『二人日和』、または、この映画を捧げられた内藤昭さんについて

 「ウチなあ、あんたより1日でも1秒でも、長生きしたげようおもてましたんえ」。
 これは11月26日より岩波ホールで公開中の『二人日和』という映画の中にある台詞です。
 岩波ホールで上映される映画にしては珍しいラブ・ストーリーもの。といっても、難病にかかった妻を老いた夫が支える、という老夫婦の深い愛情を描いたもので、そこが岩波ホールらしいといえば岩波ホールらしい作品。

 【物語】夫は、京都で神祇装束司(御所や神官などのための装束を作る職人)を務めていて、寡黙で、いかにも昔かたぎの頑固な職人といった感じの人(栗塚旭)。奥さん(藤村志保)のかかった病気は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)というもので、ALSは進行すると、筋肉が萎縮して、自分で箸も持てなくなるというもの。病気に関しては夫妻一緒に告知され、そういう病気にかかったことに妻自身も苦しみますが、夫は悲観に暮れるわけでもなく、一心に尽くし、励まし、妻との最後の日々を自分が誠心誠意支えていこうと決めます。

 映画自体は、どろどろと重苦しい描写はほとんどなく、京都の美しい四季を織り込んだ端正な作品に仕上がっています。

 冒頭にかかげた台詞は、本編の中の奥さんの台詞です。
 既婚の男性であれば、妻が自分より早く逝ってしまうとか、具合が悪くなってしまうとか思っている人は少ないでしょうし、子の世代に当たる私個人としても考えさせられるところがありました。

 監督は野村惠一(1946年京都生まれ)という方で、京都のレンタル・ビデオ店で働く青年を主人公とした『ザ・ハリウッド』(1998)という映画(東千代之介も出演)の監督もしています。
 藤村志保さんは、映画のキャリアが長い大ベテラン(現在公開中の『カーテンコール』にも出演)ですが、久々の主演を見事に演じきっています。老いてなお美しい。栗塚旭さんという方は舞台を中心に活躍されている方らしいのですが、こちらも感情を抑えた演技が素晴らしい。
 フランクフルト映画祭・第5回ニッポンコネクション・グランプリ受賞。

 ところで、映画ファンとしての、この作品のポイントは、もう1つ、物語そのものとは別のところにあります。それは、この映画が、同じ病気と闘っている内藤昭さんを元気づけたいという意図もあって作られた作品であるということ。
 内藤昭さんというのは、黄金時代の大映京都を支えた名・美術監督で、溝口健二監督作品から『大菩薩峠』『眠狂四郎』シリーズ、『座頭市物語』『大魔神』『悪名』『泥の河』『華の乱』『浪人街』『橋のない川』『絵の中のぼくの川』『RED SHADOW 赤影』まで、日本映画史に燦然と輝く数々の作品の映画美術を手がけています。

 本作は、内藤昭さんとかつて組んだことのあるスタッフが集まって作った作品という面もあって、それをざっと書き出してみると、
 1966年 酔いどれ博士 編集=谷口登司夫
 1967年 なみだ川 編集=谷口登司夫
 1968年 とむらい師たち 編集=谷口登司夫
 1971年 蜘蛛の湯女 編集=谷口登司夫
 1972年 子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる 編集=谷口登司夫
 1972年 子連れ狼 三途の川の乳母車 編集=谷口登司夫
 1974年 子連れ狼 地獄へ行くぞ大五郎 脚本=中村努、編集=谷口登司夫
 1988年 森の向こう側 監督=野村惠一 脚本=中村努

 もっとも内藤さんと親交が深いのは、実は主演の藤村志保さんで、出演した内藤作品を挙げてみると、
 1962年 斬る
 1962年 青葉城の鬼
 1962年 忍びの者
 1963年 続・忍びの者
 1964年 眠狂四郎 勝負
 1965年 鼠小僧次郎吉
 1965年 悪名無敵
 1966年 大魔神怒る
 1967年 古都憂愁 姉いもうと
 1967年 引き裂かれた盛装
 1967年 なみだ川
 1968年 怪談雪女郎
 1969年 手錠無用

 私もすべて観ているわけではありませんが、どの作品もなかなか面白いですよ!

 内藤昭さんには、『映画美術の情念』(リトル・モア)という本もあります。これは、東陽一監督作品『橋のない川』公開に合わせて、出された東陽一さんを聞き手とする語りおろし本で、内藤さんが関わった溝口健二監督作品『山椒太夫』『近松物語』から『橋のない川』まで、映画美術とはどういうものであるかとか、それぞれの作品で工夫を凝らしたところ、エピソードなどが詳しく書かれています。
 昔の作品についてビデオを観ながら話を訊いているということもあって、話が具体的で面白い。映画美術を通して映画が見えてくる部分というのも大きくて、これまた“目からうろこ”本の1冊なのでした。
 内藤さんが、脚本、演出、俳優の動き、カメラ・ワークまで考えて映画美術を設計する美術監督であり、チャレンジ精神旺盛な人だから、というのも本書を面白くしているポイントだと思います。手がけている作品のほとんど娯楽作品だし、語りおろしなので、読みやすいというのもいい。本棚の奥から引っ張り出して読み出したら、止まらなくなって、また読みふけってしまいました。

 ちなみに、内藤さんは、『二人日和』では、「美術協力」とクレジットされています。何らかのアドバイスをしたのか、それとも名誉クレジットのようなものか……。

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 映画美術の情念

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