マーティン・スコセッシが選ぶ、すべてのフィルムメーカーが観るべき39本の外国映画

 若きフィルムメーカーのColin Levyは、高校生時代に5分の短編映画を作り、ニューヨークの短編映画のコンテストに応募して入賞し、マーティン・スコセッシに会う機会を得た。

 Colin Levyは、それまでスコセッシの作品をほとんど観たことがなく、映画についてもあまり知らなかった。そこで、大胆にも(?)「ぼくは、映画史も外国映画もほとんど知りません。これから始めるに当たって、アドバイスをいただけますか」とスコセッシに質問する。

 数か月後、Colin Levyの許に、数冊の本とDVD(『マーティン・スコセッシ 私のアメリカ映画旅行』を含む)と39本の外国映画のタイトルが載ったリストが届く。(リストにはスコセッシのアシスタントによる直筆のメッセージが添えられている。)

 感激したColin Levyは、リストに載ったすべての映画を観て、「ありがとうございました。あなたが教えてくれた映画を観て、ぼくの人生は変わりました」とお礼状を出したかったところだけれど、そう思っていただけで、ずるずると時が流れる。

 Colin Levyがスコセッシに会ったのが2006年のことで、あっという間に6年の月日が過ぎる。残念ながら、リストの映画もまだ数本しか観ていない。
 ところが、リストに載っていたアベル・ガンスの6時間の大作『ナポレオン』を観て、スコセッシのこと、リストのこと、『ナポレオン』のことをツイートしたところ(2012年3月25日)、大きな反響があり、これまでのことをブログに書く決心をする(2012年3月27日)。

 *THE ONLINE PORTFOLIO OF COLINLEVY:http://www.colinlevy.com/blog/martin-scorseses-list

 それから4年半。Colin Levyの映画生活やスコセッシとの関係がどうなったかはわからないけれど、今になって、このエピソードとリストをNo Film Schoolというサイトが紹介し(2016年10月3日)、それをレインダンス映画祭のfacebookがピックアップする(2016年10月6日)。

 *No Film School:http://nofilmschool.com/2016/09/martin-scorsese-foreign-film-list

 *レインダンス映画祭:https://www.facebook.com/RaindanceFilmFestLondon/posts/10154600587807803

 というわけで、10年前にスコセッシが高校生の映画監督に贈った映画のリストが、めぐりめぐって、日本に住む私の目にも触れることになりました。

 以下が、そのリストになります。

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 【マーティン・スコセッシが選ぶ、すべてのフィルムメーカーが観るべき39本の外国映画】“Martin Scorsese's List of 39 Foreign Films Every Filmmaker Should See”

 1.『メトロポリス』“Metropolis”(1926/独) 監督:フリッツ・ラング
 2.『吸血鬼ノスフェラトゥ』“Nosferatu”(1922/独) 監督:F・W・ムルナウ
 3.『ドクトル・マブゼ』“Dr. Mabuse, The Gambler”(1922/独) 監督:フリッツ・ラング
 4.『ナポレオン』“Napoleon”(1934/仏) 監督:アベル・ガンス
 5.『大いなる幻影』“Grand Illusion”(1937/仏) 監督:ジャン・ルノワール
 6.『ゲームの規則』“The Rules of the Game”(1939/仏) 監督:ジャン・ルノワール
 7.『天井桟敷の人々』“Children of Paradise”(1945/仏) 監督:マルセル・カルネ
 8.『無防備都市』“Rome, Open City”(1945/伊) 監督:ロベール・ロッセリーニ
 9.『戦火のかなた』“Paisan”(1946/伊) 監督:ロベール・ロッセリーニ
 10.『揺れる大地』“La Terra Trema”(1948/伊) 監督:ルキノ・ヴィスコンティ
 11.『自転車泥棒』“The Bicycle Thief”(1948/伊) 監督:ヴィットリオ・デ・シーカ
 12.『ウンベルトD』“Umberto D”(1951/伊) 監督:ヴィットリオ・デ・シーカ
 13.『美女と野獣』“Beauty and the Beast”(1946/仏) 監督:ジャン・コクトー
 14.『東京物語』“Tokyo Story”(1953/日) 監督:小津安二郎
 15.『生きる』“Ikiru”(1952/日) 監督:黒澤明
 16.『七人の侍』“Seven Samurai”(1954/日) 監督:黒澤明
 17.『雨月物語』“Ugetsu”(1953/日) 監督:溝口健二
 18.『山椒大夫』“Sansho the Bailiff”(1954/日) 監督:溝口健二
 19.『天国と地獄』“High and Low”(1963/日) 監督:黒澤明
 20.『いつもの見知らぬ男たち』“Big Deal on Madonna Street”(1958/伊) 監督:マリオ・モニチェリ
 21.『若者のすべて』“Rocco and His Brothers”(1960/伊) 監督:ルキノ・ヴィスコンティ
 22.『大人は判ってくれない』“The 400 Blows”(1959/仏) 監督:フランソワ・トリュフォー
 23.『ピアニストを撃て』“Shoot the Piano Player”(1960/仏) 監督:フランソワ・トリュフォー
 24.『勝手にしやがれ』“Breathless”(1959/仏) 監督:ジャン=リュック・ゴダール
 25.『はなればなれに』“Band of Outsiders”(1964/仏) 監督:ジャン=リュック・ゴダール
 26.『追い越し野郎』“Il Sorpasso”(1963/伊) 監督:ディノ・リージ
 27.『情事』“L’avventura”(1960/伊) 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
 28.『欲望』“Blow-Up”(1966/英・伊) 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
 29.『革命前夜』“Before the Revolution”(1964/伊) 監督:ベルナルド・ベルトルッチ
 30.『肉屋』“Le Boucher”(1969/仏) 監督:クロード・シャブロル
 31.『ウイークエンド』“Weekend”(1967/仏・伊) 監督:ジャン=リュック・ゴダール
 32.『絞死刑』“Death by Hanging”(1968/日) 監督:大島渚
 33.『四季を売る男』“The Merchant of Four Seasons”(1971/西独) 監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
 34.『不安は魂を食いつくす』(不安と魂)“Ali: Fear Eats the Soul”(1974/西独) 監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
 35.『マリア・ブラウンの結婚』“The Marriage of Maria Braun”(1979/西独) 監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
 36.『さすらい』“Kings of the Road”(1976/西独) 監督:ヴィム・ヴェンダース
 37.『アメリカの友人』“The American Friend”(1977/西独・仏) 監督:ヴィム・ヴェンダース
 38.『カスパー・ハウザーの謎』“The Mystery of Kaspar Hauser”(1974/西独) 監督:ヴェルナー・ヘルツォーク
 39.『アギーレ/神の怒り』“Aguirre, The Wrath of God”(1972/西独) 監督:ヴェルナー・ヘルツォーク

画像

 まず、“Martin Scorsese's List of 39 Foreign Films Every Filmmaker Should See”というタイトルですが、これはNo Film Schoolがつけたもので、スコセッシもしくは彼のアシスタントがつけたものではありません。
 アシスタントが書いたのは“This should be a jump start to your film education”(映画の勉強をするならここから始めるといい)というものです。

 スコセッシのオールタイム・ベスト(http://umikarahajimaru.at.webry.info/201208/article_7.html)と重なりつつも、やや趣が違うように感じられるのは、やはり、これから映画を勉強していきたいと考える映画監督志望の青年を意識してのことでしょうか。

 最初にこのリストを見た時は、映画の教科書的で、あまり面白味がないかなという印象だったのですが、「映画の教科書」にしてはけっこうマイナーな作品も混じっています。

 普通だったら、制作年順に並べておきたいところを、そうなってはおらず、そこに何か意味があるのかと思ったりもしたのですが、どうもこのリストは、映画史のムーブメントに沿って作品を書き出していったもので、個々の作品の制作年は、そんなに気にしていないんじゃないかという気がしてきました。

 つまり、このリストは、ドイツ表現主義、戦前のフランス映画、ネオレアリズモ、世界に発見された頃の日本映画、ヌーヴェル・ヴァーグ、ニュー・ジャーマン・シネマ、という風に映画史をたどり、それぞれの参考作品を列挙している、ということになるでしょうか。

 ドイツ表現主義から始めてニュー・ジャーマン・シネマで閉めるところに、スコセッシの遊び心が感じられたり、スコセッシの中では大島渚の『絞死刑』はヌーヴェル・ヴァーグに連なる作品としてとらえられているらしいとわかってきたりもします。

 選ばれている作品を監督ごとに見ていくと、必ずしもその監督の代表作ではなくて、初期の作品だったり、入り口となるような作品だったりもしているようです。

 スコセッシは、ヌーヴェル・ヴァーグ以降は、リアル・タイムで個々の作品を観ているはずで、そう考えると、リアル・タイムで観た映画のセレクションと後から遡って観た映画のセレクションに違いがあるようにも見えてきて、そこも興味深かったりします。(「後から遡って観た映画のセレクション」はほぼ完全に映画の教科書的で、「リアル・タイムで観た映画のセレクション」にはやや教科書的ではないものが含まれています。その辺にスコセッシの好みや自分なりの考えがあったりするのかもしれません。)

 ファスビンダーとヴェンダースは、スコセッシより少し年下で、映画史をたどる作品群の中に自分より年下の監督の作品(というか、自分の監督デビューより後に作られた作品)を入れるのは珍しいという気もしますが、ひょっとするとファスビンダーやヴェンダースはスコセッシとしては同志という意識があるのかもしれません。

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 2006年に高校生だったColin Levyは、10年経って、現在、30歳近くになっているはずです。
 で、今、彼が何をしているかというと、アニメーション業界に入って、ピクサーで『モンスターズ・ユニバーシティ』や『インサイド・ヘッド』、『ファインディング・ドリー』でレイアウト・アーティストとして活躍しています。
 並行して、いくつかの短編(実写作品)も発表して、賞を受賞したりもしているようです。

 スコセッシのリストが、今の仕事に役に立っているかどうかはわかりませんが、まあ、映画を仕事にしていくというのであれば、観ておいて損はありませんよね。

 *IMDb:http://www.imdb.com/name/nm3237700/?ref_=fn_al_nm_1

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 *当ブログ記事

 ・マーティン・スコセッシが選ぶ、ポーランド映画傑作選 21作品!:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201406/article_8.html

 ・20組の監督が選んだオールタイム・ベスト(2012年版)! “Sight & Sound”誌より:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201208/article_7.html

 ・祝福とオマージュが凄い! リュミエール賞2015 for マーティン・スコセッシ!:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201510/article_22.html

 ・ロジャー・エバート トリビュート/ゴールデン・サム賞(Golden Thumb):http://umikarahajimaru.at.webry.info/201510/article_22.html

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