本質は自由で多才 『ダーク・ウォーター』

画像 『ダーク・ウォーター』を公開終了間際に観てきました。『仄暗い水の底から』のリメイク版なので、話としては既に知っている物語なのですが、監督がウォルター・サレスだったので観ておきたかったのです。
 だから、ポイントは、
 ①日本版とどこが違うのか?
 ②なぜ監督がウォルター・サレスだったのか?(製作側がなぜウォルター・サレスを指名したのか? なぜウォルター・サレスは指名を受け入れたのか?) 映画はウォルター・サレスらしい作品に仕上がっているか?
 の2点でした。

 ①に関して。舞台を、「子どもを放置してはいけないと法律で決まっている」アメリカとしたことで、「母親に捨てられた子ども」というテーマはより深刻な問題として浮かび上がってきます。
 「母親である主人公が女の子の亡霊とともに去る」という結末はどちらも同じですが、日本版は、自分の娘が亡霊に連れ去られないようにするために主人公がそうするのに対して、アメリカ版は「かつて母親に捨てられた子ども」同士でシンパシーを感じてそのように行動する、という解釈になっているようです。
 日本版にはそうした母親の意図が明かされる「10年後のエピソード」がエピローグとして足されていますが、アメリカ版にはそれはありません。

 また、日本版が何か怪しいものの気配が主人公を不安にさせて、心理的に追い詰めていく物語であるのに対して、アメリカ版は、アメリカン・ホラーの伝統の1つである「呪われた館」もののバリエーション(系譜)としてこの物語を読み替えているフシがあります。

 日本版がある意味、欠陥住宅の話に見えた(笑)のに対し、アメリカ版は、なかなか自分の思い通りに動いてくれない(わかってくれない)まわりの人々へのフラストレーションの物語にも見えます。

 ②。ウォルター・サレスは、
 『セントラル・ステーション』(98)(ベルリン国際映画祭金熊賞&主演女優賞受賞、ゴールデングローブ賞&英国アカデミー賞外国語映画賞受賞)
 『ビハインド・ザ・サン』(01)(ゴールデングローブ賞&英国アカデミー賞外国語映画賞ノミネート)
 『モーターサイクル・ダイアリーズ』(04)(英国アカデミー賞外国語映画賞他受賞歴多数)
といった、南米の土着的な風土を背景とした物語で、過酷な現実の中での夢や希望、人と人との心のつながりを描いて、世界に感動を与えたブラジル出身の監督で、『シティ・オブ・ゴッド』などの作品に共同製作として関わり、若きフィルムメーカーたちにもチャンスを与えています。

 『ダーク・ウォーター』に関して、<この監督らしく、キャラクターの心理をエモーショナルに表現した>という紹介のされかたをしているものもありましたが、なんだかそれはとってつけたような映画紹介であって、どう考えても過去の3作品から、なぜ彼がこの作品を、というのが イマイチわかりません。
 そこでこれらの3作品の間に日本で知られていない作品があるのではないかと思って調べてみると、やはりありました。
 ・"Japão - Uma Viagem no Tempo"(86)
 "O Outro Lado do Mundo" (The Other Side of the World), "Os Samurais da Economia" (The Samurais of Economics), "Os Novos Criadores" (The New Creators) and "Kurosawa, Pintor de Imagens" (Kurosawa, Painter of Images)という日本を取材した全4回のテレビ・シリーズで、経済、文化、黒澤明など、日本の伝統と現在にスポットライトを当てた作品。
 ・『殺しのアーティスト』Grande Arte(91)
 アメリカのカメラマンがリオデジャネイロでモデルの殺人事件に巻き込まれ、自ら犯人捜しを始めるというスリラー。日本での公開時、監督名が「ウォルター・セールス・ジュニア」となっていたので、同じ監督であることがわかりにくい。主演はピーター・コヨーテ。
 ・Socorro Nobre(95)
 ポーランド人アーティストであるFranz Krajcbergが獄中にある貧民出身の女性と20年に亘って文通をしていたという実話に基づく物語。
 ・Terra Estrangeira(96)
 故国スペインへの旅を夢見たまま母が死んだ後、彼女の息子は怪しい男にそそのかされて、ブツの詰まったバイオリンをリスボンへと運ぶことになる……。ブラジルの映画賞を総なめにした感動作。
 ・Primeiro Dia, O(98)
 1999年12月31日深夜、脱獄犯と失意の教師とが出会う。フランスのテレビ局が世界の10人のフィルムメーカーたちに依頼したミレニアムを舞台にした物語のシリーズの1つ(他にはツァイ・ミンリャンの『Hole』、ハル・ハートリーの『ブック・オブ・ライフ』など)。
 ・Armas E Paz(02)
 3分の短編。英題は’Guns and Peace’。

 こうみてくると、ウォルター・サレスは必ずしも「感動のヒューマン・ストーリー」ばかりを手がけてきたわけではなく、もっともっと守備範囲が広く、自由な発想を持った映画作家であることがわかります。
 『セントラル・ステーション』は、その脚本がサンダンス・NHKシネマ100賞を受賞した作品だったし、監督自身、日本にはかなり興味があるらしいということもわかる。さらに、若きフィルムメーカーにチャンスを与えることに熱心な監督であってみれば、ハリウッドからの誘いがあれば、自身の才能やチャンスも試してみたいと思うのも当然といえば当然でしょうか(←結局、調べなくてもわかっていた結論ですが)。

 『ダーク・ウォーター』で、主人公が見知らぬ地で過ごす不安感、孤独感は、初めてハリウッドに単身乗り込んだ監督自身の思いと重なる部分があるのではないか、と言ったら、ちょっとうがち過ぎでしょうか。

 ちなみに、次回作は、“Paris, je t'aime”(パリ、ジュテーム)というオムニバス作品で、この参加監督が凄い! オリヴィエ・アサヤス、ジェラール・ドパルデュー、ウェス・クレイヴン、ヴィチェンゾ・ナタリ、クリストファー・ドイル、コーエン兄弟、アルフォンソ・キュアロン、アレクサンダー・ペイン、トム・ティクヴァ、ガス・ヴァン・サント……。
 さらに、その次はジョン・ケルアックの『路上』の映画化を企画中のようです。

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