【拡散希望】 自由、または、ジャファール・パナヒのために! 35秒の奇跡!

 オタワ国際アニメーションフェスティバル2013のラインナップの中に見つけた作品“1/3/10”。

 監督ジョルジュ・シュヴィツゲベルは大好きなアニメーション作家で、“1/3/10”というタイトルを目にしたのは初めてだったので、調べてみたら、ネットで動画を視聴できることがわかりました。

 動画を直接ここに貼り付けることができたらよかったんですが、そうはなっていないので、ここでは、その動画が載っているページを記しておきます。

 35秒の作品だし、台詞もないので、まずは、気軽にご覧ください。

 *Vitheque:http://www.vitheque.com/Fichetitre/tabid/190/language/en-US/Default.aspx?id=2055

画像

 【物語】

 「1/3/10」と書かれたカチンコが鳴らされる。
 上にハンディーカメラを向けていた人物(ディレクターズ・チェアからジャファール・パナヒ監督であることがわかる)が、カメラを正面に向けると、映像がモノクロになると同時に、ヨコに走る走査線が強調されてくる。
 画面がアップになるとともに、90度左に回転。走査線の線は、牢獄の鉄格子を思わせる太い線に変容する。と同時に、収監をイメージさせる「ドン」という衝撃音。
 格子は、再び右に90度回転し、緑色のエスカレーターにオーバーラップする。
 エスカレーターは、左が「下り」、右が「上り」で並んでいて、パナヒらしき人物が右の「上り」に乗っているのが見えたと思うと、映像がさらに右に90度回転して、彼は「下り」になり、エスカレーターを降りて、仲間たちの元へ歩みよる。
 パナヒと仲間たちのシルエットが、クレーンに乗るパナヒの姿に変わる。
 黒地に白抜きの文字で「FREE JAFAR PANAHI」「LIBÊREZ JAFAR PANAHI」(ジャファール・パナニを解放せよ)。

 【コメント】

 ジョルジュ・シュヴィツゲベル作品の特徴の1つであるメタモルフォーゼが、3回あり(走査線→鉄格子→エスカレーター、仲間たち→クレーンに乗る監督)、まずは、そこが目を惹きます。
 ですが、たぶん、この作品のキモは、そこではなくて、エスカレーターを90度回転させるところです。
 「90度回転」させなくても、映像(物語)はつながりますが、あえて「90度回転」させるシーンを入れたのは、向こうへと行きかけたパナヒを、逆回転させて、こちらに戻って来させる、という意味合いを、ここに入れたかったのだろうと考えられるからです。
 付け加えるなら、最初に、パナヒを収監させるのには、左へ90度回転させ、仲間たちの元へ戻ってこさせるのには、右へ90度回転させています。これから考えても、「流れを戻す」「パナヒを戻って来させる」ということを、シュヴィツゲベルが意識し、物語上でも、見せ方でも、この作品の中に盛り込もうとしたのは明らかです。

 初見では、短いし、ちょっと物足りない気もしましたが、繰り返し見ると、短いながらも、実によくできています。

 ジョルジュ・シュヴィツゲベルは、映像で遊ぶアニメーション作家だという印象がありましたが、持てるテクニックを使ってこういうメッセージ性のある作品も作れるのですね。

 なお、タイトルの「1/3/10」は、ジャファール・パナヒがイラン当局により自宅で拘束された2010年3月10日のことです。
 カチンコには、シーン、テイク、ナンバーを書くようになっているので、タイトルの3つの数字の並びをそれに似たものと見なして、カチンコに記したのでしょう。

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 【プロジェクトについて】

 この作品は、「Libérez Jafar Pahani」(ジャファール・パナヒを解放せよ)というプロジェクトの1つとして製作されています。

 「Libérez Jafar Pahani」を企画したのは、Marcel JeanというスイスのプロデューサーとGalilé Maron-Galvinというカナダのプロデューサーです。
 彼らは、2011年10月に、ジャファール・パナヒに、6年の禁固刑と20年間の映画制作と旅行とインタビューを受けることを禁じた判決を出されたことを知り、これに抗議すべく、ジャファール・パナヒの解放を訴える作品を作ることを思いついたと語っています。

 プロジェクトを立ち上げ、フィルムメーカーたちに声をかけるに当たって彼らが考えたのは、ターゲットとするフィルムメーカーとアニメーションと実験映画の2つに絞ることで、そうすることで、あまりにも政治的になってしまうことを避けたかったと言います。

 予算はゼロでしたが、彼らの呼びかけにすぐに反応したフィルムメーカーは、約10人いて、現在までに「1/3/10」を含む5つの作品が発表され、それらは、Vithequeで無料公開されています。(「1/3/10」は、モントリオールで2012年11月に開催されたSommets du cinéma d’animation de Montréalで初披露されています。)

 残る4作品は、以下の通り。

 ・“Joda” 監督:セオドア・ウシェフ
 ・“La Cage” 監督:Pierre Hébert
 ・“Liberté de parole” 監督:Steven Woloshen
 ・“Des femmes libres” 監督:Francis Desharnais

 * Vitheque:http://vitheque.com/Lib%C3%83%C2%A9rezJafarPanahi/tabid/412/language/fr-CA/Default.aspx

 それぞれの作品が、それぞれにユニークで、しかも実験的な作品ですが、パナヒが映画の現場に戻って、映画を撮影することへの願いまでを描いたのは、ジョルジュ・シュヴィツゲベルだけです。

 なお、プロデューサーのMarcel Jeanは、ジョルジュ・シュヴィツゲベルの『顔をなくした男』や『技』の製作を手がけたプロデューサーでもあります。

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 【監督について】

 ジョルジュ・シュヴィッツゲベル(Geroges Schwizgebel)
 スイスを代表するアニメーション作家&グラフィック・デザイナー。

 音楽にシンクロさせた、メタモルフォーズと、カメラの移動や回り込み、そしてそれらを使って次々とパラダイムをシフトさせて、観る者に驚きの視覚体験を与える、一連の作品を発表。

 ジョルジュ・シュヴィツゲベルは、「視覚表現」と「物語を語ること」の2つの間をずっと行ったり来たりしている映像作家で、『破滅への歩み』(1992)、『少女と雲』(2001)、『影のない男』(2004)では視覚表現を物語に奉仕させる方に傾いていたかと思うと、『ジグザグ』(1996)、『フーガ』(1998)、『技』(2006)ではまた視覚的なテクニックに戯れる方に回帰しています。
 そうした2つの間を揺れ動く間に、『鹿の一年』のように、ただ物語だけで、普通に見せてしまえる作品も作っています。

 オープニング・タイトルやクレジット、あるいは、カウントダウンから、アニメーションをスタートさせることも多い。

 【バイオグラフィー】

 1944年 スイスのベルン生まれ。1951年にジュネーブに移る。
 1961年 ジュネーブのArt School and College of Decorative Artsに入学(~1965年)
 在学中にアヌシー国際アニメーションフェスティバルに参加し、アニメーションに興味を持つ。
 1966年 ジュネーブの広告代理店に入社(~1970年)
 1970年 独立して、Claude Luyet 、Daniel Suter とともにGDS Studio を設立し、テレビ番組のタイトルやポスター、広告イラスト、短編アニメーション等を手がける。
 1974年 『イカロスの飛翔』を発表。世界中の映画祭で上映され、注目を浴びる。
 1983-1984年 中国語を学ぶために1年間、上海の復旦大学で学ぶ。
 1986年 スイスのビュルにあるGruyerien美術館で GDS Studioの展覧会開催。
 1987年 Nürenbergで回顧展開催。
 1992年 ジュネーブで舞台“Children's King”のためのセットを手がける。
 ジュネーブの Building-House のためにフレスコ画を手がける。
 1994年 シュツットガルトで展覧会&回顧展開催。
 1995年 東京と大阪とパリで回顧展開催。
 ジュネーブのギャラリーPapiers Grasで展覧会開催。
 1996年 ジュネーブのJardin BotaniqueとギャラリーPapiers Grasで展覧会開催。
 2013年 東京藝術大学大学院映像研究科の招聘で来日し、コンテンポラリーアニメーション入門第14回講座の講師を務める。

 【フィルモグラフィー】

 ・1971年“Patchwork ” *カンヌ国際映画祭 短編部門ノミネート
 ・1974年 『イカロスの飛翔』 “Le Vol d'lcare”
 ・1975年 『遠近法』 “Perspectives”
 ・1977年 『オフサイド』 “Hors-jeu”
 ・1982年 『フランケンシュタインの恍惚』 “Le Ravissement de Frank N. Stein” *ベルリン国際映画祭C.I.D.A.L.C. Award名誉賞受賞。
 ・1985年 『78回転』 “78 Tours”
 ・1986年 『ナクーニン』 “Nakounine”
 ・1987年“Academy Leader Variations” *カンヌ国際映画祭審査員賞受賞。
 ・1989年 『絵画の主題』 “Le Sujet du tableau”
 ・1992年 『破滅への歩み』(『深遠への旅』) “La Course à l'abîme” *広島国際アニメーションフェスティバル 5分以内の作品部門2位。
 ・1995年 『鹿の一年』 L' Année du daim(The Year of the Deer)” *ザグレブ国際アニメーションフェスティバルCategory A - 30 Sec. to 5 Min First Prize受賞。
 ・1996年 『ジグザグ』 “Zig Zag”
 ・1998年 『フーガ』 “Fugue” *オタワ国際アニメーションフェスティバルBest Use of Colour Craft Prizes受賞、スイス映画賞最優秀短編賞ノミネート、ザグレブ国際アニメーションフェスティバルSpecial Recognition受賞。
 ・2001年 『少女と雲』 “La Jeune fille et les nuages(The Young Girl and the Clouds)” *スイス映画賞短編映画部門受賞、ザグレブ国際アニメーションフェスティバルSpecial Recognition受賞、広島国際アニメーションフェスティバル優秀賞受賞。
 ・ 2004年 『影のない男』 “L' Homme sans ombre(The Man with No Shadow)” *カンヌ国際映画祭 短編部門Prix Regards Jeune受賞、ジニー賞短編アニメーション部門ノミネート、スイス映画賞最優秀短編賞ノミネート、ザグレブ国際アニメーションフェスティバル審査員特別賞&Jury Award of the Partner Festival Krok 受賞、広島国際アニメーションフェスティバル国際審査員特別賞受賞。
 ・2006年 『技』 “Jeu” *スイス映画賞最優秀短編アニメーション賞ノミネート、広島国際アニメーションフェスティバル国際審査員特別賞受賞。
 この作品は、2008年にアメリカでリリースされた短編アニメーション・コレクションDVDに収録されました(PES、ビル・プリンプトンら、7人のアニメーション作家の作品を収録)。
 ・2008年 『リタッチ』“Retouches”(カナダ・スイス)
 クラクフ映画祭2009出品。
 ザグレブ国際アニメーションフェスティバル2009 コンペティション部門出品。
 アヌシー国際アニメーションフェスティバル2009 短編コンペティション部門出品。
 カナダ・アニメーション・フェスティバル2010にて上映。
 ・2010年 ザグレブ国際アニメーションフェスティバル2010 オープニング・タイトル
 ・2011年 『ロマンス』“Romance”(カナダ・スイス)
 ロカルノ国際映画祭2011出品。
 オタワ国際アニメーションフェスティバル2011 短編コンペティションNarrative部門出品。
 シュツットガルト国際アニメーションフェスティバル2012 インターナショナル・コンペティション部門出品。
 ザグレブ国際アニメーションフェスティバル2012 コンペティション部門出品。審査員特別賞受賞。
 広島国際アニメーションフェスティバル2012出品。
 アヌシー国際アニメーションフェスティバル2013 アウト・オブ・コンペティション部門出品。
 ・2012年 『途中で』“Chemin Faisant”(スイス)
 ロカルノ国際映画祭2012出品。
 アヌシー国際アニメーションフェスティバル2013 短編コンペティション部門出品。
 東京藝術大学大学院映像研究科 コンテンポラリーアニメーション入門2013 第14回講座にて上映。
 ・2012年 “1/3/10”(スイス)
 Sommets du cinéma d’animation de Montréal2012 オープニング短編作品。
 オタワ国際アニメーションフェスティバル短編コンペティション プロモーション部門2013出品。

 *1995年にイメージフォーラムの<Magical View!>というプログラムで、イギリスの映像作家トニー・ヒルの6作品とともに、8作品(『イカロスの飛翔』『遠近法』『オフサイド』『フランケンシュタインの恍惚』『78回転』『絵画の主題』『破滅への歩み』『鹿の一年』)が劇場公開されました。

 *第7回ラピュタアニメーションフェスティバル2006で『イカロスの飛翔』『遠近法』『オフサイド』『フランケンシュタインの恍惚』『78回転』『ナクーニン』『絵画の主題』『破滅への歩み』『鹿の一年』『ジグザグ』『フーガ』『少女と雲』『影のない男』『技』という主だった14作品が<ジョルジュ・シュヴィッツゲベル作品集>として上映されました。
 これに先立って、『技』以外の13作品が『ジョルジュ・シュヴィツゲベル作品集』として2005年に日本でもDVDリリースされています。

 *第10回ラピュタアニメーションフェスティバル2010でも『イカロスの飛翔』から『技』までの14作品が上映されています。

 *参考サイト:THE GALLARY:http://www.awn.com/gallery/schwizgebel/index.html

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 2013年9月15日現在、「1/3/10」のことについて、触れている日本語の記事は、ネット上では全く見当たりませんでした。

 プロジェクトがスタートしてから約2年、「1/3/10」が初披露されてからでも10ヶ月も経っているのに、反応が鈍いですね。

 ジャファール・パナヒの釈放に向けて、世界中の映画人が署名を寄せていた時に、日本の映画人はほとんど動かなかったことを思い出したりもします。

 この動画も、このプロジェクトも、もっと知られていいし、もっと観られてもいいのではないでしょうか。

 この記事を読んで、共感した方は、是非、他の方にも勧めてみてください。

 また、アニメーション作家ジョルジュ・シュヴィツゲベルに興味を持った方がいらしたら、当ブログの記事でもいいし、YouTubeでもいいので、検索して、彼のいろんな作品を観てみてください。当ブログの記事に関しては、リンクが切れていた動画で、貼り直すことができるものは、張り直しておきましたので、よかったら、併せてご覧ください。

 なお、ジョルジュ・シュヴィツゲベルは、まもなく来日して、東京藝術大学で公開講座を行ないます(2013年9月29日)。入場無料。先着90名。インターネットでの中継も行なわれる予定だそうです。

 *公式サイト:http://animation.geidai.ac.jp/ca/

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 *当ブログ記事

 ・オタワ国際アニメーションフェスティバル2013 ラインナップ:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201309/article_25.html

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