米国アカデミー賞2017 短編ドキュメンタリー賞 ショートリスト発表!

 第89回米国アカデミー賞 短編ドキュメンタリー賞のショートリストが発表になりました。(10月26日)

 エントリーされた有資格作品61本の中から、現時点で、以下の10作品に絞り込まれています。

 ・『ホワイト・ヘルメット -シリアの民間防衛隊-』“The White Helmets”(英/41分) 監督:オーランド・ヴォン・アインシーデル(Orlando von Einsiedel)
 シリアでは、5年を超える内戦によって、40万人もの人々が殺され、数百万人もの人々が家を失っている。「ホワイト・ヘルメット」は、シリアのボランティア団体で、自らの命を危険にさらしながら、救助活動を行なっている。
 『ヴィルンガ』で米国アカデミー賞2015長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた監督とプロデューサーのコンビによる最新ドキュメンタリー。
 トロント国際映画祭2016 SHORT CUTS部門出品。最優秀インターナショナル短編映画賞 オナラブル・メンション受賞。
 ハンプトンズ国際映画祭2016 観客賞 短編映画部門 受賞。

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 ・“Watani: My Homeland”(英・独/79分?) 監督:Marcel Mettelsiefen
 シリアの内戦で、ISISに夫を奪われたHalaと4人の子どもたちSara、Farah、Helen、Mohamedは、アレッポを追われて、難民となり、ドイツにやってくる。
 現時点でこの作品に関する情報は多くはありませんが、TVのドキュメンタリー・シリーズFlontlineで全く同じ題材を使って、2つの作品“Syria's Second Front/Children of Aleppo”(2014)、“Children of Syria”(2016)を発表していますから、これもそのバリエーションなのではないかと思われます。
 同じタイトルで79分という情報がありますが、それだと短編ドキュメンタリー賞の規定に反するので、その短編バージョンということなのかもしれません。

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 ・“Close Ties(Więzi)”(ポーランド/18分) 監督:Zofia Kowalewska
 BarbaraとZdzisławは、結婚45周年を迎えている。それが素直に喜べないのは、8年前にZdzisławが妻を棄てて、愛人の元に走ってしまったからだ。今、再び2人は一緒に暮らしているが、それはZdzisławの脚が悪くなったからで、そうでなかったらZdzisławは未だにクラクフで女のスカートを追いかけているだろうとBarbaraは不平をもらす。そうした過去がありながら、彼らは毎日の支払いに苦労しつつ、ベッドをともにし、家具の配置換えをしたりして日々を過ごしている。彼らの関係性を説明するのは難しい。
 クラクフ映画祭2016 インターナショナル短編コンペティション出品。Silver Dragon(最優秀ドキュメンタリー賞)受賞。

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 ・“The Mute’s House(Beit Ha'Ilemet)”(イスラエル/32分) 監督:Tamar Kay
 パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区にある街ヘブロンには、パレスチナ人オーナーから見捨てられた建物がある。そこは、駐留しているイスラエル人兵士や通り過ぎるツアー・ガイドからは、「ろうあ者の家」と呼ばれている。現在、そこで暮らしているのは、耳が不自由な母親Saharと、8歳の息子Yousefだ。2人には、イスラエルとパレスチナの対立を背景としたユニークな物語があり、それがYousefの視点で語られる。Yousefは、境界線を越えて学校へ通う。パレスチナ人のクラスメートは、誰も彼の家に遊びに来たりはしないし、この映画の監督Tamar Kayですら、境界線を越えて撮影を行なうことは許されていない。Yousefは、生まれつき片腕しかなく、荒れ果てた近隣の中で、ニワトリやヤギやウサギと遊び、ギターを弾いたり、ビデオゲームをしたりして楽しむ。終わりなき紛争という不条理の中で、驚くべき状況が生まれる。
 アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭2015出品。
 クラクフ映画祭2016 インターナショナル短編コンペティション出品。Golden Dragon(最優秀作品賞)、The FICC賞 スペシャル・メンション受賞。
 エルサレム映画祭2016 イスラエル短編コンペティション部門出品。最優秀短編ドキュメンタリー賞(The Van Leer Award for Best Documentary Film)受賞。

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 ・“Frame 394”(カナダ・米/29分) 監督:Rich Williamson
 2015年4月4日。50歳の黒人、Walter Scottは、ブレーキライトが壊れたまま車を走らせていたのを停車させられるが、逃げようとして、チャールストン警察の白人の警察官Michael Slagerから8発の発砲を受けて死ぬ。悲しいかな、こうした警察官の暴力は、アメリカ南部では珍しくはない。これがありきたりの事件で終わらなかったのは、一部始終が撮影されて、ネットで流されたからだ。白人対黒人の構図がクローズアップされ、世間に衝撃を与える。とはいうものの、本作がフォーカスを当てるのは、Slagerの発砲でもなく、人種的不正でもなく、(もちろんそれも描かれるけれども)この事件にとりつかれてしまった、トロント出身で、建築学を学ぶ白人の青年Daniel Voshartである。彼は、実際に何が起こったのか、正しく知ろうとして、3Dモデルを作って、検証する。ところが、事件に深入りすればするほど、曖昧な部分が出てきて、明らかだと思っていたこともグレーになっていく。Slagerが無実であるとか、正義を実行したというのではない。だが、誰しも完全な悪ではないのだ。善と悪、よいことと悪いこと、白と黒などといった単純な分け方では、収まらないものがでてきてしまう。
 HotDocsカナディアン国際ドキュメンタリー映画祭2016出品。
 ロード・アイランド国際映画祭2016 最優秀短編ドキュメンタリー賞受賞。
 サイドウォーク映画祭2016 最優秀短編ドキュメンタリー賞受賞。
 アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭2016 パノラマ部門出品。
 *動画本編:https://www.shortoftheweek.com/2016/05/14/frame-394/

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 ・“Brillo Box (3¢ Off)” (米/40分) 監督:Lisanne Skyler
 1964年、アンディー・ウォーホルは、普通に市販されている洗剤入りスチールたわし「ブリロ・ボックス」のレプリカを作り、それをアートにした。1969年、Lisanne Skylerの両親は、それを1000ドルで購入したが、40年後の2010年には、それはクリスティーズのオークションで300万ドルの値がつけられることになった。家族のリビング・ルームからグローバルなアート・マーケットへ。どうしてこのようなことが起こったのか。アートのはかなさと価値について考察する。
 シェフィールド国際ドキュメンタリー映画祭2016短編ドキュメンタリー部門出品。
 プロヴィンスタウン国際映画祭2016出品。
 ニューヨーク映画祭2016出品。

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 ・『最期の祈り』“Extremis”(米/25分) 監督:ダン・クラウス(Dan Krauss)
 終末期医療の現場。オークランドのハイランド病院で、患者やその家族と身近に接する医師や看護婦たちは、日常的に、人生の終わりを決定する倫理的決断の瞬間に立ち会う。
 “The Life of Kevin Carter”が米国アカデミー賞2006 短編ドキュメンタリー賞にノミネートされているダン・クラウスの最新作。
 トライベッカ映画祭2016 最優秀短編ドキュメンタリー賞受賞。
 サンフランシスコ国際映画祭2016 最優秀ベイエリア短編ドキュメンタリー賞受賞。
 シェフィールド国際ドキュメンタリー映画祭2016短編ドキュメンタリー部門出品。

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 ・“4.1 Miles”(米/22分) 監督:Daphne Matziaraki(カリフォルニア大学バークレー校)
 ヨーロッパでは、第二次世界大戦以来、最大の難民危機に直面している。Kyriakosは、トルコ本土から4.1マイル離れたギリシア領の島レスボス島で海岸警備隊長をしている。彼と10人の同僚は、これまで危険を冒して海を渡ってきた何百人という難民の救出に当たっている。ジャーナリストのDaphne Matziarakiは、2015年10月28日に、Kyriakosの仕事に同行し、悪夢のような現実を目の当たりにする。
 学生アカデミー賞2016 ドキュメンタリー部門金賞受賞。
 アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭2016 パノラマ部門出品。

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 ・“Joe’s Violin”(米/24分) 監督:Kahane Cooperman
 Joseph Feingoldは、ワルシャワに生まれ、戦争中はシベリアで強制収容所生活を送った。母と弟は殺されたが、父と兄とは再会し、1948年にアメリカにやってきた。現在は91歳で、建築家としての仕事も引退している。彼には、人生の70年を一緒に過ごしたバイオリンがあったが、眠っている楽器を再利用させるための組織WORXのことを知り、そこに寄付する。バイオリンは、アメリカの中でも貧しい移民が多く住むブロンクスの小学校へと運ばれて行き、12歳のドミニカ人少女Briannaの手に渡る。フィルムメイカーのKahane Coopermanは、10年以上にわたって“The Daily Show”のプロデューサーのために仕事をしてきて、Amazonの“The New Yorker Presents”の第一シーズンを手がけることになって、Briannaの許にやってきたバイオリンに目をつける。彼女は、Joseph Feingoldを捜し出すことに成功する。そして、Josephの物語とBriannaの物語を結びつける。
 Kahane Coopermanは、“The Daily Show”を通じて11回のプライムタイム・エミー賞に輝く実力派のドキュメンタリー作家。
 トライベッカ映画祭2016出品。
 モントクレア映画祭2016 観客賞受賞。
 DocAviv/テルアビブ国際ドキュメンタリー映画祭2016出品。
 ナンタケット映画祭2016 観客賞受賞。
 ミルウォーキー映画祭2016 観客賞受賞。
 *本編動画:https://www.youtube.com/watch?v=8D5h_Y8N4tg

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 ・“The Other Side of Home”(米/40分) 監督:Nare Mkrtchyan
 1915年、オスマントルコによって150万人のアルメニア人が殺された。2015年、Mayaというトルコ人女性が、自分の曾祖母がアルメニア人大虐殺の生き残りであったことを知る。彼女は、自分の中を流れる相反する2つの血について考える。加害者の血と、被害者の血と。彼女は、アルメニアに飛び、大虐殺から100周年のイベントに参加し、自分のアイデンティティーを探求する。

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 現時点で、上記10の作品に関して、情報にかなりの差があります。
 以下の3作品に関しては、まだIMDbにタイトルすら載っていなかったりします。
 ・“Watani: My Homeland”
 ・“Close Ties(Więzi)”
 ・“4.1 Miles”

 その一方で、“Frame 394”と“Joe’s Violin”は、ネットに動画本編がアップロードされていて無料で視聴可能で、『ホワイト・ヘルメット -シリアの民間防衛隊-』と『最期の祈り』は、Netflixで配信されて、日本語でも視聴できるようになっています。

 そうした情報の差を踏まえた上で、個々の作品を見ていくと―
 最終的にはどうなるかわからないとはいえ、現時点では、『ホワイト・ヘルメット -シリアの民間防衛隊-』が他を圧倒しているように見えます。Netflixが強力に後押ししているということもありますが、ネット上での評判もよく、
 ・トロントとハンプトンズで受賞を重ね
 ・監督が、過去に米国アカデミー賞のノミネートを経験している
 ことも、好材料になっています。

 短編ドキュメンタリー賞部門は、授賞式直前になっても本命がはっきりせず、どの作品が受賞しても、まあそんなものかと思うくらいのものだったりしますが、本年度は(今後の流れによって左右されることがあるにせよ)『ホワイト・ヘルメット -シリアの民間防衛隊-』でほぼ決まりではないでしょうか。

 なので、ノミネーションの残りの4作品は、ただの数合わせみたいになってしまいますが、次に有望なのが、観客賞の受賞を重ねている
 ・“Joe’s Violin”
 それから、若い世代に希望を与えるためにも、学生アカデミー賞作品をノミネートするということも十分に考えられ、しかも世界的な関心事である難民問題を扱っているので、
 ・“4.1 Miles”
 も有望ということになります。
 ・『最期の祈り』
 も米国アカデミー賞ノミネート経験者の監督作品ですが、そうするとNetflix作品が2本になってしまいます。果たして米国アカデミーがそういうチョイスをするかどうか。
 あとはまあ何でもよさそうですが、米国アカデミーが好みそうなのは“The Mute’s House(Beit Ha'Ilemet)”あたりでしょうか。

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 *当ブログ記事

 ・学生アカデミー賞2016 受賞結果:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201609/article_30.html

 ・米国アカデミー賞2016 短編ドキュメンタリー賞 ショートリスト:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201510/article_28.html

 ・米国アカデミー賞2015 短編ドキュメンタリー賞 ショートリスト:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201410/article_15.html

 ・米国アカデミー賞2014 短編ドキュメンタリー賞 ショートリスト:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201310/article_23.html

 ・米国アカデミー賞2013 短編ドキュメンタリー賞 ショートリスト:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201210/article_18.html

 ・米国アカデミー賞2012 短編ドキュメンタリー賞 ショートリスト:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201111/article_11.html

 ・米国アカデミー賞2011 短編ドキュメンタリー賞 ショートリスト:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201010/article_25.html

 ・米国アカデミー賞2010 短編ドキュメンタリー賞 ショートリスト:http://umikarahajimaru.at.webry.info/200910/article_8.html

 ・米国アカデミー賞2017 外国語映画賞 各国代表作品リスト その1(アイスランド~オーストラリア):http://umikarahajimaru.at.webry.info/201608/article_6.html
 ・米国アカデミー賞2017 外国語映画賞 各国代表作品リスト その2(オーストリア~スロヴァキア):http://umikarahajimaru.at.webry.info/201609/article_10.html
 ・米国アカデミー賞2017 外国語映画賞 各国代表作品リスト その3(スロヴェニア~パレスチナ):http://umikarahajimaru.at.webry.info/201609/article_22.html
 ・米国アカデミー賞2017 外国語映画賞 各国代表作品リスト その4(ハンガリー~メキシコ):http://umikarahajimaru.at.webry.info/201609/article_29.html
 ・米国アカデミー賞2017 外国語映画賞 各国代表作品リスト その5(モロッコ~ロシア):http://umikarahajimaru.at.webry.info/201609/article_36.html
 ・完全ガイド!米国アカデミー賞2017 外国語映画賞 各国代表作品:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201610/article_23.html

 ・映画賞&映画祭カレンダー 2016年6月~11月:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201606/article_2.html

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