ベスト・オブ・シュヴァンクマイエル! 『対話の可能性』

 「永遠の対話」「情熱的な対話」「不毛な対話」という3つのパートからなる作品。対話と言ってもシュヴァンクマエイルですから、ただの“対話”ではないわけですが……。

 Part1


 Part2


 「永遠の対話」は、「台所用品でできた人」と「野菜でできた人」と「文房具でできた人」がそれぞれ互いを呑み込み合い続けていく物語。
 「情熱的な対話」は、男女が彼我の区別がなくなるほど交わり合うが、その結果、子どもができると諍いが始まる。
 「不毛な対話」は、対峙する2人の男性が口からペアになるものを出してやり取りし合うが、次第に噛み合わなくなる、という物語。

 「永遠の対話」と「不毛な対話」についてもう少し詳しく書くと――
 「永遠の対話」:「台所用品でできた人」と「野菜でできた人」と「文房具でできた人」は3すくみの関係にあって、「台所用品でできた人」は「野菜でできた人」より強く、「文房具でできた人」は「台所用品でできた人」より強く、「野菜でできた人」は「文房具でできた人」より強いという関係になっています。それぞれ自分より弱い相手を呑み込んで吐き出すという行為を3回ずつ繰り返すと、3体とも粘土になりますが、その後も同様の行為は続いていきます。

 「不毛な対話」:2人の男が対峙して、ハブラシと歯磨き粉、パンとバター、靴と靴ひも、鉛筆削りと鉛筆、を差し出し合う。
 2人が位置を変えると、今度は、噛み合わない組み合わせになる。
パンと歯磨き粉、ハブラシと鉛筆削り、バターと靴、鉛筆と靴ひも、パンと鉛筆削り、靴と歯磨き粉、鉛筆とバター、靴ひもとハブラシ、歯磨き粉とバター、鉛筆と歯磨き粉、鉛筆削りとバター、靴ひもとパン、鉛筆と靴、鉛筆削りと歯磨き粉、バターと靴ひも、靴と鉛筆削り、靴ひもと歯磨き粉、ハブラシとバター。
 再び位置を変える。今度の組み合わせは同じものどうし。
 靴と靴、靴ひもと靴ひも、パンとパン、バターとバター、ハブラシとハブラシ、歯磨き粉とは磨き粉、鉛筆と鉛筆、鉛筆削りと鉛筆削り。
 両者とも“やりとり”に疲れてへとへとになる。

 「永遠の対話」に関しては、三者が何を象徴しているのか、ちょっと考えてみたくなります。三者が三者とも一方の相手に対しては優位に立ち続けるんですが、現実にこういう関係にあるもので、一般的なものってあるでしょうか。
 「野菜でできた人」は、生鮮食料品で、第一次産業(材料)的、
 「台所用品でできた人」は、金属や陶器で、第二次産業(製造業)的、
 「文房具でできた人」は、紙や木材などでできていて、第三次産業(サービス業)的、と言えるでしょうか。

 「不毛な対話」は、噛み合わない対話になってから最初の4回と次の4回は、8つ品物の中から2つずつの組み合わせなんですが、その後はランダムになります。
 8つから2ずつの組み合わせは全部で28通り、そのうちこの映画の中で描かれる組み合わせは23通りあります。描かれなかった組み合わせは何だろうと思って調べてみると、ハブラシと鉛筆、ハブラシとパン、ハブラシと靴、パンと靴、パンと鉛筆でした。ビジュアル的にあまり面白みのないものが省かれたということでしょうか。

 「永遠の対話」は一方が他方を圧倒する関係、「情熱的な対話」は男女の関係、「不毛な対話」は言葉による対話ということになるでしょうか。

 今回、久しぶりに見直してみて気づいたのは、「そういえば、シュヴァンクマイエルの映画にはハッピーエンドがない」ということと、「シュヴァンクマイエルは子どもが好きではない」らしいことです。
 理想の関係や結末を描いたっていいと思うんですが、シュールレアリストであるという自負がそういう作品を作ることを許さないのでしょうか。
 「子ども嫌い」に関しては、少女が出てくる作品がいくつもあるのにも拘らずなのですが、 “子ども”に対してはいいもの、かわいいものという視点では作品作りをしてきていません(『オテサーネク』を思い出してもそう思います)。ただ、ちゃんと自分の息子は育ててきているようなので、実生活と作品世界は違うようです。ひょっとすると、シュヴァンクマイエルの視点は、子ども嫌いの大人ではなく、大人にやっかいものにされる子ども(とその強迫観念)から発しているのかもしれません。

 ◆作品データ
 1982年/チェコスロバキア/11分45秒
 台詞なし/字幕なし
 アニメーション

 1983年 ベルリン国際映画祭短編映画部門金熊賞受賞、アヌシー国際アニメーションフェスティバル グランプリ受賞。その他受賞歴多数。

 『世界と日本のアニメーションベスト150』(ふゅーじょんぷろだくと)で21位。

「アニメーションの一世紀ベスト100」の3位!

 *各種のアニメーション人気ランキングを見ると、この作品は、シュヴァンクマイエル作品の中でも、すべてのアニメーション作品の中でも、最上位に挙げられています。
 そう聞かされると、えっ、これが?と、ちょっと意外な感じもしてしまうんですが、アニメーション作品としてこれ以前にこういう作品がなかったのと、シュヴァンクマイエル作品の中でもこの作品がエポック・メイキングな位置にあるので、選ぶ側にも強く印象に残っているということなのかもしれません。それまでにもシュヴァンクマイエル作品が国際映画祭で上映されたことはあったし、賞も受賞しているのですが、手法、内容ともに、この作品には新鮮な驚きがあったということなのだろうと思います。

 *この作品のエポック・メイキング性というのは、アルチンボルド的な人物の登場、対峙する人物がお互いの姿が原型をとどめなくなるまで闘うこと、それを表現するのに粘土や身近な品物が使われていること、作品の一部にアニメーションが採用されるのではなく全編がアニメーションであること、などが挙げられます。
 この作品に出てくるモチーフは、これまでの作品に見え隠れしていたものが多いのですが、ここまでこれほど明確な形で打ち出されてことはなく、また、これ以後の作品も、この作品をベースとして作られていっているということもできると思います。

 *いわゆるシュヴァンクマイエルの常連スタッフは、この時点ではまだ参加していませんが、これ以降徐々に集まりだしているので、この作品がきっかけになった、ということはあるかもしれません。

 *この作品は、DVD『シュヴァンクマイエルの不思議な世界』に収録されています。

画像

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 ◆監督について
 ヤン・シュヴァンクマイエル
 1934年 プラハ生まれ。
 1942年 クリスマス・プレゼントとして人形劇のセットもらい、以後、人形に魅せられるようになる。
 1954年 プラハの芸術アカデミー演劇学部人形学科に入学する。
 1960年 セマフォル劇場で仮面劇を上演。
 1962-64年 視覚芸術ラテルナ・マギカに演出家として加わる。ここで初めて映画と出会う。
1964年 ラテルナ・マギカを離れ、以降は、フリーの立場で活動。
 1964年 最初の短編『シュヴァルツェヴァルト氏とエドガル氏の最後のトリック』を制作
 1970年 シュルレアリスト・グループのメンバーとなる。

 当局による改変要求を受け付けず、上映禁止や国内で映画が撮れないという状況を度々経験しながらも、映画制作を続け、今ではチェコ・アニメを代表する映画作家の1人となっています。

 国際的な評価としては―
 カンヌ国際映画祭には、これまで 『J・Sバッハ G線上の幻想』(1965)、 『レオナルドの日記』(1972)、 『男のゲーム』(1988)と3度短編部門のコンペに出品し、 『J・Sバッハ G線上の幻想』でグランプリを受賞。
 ベルリン国際映画祭には、 『対話の可能性』(1982)を短編部門のコンペに出品し、金熊賞(グランプリ)を受賞。 『闇・光・闇』(1989)では名誉賞を受賞。
 そのほか、 『棺の家』(1966)でマンハイム国際映画祭ジョゼフ・フォン・スタンバーグ賞受賞、 『陥し穴と振り子』(1983)でモントリオール国際映画祭短編部門作品賞を受賞しています。

 日本でのチェコ・アニメやアート・アニメーションが続々と公開されるようになったのは、ヤン・シュヴァンクマイエル作品が契機になったと言ってもいいほどで、現在でもシュヴァンクマイエルは監督名だけである程度のお客さんが見込めるほとんど唯一のアニメーション作家だと言っていいと思われます。

 ・1964年 『シュヴァルツェヴァルト氏とエドガル氏の最後のトリック』 11分43秒
 ・1965年 『J・Sバッハ G線上の幻想』 9分49秒
 ・1965年 『石のゲーム』 9分
 ・1966年 『棺の家』 10分19秒
 ・1966年 『エトセトラ』 7分15秒
 ・1967年 『自然の歴史(組曲)』 8分55秒
 ・1968年 『庭園』 16分50秒
 ・1968年 『部屋』 13分05秒
 ・1969年 『ヴァイスマンとのピクニック』 11分05秒
 ・1969年 『家での静かな一週間』 20分14秒
 ・1970年 『ドン・ファン』 32分45秒
 ・1970年 『コストニツェ』 10分29秒
 ・1971年 『ジャバウォキー』 13分52秒
 ・1972年 『レオナルドの日記』 11分44秒
 ・1973-79年 『オトラントの城』 17分57秒
 ・1980年 『アッシャー家の崩壊』 15分40秒
 ・1982年 『対話の可能性』 11分45秒
 ・1982年 『地下室の怪』 15分20秒
 ・1983年 『陥し穴と振り子』 14分55秒
 ・1987年 『アリス』 84分30秒
 ・1988年 『男のゲーム』 14分35秒
 ・1988年 『アナザー・カインド・オブ・ラヴ』 3分33秒
 ・1989年 『肉片の恋』 1分05秒
 ・1989年 『闇・光・闇』 7分30秒
 ・1989年 『フローラ』 30秒
 ・1990年 『スターリン主義の死』 9分45秒
 ・1992年 『フード』 17分
 ・1994年 『ファウスト』 96分
 ・1996年 『悦楽共犯者』 82分40秒
 ・2000年 『オテサーネク』 127分
 ・2006年 『ルナシー』 123分

 当ブログでは、ヤン・シュヴァンクマイエルについて、かなり突っ込んで書いているので、詳しくは以下の記事を参考にしてください。

 ・ヤン・シュヴァンクマイエル 本と作品

 ・ヤン・シュヴァンクマイエル 日本公開史

 ・もっとシュヴァンクマイエル スタッフ&カンパニー篇

 ・もっとシュヴァンクマイエル テーマ&モチーフ篇

 ・造形と映像の魔術師 シュヴァンクマイエル展

 ・チェコ映画祭2006、または、エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァー 

 ・ヤン・シュヴァンクマイエル 2007年 夏! 

 *当ブログ関連記事
 ・短編アニメーション ベスト100!

 ・アヌシー国際アニメーションフェスティバル グランプリ リスト!

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