本当は1匹だけではないんじゃないのか? 『グエムル 漢江の怪物』

画像 この映画、事前のマスコミ人気が凄かったんですよ。30分前にマスコミ試写に行っても、既に満員で入れなかったという人が続出したんです。それが何度も何度も続いて、記事のデッドラインに間に合わなかったという映画ライターや評論家も多かったはずです。試写室が小さいってこともあるんです(今、同じ試写室で『王の男』のマスコミ試写が催されています)が、マスコミ関係での前評判が異常に高かったんですね。監督のポン・ジュノの前作『殺人の追憶』が面白かったというのと、韓国で大ヒットしているというのがマスコミにさあ~っと伝わったからですね、きっと。マスコミの人たちはこういう情報に敏感ですから。といいながら、日本では、さほどのヒットにならなかったというのは、短い宣伝期間で公開に踏み切ったということも関係しているんじゃないか、と思うんですがどうでしょうか? 期待を煽りに煽って、お正月に公開していたら、あるいは結果は違っていたかも……?

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 ◆リンク集

画像 ・WETAワークショップhttp://www.wetaworkshop.co.nz/
 最初に目がいくのはやっぱりグエムルの造形で、これを手がけたのがニュージーランドにあるWETAワークショップ。元々は、ピーター・ジャクソンが『乙女の祈り』を作る時にできたVFX関係の会社で、その後、飛躍的に成長を遂げ、『ロード・オブ・ザ・リング』や『キング・コング』で大注目されるようになりました(ピーター・ジャクソン以外の作品には、『コンタクト』や『ヴァン・ヘルシング』などがあります)。
 ホームページを見てみると、現在製作中の実写版『新世紀エヴァンゲリオン』のデザイン画がアップされていて、???と思ってしまったりもしますが。
韓国映画史上ナンバーワン・ヒットとなった『グエムル』に関してはホームページ上には一切記載がないんですが、会社としてはそんなに重要なプロジェクトではなかったということなのでしょうか。

 子会社であるWETAデジタルのHPはこちら(http://www.wetadigital.com/digital/company/filmography/)。
 WETAデジタルに関しては、Wikipediaにも情報が整理されています(http://ja.wikipedia.org/wiki/WETA%E3%83%87%E3%82%B8%E3%82%BF%E3%83%AB)。

 ・公式サイト(韓国版)http://www.thehost.co.kr/
  *もちろん韓国語ですが、韓国語がわからくてもけっこう楽しめます。
 ABOUT MOVIE:主な情報。シノプシス、スタッフ&キャスト、クレジットなどもここにあります。
 STORY1~3:物語
  *POP-UPブック風というか、見せ方が面白い。「怪物」の姿はチラリと見せるだけ。
 CHARACTER:キャストの紹介
 MULTIMEDIA:スタッフ・キャストへのインタビュー(動画)。
 GALLARY
 EVENT
 CONTENTS1:Mystery of the host
  *ネッシーや巨大鳥、巨大魚、翼竜等、各種のUMA(Unidentified Mysterious Animal)を写真つきで紹介しています。クリックすると、拡大し、説明を読むことができます(韓国語ですが)。
 CONTENTS2:オリジナル・サウンドトラック
 BOARD1:漢江の空撮写真上のポイントをクリックすると、そこについてのコメントや写真を載せられる(閲覧できる)ようになっている、らしい。
 BOARD2:正式に決定するまでの「怪物」のデザイン(40通り)がアップされています。
 BOARD3:ブログ
  *HPのバックに流れる映像は現在の漢江の様子を映すライブ・カメラかとも思いましたが、どうやら違ったようで、同じ映像が繰り返し流れているようです。

 ・缶ビール
 この映画で最も印象に残るアイテムの1つ。メーカーはTHE HITE(http://www.hite.com/)。もちろんこの映画の協賛の1社になっています。HITEビールは韓国ビールのシェアの半分以上を占めている人気ビール(大衆的ビール?)のようです。
 この会社の現在のイチオシ商品はMAXという商品らしく、チャン・ドンゴンがイメージ・キャラクターを務めています(http://www.cinemart.co.jp/news/actor/a20060908_01.html)。ちょっと坂口憲二(キリン淡麗生)にも見えます。

画像 ・ペ・ドゥナの公式HPhttp://www.doona.net/
 PROFILE、FILMOGRAPHY、INTERVIEW、MULTIMEDIA、PHOTO ALBUMなどのコンテンツがあります。
 日本ではプロフィールから『青い体験 プライベート・レッスン』が削除されているとして、「売れてくると“ああいった作品”に出演したことは忘れたい過去なのかもしれない」と書かれたりしていますが、公式サイトにはきちんと掲載されています。日本の媒体でプロフィールに『青い体験 プライベート・レッスン』が載っていないとすれば、日本の映画会社が嫌ったか、わざわざ載せる必要もないと考えたからですね(ハビエル・バルデムのフィルモグラフィーに『ゴールデン・ボールズ』が載らない(←私は好きですが)のと同じですね)。

 ・漢江に関するWikipediahttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BC%A2%E6%B1%9F
 60年代以降の経済成長を「漢江の奇跡」というらしいのですが、それが韓国において漢江がどういうものを象徴しているのかを表しているような気がします。
 漢江周辺を映すライブ・カメラも探してみましたが、ないようです。韓国だったらそういうことは日本より盛んかもしれないんじゃないかと思ったんですが、ライブ・カメラ自体少ないし、あっても閉鎖してしまっているものばかりでした。倫理的、あるいは国防上の理由から、そういう情報を公にしてしまうのはまずいと考えられるからなのでしょうか?

 ・ロケ地
 ばつ丸さんのサイト「ロケ地を旅する」(http://www.geocities.jp/badtzjulie5/gm.html)が詳しい。

画像 ・イカの足の数
 韓国の人は、イカやタコの足の数が何本あるのか知らないというのはなんとなく知っていたので、本作で「イカの足の数」がトラブルの種になっているのを見て、へえ~と思いました(そういえば、このネタは「トリビアの泉」でも取り上げられていたような気がします)。ソン・ガンホ演じるカンドゥはもちろん気にしていなかったようですね。
 遠い記憶を探ってみると、はじめてこの情報に出会ったのは関川夏央さんの『ソウルの練習問題』(1984年、情報センター出版局→1988年、新潮文庫→2005年、集英社文庫)(http://www.amazon.co.jp/gp/product/4087478831%3ftag=kattenieigade-22%26link_code=xm2%26camp=2025%26dev-t=D31ZR0ROP0WVXQ)だったようです。親本は、韓流ブームはもちろん、日韓ワールドカップどころか、ソウル・オリンピック(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%94%E3%83%83%E3%82%AF)すらまだ開催されていない頃に書かれていて、私は出版されてすぐに読んだのですが、あの頃とはすっかり状況が変わってしまったなとしみじみ感慨にふけってしてしまいます。

 ・グエムルというタイトル
 グエムルは、英語表記ではGwoemulで、韓国語で「怪物」を意味するそうです(International English Titleは“The Host”)。
 ですが、正しい発音は“ケムル”らしく、濁音で始まるタイトルの方が怪物らしいからそうしたのだというもっぱらの噂です(大桃美代子ブログ「韓流への道」(http://yaplog.jp/o-momo/archive/243)より)。

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 ◆感想など

画像 ・グエムルとは何か?
 ここでいう「グエムルとは何か?」というのは、生物学的な意味ではなく(生物学的にはムツゴロウに似てる?)、象徴的な意味についてですが、端的に言ってしまうと、アメリカが韓国社会に与えている歪みが、漢江の怪物となって現れたのではないか、と考えられます。
 実際には、アメリカと怪物の因果関係(漢江に流した大量のホルムアルデヒドが怪物を作り出した)は映画でははっきりとは描かれていないわけですが、元々のきっかけをはじめ、怪物を中心とした騒動そのものをグエルムと考えると、情報をコントロールして、かえって騒ぎを大きくしたり、韓国社会を誤った方向に導いたりしている元凶としてアメリカがとらえられている、とも考えられます。

 「アメリカが生んだ怪物」としてはゴジラという大先輩がいる(アメリカの水爆実験により太古の眠りから目覚めた)わけで、そうした意味で、グエムルは“ゴジラの孫”と言ってもいいのかもしれません。ちなみに、『ゴジラ』の第1作公開は1954年です。

 生物学的には、巣にエサを持って帰る、蓄えるのは、哺乳類と鳥類(例外的に蟻)しかいないと思うのですが、グエムルはいったい何に属するのでしょうか。恐竜も爬虫類ではなく、鳥類か哺乳類に近いんじゃないかというのが最近の定説ですし。まあ、そんなことはどうでもいいと言えばどうでもいいのですが。

 ・SFもしくは怪獣映画としてのポジション
 科学薬品や放射能によって生物が巨大化したりするのは、1950年代後半以降(の一時期)に作られたSF映画によくあった趣向で、当時そうした作品が作られた背景には、東西の緊張と核開発に対する根源的な恐怖が起因していると指摘されています(その後、SFもホラーも別の題材に向かいます)。
 しかしながら、そうしたSFを少年時代に見て、子ども心にドキドキしてファンになった人も多いわけで、彼らが大人になって、そういう映画にオマージュを捧げたような作品を作ってみたいと考えたといても不思議ではありません。ローランド・エメリッヒが製作総指揮を務めた『スパイダー・パニック!』(2002年)なんかもその典型的な作品の1つに挙げられます。ポン・ジュノも『グエムル』を通してそうした作品にオマージュを捧げたのだと考えてもいいのではないでしょうか。

 ・美女と野獣、もしくは、哀しみの変身人間
 グエムル自体は、自ら好んで人間に危害を加えているわけではなく、本人の意思とは関係ないところでああいう姿になり、その結果として大暴れしているわけです。
 人間の身勝手(?)によって、ああいう姿にされてしまったグエムルに対して、(ただ一方的に攻撃するのではなく)理解を示すやり方もあっていいかなと私は思いました。キング・コングとヒロインの関係みたいにというか。
 少女が怪物に連れ去られるという設定らしいと知って、ひょっとして怪物と少女が心を通わせる場面があったりするのかなと思ったりもしましたが、怪物が少女を連れ去るのは、単に映画のプロット上の要求(家族が連れ去られた娘を助けに行くための)からでしかありませんでした。

 ・パニックを通して家族を描く
 国の組織や軍が登場して、国家の危機を救うのではなく、また超人的なヒーローが登場して悪を退治するわけでもない。この映画で危機に際して描かれるのは、連れ去られた娘を取り戻そうとする家族の行動だけで、そうした意味で『宇宙戦争』に通じるものがありました。ただし、ポン・ジュノは、危機的状況を通して、単純に家族の絆が深まってしまうような(『宇宙戦争』のような)結末は、避けたようでしたが。

 ・結末について
 映画を観て、「ポン・ジュノならこういう結末もありかなあ」とは思ったものの、劇場パンフに書かれた滝本誠さんの記事を読むと、こっちの結末の方がよかったんじゃないかと私も思いますね。むしろそうこなくっちゃと思わせます。そういう結末だったら、日本での動員は確実に2割は増えていたんじゃないかと思うんですが、どうでしょうか?

 ・キャラクターについて
 この映画がなぜ韓国映画史上ナンバーワンになったのかについては、いろいろ言われているようですが、私は、1つにはソン・ガンホ演じるキャラクターが、韓国で最も愛されるキャラクターの1つだからだと考えます。単純に言ってしまうなら、「普段はだらしなくても、いざとなったら命がけで頑張ってくれる男」です。「頑張ってくれる」には、「家族を守るためには精一杯闘う」や「愛する人のために一所懸命になる」、「ささやかながらも自分が信じることのためにはすべてを賭ける」なども含まれます。ソン・ガンホで言うと、『反則王』で彼が演じたキャラもこの系譜にありますね(『反則王』も韓国でその年の動員の上位作品に食い込んでいました)。この家族全員が似たキャラクターだといえばそうとも言えます。
 日本映画で、同様の「国民的な愛すべきキャラクター」を探すと、『七人の侍』の菊千代(三船敏郎)が典型的で、「少々おつむは弱くても、正義漢で、一途で、やさしく、たくましい男」となります。森の石松や寅さん、一時期の赤井英和や香取慎吾にもちょっとそんなところがあります。

 ・アーチェリーについて
 ペ・ドゥナ演じるナムジュはなぜアーチェリーをするという設定なのか? 単純に、彼女を闘わせるのに何か武器を持たせたかったのだとも考えられますが、このところ(『キング・アーサー』以降)女性ヒーローに弓を引かせるのが流行りなので、それに乗っかったのだとも考えられます。拳銃には抵抗感を持つ人も、弓だったらいいと思うというか。第一、弓なら地球にやさしいですもんね。

 ・グエムルは一匹ではない?
 ゴジラも何匹もいた(?)わけで、グエムルが複数いてもなんら不思議ではありません。そもそも映画の中に登場したグエムルが同じ1匹なのかどうかもわかりませんし。
 韓国映画史上ナンバーワンという実績が新たなグエムルを生み出すという可能性もありますね。監督や出演者は変わってしまうかもしれませんが。
 少なくとも「2匹目のどじょう」を狙った作品は確実に作られるはずです。韓国映画界は貪欲で、まだまだパワーがありますから、これを逃すはずはありません。

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