詳細! 第63回ベネチア国際映画祭 コンペティション部門

 昨年の金獅子賞が『ブロークバック・マウンテン』であり、出品作品の中から多数の作品が米国アカデミー賞を賑わわせたということから、俄然注目度がアップしたベネチア国際映画祭。第63回ベネチア国際映画祭(2006年8月30日~9月9日)のラインナップが発表されたので、現時点でわかることを調べてみました。

 【コンペティション部門】 全21作品

 ・“Fallen”(バルバラ・アルベルティ/オーストリア/88分)
 出演:Nina Proll、Birgit Minichmayr、Ursula Strauss
 [物語] 恩師の葬式に出席するために、教え子たちが故郷の町に帰ってくる。主人公は、今は30代前半になっている5人の女性たちで、彼女たちも久々に再会する。再会は、過去の心の傷をえぐることにもなり、叶えられなかった夢を思い出させることにもなるのだった……。
 *監督のバルバラ・アルベルティは『愛の嵐』の原作者であり、数々の映画の脚本も手がける(日本でも数作品が公開されている)。これまでに10作あまりの監督作もあり、EU加盟国で作った映画“Visions of Europe”(2004)では、オーストリアの代表監督として“Mars”で参加している。国際映画祭の常連でもあり、ベネチア国際映画祭・コンペティション部門参加は“Nordrand”に続き2度目。
 公式サイト:http://www.coop99.at/www-FALLEN/

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 ・“La stella che non c’è(The Missing Star)”(ジャンニ・アメリオ/伊・仏・スイス・シンガポール/103分)
 出演:セルジュ・カステリット、Tai Ling
 [物語] ヴィンチェンツォは、かつて自分が働いていて、今はもうない会社が作っていた機械を探して、イタリアから中国に旅をする。ジャンニ・アメリオ版『単騎、千里を走る』?
 *ジャンニ・アメリオは、日本でも『宣告』『小さな旅人』『いつか来た道』『心の鍵』が劇場公開されているイタリアの人気監督。ベネチア国際映画祭コンペティション部門参加は、“Lamerica”(1994)、『いつか来た道』(1998)、『心の鍵』(2004)に続いて4度目。『いつか来た道』で金獅子賞を受賞しているほか、すべての作品で何らかの賞を受賞している。『小さな旅人』は1992年のカンヌでグランプリとエキュメニック賞を受賞している。
 予告編:http://news.cinecitta.com/multimedia/cn_trailer.asp?id=54

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 ・“The Fountain”(ダーレン・アロノフスキー/米/96分)
 出演:ヒュー・ジャックマン、レイチェル・ワイズ
 [物語] 1000年以上にも亘る物語で、3つのストーリーが平行して描かれる。愛と死と精神性と世界の脆弱性に関する物語。
 *日本で『π』と『レクイエム・フォー・ドリーム』が公開されているダーレン・アロノフスキー監督の6年ぶりの最新作。3大映画祭参加は初めて。
 公式サイト:http://pdl.warnerbros.com/wbmovies/thefountain/flashsite/index.html

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 ・“Hollywoodland”(アレン・コールター/米/126分)
 出演:エイドリアン・ブロディ、ダイアン・レイン、ベン・アフレック、ボブ・ホスキンス
 [物語] 拳銃自殺した初代スーパーマン、ジョージ・リーブスの死の真相に迫るミステリー映画。彼の死は、長くハリウッドに伝わるミステリーの1つで、事件当時、彼の自殺を信じない人も多かった。彼がMGM重役の妻と長年愛人関係にあったことから、それが彼の死と何らかの関係があるのではないかと噂されたが、明白な証拠は出なかった、とされる。作品的には、『ブロンドと棺の謎』(20年代)、『LAコンフィデンシャル』(1950年代)、『秘密のかけら』(70年代)といった作品の系譜につらなる作品になるのかもしれない。映画のキャッチコピーは、「ハリウッドで生きることはあなたを有名にするかもしれないが、ハリウッドで死ぬことはあなたを伝説にする」。
 *監督のアレン・コールターは、『Xファイル』や『セックス・アンド・サ・シティ』などを手がけるテレビ・ドラマのベテラン演出家で、劇場公開作を手がけるのは初めて。
 公式サイト:http://www.hollywoodlandmovie.com/

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 ・“Nuovomondo(The Golden Door)”(エマヌエーレ・クリアレーゼ/伊・仏/120分)
 出演:シャルロット・ゲンズブール、ヴィンチェンツォ・アマート、フランチェスコ・カシーザ
 [物語] 1913年のシシリア。農村にアメリカから来たという男が「新世界」の素晴らしさを吹聴してまわる。その男(金歯の男)は、証拠としてシシリアとは比べ物にならないほど大きく育った野菜の写真を見せる。農民たちは彼の話に魅了されるが、彼は、「新世界」の住人になるためには一度死んで生まれ変わらなければならないと説く……。
 *「イタリア映画祭2003」で『グラツィアの島』(2002年のカンヌの批評家週間でグランプリを受賞)が上映されているエマヌエーレ・クリアレーゼ監督の長編第3作。3大映画祭のコンペ出品は本作が初めて。本作はキャスト等で『グラツィアの島』と重なる部分も多い。

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 ・“Children of Men”(アルフォンソ・キュアロン/英・米/114分)
 出演:クライブ・オーウェン、ジュリアン・ムーア、マイケル・ケイン
 [物語] 「2021年、世界中でなぜか子供が生まれなくなり四半世紀が過ぎた。絶望と無気力が蔓延するなか、イギリスでは国守ザンが絶対権力を握っていた。ザンのいとこで大学教授のセオは、反体制組織の女性と恋に落ち、組織のメンバーからザンの執政の恐ろしい裏側を知らされる。やがて組織がザンに目をつけられ、その女性が助けを求めてきた時、セオは思わぬ逃亡生活の渦中へ…」(Kinokuniya BookWebより)。P.D.ジェイムズ原作『人類の子供たち』の映画化。セオ役にクライブ・オーウェン、彼を巻き込む女性ジュリアンにジュリアン・ムーア。『1941』や『CODE46』『ウルトラヴァイオレット』に世界観が似てなくもないか?
 *アルフォンソ・キュアロンは、『天国の口、終りの楽園。』で2001年ベネチア国際映画祭脚本賞受賞。
 公式サイト:http://www.childrenofmen.net/

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 ・『ブラック・ダリア』(ブライアン・デ・パルマ/米/120分)
 出演:ジョシュ・ハートネット、スカーレット・ヨハンソン、アーロン・エックハート、ヒラリー・スワンク、ミア・カーシュナー、マイク・スタール、フィオナ・ショー
 [物語] ジェイムズ・エルロイの同名小説の映画化。LA4部作の第1作で、先に映画化された『LAコンフィデンシャル』(アカデミー賞主演女優賞&脚色賞受賞)は第3作に当たる。「1947年1月15日、ロス市内の空地で若い女性の惨殺死体が発見された。スターの座に憧れて都会に引き寄せられた女性を待つ、ひとつの回答だった。漆黒の髪にいつも黒ずくめのドレス、だれもが知っていて、だれも知らない女。いつしか事件は〈ブラック・ダリア事件〉と呼ばれるようになった―。」(Kinokuniya BookWebより)
 *ブライアン・デ・パルマは、1969年に『ロバート・デ・ニーロの ブルーマンハッタン/BLUE MANHATTAN II・黄昏のニューヨーク』(1968 日本では劇場未公開)でベルリン国際映画祭銀熊賞受賞、1970年にも“Dionysus”(1970)でベルリン国際映画祭のコンペ部門に出品。以後、3大映画祭とは無縁となるが、75年と77年に『ファントム・オブ・オペラ』(1974)と『キャリー』でアボリアッツ国際ファンタスティック映画祭のグランプリを受賞している。今回は36年ぶりの3大映画祭(コンペ部門)参加となる。

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 ・“Bobby”(エミリオ・エステベス/米/120分)
 出演:シャロン・ストーン、アンソニー・ホプキンス、デミ・ムーア、リンゼイ・ローハン、ローレンス・フィッシュバーン
 [物語] ロバート・F・ケネディが暗殺されたのと同じホテルにいたために事件に巻き込まれた人々を描いた作品。新年ではなく、殺人事件で幕を閉じる『THE 有頂天ホテル』? アンソニー・ホプキンスがホテルのドアマン役、デミ・ムーアがラウンジ・シンガー、シャロン・ストーンが支配人の妻でビューティー・サロンのスタッフ、などなど。ロバート・F・ケネディ自体は映画中にはほとんど出て来ない模様。
 *エミリオ・エステベスの監督作品としては5本目の劇場公開作品(1本目は当時恋人であったデミ・ムーアとの共演作『ウイズダム』。5本のうち、日本での劇場公開は2本)。出演作も『ミッション・インポッシブル』の冒頭であっさり殺されてしまって以来すっかり日本ではご無沙汰。内容的には『リチャード・ニクソン暗殺を企てた男』のショーン・ペンに対抗意識を燃やした作品、なのかもしれない。監督としての国際映画祭参加は初めて。

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 ・“The Queen”(スティーブン・フリアーズ/英・仏・伊/97分)
 出演:ヘレン・ミレン、ジェイムズ・クロムウェル、マイケル・シーン
 [物語] ダイアナ妃の死に関して王室のプライベートを守ろうとするエリザベス2世と、国民の要望に応えて弔意を公的に共有しようとするブレア首相との確執と妥協を描く。エリザベス2世をヘレン・ミレンが、ブレア首相をマイケル・シーンが演じる。
 *スティーブン・フリアーズのベネチア国際映画祭コンペ参加は3度目。『がんばれ、リアム』(2000)でOCIC Award受賞、『堕天使のパスポート』(2002)でSergio Trasatti Award受賞。ベルリンにはこれまで『ジキル&ハイド』(1996)、『ハイロー・カントリー』(1998 銀熊賞受賞)を出品、カンヌには『プリック・アップ』(1987)、“Van”(1996)を出品している。

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 ・“Daratt(Saison Sache)”(マハマット=サレー・ハルーン/チャド・仏・ベルギー・オーストリア/96分)
 出演:Ali Barkai、Youssouf Djoro、Hisseine Aziza
 [物語] 主人公の青年は、自分の生まれる前に父親を殺されていて、いつか親の敵を探す旅に出ようと考えていた。復讐と許しの物語。
 *チャド出身のマハマット=サレー・ハルーン監督の第3作。ベネチア国際映画祭には『バイバイ、アフリカ』という処女作(ドキュメンタリー)を出品し、'CinemAvvenire' AwardとLuigi De Laurentiis Award - Special Mentionを受けている。『バイバイ、アフリカ』は日本でも第5回東京アフリカ映画祭(2002)で紹介された。

 ・“L´intouchable(The Untouchable)”(ブノワ・ジャコー/仏/82分)
 出演:イジルド・ル・ベスコ、ベランジェール・ボンボワザン、マルク・バルベ
 [物語] 映画女優であるジャンヌは、誕生日に母から自分の父がインドのヒンズー教徒で、不可触賎民であることを告げられ、自分のルーツを探すために、インドに向かう。
 *ブノワ・ジャコーは、1997年に“Le Septième ciel”でベネチア、1998年に『肉体の学校』でカンヌ、1999年に“Pas de scandale”でベネチア、2000年に『発禁本―SADE』でモントリオールに、それぞれ作品を出品(コンペ部門)。いずれも無冠。『肉体と財産』『デザンシャンテ』『シングル・ガール』『イザベル・アジャーニの惑い』などで知られるフランスの監督であるが、日本での未公開作も多い。本作の主役イジルド・ル・ベスコは『発禁本―SADE』でもヒロインを務めている。

 ・『パプリカ』(今敏/日本/90分)
 アニメーション
 [物語] 原作は筒井康隆の同名小説。「精神医学研究所に勤める千葉敦子はノーベル賞級の研究者/サイコセラピスト。だが、彼女にはもうひとつの秘密の顔があった。他人の夢とシンクロして無意識界に侵入する夢探偵パプリカ。人格の破壊も可能なほど強力な最新型精神治療テクノロジー「DCミニ」をめぐる争奪戦が刻一刻とテンションを増し、現実と夢が極限まで交錯したその瞬間、物語世界は驚愕の未体験ゾーンに突入する。」(Kinokuniya BookWebより)
 *監督である今敏は、『パーフェクトブルー』『千年女優』『東京ゴッドファーザーズ』で知られるアニメーション作家。大きな国際映画祭への参加は今回が初めて。制作はマッドハウス(『時をかける少女』他)。2007年お正月にテアトル新宿で公開!
 公式サイト:http://www.sonypictures.jp/movies/paprika/

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 ・“Nue propriété”(Joachim LAFOSSE/ベルギー・ルクセンブルグ・仏/92分)
 出演:イザベル・ユペール、ジェレミー・レニエ、Yannick Renier
 [物語] 両親の離婚の後、家を売却することになった時、双子の兄弟フランソワとティエリーは初めて自分たちの絆を自覚して、離れ離れにならぬよう、激しくそれを食い止めようとする。やがてそれは暴力沙汰にまで発展し……。
 *Joachim LAFOSSE(ヨアヒム・ラフォーズ)はベルギー人の監督で、長編は本作が初めて(短編と中編はこれまでにも発表)。才能のある映画作家の作品に好んで出演しているイザベル・ユペールの出演作だから、本作も期待していいかも。

 ・『蟲師』(大友克洋/日本/131分)
 出演:オダギリジョー、江角マキコ、大森南朋
 [物語] 「月刊アフタヌーン」に隔月連載中の漆原友紀の同名マンガが原作。「ここでの蟲とは動物でも植物でもない、微生物や菌類とも違う、もっと命の原生体に近いモノ達。それらを総じて「蟲」と呼ぶ。それらは形や存在が曖昧で、ヒトと蟲とが重なる時、人智を超えた妖しき現象が生まれ、ヒトは初めてその存在を知る。生命とは、他をおびやかすために在るのではない。ただ、それぞれが在るように在るだけ──
こうした「蟲」とヒトとをつなぐ「蟲師」である主人公ギンコが、旅の途中で様々な人々と、それに関わる蟲達に出会ってゆく。」(テレビ・アニメ版公式サイトより)
 *大友克洋監督作品としては実写映画は、『ワールド・アパートメント・ホラー』(1991)以来。ベネチアでは2004年に『スチームボーイ』が上映されている(コンペ外)。オダギリジョーは今回、本作と黒沢清監督の『叫(さけび)』という2本の出演作品が上映。

 ・“Private Fears in Public Places”(アラン・レネ/仏・伊/120分)
 出演:ランベール・ウィルソン、サビーヌ・アゼマ、アンドレ・デュソリエ、ラウラ・モランテ、ピエール・アルディティ、イザベル・カレ
 [物語] 退役軍人で今は酒に溺れているダン(ランベール・ウィルソン)、彼女のフィアンセであるニコル(ラウラ・モランテ)、失恋ばかりしているガエル(イザベル・カレ)、その兄のティエリー(アンドレ・デュソリエ)等による群像劇。
 *アラン・レネの国際映画祭との関わりは――
  1959年『ヒロシマモナムール』カンヌ
  1961年『去年マリエンバートで』ベネチア~金獅子賞
  1963年『ミュリエル』ベネチア
  1974年『薔薇のスタビスキー』カンヌ
  1980年『アメリカの伯父さん』カンヌ~審査員特別賞&国際批評家連盟賞
  1989年『お家に帰りたい』ベネチア~Pasinetti Award
  1994年『スモーキング/ノー・スモーキング』ベルリン~銀熊賞
  1995年 ベネチア~映画生誕100年を祝して生涯金獅子賞
  1997年『恋するシャンソン』ベルリン/生涯貢献賞として銀熊賞

 ・“Quei loro incontri(Those Encounters of Theirs)”(ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ/伊・仏/68分)
 出演:アンジェラ・ヌガラ、Vittorio Vigneti、Grazia Orsi
 *思索性が強い作品ばかりなので、ベルリンがよく似合うんじゃないかと思ったら、これまでの映画祭への出品はやっぱりベルリン国際映画祭ばかりでした。1968年『アンナ・マグダレーナ・バッハの日記』、1984年『アメリカ』(Honorable Mention)、1987年『エンペドクレスの死』。
 作品の詳細は不詳。アンジェラ・ヌガラは『シチリア!』(1998)『労働者たち、農民たち』(2000)にも出演している常連の女優。

 ・“Exiled(放逐)”(ジョニー・トー/香港・中/98分)
 出演:フランシス・ン、ニック・チョン、サイモン・ヤム、アンソニー・ウォン
 [物語] 香港から2人のガンマンがマカオにやってくる。彼らの使命は、裏切者を始末すること。ところが彼らの前にもう2人のガンマンが現れる。彼ら4人は以前組んでミッションを行なっていた仲間だったのだが、そのミッションの最中に今回のターゲットである男がボスを裏切っていたことが発覚し、4人は悩んだあげく男を逃がしたという経緯があったのだ。4人の前にどこからともなく当のターゲットが姿を現す。最終的な決着に向けて、5人の銃口が火花を散らす!
 *このところアジア圏以外でも評価を高めているジョニー・トー。2005年のカンヌのコンペに『黒社会(Election)』を出品したのに続き、ベネチアにも初登場。本作は『ザ・ミッション 非情の掟』(2000)の(精神的な)続編な作品でもある。

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 ・“Hei yanquan(I don’t want to sleep alone)(黒眼圏)”(ツァイ・ミンリャン/台湾・仏・オーストリア/115分)
 出演:リー・カンション、チェン・シアンチー、Norman Bin Atun
 [物語] シャオカンがクアラルンプールで暴漢に襲われる。助けてくれたのはバングラデシュ人の労働者たちで、その中の1人ラワンは、彼を道端で拾った古いマットレスに寝かせてくれた。シアンチーは、今はコーヒーショップのウェイトレスだが、大きな望みを持っていた。シャオカンはゆっくりと回復に向かっていたが、気がつくと、ラワンとシアンチーたちに囲われているような状態だった。町にかすみが降りてきた夜、各国の労働者たちの饐えた汗の匂いが充満して、蒸し暑く、人々は、すっかり自分を見失っていた……。
 *このところほぼすべての作品が3大映画祭のコンペに出品されているツァイ・ミンリャン。
 1994年『愛情萬歳』ベネチア~金獅子賞&国際批評家連盟賞
 1997年『河』ベルリン~銀熊賞(審査員特別賞)
 1998年『HOLE』カンヌ~審査員特別賞
 2001年『ふたつの時、ふたりの時間』カンヌ
 2003年『楽日』ベネチア~国際批評家連盟賞
 2005年『西瓜』ベルリン~国際批評家連盟賞&アルフレッド・バウアー賞&銀熊賞(芸術貢献賞)

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 ・“Zwartboek(Blackbook)”(ポール・バーホーベン/オランダ・ベルギー・独・英/135分)
 出演:カリス・ファン・ハウテン、トム・ホフマン、セバスチャン・コッホ、Halina Reijn
 [物語] 第二次世界大戦を生き延びたドイツ系ユダヤ人の少女は、レジスタンスに参加して、南に逃げ延びようとしていた自分の家族を死に追いやった“裏切者”が誰だったかを知る。
 *ほぼ20年ぶりに祖国オランダに戻って撮ったポール・バーホーベンの最新作。オランダ時代にはアボリアッツ国際ファンタスティック映画祭に作品(『四番目の男』とか)を出品していたりしていたが、このところはそうした(作家性や作品の質を問われるような)作品とはほとんど無縁だった。本作の出演陣は、日本でも公開されるようなオランダ映画界のベテランばかり。
 公式サイト:http://www.zwartboekdefilm.nl/

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 ・“Ejforija(Euphoria)”(Ivan VYRYPAEV/ロシア/74分)
 出演:Polina Agureeva、Maxim Ushakov、Mikhail Okunev
 [物語] 舞台は南ロシア、ドン川に面した孤立したコミュニティ。主人公ヴェラは愛人の元に走るが、それを知った夫は酒に酔った勢いで、ヴェラを追いかけてくる……。かなり激しいバイオレンスが見られる映画で、血も流れるし、映画が始まって早々にヴェラの娘が犬に噛まれて指をなくしたりもする。ヴェラ役のPolina Agureevaは、Ivan VYRYPAEV監督夫人。
 *監督Ivan VYRYPAEVは、本作がデビュー作となる、シベリア出身の31歳の新進の監督。映画の脚本を手がけたことはあったが、これまでは舞台中心。映画制作と平行して、ほぼ同時期にはじめてのテレビ・ドラマのシリーズも手がけるなど、ロシア映画&テレビ界で期待を集めている俊英である。

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 ・“Sang sattawat(Syndromes And A Century)”(アピチャポン・ウェラセタクル/タイ・仏・オーストリア/105分)
 出演:Nantarat Sawaddikul、Jaruchai Iamaram、Sophon Pukanok、Jenjira Pongpas
 [物語] 共に医者であったアピチャポン・ウェラセタクル監督の両親の物語。生活の中にいつも病院があったという監督の記憶を元に映画化された。
 *アピチャポン・ウェラセタクルは第5回東京フィルメックス(2004)で『トロピカル・マラディ』が最優秀作品賞に選ばれている。2002年のカンヌでは“Sud sanaeha”が「ある視点」部門でグランプリ、2004年のカンヌではコンペティション部門で『トロピカル・マラディ』が審査員特別賞を受賞。ベネチア国際映画祭は今回が初参加。これまでの監督作は15本にも及び、塚本晋也監督らと組んだオムニバス映画『デジタル三人三色』(2005)もそのうちの1つ。

 追記:最後の最後に22本目の作品として、“Sanxia haoren (Still Life) (三峡好人)”(ジャ・ジャンクー/中/108分)が滑り込みでコンペ部門にエントリーされました。

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 ◆若干の解説

 ・今年のベネチア国際映画祭のキーワードの1つは、「回帰」です。
 ブライアン・デ・パルマが久々にこうした映画祭に参加することになった話題作『ブラック・ダリア』、日本ではすっかり忘れられかけていたエミリオ・エステベスが初コンペに挑む“Bobby”、ポール・バーホーベンが20年以上ぶりに祖国オランダで撮った“Zwartboek(Blackbook)”、と意外な顔ぶれが3人も揃いました。

 ・既に報道されているように日本映画が6本も出品され、そのうちの2本がコンペティションを競うことになりました。しかも6本のうち3本がアニメーションで、そのうちの1本がコンペティション部門というのも快挙。
 コンペ外で、宮崎吾朗『ゲド戦記』、黒沢清『叫(さけび)』、Horizons部門で青山真治『こおろぎ』、Orizzonti Doc部門で押井守『立喰師列伝』が上映。なお、『立喰師列伝』は、公式サイトでは「ドキュメンタリー」と紹介されています。観ればわかるのにねえ~。
 アニメーションでは、過去に『ハウルの動く城』を制作したスタジオジブリに技術貢献賞(金のオゼッラ賞)を、2005年に宮崎駿監督に栄誉金獅子賞を与えたという実績があります。

 ・日本からの出品作のうち、オダギリジョーの出演作が2本(『蟲師』『叫(さけび)』)もあります。ベネチアには行くのかな?

 ・「政治性のベルリン、芸術性のベネチア、作家性のカンヌ」と言われたり、「まずベルリンを制覇し、次にベネチアを狙い、最後にカンヌに挑む」というような言い方がされたりした時期もありましたが、現在は映画の完成に合わせて各映画祭に出品する(もしくは各映画祭に合わせて映画を完成させる)ようになってきているようです。

 ・ベネチア国際映画祭は、開催国であるイタリア作品が多くノミネートされる傾向にありますが、それは受賞結果にまでは反映されないようです。

 ・コンペティション部門のラインナップには、カンヌのような傾向性は特に見出せません(ベネチアはより娯楽性が強いということもあって)。あえて探せば、今年のラインナップには「謎」や「秘密」のある作品が多い、と言えるでしょうか。

 ・昨年の金獅子賞が『ブロークバック・マウンテン』であり、出品作品の中から多数の作品が米国アカデミー賞を賑わわせたということから、今年は映画祭初上映作品に限定してセレクトが行なわれたそうです。でも、来年のアカデミー賞にノミネートされそうな英語作品は、ざっと見たところ『ブラック・ダリア』しか見当たりません。“The Queen”は確実にBAFTAにはノミネートされるでしょうが……。

 ・80年代後半から、ベネチアはほぼ隔年でアジア映画を金獅子賞に選んできています。
 1989年 ホウ・シャオシャン『非情城市』(台湾)
 1992年 チャン・イーモウ『秋菊の物語』(中国)
 1994年 ツァイ・ミンリャン『愛情萬歳』(台湾)
 1995年 トラン・アン・ユン『シクロ』(ベトナム)
 1997年 北野武『HANA-BI』(日本)
 1999年 チャン・イーモウ『あの娘を探して』(中国)
 2000年 ジャファル・パナヒ『チャドルと生きる』(イラン)
 2001年 ミーラー・ナーイル『モンスーン・ウェディング』(インド)
 ここ数年アジア映画は金獅子賞から遠ざかっています(金獅子賞以外ではいろいろと受賞しています)が、そろそろ獲ってもいいかもしれません。

 ・新人や、まだ新人に近い監督に金獅子賞を与えることは滅多にありませんが、例外もあります。例えば、1994年『ビフォア・ザ・レイン』(ミルチョ・マンチェフスキー)、2002年『マグダレンの祈り』(ピーター・ミュラン)、2003年『父、帰る』(アンドレイ・ズビャギンツェフ)等ですが、いずれも画面から監督の意欲や才気が迸る力強い作品でした。
 今年の新人、もしくは新人に準じる監督作品は、“Hollywoodland”(アレン・コールター)、“Daratt(Saison Sache)”(マハマット=サレー・ハルーン)、“Nue propriété”(Joachim LAFOSSE)、“Ejforija(Euphoria)”(Ivan VYRYPAEV)の4作品。

 ・製作にオーストリアがからんだ映画が4本もあって、オーストラリアの映画業界が勢いづいているのが伺えます(だから近々日本でもオーストリア映画祭が企画されてもいいと思います)。アジア映画の受賞がそれぞれの国の映画状況の反映しているのであれば、“Fallen”(バルバラ・アルベルティ)が金獅子賞を獲っても面白いかもしれません。

 ・今年の審査員は、パク・チャヌク監督、ビガス・ルナ監督、キャメロン・クロウ監督、ミケーレ・プラチド監督、女優チュルパン・ハマートヴァ、パウロ・ブランコ(ポルトガルのプロデューサー)で、審査委員長がカトリーヌ・ドヌーブ。
 ベネチア国際映画祭は、審査員によって結果が左右される映画祭であるという印象は(カンヌほどは)ありません(映画祭当局に意向が強く反映する?)。
 審査員のカラーが出てしまうとすれば、パウロ・ブランコというのが曲者であり、あと審査委員長がカトリーヌ・ドヌーブであることから、フランス映画&女性&高度の芸術性+作家性を評価するのではないかと思われます。とすると、“Quei loro incontri(Those Encounters of Theirs)”(ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ)が(金獅子賞はないにしても)何らかの賞を獲るんじゃないかと予想できます。

 ◆以上のことを踏まえて、コンペティションの結果を予想してみました

 ・金獅子賞 本命は『ブラック・ダリア』。対抗が“Sang sattawat(Syndromes And A Century)”。大穴が“Fallen”。

 ・審査員特別賞は“Quei loro incontri(Those Encounters of Theirs)”。

 ・監督賞はツァイ・ミンリャン(“Hei yanquan(I don’t want to sleep alone)(黒眼圏)”)。

 ・男優賞は、セルジュ・カステリット(“La stella che non c’è(The Missing Star)”)。

 ・女優賞は、ヘレン・ミレン(“The Queen”)かイジルド・ル・ベスコ(“L´intouchable(The Untouchable)”)。

 ・金のオゼッラ賞(技術貢献賞)が、今敏(『パプリカ』)かダーレン・アロノフスキー(“The Fountain”)かジョニー・トー(“Exiled(放逐)”)。

 ・ルイジ・デ・ラウレンティス賞(新人監督賞)がJoachim LAFOSSE (“Nue propriété”)。

 今年のカンヌ国際映画祭に関する予想では、監督賞と女優賞が当たりましたが、さて、今回はいくつ当たるでしょうか? まあ、賞はメインの賞以外にもたくさんあるので、みんなそれぞれ何かしら賞をもらったりするのですが……。

 日本での劇場公開の可能性としては、邦画の2本と『ブラック・ダリア』が確定で、あとは、“Children of Men”、“The Fountain”、"The Queen”、“Exiled(放逐)”、“Hei yanquan(I don’t want to sleep alone)(黒眼圏)”あたりが当確、“L´intouchable(The Untouchable)”や“Private Fears in Public Places”は作品の出来および受賞結果次第、そのほかの作品も受賞結果次第では劇場公開されると思われます。
 受賞しなくても、“Quei loro incontri(Those Encounters of Theirs)”はアテネ・フランセで、あと、イタリア映画、フランス映画は、それぞれイタリア映画祭、フランス映画祭で上映される可能性があります。アジア映画も何らかの形で観ることができるかもしれませんね。
 ちなみに、昨年ベネチアで上映された20本のうち現在までに日本で劇場公開されたのは7本、映画祭で観ることができたのは2本です。

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 [第63回ベネチア国際映画祭 コンペティション部門以外のラインナップ]

 [速報!第63回ベネチア国際映画祭コンペティション部門]

この記事へのコメント

2006年08月07日 10:29
TBありがとうございました。
記事のなかでも紹介させていただきましたのでご確認くださいませ。
イタリア人では、カステリットに期待するしかなさそうですねー
umikarahajimaru
2006年08月07日 17:52
マヤさま
コメント&TBありがとうございました。
ベネチアでディレクターをしているマルコ・ミューラーが今年の東京国際映画祭の審査員をするらしいですね。まあ、誰が審査員をやろうと、映画祭の質が向上するわけではありませんが。
2006年09月02日 22:55
こんにちは! いつも大変為になる記事を有難うございます♪
今年もまたミーハーな拙い記事ではありますが映画祭の話題とりあげましたので、TBさせて頂きました。
そして、事後承諾で申し訳ありませんが、その中でまたこちらのサイト様も紹介させて頂きましたので、ご確認下さいませ。
umikarahajimaru
2006年09月03日 01:23
マダムSさま
コメント&TB&当記事のご紹介ありがとうございます。
今年は去年以上に「米国アカデミー賞にノミネートされるような作品を」ときばって、ノミネーションしたようなので、その結果がどうでるかも楽しみですね。

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    Excerpt: 今年のヴェネツィア国際映画祭の会期は8月30日~9月9日まで。 各部門上映作品が27日、映画祭総責任者ダヴィデ・クロフ(写真左)とディレクターのマルコ・ミューラー(同右)によってローマで発表されまし.. Weblog: 私のイタリア映画紀行 racked: 2006-08-07 10:26
  • ヴェネチア国際映画祭2006ラインナップ

    Excerpt: コンペ部門のラインナップ、日本語(Allcinema) 本家ヴェネチア映画祭のサイト  どうでもいいけど、ヴェネチアのサイト、見にくいですね。カンヌの方が絶対見やすい。いいんですけど。  今.. Weblog: working title -annex- racked: 2006-08-11 22:20
  • 第63回 ヴェネチア映画祭始まりましたね

    Excerpt: 今年もまた始まっているようですね、 ヴェネチア映画祭!! 期間:8月30日~9月9日 公式サイト 7月に旅行で行ったヴェネチアですから、今年は思い入れもひとしおです♪ 宿泊したのは本島なので、会場のリ.. Weblog: Brilliant Days racked: 2006-09-02 22:50
  • ヴェネツィア国際映画祭 2

    Excerpt:  上映日前日のリド。ヴェネツィアに入ったばかりの監督、出演者、スタッフが揃った中 Weblog: イケピーの映画でイタリアンスマイルズ racked: 2006-09-20 04:20