米国アカデミー賞2016 長編ドキュメンタリー賞エントリー作品 124作品 考察!

画像


 1.キャリア組
 第88回米国アカデミー賞 長編ドキュメンタリー賞のエントリー作品124作品の特徴は、まず何と言っても、過去に米国アカデミー賞にノミネートされたか、受賞したことのある監督が非常に多いことです。
 過去に米国アカデミー賞にノミネートされたか、受賞したことのある監督は、米国アカデミー賞にノミネートされやすいという傾向がありますが、もしこれらの監督の作品がすべて取り上げられたら、それだけでショートリストがいっぱいになってしまいます。

 ・過去に長編ドキュメンタリー賞を受賞したことがある監督:6人
 モーガン・ネヴィル、ルイ・シホヨス、アレックス・ギブニー、デイヴィス・グッゲンハイム、マイケル・ムーア、リチャード・トランク

 ・過去に長編ドキュメンタリー賞にノミネートされたことがある監督:6人
 ジョシュア・オッペンハイマー、カービー・ディック、エイミー・バーグ、フーベルト・ザウパー、William Gazecki、ビル・グッテンタグ

 ・過去に短編ドキュメンタリー賞を受賞したことがある監督:2人
 ダニエル・ユンゲ、ビル・グッテンタグ

 ・過去に短編ドキュメンタリー賞にノミネートされたことがある監督:3人
 Oren Jacoby、サンディー・マクリード、アルバート・メイスルズ

 ・過去にドキュメンタリー部門以外で米国アカデミー賞にノミネートされたことがある監督:2人
 イーサン・ホーク、デブラ・グラニック

 チェックもれがあるかもしれませんが、こんなに受賞経験者や過去のノミニーが多い年はないような気がしますね。過去25年間で、それぞれの年にノミネートを受けた監督のうちの少なくとも誰かひとりが本年度に新作を送り込んできたような勘定になります。

 2.俳優の監督作品
 本年度は、俳優によるドキュメンタリー作品もいくつかエントリーされています。
 アカデミー賞は、俳優出身の監督作品に対して、比較的好意的なことで知られていますが、ドキュメンタリーの場合はどうでしょうか。
 ・“All Things Must Pass : The Rise and Fall of Tower Records”(米・日) 監督:コリン・ハンクス
 ・“Misery Loves Comedy”(米) 監督:ケヴィン・ポラック
 ・“Seymour: An Introduction”(米) 監督:イーサン・ホーク

 3.遺作
 本年度は、ドキュメンタリー作家の「遺作」が2本あります。
 ・“Iris”(米) 監督:アルバート・メイスルズ(Albert Maysles)
 ・“One Cut, One Life”(米) 監督:Ed Pincus、Lucia Small

 4.複数の作品のエントリー
 アレックス・ギブニー、エイミー・バーグ、ダニエル・ユンゲがそれぞれ2本ずつ作品をエントリーさせてきています。

 5.連続エントリー
 アレックス・ギブニー、フレデリック・ワイズマン、レスリー・チルコットは2年連続エントリーです。このうち、わかっているだけで、フレデリック・ワイズマンは3年連続で、アレックス・ギブニーは4年連続で、監督作品を米国アカデミー賞に送り込んでいます。
 アレックス・ギブニーは、現在、アカデミーのドキュメンタリー分科会の理事を務めていますが、だからなのか、2008年以降、ノミネートまで進んだ作品がありません。毎年、これだけエントリーさせているところを見ると、理事だから内々にノミネートを辞退しているということもなさそうですが、本年度はどうでしょうか。

 6.サンダンス・プレミア作品
 サンダンス映画祭プレミア作品は、毎年、ドキュメンタリー部門の非常に大きな部分を占めることになっていますが、本年度は、USドキュメンタリー部門16作品中11作品がエントリーされ、ワールド・ドキュメンタリー部門12作品中7作品がエントリーされています。
 米国アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞部門は、外国語映画が選ばれることが少ないのですが、そういう傾向性を知ってか知らずか、ワールド・ドキュメンタリー部門からエントリーされている作品は、製作にイギリスかアメリカが入っている作品(すなわち英語作品)ばかりです。
 プレミアという視点で言えば、米国アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞部門の3分の2以上が、サンダンス映画祭、トライベッカ映画祭、トロント国際映画祭の3つの映画祭でプレミア上映された作品であると言ってもいいかと思います。

 7.映画にまつわるドキュメンタリー
 米国アカデミー賞では、音楽ドキュメンタリーが強かったりしますが、それに対して、映画にまつわるドキュメンタリーは、退けられる傾向があるように思います。昨年度も本命視された“Life Itself”がノミネートもされないという結果に終わりましたし、『ホドロフスキーのDUNE』もショートリストまでは行きながら、ノミネートへと進むことはできませんでした。『物語る私たち』も有力視されながら、ノミネートされなかったことで、「サプライズ」と見なされました。
 本年度は、ヒッチコック/トリュフォー、イングリット・バーグマン、マーロン・ブランド、ウスマン・センベーヌ、スティーヴ・マックィーンなどを題材としたドキュメンタリーがありますが、果たしてどれか1本でもノミネートまでたどり着くことができるでしょうか。

 8.『ルック・オブ・サイレンス』
 本年度のエントリー作品の中で、最も多くの受賞歴を有しているのは、まず間違いなく、『ルック・オブ・サイレンス』です。
 最も評価を得た作品が米国アカデミー賞を受賞するなら、『ルック・オブ・サイレンス』が長編ドキュメンタリー賞の最有力候補となります。
 しかし、ああいった作品に抵抗がある人も少なくないと見られ、2年前に『アクト・オブ・キリング』が大本命だったのに、土壇場で『バックコーラスの歌姫たち』にひっくり返されたのは、そういう心情が原因だったのではないかと私は考えています。
 とすると、本年度は、本命でありながら、やはり米国アカデミー賞では多数派を確保できないか、それとも、2年前の雪辱戦あるいは反省や同情からジョシュア・オッペンハイマーに票が集まるのかどうか。
 いずれにしても、本年度の長編ドキュメンタリー賞部門の軸となるのは、『ルック・オブ・サイレンス』ということになります。『ルック・オブ・サイレンス』か、そうでなければどの作品か。
 前哨戦で最多受賞を果たしながら、最後に“Amy”あたりに持っていかれると、2年前と全く同じ展開になりますね。

--------------------------------

 【下馬評】

 ◆IndieWireの予想(10月18日時点)
 ・http://www.indiewire.com/article/2016-oscar-predictions-best-documentary-feature-20150929

 〈ノミネート予想5作品〉(The Predicted Five)
 1.“Amy”(英) 監督:アシフ・カパディア(Asif Kapadia)
 2.“The Hunting Ground”(米) 監督:カービー・ディック(Kirby Dick)
 3.『ルック・オブ・サイレンス』(インドネシア・英・デンマーク・フィンランド・ノルウェー) 監督:ジョシュア・オッペンハイマー
 4.“Cartel Land”(米) 監督:Matthew Heineman
 5.『The Wolfpack』“The Wolfpack”(米) 監督:クリスタル・モーゼル(Crystal Moselle)

 〈その次の候補群〉(The Next Tier)
 6.“Where to Invade Next”(米) 監督:マイケル・ムーア
 7.“Best of Enemies”(米) 監督:モーガン・ネヴィル、Robert Gordon
 8.『マーロン・ブランドの肉声』“Listen to Me Marlon”(英) 監督:スティーヴン・ライリー(Stevan Riley)
 9.“Going Clear: Scientology and the Prison of Belief”(米) 監督:アレックス・ギブニー
 10.“Iris”(米) 監督:アルバート・メイスルズ(Albert Maysles)
 11.『わたしはマララ』“He Named Me Malala”(米) 監督:デイヴィス・グッゲンハイム

 〈さらなる混戦予備群〉Also Definitely In This Crowded Race
 12.“Stray Dog”(米) 監督:デブラ・グラニック(Debra Granik)
 13.“Heart of a Dog”(米) 監督:ローリー・アンダーソン
 14.“Meru”(米) 監督:ジミー・チン(Jimmy Chin)、E Chai Vasarhelyi
 15.“Prophet’s Prey”(米) 監督:エイミー・バーグ(Amy Berg)
 16.『COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック』“Kurt Cobain: Montage of Heck”(米) 監督:ブレット・モーガン(Brett Morgen)
 17.“The Black Panthers: Vanguard of the Revolution”(米) 監督:スタンリー・ネルソン・ジュニア(Stanley Nelson)
 18.『ニーナ・シモン 魂の歌』“What Happened, Miss Simone?”(米) 監督:リズ・ガーバス(Liz Garbus)
 19.『ジャクソン・ハイツ』“In Jackson Heights”(米) 監督:フレデリック・ワイズマン
 20.“(T)error”(米) 監督:Lyric R Cabral、David Felix Sutcliffe
 21.『ドリームキャッチャー』“Dreamcatcher”(英・米) 監督:キム・ロンジノット
 22.“Winter on Fire: Ukraine's Fight for Freedom”(英・ウクライナ・米) 監督:エフゲニー・アフィネフスキー(Evgeny Afineevsky)
 23.“Sherpa”(オーストラリア・英) 監督:ジェニファー・ピーダム(Jennifer Peedom)
 24.“Seymour: An Introduction”(米) 監督:イーサン・ホーク
 25.“Sunshine Superman”(米・ノルウェー・英) 監督:Marah Strauch

 ◆the FILM EXPERIENCEの予想(11月1日時点)
 ・http://thefilmexperience.net/animated/

 〈現在のノミネート予想5作品〉Current Predict 5
 ・『ルック・オブ・サイレンス』(インドネシア・英・デンマーク・フィンランド・ノルウェー) 監督:ジョシュア・オッペンハイマー
 ・『真珠のボタン』“The Pearl Button(El botón de nácar)”(チリ・仏・西) 監督:パトリシオ・グスマン(Patricio Guzmán)
 ・“Sherpa”(オーストラリア・英) 監督:ジェニファー・ピーダム(Jennifer Peedom)
 ・“Best of Enemies”(米) 監督:モーガン・ネヴィル、Robert Gordon
 ・“Going Clear: Scientology and the Prison of Belief”(米) 監督:アレックス・ギブニー

 〈第2群:有望作品群〉(Tier 2 – Other Possibilities)
 ・“Where to Invade Next”(米) 監督:マイケル・ムーア
 ・“Stray Dog”(米) 監督:デブラ・グラニック(Debra Granik)
 ・“Amy”(英) 監督:アシフ・カパディア(Asif Kapadia)
 ・“Iris”(米) 監督:アルバート・メイスルズ(Albert Maysles)
 דMiss Sharon Jones!”(米) 監督:バーバラ・コップル

 〈第3群:ショートリスト入りするかもしれない候補〉(Tier 3 - Will they make the finalist list?)
 ・“Meru”(米) 監督:ジミー・チン(Jimmy Chin)、E Chai Vasarhelyi
 ・“The Russian Woodpecker”(英) 監督:Chad Gracia
 ・“Janis: Little Girl Blue”(米) 監督:エイミー・バーグ(Amy Berg)
 ・“Heart of a Dog”(米) 監督:ローリー・アンダーソン
 ・『The Wolfpack』“The Wolfpack”(米) 監督:クリスタル・モーゼル(Crystal Moselle)

 ◆Awards Dailyの予想(11月11日現在)

 ・“Amy”(英) 監督:アシフ・カパディア(Asif Kapadia)
 ・『わたしはマララ』“He Named Me Malala”(米) 監督:デイヴィス・グッゲンハイム
 ・“Going Clear: Scientology and the Prison of Belief”(米) 監督:アレックス・ギブニー
 ・“Meru”(米) 監督:ジミー・チン(Jimmy Chin)、E Chai Vasarhelyi
 ・『ニーナ・シモン 魂の歌』“What Happened, Miss Simone?”(米) 監督:リズ・ガーバス(Liz Garbus)
 דTime to Choose”(米) 監督:チャールズ・ファーガソン
 ・『ルック・オブ・サイレンス』(インドネシア・英・デンマーク・フィンランド・ノルウェー) 監督:ジョシュア・オッペンハイマー
 ・“A Brave Heart: The Lizzie Velasquez Story”(米) 監督:Sara Hirsh Bordo
 ・“Cartel Land”(米) 監督:Matthew Heineman
 ・『The Wolfpack』“The Wolfpack”(米) 監督:クリスタル・モーゼル(Crystal Moselle)
 ・“Iris”(米) 監督:アルバート・メイスルズ(Albert Maysles)

--------------------------------

 【ノミネート予想】

 本命は―
 ・『ルック・オブ・サイレンス』(インドネシア・英・デンマーク・フィンランド・ノルウェー) 監督:ジョシュア・オッペンハイマー

 対抗は―
 ・“Amy”(英) 監督:アシフ・カパディア(Asif Kapadia)

 ここまではノミネートは当確だと思いますが、ここで“Amy”を選んでしまうと、もう他の音楽ドキュメンタリーは入らなくなります(少なくともノミネーションには)。

 あとは
 メイスルズへ敬意を表して
 ・“Iris”(米) 監督:アルバート・メイスルズ(Albert Maysles)

 サンダンス受賞作から
 ・“The Russian Woodpecker”(英) 監督:Chad Gracia
 ・“Meru”(米) 監督:ジミー・チン(Jimmy Chin)、E Chai Vasarhelyi
 ・“How To Change The World”(英・カナダ) 監督:Jerry Rothwell

 かつて『ビルマVJ』がノミネートされたのと同じような感覚で
 ・“Frame By Frame”(米) 監督:Mo Scarpelli、Alexandria Bombach

 告発ものとして
 ・“(T)error”(米) 監督:Lyric R Cabral、David Felix Sutcliffe

 戦争、内紛を題材としたドキュメンタリーから
 ・“Winter on Fire: Ukraine's Fight for Freedom”(英・ウクライナ・米) 監督:エフゲニー・アフィネフスキー(Evgeny Afineevsky)

 そのほかは、評判から判断して
 ・『真珠のボタン』“The Pearl Button(El botón de nácar)”(チリ・仏・西) 監督:パトリシオ・グスマン(Patricio Guzmán)
 ・“Sherpa”(オーストラリア・英) 監督:ジェニファー・ピーダム(Jennifer Peedom)
 ・“Cartel Land”(米) 監督:Matthew Heineman
 ・“Seymour: An Introduction”(米) 監督:イーサン・ホーク
 ・“Stray Dog”(米) 監督:デブラ・グラニック(Debra Granik)
 ・“We Come as Friends”(仏・オーストリア) 監督:フーベルト・ザウパー
 ・“Welcome to Leith”(米) 監督:Michael Beach Nichols、Christopher K. Walker

 あまり内容まで踏み込まずに、ほぼ受賞歴をベースにした予想ですが、一応、12月上旬に発表されるショートリスト15作品を想定してピックアップしてみました。
 15本中10本当たれば、まあ悪くない予想と言えるでしょうか。

 『ルック・オブ・サイレンス』と“Amy”との対決は、既にヨーロッパ映画賞から始まっています。

--------------------------------

 *この記事がなかなか参考になった!と思ったら、人気ブログランキングにクリックをお願いします。
 ↓ ↓ ↓ ↓
 
 ↑ ↑ ↑ ↑
 クリックしてね!

 *当ブログ記事

 ・米国アカデミー賞2016 長編ドキュメンタリー賞エントリー作品124作品リスト::http://umikarahajimaru.at.webry.info/201511/article_11.html

 ・米国アカデミー賞2015 長編ドキュメンタリー賞エントリー作品134作品リスト:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201411/article_14.html
 ・米国アカデミー賞2015 長編ドキュメンタリー賞エントリー作品解説:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201411/article_15.html

 ・米国アカデミー賞2014 長編ドキュメンタリー賞エントリー作品151作品:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201311/article_1.html

 ・米国アカデミー賞2015 長編ドキュメンタリー賞ショートリスト:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201412/article_5.html
 ・米国アカデミー賞2014 長編ドキュメンタリー賞ショートリスト:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201312/article_8.html
 ・米国アカデミー賞2013 長編ドキュメンタリー賞ショートリスト:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201212/article_9.html
 ・米国アカデミー賞2012 長編ドキュメンタリー賞ショートリスト:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201111/article_18.html
 ・米国アカデミー賞2011 長編ドキュメンタリー賞ショートリスト:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201011/article_29.html
 ・米国アカデミー賞2010 長編ドキュメンタリー賞ショートリスト:http://umikarahajimaru.at.webry.info/200911/article_31.html
 ・米国アカデミー賞2009 長編ドキュメンタリー賞ショートリスト:http://umikarahajimaru.at.webry.info/200811/article_11.html

 ・ヨーロッパ映画賞2015 ドキュメンタリー賞ノミネーション:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201510/article_21.html

 ・HotDocsカナディアン国際ドキュメンタリー映画祭2015 受賞結果: http://umikarahajimaru.at.webry.info/201505/article_4.html

 ・米国アカデミー賞2016 短編アニメーション賞 ロングリスト:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201511/article_10.html

 ・米国アカデミー賞2016 長編アニメーション賞 エントリー作品:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201511/article_7.html

 ・米国アカデミー賞2016 短編ドキュメンタリー賞ショートリスト:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201510/article_28.html

 ・映画賞&映画祭カレンダー 2015年9月~2016年2月:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201509/article_2.html

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック