映画業界で働く女性たちの仕事! 附田斉子著『映画の仕事はやめられない』

画像 例えば、『CUBE』『ラン・ローラ・ラン』『オープン・ユア・アイズ』。この3作品に共通することは何か?
 ミニシアターで公開されてすごくヒットした作品? それはそうなんですが、それだけではありません。
 では、さらに、『パリの確率』『ミラクル・ペティント』『こころの湯』『風雲 ストームライダーズ』『ストレイト・ストーリー』まで加えるとどうでしょうか?
 実は、これらの作品は、全部ポニーキャニオンが買い付けた作品なんですね。

 ポニーキャニオンというと、一般的には音楽のメーカーっていうイメージかもしれないんですが、実はかなり幅広く映画も扱っていて、歴史も長いんです。
 「配給」としてポニーキャニオンが前面に出てくるのが少ないから、映画ファンの間でも「映画会社としてのポニーキャニオン」って感じがしないのかもしれないんですが、実際はかなり凄いんですね~。「「配給」としてポニーキャニオンが前面に出てくるのが少ない」っていうのは、他の配給会社と組んで映画を買い、ビデオのリリースにまわる。「提供」とクレジットされることが多いっていうことなんですが。

 「作品的には今はすごく極端なものがヒットする状況になってますね。すごく泣けますっていうのと、ヒップでトンガッてますっていうのと。クオリティはいいけど、地味なものって、残念ながら買えないし、買っても日本ではなかなか陽の目を見ることが少なくなりました」。
 2000年当時、ポニーキャニオン映像制作2部企画3課(いわゆる宣伝部のようなところ)で、映画の買い付けを担当していた附田斉子(つけだなおこ)さんに話を聞いたことがあるんですが、その時、一番印象に残った言葉がこれです。
 へえ~、そうなんだって思いませんか?
 それ以来、映画のクレジットにポニーキャニオンと入っていると、すごく意識するようになったんですが、ポニーキャニオンとクレジットされている作品はどれも附田さんの目線が感じられるものばかりでした。附田さんの映画を見る目の確かさというか、ヒット作品をいちはやく見分ける目というか、とにかく凄いんですよ。これまで映画業界で働く数多くの人に話を聞いたことがあるんですが、そういう映画を見る目の確かさ、ヒット作品をいちはやく見分ける目では、ピカイチですね。

 そんな附田さんが本を出しました。岩波ジュニア新書という、なかなか目に付きづらいところから出ていたので、2005年11月に出たのに、今まで気づきませんでした。

 これまで20年以上映画業界で働く附田さんが、これまで見知った経験の中から興味深いことを書き綴っている本なのかと思うとちょっと違って、映画業界のさまざまなジャンルで働く複数の女性(以前から附田さんと旧知の仲らしい)に話を訊いて、彼女たちの仕事の内容がどんなものであるか、紹介する本でした。岩波ジュニア新書という性格上、映画に興味があって、漠然とではあっても「映画業界で働いてみたい」と考える中高生に向けて書かれた本なんですね。まあ、中高生向けに平易に書かれているだけで、映画業界で働くこと(人)に関心を持つすべての人に興味深い内容になっています。

 取り上げられている人を書き出してみると、
 ・松浦雅子さん:映画監督(『人でなしの恋』『プラトニック・セックス』等)
 ・林加奈子さん:映画祭ディレクター(東京フィルメックス)
 ・佐藤かなさん:東宝東和宣伝部長(『Mr.&Mrs.スミス』『トゥームレイダー』『シックスセンス』等)
 ・中村由紀子さん:Bunkamuraル・シネマ支配人(番組編成担当)
 ・リンダ・ホーグラントさん:字幕翻訳者(海外に向けて日本映画に英字幕をつける)
 ・吉川優子さん:プロデューサー(映画監督細谷佳史さんの奥さんでもある)
 ・相原裕美さん:映画祭コーディネーター(日本映画を海外に紹介するアシストをする)

 個人的には、これまで存在していなかったような仕事を自ら作り出していったという相原裕美さんの話が面白かったですね。

 難を挙げるなら、一応中高生をターゲットとしているということもあってか、すべての情報が附田さんの中で噛み砕かれ過ぎていることでしょうか。
 これが、映画業界に興味があるけど、具体的なことはあまり知らないライターかなんかが書いたものだったなら、映画業界のことを知る喜びやそういう仕事を手がけている人がいることに対する驚きや感動があると思うのですが、そういった面は薄い(書き手と一緒に驚いたり、感動したりはできない)んですね。逆に、映画業界のことをよく知る附田さんだから書けた部分も多かったのだとは思いますが……。

 あと、附田さんのプロフィールとして、「ポニーキャニオンに転職後、二〇〇一年よりロサンゼルス駐在員として映像・映画の買付業務に従事。現在、ロッテルダム映画祭シネマート・海外アドバイザー、ロサンゼルス映画祭アドバイザリー・コミッティーメンバー、映像コンサルタント会社Elephant Blue entertainment Inc.の代表をつとめる」とありますが、ポニーキャニオンを離れているのかどうかが、イマイチはっきりしないんですね~。どうなんでしょうか。

 映画が、どんどん、どんどん消費されていって、そのスピードがますます速くなっている(と感じられる)日常において、「やっぱり(垂れ流しにされてしまう)『映画』より『生身の人間』の方が面白い」と思われることも多いんですが、さまざまな形で映画に一生を捧げているこういう『映画人』の話を聞いたり、情熱に触れたりすると元気になれますよね。それもこれも、まずは映画ありき、なんですが。

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  本書は中高生向けに平易に、わざと固有名詞を出さないように書いてあるようなので、具体名を推理してみようと思ったのですが、これがなかなか難しいですね。

 ・p13 附田さんが「いきなり電話してくれと言われたユーゴスラビアの映画会社」は、おそらく『ハッピー’49』(監督ストーレ・ポポブ 87年日本公開)の映画会社でしょう。

 ・p32 「サンダンスって天国みたいなところだ」と言ったという日本人映画監督は、サンダンス・フィルム・フェスティバルのスカラシップを獲得した、吉田博昭(91年)、黒沢清(92年)、廣木隆一(94年)あたりでしょうか?

 ・p169 頓挫しかけた映画『鉄男』に出資した会社というのは、……。う~ん、どこなんでしょう?『鉄男』のビデオ・リリースがジャパン・ホーム・ビデオだったから、ジャパン・ホーム・ビデオ、かな?

 ・p187 「第二次大戦中、ドイツ軍によってユダヤ人収容所に入れられた有名な女性声楽家の人生を描いた映画」も調べてはみたんですが、……。やっぱり、これもわからなかったですね。エディット・ピアフも違うし、マリア・カラスも違うし……。

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 「アメリカではほとんど年齢のことな聞かれることはありません。いくつになってもチャレンジし、やりたいことをやればいいのです」など、本書には励まされるような言葉が随所にありました。そう意味でも本書は「ジュニア」向けを超えているんですが、附田さんには、映画ビジネスや映画の舞台裏について関心がある大人の読者に向けて、まだまだ書けるネタがありそうだ、とも感じさせられました。今度は是非そうしたターゲットに向けて、これまでの経験をふんだんに盛り込んだ内容の本を書いてみてもらいたいですね。例えば「女ひとり映画業界奮戦記 世界市場編」なんていかがでしょうか?
 
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 映画の仕事はやめられない!

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