今でも奥さんはフィリピーナ?…… 『もっこす元気な愛』

 監督の寺田靖範さんは、1993年の作品『妻はフィリピーナ』で、確か、北野武が審査委員長を務める映画賞で賞をもらっています。その時の受賞理由が、「だってタイトルが『妻はフィリピーナ』だぜ、面白いじゃないか」というもので、北野武自身、映画を観ずに賞を与えたことが、スポーツ新聞等でも面白おかしく取り上げられていました。この時、北野武は自分自身にも監督賞を与えていたはずで、1994年度の賞だったはずなので対象作品は『みんな~やってるか!』ですね。北野武が本当に『妻はフィリピーナ』を観ていないかどうかは微妙なところで、観たけど、正直に感想を言うのが照れくさかったんだ、という可能性もあります。

 『妻はフィリピーナ』は、日本映画学校出身の監督が自分と自分の奥さんのことを描いた私的ドキュメンタリーで、日本に働きにきたフィリピン人女性と結婚した自分自身の日常を綴りつつ、日本とフィリピンの文化や生活習慣、考え方の違いをも浮き彫りにするというもの――であったかもしれないけれど、それよりは、フィリピン人である奥さんのキャラクターが強烈だった、という記憶があります。

 その寺田監督の最新作が、『もっこす元気な愛』で、熊本ではちょっと有名人らしい倉田哲也さんについてのドキュメンタリーです。倉田さんは、熊本障害者労働センター、共生センター・元気を立ち上げた人物で、自らも生まれつきの脳性まひで、両腕と言語に障害を抱えています。

 「障害者を扱った映画」というと観る前から自分の倫理観を試されているようで身構えたり、プレッシャーを感じてしまったりしますが、本作では必要もいらなければ、哀れみや同情も全くいりません。普通の感覚で観ればいいんですよ。「そんな脳性まひの人が、労働センターを立ち上げたりできるの?」くらいな気持ちでね。

 本作は、健常者の女性と知り合い、お互いの愛を確認した倉田さんが、彼女の親に結婚を認めてもらおうと行動するのを追いかけた作品です。
 映画のハイライトは、彼が彼女の親に、自分は何でもできるということを証明するために、車の免許を取ろうと奮闘する部分です。まず彼は、自分が免許を取る資格があることを認めてもらうために役所に出向くところから始めます。そして、自分が運転できるようにするために、自分用に車を改造し、その車で運転ができるということを認めてもらった後、ようやく教習所に通い、学科試験を受け、合否を待つ。
 苦労の甲斐あって、倉田さんは運転免許を取得し、その車で、高速を乗り継いで、友人のいる東京へ向かうのですが、カメラは、彼が(高速を乗り継いでやってきた)首都高で軽い接触事故を起こすところまで収めています。
 このシーンを収めたことがこの映画の価値をぐっと引き上げることになったと思います。この事故を見て、通常の事故とみなすか。「だから障害者に免許なんか持たせちゃいけないんだよ」と考えるか。観る側にとっての踏み絵になりますね。

 倉田さんのことを知らすに、倉田さんと彼のガール・フレンドを見かけることがあったとしたら、彼女のことを「介護の方ですか?」などと偏見じみた発言をしそうな私もいるんですが、本作は、「健常者との結婚、運転免許取得、接触事故等を通して、真の意味で障害者と健常者がどうやったら共生できるか」について、普通の感覚で考えさせてくれる映画になっていると言えそうです。

 一番わかってもらいたい人(彼女の母親)にわかってもらえない。それが残念で悲しくて仕方がない。それが、本作の1つのテーマでもあるのですが、その感情は、実は『妻がフィリピーナ』で、自分の結婚を肉親に認めてもらえなかった監督自身が経験したものでもありました。監督がなぜこの映画を撮ることにしたのか。公式にはいろんな発言をしているのかもしれませんが、私はこの部分で監督が、寺田さんに共鳴したんだと思います。

 こういう映画は「BRUTUS」のドキュメンタリー特集にも取り上げられないし、DVDで発売される可能性も低そうなので、機会があったら是非映画館で観てみてください。

 [キャッチ・コピーで選ぶ2006年お正月映画]

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