自由にのびのびと…… ヤン・シュヴァンクマイエル『男のゲーム』

 ヤン・シュヴァンクマイエルの作品の中で最も好きな作品の1つです。DVD『シュヴァンクマイエルの不思議な世界』も持っていますが、最も繰り返し観たのはおそらくこの作品ですね。




 サッカーを一撃必殺のサドンデスのゲームに見立てて、ギャグにしているようなところがありますが、意表のつき方というか、どんどん想像の枠を超えていくのが面白いですね。

 シュヴァンクマイエル自身は、これまでの発言から考えると、サッカーどころかスポーツ全般に興味はなく、人と人が闘うことも嫌っていると思われます。なのに、どうしてこんな作品を作るかと言うと、逆に、どうしてこんなゲームに人々は熱狂するのかということについて、その心理と欲望に興味を持ち、畏怖するからで、そうしたゲームに熱狂する人々(フィールドにいる人々、それをスタジアムで見ている人々、さらにそれをテレビで観ている人々)をクールに見て、戯画化し、誇張したのが、本作ということになるでしょうか。
 選手も審判も視聴者も顔が同じというのは、おそらく、没個性で、みな大衆という匿名性の中に埋没しているということのメタファーなのだと考えられます。
もっとも、シュヴァンクマイエル自身は、これはシュールレアリスムであって、決してあてこすりやブラック・ジョークなどではないと言いそうですが……。

 この作品は、1988年の製作ですが、それにしては、スタジアムの観客もテレビの前の彼もちょっと古めかしすぎるような気がします。これは、リアルタイムの映像にすると、生々しくなりすぎて、この作品が目指すものにマッチしなくなる(アニメーションの動きとの違和感が甚だしくなる?)からでしょうか。

 『男のゲーム』が作られた時期は、シュヴァンクマイエルが、国際的なプロジェクトとチェコの民主化によって、ようやく作りたい作品が作れるようになった時期に当たり、撮影のミロスラフ・シュパーラ、アニメーションのベドジフ・グラセル、音響のイヴォ・シュパリという、この後ずっとシュヴァンクマイエルと組むことになる制作チームが集まってきた時期とも重なっています。
この作品に、それまでの作品にはない自由や伸びやかさが感じられるとしたら、こういったことが原因でしょうか。

 ◆作品データ
 1988年/チェコ/15分
 台詞なし/字幕なし
 実写+アニメーション
 『世界と日本のアニメーションベスト150』(ふゅーじょんぷろだくと)で105位。

 シュヴァンクマイエルのほとんどの作品がなんらかの国際的な賞をもらっているのに、この作品に関しては無冠のようで、それがちょっと不思議な感じがします。

 *1990年に川崎市市民ミュージアムで開催された<ヤン・シュワンクマイエル映画祭’90 >での上映がおそらく日本初公開。

 *DVD『シュヴァンクマイエルの不思議な世界』(ダゲレオ出版)に収録されています。

画像

 ◆監督について
 ヤン・シュヴァンクマイエル
 1934年 プラハ生まれ。
 1942年 クリスマス・プレゼントとして人形劇のセットもらい、以後、人形に魅せられるようになる。
 1954年 プラハの芸術アカデミー演劇学部人形学科に入学する。
 1960年 セマフォル劇場で仮面劇を上演。
 1962-64年 視覚芸術ラテルナ・マギカに演出家として加わる。ここで初めて映画と出会う。
1964年 ラテルナ・マギカを離れ、以降は、フリーの立場で活動。
 1964年 最初の短編『シュヴァルツェヴァルト氏とエドガル氏の最後のトリック』を制作
 1970年 シュルレアリスト・グループのメンバーとなる。

 当局による改変要求を受け付けず、上映禁止や国内で映画が撮れないという状況を度々経験しながらも、映画制作を続け、今ではチェコ・アニメを代表する映画作家の1人となっています。

 国際的な評価としては―
 カンヌ国際映画祭には、これまで 『J・Sバッハ G線上の幻想』(1965)、 『レオナルドの日記』(1972)、 『男のゲーム』(1988)と3度短編部門のコンペに出品し、 『J・Sバッハ G線上の幻想』でグランプリを受賞。
 ベルリン国際映画祭には、 『対話の可能性』(1982)を短編部門のコンペに出品し、金熊賞(グランプリ)を受賞。 『闇・光・闇』(1989)では名誉賞を受賞。
 そのほか、 『棺の家』(1966)でマンハイム国際映画祭ジョゼフ・フォン・スタンバーグ賞受賞、 『陥し穴と振り子』(1983)でモントリオール国際映画祭短編部門作品賞を受賞しています。

 日本でのチェコ・アニメやアート・アニメーションが続々と公開されるようになったのは、ヤン・シュヴァンクマイエル作品が契機になったと言ってもいいほどで、現在でもシュヴァンクマイエルは監督名だけである程度のお客さんが見込めるほとんど唯一のアニメーション作家だと言っていいと思われます。

 ・1964年 『シュヴァルツェヴァルト氏とエドガル氏の最後のトリック』 11分43秒
 ・1965年 『J・Sバッハ G線上の幻想』 9分49秒
 ・1965年 『石のゲーム』 9分
 ・1966年 『棺の家』 10分19秒
 ・1966年 『エトセトラ』 7分15秒
 ・1967年 『自然の歴史(組曲)』 8分55秒
 ・1968年 『庭園』 16分50秒
 ・1968年 『部屋』 13分05秒
 ・1969年 『ヴァイスマンとのピクニック』 11分05秒
 ・1969年 『家での静かな一週間』 20分14秒
 ・1970年 『ドン・ファン』 32分45秒
 ・1970年 『コストニツェ』 10分29秒
 ・1971年 『ジャバウォキー』 13分52秒
 ・1972年 『レオナルドの日記』 11分44秒
 ・1973-79年 『オトラントの城』 17分57秒
 ・1980年 『アッシャー家の崩壊』 15分40秒
 ・1982年 『対話の可能性』 11分45秒
 ・1982年 『地下室の怪』 15分20秒
 ・1983年 『陥し穴と振り子』 14分55秒
 ・1987年 『アリス』 84分30秒
 ・1988年 『男のゲーム』 14分35秒
 ・1988年 『アナザー・カインド・オブ・ラヴ』 3分33秒
 ・1989年 『肉片の恋』 1分05秒
 ・1989年 『闇・光・闇』 7分30秒
 ・1989年 『フローラ』 30秒
 ・1990年 『スターリン主義の死』 9分45秒
 ・1992年 『フード』 17分
 ・1994年 『ファウスト』 96分
 ・1996年 『悦楽共犯者』 82分40秒
 ・2000年 『オテサーネク』 127分
 ・2006年 『ルナシー』 123分

 当ブログでは、ヤン・シュヴァンクマイエルについて、かなり突っ込んで書いているので、詳しくは以下の記事を参考にしてください。

 ・ヤン・シュヴァンクマイエル 本と作品

 ・ヤン・シュヴァンクマイエル 日本公開史

 ・もっとシュヴァンクマイエル スタッフ&カンパニー篇

 ・もっとシュヴァンクマイエル テーマ&モチーフ篇

 ・造形と映像の魔術師 シュヴァンクマイエル展

 ・チェコ映画祭2006、または、エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァー 

 ・ヤン・シュヴァンクマイエル 2007年 夏! 

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この記事へのコメント

2007年02月17日 11:47
こんにちわ!
何とも凄い映像ですね。ミンチにしたり、クッキーの型押ししたりと次から次へと。>その心理と欲望に興味を持ち、畏怖するからで・・・。私もそう思っている一人です。でも、スポーツは好きですし、カズのファンでしたから。しばらくはサッカーは観ませんでした。何故あそこまで熱狂し、大騒ぎをし、選手にまで酷いことするのか。監督は彼らに向かってこれでどうだ気がすんだかいということになるのかな。それから、前作のアニメ、解説がなかったら、印象が薄かったですね。それにしても足が細いですね。誇張?
umikarahajimaru
2007年02月17日 12:36
huneさま
この作品が入っているDVDは、現在品切れらしいんですが、レンタルショップで置いてあるところも多いはずなので、シュヴァンクマイエルに興味を持ったら他の作品も是非観てみてください。入手可能な別の短編集もまだいくつかあります(お値段は少々高めですが)。もちろん、当サイトでも順次ご紹介していきたいと思っています。
ビル・プリンプトンは、あの作品で彼の魅力が伝わるかどうかはわからないのですが、“知られざる天才”を紹介したいので、これも順次ご紹介していきたいと思っています。お楽しみに!
やっぱ、「男のゲーム」です
2008年07月19日 21:59
最近は随分と有名になってしまって興味も失せつつあるのですが、やはり過去の作品は面白いのが多いです。正直、「オテサーネク」の頃から、反骨さが無い様な気もします... 短編で一番好きなのは「男のゲーム」です。長編は「悦楽共犯者」で、渋谷のマニアックな小映画館で公開されていたのが懐かしいです。

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