これが映画にできたら…… 『銀座並木座』

画像 嵩元友子著『銀座並木座 日本映画とともに歩んだ四十五年』(鳥影社刊)は、1998年9月22日に45年の歴史を閉じた名画座・銀座並木座の開館から閉館までの歩みを“プログラム”と関係者へのインタビューからまとめ上げた本です。

 インタビューされている関係者は、
 佐藤廉夫さん(並木座初代支配人)
 金子正宜さん(元・東宝プロデューサー/並木座役員)
 小林桂樹さん(俳優/並木座株主)
 小泉作一さん(並木座三代目支配人)
 弓矢美知代さん(並木座スタッフ)

 ノンフィクション・ライターが書いた本のように、取材を重ねて、本文中にいろんな人の証言を取り込んでいく形で、並木座の歴史を辿れれば、日本映画興行史を切り取った(あるいは、時代の証言として)、もっと読み応えのある本になったのに、と思うのですが、さすがにそこまではできなかったのでしょうか。著者が調べてわかったことと関係者へのインタビューというサンドイッチ構成の本になっています。

 著者がこの本をまとめ上げるまでに、苦労と迷いがあったのは確かなようで、取材を始めてから、本書が出来上がるまでに8年もかかり、その間に、四代目支配人・長谷田康彦さんと並木座初代支配人・佐藤廉夫さんがお亡くなりになっています。

 とはいうものの、1つの名画座に対して開館から閉館までをまとめたメモリアル本が出るということ自体、非常に稀で、文章も平易で、とても読みやすい本になっています。
 当時のプログラムに掲載されたものを再録した、菅井一郎、市川崑、池部良、高峰秀子、石川達三、笠智衆、淀川長治らの絵や文章は、味わいがあって、魅力的だし、100ページ近くにも亘って全上映作品のタイトルが収録されているのもとても貴重です(自分がいつ頃から並木座に通い出し、それが並木座にとってどんな時期だったのかがわかるし)。まあ、全プログラムを再録したものに、関係者のインタビューを添えた本を作るという手もあったかと思いますが……。

 あえて難を言えば、全体が回顧趣味になっているというか、小林桂樹さん以外はみんな後ろ向きなんですよね。もう終わっちゃってる。当時の、映画人、映画(館)関係者の熱い思いがヴィヴィッドに伝わるような本になっていたら、並木座みたいな映画館を自分でも作ろうとか、名画上映運動みたいのを私もしよう、自分でも観たいし観せたいっていう人も出てくるかと思うのですが、そうはなっていません。古きよき時代を懐かしむっていうだけでは何も触発されませんよね。

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 まあ、それはともかく、これを土台にして、日本版『ニュー・シネマ・パラダイス』みたいな映画を作ることは可能だと思います。

 私が考えるのは――
 語り手(モノローグ)を、のちに並木座のモギリ嬢になる弓矢美知代さんにして、並木座の開館から閉館までのエピソードを、同時代史を折込みつつ、重ねていくというもの。
弓矢さんの自分史(実話を元にしつつも映画的な脚色を加えたものでよい)を軸としてもいいですね。さらに途中途中に、並木座の関係者や実際にお客さんとして来館した方のコメントを映像とともに挟んでいく(映画『恋人たちの予感』のように)なんていうのはどうでしょうか。
小林桂樹さんに株主招待券をもらっていた郵便配達の人のエピソードや閉館間際にロビーに置かれた“落書き帳”に書かれたメッセージというのも使えるかもしれません。

 キャッチ・コピーは、「その狭い階段を降りていくと、いつも『古き良き日本』に出会うことができた……」

 *よかったら、こちらの記事もご覧ください →[ミニシアターの20年史]

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 銀座並木座―日本映画とともに歩んだ四十五年

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