2013年を代表するドキュメンタリーはこれだ! AFI Docs 2013 ベスト・オブ・フェスト!

 AFI Docsは、昨年まで10年にわたって開催されていたシルバードックス・ドキュメンタリー映画祭をリニューアルしたもので、アメリカ映画協会(AFI:American Film Institute)が主催のドキュメンタリーの祭典です。

 はっきりしたことはわかりませんが、昨年までシルバードックス・ドキュメンタリー映画祭を共催してきたディカバリー・チャンネルが外れて、代わりにスポンサーとしてAudiが入り、結果として、映画祭としての体制も見直すことになったようです。

 シルバードックス・ドキュメンタリー映画祭との大きな違いは、これまで、国内部門、ワールド部門、短編部門という3部門でコンペティションを行ない、優秀作品に賞を与えてきたのをやめたことで、今回から、賞の発表はなく、ベスト・オブ・フェストを発表するにとどまっています。

 コンペティション部門をなくしたことで、映画祭としてどう変わるのか、あるいは全く変わらないのかはわかりませんが、少なくとも現時点では、アメリカ国内で開催されるドキュメンタリー映画の祭典の最大のものであることには間違いなく、今年も、2013年を代表するドキュメンタリー映画が集まっています。(5日間で上映された作品は、30カ国から応募された53作品です。)

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 【AFI Docs 2013 ベスト・オブ・フェスト】

 ・“After Tiller”(米) 監督:Martha Shane、Lana Wilson
 2009年にジョージ・ティラー医師(Dr. George Tiller)がカンザスのルター派教会で殺害されてから、アメリカで、後期中絶を行なう医師はたった4人になった。4人のうち、男性は2人で、女性が2人である。本作は、嵐の渦中にある彼らの日常に密着し、彼らの医師としての仕事とプライベートをドキュメントする。彼らの考え方は、後期中絶に反対する人にも賛成する人にもちょっと意外なものかもしれない。「後期中絶」という国を二分しかねない問題に関して、焦点を当てた挑戦的で予測不可能なドキュメンタリー。
 初監督作品。
 サンダンス映画祭2013出品。
 サンフランシスコ国際映画祭2013 ゴールデンゲート長編ドキュメンタリー・コンペティション部門出品。

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 ・“American Revolutionary: The Evolution of Grace Lee Boggs”(米) 監督:Grace Lee
 フェミニスト、社会活動家として知られるGrace Lee Boggsに関するドキュメンタリー。ロードアイランドの中流の中国系移民の一家に生まれたGrace Lee Boggsは、1930年代にアメリカのバーナード大学で教育を受け、アメリカ社会の不平等性を痛感する。以後、80年にわたって、彼女は、優れた教育方針と知性により、アメリカ社会の現状を変えることに尽力し、アフリカン・アメリカンの人権運動におけるアイコンになった。97歳になった現在もまだ、彼女は、休むことなく働き、老若男女に教育指導している。
 監督は、韓国系アメリカ人のGrace Lee。
 ロサンゼルス映画祭2013 ドキュメンタリー・コンペティション部門出品。観客賞受賞。

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 ・“Best Kept Secret”(米) 監督:サマンサ・バック(Samantha Buck)
 JFK高校は、ニューワークの荒廃した地区の真ん中にあるパブリックスクールで、自閉症や学習障害を抱える者たちの特別教育に当たっている。Erik、Rahamid、Kareemらは、ここの生徒で、21歳で迎える2012年の春にここを卒業しなければならない。卒業とは、何の支えもない大人の社会に放り出されることを意味し、否応なく、その時は近づいてくる。JFK高校の教師Janet Minoと彼女の教え子たちを1年半にわたって追ったドキュメンタリー。
 女優サマンサ・バックが監督を務めたドキュメンタリーの第2作。

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 ・“The Crash Reel”(米) 監督ルーシー・ウォーカー
 20年にもおよぶフッテージを利用して構成されたスノーボーダーのドキュメンタリー。ケヴィン・ピアス(Kevin Peace)は、スノーボードのチャンピオンで、2010年のバンクーバー・オリンピックでの金メダルを狙っていた。ところが、2009年12月31日、練習中に頭を打って、意識不明になってしまう。彼は、家族の助けもあって、頭への打撃による麻痺から立ち直り、愛するスノーボードの世界への復帰を目指す。しかし、おしゃべりで、ダウン症の兄はこう言う。彼は、リスクを恐れぬプロのスポーツマンだが、再び頭を強打した時、取り返しのつかないことにならないと誰が言えるだろうか。
 サンダンス映画祭2013 ドキュメンタリー・プレミア部門出品。
 ベルリン国際映画祭2013 ベルリンナーレ・スペシャル部門出品。
 SXSW映画祭2013 フェスティバル・フェイバリット。
 モスクワ国際映画祭2013 ドキュメンタリー・コンペティション部門出品。

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 ・“Gideon's Army”(米) 監督:Dawn Porter
 国選弁護人は、長時間拘束され、賃金は安く、件数ばかり多くて、やめてしまう人も多い。しかも、公共に奉仕しながら、あまり省みられることがない。そんな彼らの仕事を明らかにすべく、3人の国選弁護人に密着したドキュメント。
 サンダンス映画祭2013出品。編集賞受賞。

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 ・“God Loves Uganda”(米) 監督:Roger Ross Williams
 アフリカでのキリスト教信者拡大について、その状況をつぶさに調査し、記録したドキュメンタリー。アフリカでは、アメリカのキリスト教右派に根ざした価値観をアフリカに文化に植えつけようと、盛んに福音活動が行なわれている。ウガンダでは、アメリカとウガンダの宗教的指導者が「性的不道徳」について争い、宣教師たちは、ウガンダ人を説いて、キリスト教の掟を教え込もうとしている。
 TVシリーズなどを手がけるRoger Ross Williamsの初監督長編。
 サンダンス映画祭2013出品。
 サンフランシスコ国際映画祭2013 ゴールデンゲート長編ドキュメンタリー・コンペティション部門出品。

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 ・“Let the Fire Burn”(米) 監督:Jason Osder
 フィラデルフィアの貧民層の居住区域を拠点として活動していたMOVEは、人種差別を反対し、アフリカ系アメリカ人の自律を求める急進派の団体で、フィラデルフィア市当局とは、繰り返し対立していた。1985年5月、フィラデルフィア警察は、MOVE本部に向けてヘリコプターから爆弾を落とし、大人6人と子供5人を死亡させ、無関係の近隣の住宅にも重大な被害を出した。その後、大陪審で裁判が行なわれるが、市当局に対しては誰ひとり刑事訴追されることはなかった。Jason Osderは、どちらに対しても公平な立場を取り、近隣住民やMOVEメンバー、市の職員等の証言を収めた裁判の映像や、ニュース映像、ホームムービー、インタビューなどを使って、MOVE組織の不安、地域住民の恐れ、市当局の混乱を明らかにしていく。
 トライベッカ映画祭2013 ワールド・ドキュメンタリー・コンペティション部門出品。編集賞出品。
 サンフランシスコ国際映画祭2013 ゴールデンゲート長編ドキュメンタリー・コンペティション部門出品。

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 ・“Life According to Sam”(米) 監督:ショーン・ファイン(Sean Fine)、アンドレア・ニックス・ファイン(Andrea Nix Fine)
 早老症は、非常に珍しい病気だが、いまのところ治療法は見つかっていない。サムの両親は医者で、早老症にかかった息子のために、そして世界中のこの病気で苦しむ子供たちのために、休みなく、治療と研究を続けている。
 『ウォー・ダンス/響け僕らの鼓動』で米国アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされたショーン・ファイン&アンドレア・ニックス・ファインの最新作。
 サンダンス映画祭2013出品。

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 ・“Mccullin”(英) 監督:David Morris、Jacqui Morris
 ドン・マッカラン(Don McCullin)は、イギリスの写真家で、不毛の少年時代を乗り越えて、ベトナム戦争や中東戦争、エルサルバドル市民戦争などの写真を撮って、「現代の紛争を撮る最も優れた写真家のひとり」を呼ばれるようになった。彼は、自分のキャリアを振り返り、いまでは哀愁を帯びつつある、当時の記憶を甦らせる。危機一髪という状況を体験したことも数知れないが、戦争の本質に関わるようなことをとらえたものも多く、一方で、彼自身、恐ろしい事件をドキュメントすることにはアンビバレンツな思いも抱いている。彼の残した仕事を振り返ることは、人間の残酷な行為の記憶を、分かち合うべきヒューマニティーへの賛歌に変えるものでもある。
 英国アカデミー賞2013 ドキュメンタリー賞ノミネート。

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 ・“Mistaken For Strangers”(米) 監督:Tom Berninger
 2010年。The Nationalは、結成して10年になるロック・バンドで、リリースした5枚のアルバムは評判もよく、これまでで最大級となるツアーに出ることになる。リード・シンガーのマット・バーニンガー(Matt Berninger)は、ホラー映画の監督としてデビューしたばかりの弟トム・バーニンガー(Tom Berninger)をツアーに参加させることに決める。兄より9歳年下で、ヘヴィメタ好きのトムは、カメラを持ってツアーに参加することにする。インディーロックの海の中で、トムは、兄の影の中で生きてきた弟でしかなく、酒をくらい、不平を言い、ツアーにおける責任と自分の野心との間でもがく。結果として、この映画は兄弟についての映画となり、必死に何かを生み出そうとしている者についての作品になった。

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 ・“The New Black”(米) 監督:Yoruba Richen
 同性婚は、黒人社会でも、意見を二分する大きな問題となる。というのも、アフリカン・アメリカンのコミュニティーの1つの柱である教会には、長らくホモフォビアの伝統があるからだ。本作では、メリーランド州の結婚の平等に関する闘争に焦点を当て、人権問題の根幹にも関わる、ゲイと黒人にまつわる、複雑に絡み合った問題に迫っていく。

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 ・“Our Nixon”(米) 監督:Penny Lane
 チャップリン(Chapin)、エーリッヒマン(Ehrlichman)、ハルドマン(Haldeman)というフィルムメーカーたちが、ウォーターゲート事件に関わる人々に対して、スーパー8で撮影した500リールのテープがある。しかし、それは、FBIによって、没収され、保管された。そのテープが最近になって公開され、ニクソン時代のホワイトハウスの日々の悪計や陰謀が明らかになった。本作は、それらを編集し、ウォーターゲート・マニアや初心者にもよくわかるように解説を加えたものである。
 SXSW映画祭2013 VISIONS部門出品。

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 ・“Running from Crazy”(米) 監督:バーバラ・コップル(Barbara Kopple)
 ヘミングウェイ一家は、アメリカでも最も有名な一家の1つである。アーネスト・ヘミングウェイは、伝説的な小説家であり、孫のマーゴはモデルとして活躍し、その妹マリエルは、『マンハッタン』でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたこともある女優である。しかし、一家には、たえず精神病や薬物依存や自殺がつきまとい、それは世代から世代へと引き継がれている。そんなヘミングウェイ一家を、マリエル・ヘミングウェイの目を通して語る。彼女自身、一家のそうした悲劇的な運命を克服しようと懸命なのだ。
 サンダンス映画祭2013 ドキュメンタリー・プレミア部門出品。

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 【観客賞】

 ◆長編部門
 ◎“The New Black”(米) 監督:Yoruba Richen

 ◆短編部門
 ◎“SLOMO”(米) 監督:Josh Izenberg
 1998年、神経科医のJohn Kitchinは、キャリアを捨てて、パシフィック・ビーチに移り、ローラーブレードを手に入れて、「SLOMO」に変身する。
 SXSW映画祭2013 最優秀短編ドキュメンタリー賞受賞。

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 結果論かもしれませんが、コンペティション部門で限られた作品をピックアップするより、こうして「ベスト・オブ・フェスト」を発表する形にした方が、2013年を代表するドキュメンタリーが明確に示されることになって、(主要なドキュメンタリー作品を概観するには)ぐっとわかりやすくなった、とも言えるかもしれません。

 ラインナップ的には、人権問題・社会問題を扱った作品が多くて、ちょっとバランスを欠いている気がしないでもありませんが、これにAFI Docsでは上映されなかっためぼしい作品と、外国作品を加えれば、ほぼ米国アカデミー賞2014長編ドキュメンタリー賞の候補作品のリストになるのではないか、とも考えられます。(米国アカデミー賞2014長編ドキュメンタリー賞のエントリー締め切りは例年だと9月下旬で、めぼしい作品は、このAFI Docsまでにお披露目を終えているはずですから。)

 アカデミー会員の保守性や、特定の個人をピックアップした作品は取り上げられにくいと考えると、自ずとオスカー候補から外れてくる作品もありますが、現時点では、作品の評判や監督のキャリアなどに鑑みて、“The Crash Reel”くらいは、ノミネートがほぼ確実といっていいところまで来ている気がしますね。
 米国アカデミー賞2014長編ドキュメンタリー賞 ショートリストの発表は、12月上旬です。

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 *当ブログ記事

 ・シルバードックス・ドキュメンタリー映画祭2011 受賞結果:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201111/article_10.html
 ・シルバードックス・ドキュメンタリー映画祭2010 受賞結果:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201007/article_5.html
 ・シルバードックス・ドキュメンタリー映画祭2009 受賞結果:http://umikarahajimaru.at.webry.info/200906/article_22.html

 ・映画賞&映画祭カレンダー 2013年5月~12月:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201305/article_9.html

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