマンとのピクニック』 11分05秒
 ・1969年 『家での静かな一週間』 20分14秒
 ・1970年 『ドン・ファン』 32分45秒
 ・1970年 『コストニツェ』 10分29秒
 ・1971年 『ジャバウォキー』 13分52秒
 ・1972年 『レオナルドの日記』 11分44秒
 ・1973-79年 『オトラントの城』 17分57秒
 ・1980年 『アッシャー家の崩壊』 15分40秒
 ・1982年 『対話の可能性』 11分45秒
 ・1982年 『地下室の怪』 15分20秒
 ・1983年 『陥し穴と振り子』 14分55秒
 ・1987年 『アリス』 84分30秒
 ・1988年 『男のゲーム』 14分35秒
 ・1988年 『アナザー・カインド・オブ・ラヴ』 3分33秒
 ・1989年 『肉片の恋』 1分05秒
 ・1989年 『闇・光・闇』 7分30秒
 ・1989年 『フローラ』 30秒
 ・1990年 『スターリン主義の死』 9分45秒
 ・1992年 『フード』 17分
 ・1994年 『ファウスト』 96分
 ・1996年 『悦楽共犯者』 82分40秒
 ・2000年 『オテサーネク』 127分
 ・2006年 『ルナシー』 123分

 当ブログでは、ヤン・シュヴァンクマイエルについて、かなり突っ込んで書いているので、詳しくは以下の記事を参考にしてください。

 ・ヤン・シュヴァンクマイエル 本と作品

 ・ヤン・シュヴァンクマイエル 日本公開史

 ・もっとシュヴァンクマイエル スタッフ&カンパニー篇

 ・もっとシュヴァンクマイエル テーマ&モチーフ篇

 ・造形と映像の魔術師 シュヴァンクマイエル展

 ・チェコ映画祭2006、または、エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァー 

 ・ヤン・シュヴァンクマイエル 2007年 夏! 

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