EとBの間に…… ブジェチスラフ・ポヤル 『E』

 冒頭にこの作品のことを解説しているらしい男性が映っていますが、ここにアップされている映像はテレビ放映された番組を録画したもののようで、ホストである彼が毎回作品を流す前に短い解説らしきものをしているのが見てとれます。聞こえてくる感じでは、どうやらスペイン語みたいなのですが、さらっとスキップして作品に進んでもらってかまいません。



 【物語】 ヘリコプターで巨大な「E」のオブジェが公園に運ばれてくる。それを見た1人の男性が「Eだね」というと、もう1人の男性は「Bだよ」という。最初の男性はおかしなことを聴いたと思って、見直してみるが、やはり「E」なので、「Eだよ」と言う。もう1人の男性は、それにかまわず「B」と繰り返す。
 人々が集まってきて、これは「Eだよ」と「B」の彼に教える。
 そこへ医者がやってきて、「B」の彼の診察をする。すると、医者は彼の視力に問題があったことがわかる。彼の視力を矯正してみると、それまで「B」と言っていた彼もそれが「B」だったことがわかり、満足する。
 そこへ王様がやってくる。王様もまた「E」を見て、「B」というので、医者が診て、矯正する。
 それですべて丸く収まったはずだったが、その後で王様の部下がやってきて、見物客を殴りつける。王様が「B」と言ったものは「B」でなくてはならず、見物客は、「E」が「B」に見えるまで、その場を去ることが許されないのだった。

 専制的な王政化では「E」も「B」に変えられてしまうという、ブラック・ジョークなのでしょうが、この作品がチェコで作られたものであり、表現の自由が許されていなかったのがそんなに遠い時代ではないので、その時代のことをアイロニカルに描いているのかな、とも受け取れます。

 王様自身は、わりとリベラルで、細かいことにこだわらない人物なのかもしれませんが、王様を頂点とする組織(政治制度)が、王様の権威を揺るがすようなことは認められず、そのためにこういう「是正」をしているのだ、とも考えられます。

 この作品を観て思い出すのが、イジー・トルンカの『手』ですが、監督のボジェチスラフ・ポヤルは、イジー・トルンカとともにチェコ・アニメをゼロから作り上げた人物の1人で、ポヤル自身は『手』には関わっていませんが、1959年までのトルンカの代表的な作品にアニメーターとして参加しています。

 『E』は、クレジット上ではカナダ映画となっていますが、これはポヤルがチェコとカナダを行き来して作品を制作しているからで、この作品の製作(出資者)がカナダということです。

画像

 ◆作品データ
 1982年/カナダ/6分24秒
 チェコ語台詞あり(ただし、「エ」とか「ベ」とか言っているだけ)/字幕なし
 アニメーション

 * ベルリン国際映画祭Forum of New Cinema にてInterfilm Award - Otto Dibelius Film Award受賞、クラクフ映画祭銀賞&国際批評家連盟賞受賞

 *ポヤルの作品は、『ぼくらと遊ぼう!』がDVD化されているほか、DVD『チェコアニメ傑作選』でもいくつかの作品を観ることはできますが、この作品は日本で発売あれているDVDには収録されていないようです。

 ◆監督について
 ボジェチスラフ・ポヤル
 人形アニメーションとセル画によるストップ・モーション・アニメーションの両方を手がける。ドキュメンタリー映画や舞台美術、ステージ演出も行なう。
 1923年 チェコスロバキア ボヘミア南部のスシツェ生まれ。
 高校卒業後、AFIT(アトリエ・フィルム・トリク(トリック映画アトリエ))で働き、ナチス侵攻後は、ナチスの技術学校で製図を引く。
 戦後トリック・スタジオ・ブラザーズに入る。
 1946~59年 イジー・トルンカのアニメーターを務める(トルンカ自身は、監督・脚本・人形制作・コスチュームデザイン等はしてもアニメーターの仕事はしなかった)。トルンカともどもアニメーションの作り方を知らない時代で、手探り状態でのスタートだったという。
 1951年に『魔法の森のお菓子の家』で監督デビュー。
 1959年 トルンカの元を離れた後、プラハで2つ目の人形アニメ・スタジオ(スタジオ・ドゥヴェ、または、スタジオ・ヌスレ)を設立。ここで制作した『ライオンと歌』がアヌシー国際アニメーションフェスティバル グランプリを受賞する。
 1960年代半ば以降カナダと行き来しながら、NFBと協力して作品を制作。その初期に制作した『見えるか見えないか(幻想学)』が、ベルリン国際映画祭短編映画部門金熊賞受賞ほか高い評価を受ける。
 1990年 FAMU(チェコ国立芸術アカデミー映画学部)の教授となる。

 ・1951年 『魔法の森のお菓子の家』 “Perníková chaloupka”
 ・1953年 『飲みすぎた一杯』 “O skleničku víc”
 ・1955年 『探偵シュペイブル』 “Spejbl na stopě”
 ・1957年 『小さな傘(おもちゃのサーカス)』 “Paraplíčko”
 ・1959年 『ライオンと歌』 “Lev a písnička” *アヌシー国際アニメーションフェスティバル グランプリ受賞
 ・1959年 『爆弾マニア』 “Bombománie”
 ・1959年 『アパートに家具を備えるには』 “Jak si zařídit byt”
 ・1959年 『栄光』 “Sláva”
 ・1960年 『真夜中のできごと』 “Půlnoční příhoda”
 ・1960年 『猫の言葉』 “Kočičí slovo”
 ・1960年 『猫のために絵を描いて』 “Malování pro kočku”
 ・1961年 『猫の学校』 “Kočičí škola”
 ・1961年 『八つ当たり』 “Biliár”
 ・1962年 『雄弁家』 “Úvodní slovo pronese”
 ・1963年 『ロマンス』 “Romance”
 ・1964年 『理想』 “Ideál”
 ・1965–73年 『ぼくらと遊ぼう!』 “Pojďte, pane, budeme si hrát! ”
 ・1965年 「ぼくらと遊ぼう! 出会いの話」 "Potkali se u Kolína"
 ・1965年 「ぼくらと遊ぼう! 水辺の話」 "Jak jeli k vodě"
 ・1965年 「ぼくらと遊ぼう! お魚の話」 "K princeznám se nečuchá"
 ・1966年 「ぼくらと遊ぼう! おかゆの話」 "Jak jedli vtipnou kaši"
 ・1966年 「ぼくらと遊ぼう! 帽子の話」 "Držte si klobouk"
 ・1967年 「ぼくらと遊ぼう! 冬眠の話」 "Jak šli spát"
 ・1968年 『小さな道化師』 “Fanfarón, malý klaun”
 ・1969年 『見えるか見えないか(幻想学)』 “Ilusologie | Psychocratie” *カナディアン・フィルム・オブ・ザ・イヤー受賞、ベルリン国際映画祭短編映画部門金熊賞受賞
 ・1969年 『虫が思いもしなかったこと (ミミズが思いもしなかったこと、あるいは、ダーウィンアンチダーウィン) 』“Co žižala netušila”
 ・1970年 「ぼくらと遊ぼう! セイウチの話」 "Co to bouchlo?"
 ・1971年 「ぼくらと遊ぼう! 犬の話」 "Psí kusy"
 ・1971年 「ぼくらと遊ぼう! ヒョウの話」 "O pardálu, který voněl"
 ・1972年 「ぼくらと遊ぼう! ビーバーの話」 "A neříkej mi Vašíku"
 ・1973年 「ぼくらと遊ぼう! カブの話」 "Nazdar kedlubny"
 ・1973年 『バラブロック(丸・四角)』 “Balablok” *カナダ映画祭 最優秀短編映画賞受賞、カンヌ国際映画祭短編映画部門パルムドール受賞
 ・1974年 『りんごの木のお姫さま(りんごの乙女)』 “Jabloňová panna”
 ・1974–77年 『ふしぎな庭(庭)』 “Zahrada”
 ・1974年 「ふしぎな庭 動物愛好家」 "Milovník zvířat"
 ・1975年 「ふしぎな庭 深い霧の話」 "O té velké mlze"
 ・1976年 「ふしぎな庭 虎をどうやって捕まえるか」 "Jak ulovit tygra"
 ・1977年 「ふしぎな庭 銀紙の中のネズミの話」 "O myších ve staniolu"
 ・1977年 「ふしぎな庭 クジラのアビルレフ」 "Velryba Abyrlev"
 ・1977–79年 『ダーシェンカ』 “Dášeňka”
 ・1979年 『犬を飼う理由』 “Proč má člověk psa”
 ・1979年 『ブーム!』 “Bum” *カナダ映画祭 審査員賞受賞、カンヌ国際映画祭短編映画部門審査員賞受賞
 ・1981年 『もしも… 』“Kdyby”
 ・1982年 “E” * ベルリン国際映画祭Forum of New Cinema にてInterfilm Award - Otto Dibelius Film Award受賞、クラクフ映画祭銀賞&国際批評家連盟賞受賞
 ・1986年 『ナイトエンジェル』 “Romance z temnot” *LA映画批評家連盟賞 World Animation Celebration受賞
 ・1988年 『一歩から進歩へ』 “Od kroku k pokroku”
 ・1990年 『蝶のとき(フライング・スニーカー)』 “The Butterflies Time [Motýlí čas] (The Flying Sneaker)”
 ・1993年 『ねずみ学』 “Mouseology”
 ・1994年 『なぜ?』 “Pourquoi?(Why?)”
 ・1996年 『麻酔ブルース』 “Narco Blues”
 ・2003年 連句アニメーション『冬の日』の「ニの尼に近衛の花の盛り聞く 蝶はむぐらにとばかり鼻かむ」を担当
 ・2006年 “Fimfárum 2” (2006) * AniFest (チェコ): Best Feature-Length Film Award受賞

 *1985年 広島国際アニメーションフェスティバルに審査員として来日し、その時に特集上映もされました。

 *劇場公開は<チェコアニメ映画祭2000>の時で、『飲みすぎた一杯』『ライオンと歌』『探偵シュペイブル』『雄弁家』『ロマンス』『ぼくらと遊ぼう』(「冬眠の話」「ヒョウの話」「ビーバーの話」「カブの話」)『ナイトエンジャル』が上映されました。

 *参考書籍
 ・『夜想35 チェコの魔術芸術』(1999年 ペヨトル工房)
 ・『チェコアニメ新世代』(2002年 エスクァイア マガジン ジャパン)

 *参考サイト:http://homepage1.nifty.com/gon2/cartoon/cartoon14.html

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