フレデリック・バック 『大いなる河の流れ』

 フレデリック・バックが、この250年間の、セント・ローレンス河と人の営みを再現いつつ、その間、人々が、河とその周辺の豊かな自然や資源を破壊し続けてきたことを、再生と共存への願いを込めて描いた意欲的な作品。



 【物語】
 氷に閉ざされた大陸の水が、春の訪れとともに流れ出し、北極海にまでつながる海へと合流し、様々な生物が行き来する豊かな流れとなる。

 河沿いには、まずインディアンたちが住み着く。彼らは、自分たちに必要なものしか獲らなかったため、1000年以上も自然はそのままの姿を残す。

 大航海時代が始まり、1534年にこの地にフランスの探検家ジャック・カルティエがやってくる。アジアへの航路の発見とそれにともなう一攫千金が彼らの夢であったが、この地の豊かさに目をつけ、入植。フランス王の名でこの地を手に入れる。

 セント・ローレンス河と名づけられたこの河の周辺で、オオウミガラスや海鳥、セイウチ、クジラ、タラなどの乱獲が始まる。

 ☆

 セント・ローレンス河の支流ザゲネイ河がフィヨルドに流れ込む。

 動物の毛皮がフランスへ送られるようになり、流域の動物が獲りつくされる。動物の捕獲には、インディアンたちも巻き込まれ、彼らも貨幣経済に否応なしに巻き込まれ、ヨーロッパの国どうしの対立は、各国の商人と結びついたインディアンの部族の対立にも及んでいく。

 シロイルカの捕獲。

 ☆

 セント・ローレンス河上流の動物の楽園。

 人々が河沿いの土地を切り拓いて住み始め、ニュー・フランスが誕生する。

 1759年、イギリスがニュー・フランスを襲い、奪う。

 イギリスの支配下となったケベックは、造船都市となり、カナダ随一の港町ともなる。

 セント・ローレンスの森林が伐り出されていく。

 ☆

 セント・ローレンス河は恵みを与え、豊かな村が河沿いにできていく。
 セント・ローレンス河の水は健康にいいと言われ、アメリカの富裕層がやってくるようになる。

 山の奥にも人々が入り込むようになり、大きな製紙工場もできる。森林がむさぼられ、森も荒れる。

 ☆

 セント・ローレンス河の上流には、様々な河や入り江があり、小さな島も点在し、陸地と河の境界すらわからないような原始の自然が息づいている。

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 1世紀の間に、セント・ローレンスの流域には5000万もの人が住み着き、産業地域を形成。

 海への出口を求める都市の要望により、五大湖に通じる水路が切り開かれ、水門や発電所もできる。

 河の両側に工場が立ち並び、工場廃水を垂れ流す。経済的な発展と引き換えに、生態系は崩れていく。

 河はもうかつての姿を取り戻すことはないのか? いや、河は、再生したい、はじめの日々を取り戻したいと自ら訴えているのだ。

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 【コメント】
 日本語字幕がなくても、映像だけでだいたいの物語の流れ(セント・ローレンス流域の豊かな自然や生態系が、生物の乱獲、森林の伐採、工場廃水による汚染等によって失われてきていること)はわかると思います。

 ただ、この作品は、人間によって自然がどんどん破壊されていくだけという描き方をしておらず、破壊されていながらも、その途中途中で、セント・ローレンスの豊かさを思い出させるようなシーンを何度も挿入しているので、字幕なしで観ていると、アレ?アレ?ここは前の部分とどういうつながりがあるの?と思えてきたりもします(それを上の【物語】では☆で示しました)。

 こういう構造を持っていることは、この作品をどこかギクシャクさせている要因でもあるのですが、おそらくこれは、コトがそう単純でも一方的でもないということを示しているのだろうとも考えられます。

 また、この作品は、最初から教師と生徒のための教材としても考えられていたため、正確な記録を残すために、シナリオを完成させるに当たって生物学者や歴史家の協力も仰いだそうで、正確さが補強された反面、ところどころで物語の流れが寸断されているような印象を与える結果にもなったのかもしれません。

 セル(アセテート)の上に色鉛筆(プリズマカラー)で作画するという手法は従来通りですが、前作『木を植えた男』で初めて導入したコンピュータ制御による撮影を、手段として前回よりも自由に使えるようになったのか、河の中の生物の動きや流域の自然の様子を映し出す映像(対象の動きとカメラワーク)がより自然で滑らかであり、鮮やかで美しいものになっていると感じられました。

 「セント・ローレンス河は恵みを与え、豊かな村々が河沿いにできていく。セント・ローレンス河の水は健康にいいと言われ、アメリカの富裕層がやってくるようになる。」の部分と、水平線上に太陽が昇るシーンは、モネの絵を思わせます(特に後者は『印象、日の出』)。私がそう感じるくらいですから、フレデリック・バック自身も意識してやっているはずで、ひょっとすると、他にも印象派の作品からのイメージの転用があるのかもしれません。

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 本作は、その美しさから言うと、フレデリック・バック作品の中でトップに位置するものですが、若干お説教臭もあり、それゆえ、個人的にはちょっと敬遠したくなるところでもあります。フレデリック・バックであれば、『クラック!』のように、否定的な側面を前面に出すことなしに、メッセージを伝えることもできるのだから、私としてはそちらの方がやっぱり好きかな、という気もしますね。

 ◆作品データ
 1993年/カナダ/24分
 英語台詞あり/日本語字幕なし
 アニメーション

 制作期間は4年、作画は17000枚。

 日本語吹替版のナレーションは江守徹、フランス語版のナレーションはポール・エベール、英語版はドナルド・サザーランド。

 *この作品は、アヌシー国際アニメーションフェスティバルでグランプリを受賞しています。

 *2000年に『イリュージョン』から『大いなる河の流れ』までの6作品を収めたDVD「フレデリック・バック作品集」が、パイオニアLDCから出ました(税込み7140円)が、その後、初DVD化作品を含む9作品を収めた「フレデリック・バック作品コレクション」がジェネオン エンタテインメントから発売されました(税込み12800円。新たに収録された作品は『アブラカダブラ』『神様イノンと火の物語』『鳥の誕生』)。

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 ◆監督について
 フレデリック・バック
 1924年 ドイツのザールブリュッケン(当時はフランス領)生まれ。父親は音楽家。
 1938-1939 年 パリのEcole Estienneで学ぶ。
 1939-1945年 レンヌの美術学校で画家マテラン・メウに学ぶ。
 1948年 文通で知り合ったカナダ人女性に会うために、カナダに向かう。
 1949年 結婚。以後、モントリオールを活動拠点とする。
 1952年 カナダ国営放送(Radio Canada)にグラフィック・アーティストとして参加し、教育番組や科学番組の作画や視覚効果を担当する。
 1967年 モントリオールのPlace-des-Arts Metro station にL'histoire de la musique à Montréal ("history of music in Montreal") という題のステンドグラスを制作。
 1968年 Hubert Tisonによって開設されたアニメ部門に移る。最初はタイトル・ロゴなどを担当していたが、70年以降、子ども番組を制作するようになる。
 1989年 ケベック州からナイトの称号を受ける(National Order of Quebec)。
 2004年 Planet in Focus film festivalでEco-Hero Media Award を受賞。
 色鉛筆とフェルペンによる作画で、1作品1作品、時間をかけて制作。作品の中に、ケベック州の美しい自然を描き、人と自然環境をテーマに作品を作り続けている、と評される。

 1970年 『アブラカダブラ』“Abracadabra”
 1971年 『神様イノンと火の物語』“Inon Ou LaConquet De Feu”
 1973年 『鳥の誕生』“The miracle of spring”
 1974年 『イリュージョン』
 1977年 『タラタタ』
 1978年『トゥ・リエン』“All Nothing” アカデミー賞短編アニメーション賞ノミネート
 1981年 『クラック!』 アカデミー賞短編アニメーション賞受賞
 1987年 『木を植えた男』 アカデミー賞短編アニメーション賞受賞
 1993年 『大いなる河の流れ』 アカデミー賞短編アニメーション賞ノミネート

 公式HP:http://www.fredericback.com/

 参考サイト:http://www.animationarchive.org/bio/2005/12/back-frederic.html

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