アートアニメーション最前線! 「世界のアニメーションシアター WAT2010」 ラインナップ!

 前回の記事で、「世界のアニメーションシアターWAT2010」の企画・プロデュースをされたオフィスHの伊藤裕美さんについて書きましたが、今回は、「世界のアニメーションシアターWAT2010」のラインナップについて書いてみたいと思います。

 まずは、当ブログでこれまでに書いた記事から、ラインナップをチェックしてみることにします。

画像

 以下、作品は、プログラムごとではなく、国別・製作年別に並べ直してあります。

--------------------------------

 「世界のアニメーションシアターWAT2010」 ラインナップ
 @下北沢トリウッド 2010年11月13日~12月10日

 公式サイト:http://homepage1.nifty.com/tollywood/2010//wat2010/wat2010.html

 ・『パリのパーティ・アニマル』“Cliches de soiree(Party Animals)”(2008/仏) 監督:メルヴァン・シャバヌ Dプロ

 ・『水泳王ジャンフランソワ』“Jean-Francois”(2009/仏) 監督:トム・オゴマ、ブリュノ・マニョク Cプロ
 物語:ジャン・フランソワは、水泳のチャンピオンで、子供の頃に過ごした海辺を懐かしく思い出している。
 アヌシー国際アニメーションフェスティバル2010 短編コンペティション部門出品。第1回作品賞受賞。
 カトゥーン・ドール2010 ロングリスト・エントリー。
  ※下記参照

 ・『ことばの狩人』“Le bucheron des mots”(2009/仏) 監督:イズ・トロアン Eプロ
 アヌシー国際アニメーションフェスティバル2009 短編コンペティション部門出品。

画像
    (c) Folimage

 ・『ブレックファースト』“Sniadanie(Breakfast)”(2006/独) 監督:イザベラ・プリュシンスカ Aプロ

 ・『あと7分』“7 More Minutes”(2008/独) 監督:イザベラ・プリュシンスカ Aプロ

 ・『木の上の海賊たち』“Sperrholzpiraten(Playwood Pirates)”(2008/独) 監督:シュテファン・スコメルス Bプロ
  ※下記参照

 ・『マーキュリー・バード』“Mercury Bird”(2009/独) 監督:イナ・フィンダイセン Eプロ

 ・『ベルリンの野うさぎ』“Esterhazy”(2009/独・ポーランド) 監督:イザベラ・プリュシンスカ Aプロ
 「エスターハージー家の家長の忠告に従って、チビ・ウサギがお嫁さんを探しにウィーンを発ってベルリンにやってくるが、いろんな家族をたらしまわしにされるばかりで、なかなか目的が達せられない。しかし、彼もついにウサギの楽園があるという大きな壁に到達する……。」という、イレーネ・ディーシェとハンス・マグヌス・エンツェンスベルガー著の『エスターハージー王子の冒険』の翻案で、ベルリンの壁崩壊をモチーフに取り込んだ作品。
 ザグレブ国際アニメーションフェスティバル2010 短編コンペティション部門出品。
 アヌシー国際アニメーションフェスティバル2010 短編コンペティション部門出品。
 クラクフ映画祭2010 ポーランド短編 コンペティション部門出品。オナラブル・メンション受賞。
 ※2009年にNHK・BSで放映された作品に同じタイトルの『ベルリンの野うさぎ』“Rabbit a la Berlin”がありますが、本作とは別物です。ともにベルリンの壁崩壊をモチーフにしていて、ともにドイツ・ポーランドの合作で、ともにクラクフ映画祭のコンペティション部門に出品されているので、紛らわしいのですが。ただし、2つの作品の出発点は同じで、監督どうしも知り合いだそうです。なお、“Rabbit a la Berlin”のクラフク映画祭出品は、1年前の2009年で、同作品は、米国アカデミー賞2010短編ドキュメンタリー賞にもノミネートされています。

画像
    (c) ClayTraces, Donten and Lacroix Films

 ・『生命の線』“Lebensader”(2009/独) 監督:アンジェラ・シュテッフェン Bプロ
 物語:少女が1枚の葉の中に「世界」を見出す。
 オタワ国際アニメーションフェスティバル2009 学生作品部門出品。最優秀作品賞受賞。
 ザグレブ国際アニメーションフェスティバル2010 学生作品部門出品。Dusan Vukotic賞(学生作品部門グランプリ)受賞。
 アヌシー国際アニメーションフェスティバル2010 学生作品部門出品。特別賞受賞。

画像
   (c) Filmakademie Baden-Wuerttemberg

 ・『ジョゼットのひとり遊び』“Josette und ihr Papa”(2010/独) 監督:イザベラ・プリュシンスカ Aプロ
  ※下記参照

 ・『オットーとステラ』“Otto and Stella”(2008/デンマーク) 監督:イエッペ・サンホルト、スザンヌ・ベークビィ・オルセン、ヤニック・オウロップ・ゴロオール、ビヤンヌ・スボルガー・ニールセン、スレーブン・リース、ベンヤミン・ブロコップ Dプロ

 ・『E.T.A.』“E.T.A”(2008/デンマーク) 監督:ヘンリック・ビァレゴー・クラウセン Dプロ

 ・『カトリーン』“Katrine”(2009/デンマーク) 監督:メリック・トーマス・スパング・ボローン Bプロ
 アヌシー国際アニメーションフェスティバル2009 学生作品部門出品。

画像
    (c) The Animation Workshop

 ・『トレイン・ボンビング』“Train Bombing”(2009/デンマーク) 監督:ラスムス・ハンセン、ラスムス・ラストロップ、シルベスター・リスホイ・イエンセン、ボディ・イェンムリナー Cプロ

 ・『ライトモチーフ』“Leitmotif”(2009/デンマーク) 監督:シャネッテ・ノ-ガード、メッテ・イリーヌ・ホルムリース、マリー・ヨーゲンセン、マリー・トヮハウゲ Dプロ
 アヌシー国際アニメーションフェスティバル2009 学生作品部門出品。
 ザグレブ国際アニメーションフェスティバル2010 学生パノラマ部門出品。
 ズリーン国際映画祭2010 インターナショナル・コンペティション 子供向けアニメーション部門出品。

画像
    (c) The Animation Workshop

 ・『ミス・リマーカブルの就活』“Froken markvardig & karriaren(Miss Remarkable &
Her Career)”(2010/デンマーク) 監督:ジョアンナ・ルビニ Cプロ
 物語:親に大きな期待を受けながら、どんどん落ちぶれていく主人公を描いたユーモラスなアニメーション作品。
 アヌシー国際アニメーションフェスティバル2010 短編コンペティション部門出品。国際批評家連盟賞受賞。
 カトゥーン・ドール2010 ロングリスト・エントリー。
  ※下記参照

 ・『お誕生会』“The Guest”(2010/デンマーク) 監督:ヘンリック・マルマグレーン Dプロ
 SIGGRAPH 2010 短編&中編部門出品。

画像
   (c) The Animation Workshop

 ・『スポットとスプラッチ~雪あらしの中で~』“Prick och Flack snoar in(Spot and Splodge in Snowstorm)”(2009/スウェーデン) 監督:ウジ・ゲッフェンブラード、ロッタ・ゲッフェンブラード Cプロ

 ・『睡眠革命』“The Sleepy Revolution”(2009/スウェーデン) 監督:クララ・スワンテソン、ヨハンネス・フロトヒーグレン Dプロ

 ・『リディンゴ島のこどもギャング』“Lidingoligan(The Gang of Lidingo)”(2009/スウェーデン) 監督:マヤ・リンドストレム Eプロ
  ※下記参照

 ・『アングリーマン~怒る男~』“Sinna mann(Angry Man)”(2009/ノルウェー) 監督:アニータ・キリ Bプロ
 物語:そのまま秘密にしておいた方がいいと思われる秘密についての物語。
 アヌシー国際アニメーションフェスティバル2010 短編コンペティション部門出品。審査員特別賞&ユニセフ賞&観客賞受賞。
 シッチェス・カタロニア国際ファンタスティック映画祭2010 短編アニメーション部門出品。
 広島国際アニメーションフェスティバル2010 グランプリ受賞。
 オタワ国際アニメーションフェスティバル2010 ナラティヴ部門出品。NFB賞(The 2010 National Film Board of Canada PUBLIC PRIZE)受賞。
 カトゥーン・ドール2010 ノミネート。
  ※下記参照

 ・『ホワイトテープ』“White Tape”(2010/イスラエル・デンマーク) 監督:ミカル・クラノ、ウリ・クラノ Bプロ
 ズリーン国際映画祭2010 アウト・オブ・コンペティション アニメーション・パノラマ部門出品。
 アヌシー国際アニメーションフェスティバル2010 アウト・オブ・コンペティション 短編部門出品。
 オタワ国際アニメーションフェスティバル2010 実験映画部門出品。

画像
   (c) Tindrum Animation, The Animation Workshop

 ・『老人と海』“Le Vielle homme et la mer(The Old Man and the Sea)”(1999/カナダ・ロシア・日) 監督:アレクサンドル・ペトロフ Fプロ

 ・『トゥーピーとビヌー』“Toopy and Binoo”(2007~/カナダ) 監督:レイモンド・ルブラン Fプロ

 ・『フレッドヘッド』“Fred's Head”(2008/カナダ) 監督:ブノワ・ゴドブ、シルヴァン・ラボア Gプロ

 ・『ポッドキャッツ』“Podcats”(2009/カナダ) 監督:エリック・シュヴァリエ、ギヨーム・リオ, アントワーヌ・コロン Gプロ

 ・『マイライフミー』“My Life Me(3 et moi)”(2010/カナダ・仏) 監督:JCリトル Fプロ

 ・『サンドピクシー~おやすみ前のアニメーション~』“Die Sandmanzen(The Sandpixies)”(2010/独・カナダ) 監督:ラルフ・ククラ Gプロ
  ※下記参照

 ・『プチ・ラパン・ブラン~小さい白いうさぎ~』“Petit Lapin Blanc(Silly Bitty Bunny)”(2010~2011/仏・シンガポール・カナダ) 監督:レニエ・ランパンガジュ、ヴィルジル・トルイヨ Gプロ

 ※『アングリーマン~怒る男~』に関しては、今現在、この作品に関する紹介文はもっと具体的で内容に即したものになっていますが、アヌシーの公式サイトでの紹介文は上記のようなものでした。全く見当違いというわけでもありませんが、曖昧で、どんな内容の作品なのかがよくわかりませんね。ひょっとすると、あえて内容をぼかしたものにしてあるのかもしれませんが……。
 ちなみに、『アングリーマン~怒る男~』の本編の冒頭には「いたましい秘密を抱える人へ」というメッセージが出ます。

--------------------------------

 「世界のアニメーションシアター WAT2010」の構成

 世界のアニメーションシアター WAT2010は、簡単に言うと、「ヨーロッパショート」と「カナダ・アニメーション・フェスティバル」の2部構成になっていて、「ヨーロッパショート」が作家性の強い作品ばかりなのに対し、「カナダ・アニメーション・フェスティバル」は、『老人と海』を除けば、幼児からティーンまでをターゲットとしたTVアニメーション作品で、これらは明らかに商業作品として作られたものであって、「ヨーロッパショート」とは全く違うテイストの作品群となっています。

 さらに、「ヨーロッパショート」の方は、
 ①.このプログラムのセレクションを行なった伊藤裕美さんが今年のアヌシーで見つけてきたばかりの秀作・話題作
 ②.伊藤さんが以前から知己だったという、ポーランド出身で、現在はドイツで活躍しているクレイ・アニメーション作家、イザベラ・プリュシンスカの特集(4作品)
 ③.ドイツのバーデン・ヴュテンベルク州立フィルムアカデミー(『木の上の海賊たち』『生命の線』)と、デンマークのアニメーション・ワークショップ(『オットーとステラ』『カトリーン』『トレイン・ボンビング』『ライトモチーフ』『お誕生会』『ホワイトテープ』)の特集
 という構成になっています。

 ①は、伊藤さんが2005年までWPC Expoで行なっていた「Best of Annecy」の系譜につながるプログラムで、③は、2007年春の「海外アートアニメーション@トリウッド 2007春」で取り上げた「ヨーロッパ3大アニメーションスクール特集」(フランス・シュパンフォコム、ドイツ・フィルムアカデミー、フランス・ゴブラン)に続く企画ということになります。

 作品としては北欧の映画が多いのですが、それは「海外アートアニメーション@トリウッド 2008秋」からの流れにつながっています。

 アヌシーの秀作セレクションのうち、『ことばの狩人』は、伊藤さんが、日本でのエージェントを務めるフランスの制作会社フォリマージュの制作作品です。

 『アングリーマン~怒る男~』は、広島国際アニメーションフェスティバル2010でも上映されていますが、広島では日本語字幕なしでの上映だったので、日本語字幕つきでの上映は本邦初ということになります。

 「ヨーロッパショート」としてのプログラムの構成としては、既に映画祭で高い評価を受けている映画作家の作品と、若い作り手が若々しい感覚で作った作品とが組み合わされて、5つのプログラムに分けられ、すべて観たくなる絶妙のラインナップになっています。

 ちなみに、主にNFBを作品交渉の窓口とすればよかった「カナダ・アニメーション・フェスティバル」の時と違い、今回の上映作品は、権利元がバラバラで、複数にわたったため、上映作品交渉に関しては、それぞれの権利元と個別の交渉が必要になったそうです。それだけ今回の番組編成は大変だったということになりますが、それを、伊藤さんがすべて独りでやり遂げたということになります。

--------------------------------

 上映作品に関する簡単なコメント

 今回、事前にいくつかの作品を観せていただいたので、観た作品に関して、簡単にコメントをつけておきたいと思います。

 ・『水泳王ジャンフランソワ』“Jean-Francois”(2009/仏) 監督:トム・オゴマ、ブリュノ・マニョク Cプロ

 まさに「ジャン・フランソワは、水泳のチャンピオンで、子供の頃に過ごした海辺を懐かしく思い出している」といった内容の作品ですが、雰囲気がいいですね。
 この作品を作った2人の監督は、フランスのアニメーションの専門学校ゴブランの出身だそうで、ゴブランは有能な人材を次から次へと世に送り出してきます。
 ちなみに、ゴブラン出身者は、米国アカデミー賞2009 短編アニメーション賞に“Oktapodi”を、米国アカデミー賞2010 短編アニメーション賞に“French Roast”を送り込んでいます。『水泳王ジャンフランソワ』が、米国アカデミー賞2011 短編アニメーション賞対象作品になるのかどうかはわかりませんが、ゴブラン出身者が3年連続で米国アカデミー賞にノミネートされるかどうかも要注目です。

画像
   (c) Lisbet Gabrielsson Film AB, Bullittfilm, A Man & Ink Ltc

 ・『木の上の海賊たち』“Sperrholzpiraten(Playwood Pirates)”(2008/独) 監督:シュテファン・スコメルス Bプロ

 ある種のドイツ版『スタンド・バイ・ミー』ということができるでしょうか。

 学生の作品だということですが、物語が巧みで、アニメーションとして観ているのに、まるで実写を観ているような気にもさせられました。

 逆に、この作品の実写化もありかなと感じましたね。
 「主人公は、故郷を離れて、ビジネスマンとして、仕事に家庭にと忙しい日常生活を送っている。そこに1本の電話がかかってきて、唐突に故郷に呼び戻される。久しぶりに帰った故郷はいろいろと様変わりしていて、昔の面影はあまり残っていないが、あの木だけはあの場所にそのまま立っている。そこから、少年時代の回想が始まり、忘れられないあの夏のことが思い出されてくる― 」

画像
    (c) Filmakademie Baden-Wuerttemberg

 ・『ジョゼットのひとり遊び』“Josette und ihr Papa”(2010/独) 監督:イザベラ・プリュシンスカ Aプロ

 チラシには、この作品の内容に触れた部分がありますが、この作品は何も知らずに観た方がいいかもしれません。
 そうすると、主人公の感じる不安と、この作品が何を伝えようとしているのかわからずに観客がおかれる不安な状態が重なって、なんともいえない気分にさせられますから。
 その後で、解説(公式サイトに書かれてあります)を読むと、「ああ、なるほど、やっぱり、そういうことだったか」ということになります。(そして、もう1回初めから見直したくなります。)
 子供は子供なりに、大人は大人なりに楽しむことができる作品になっています。

画像
    (c) ClayTraces

 ・『ミス・リマーカブルの就活』“Froken markvardig & karriaren(Miss Remarkable & Her Career)”(2010/デンマーク) 監督:ジョアンナ・ルビニ Cプロ

 邦題には「就活」とありますが、実は、内容は正確には「就活」ではなくて、「いろいろやってみるけれど、何もかもうまくいかない主人公の物語」になっています。まあ、こういう邦題にした方がキャッチーでいいかなといったところでしょうか(笑)。別段怒るほどのことでもありませんが、見始めて、「あれ? 思ってたのと違う」となってしまいます。
 物語は、正しくは―
 幼いころから親から過剰な期待をされた主人公は、大人になって、何をしたらいいのか、やりたいことがわからず、悩み、自分の中に鬱屈したものを抱え、それを「闇モンスター」として幻影に見るようになる。デザイナーを志して、フリーのデザイナーたちと仲間を組むが、自分だけ置いていかれたように感じる……。

 これは、コミックをアニメーションにして動かしてみたものではないかと思っていたら、やっぱりそうでした。
 しかも、監督が原作者本人で、原作(グラフィック・ノベル)の邦訳も出ていました! 著者名の表記が違うのでちょっとわかりにくかったのですが、原作の著者名は「ヨアンナ・ルービン・ドランゲル」になっています。(実は、映画本編のクレジットもJoanna Rubin Drangerになっています。今回「ジョアンナ・ルビニ」になったのは、英語でやりとりしている過程でそうなったか、英語圏では「ジョアンナ・ルビニ」で通っているということでしょうか)

 原作の邦題は―

 『わたしを探しに―本当の自分を見つけるココロの旅』(ワニブックス) 2004年5月刊
 翻訳は、なんと飯島直子です!


 ま、飯島直子がスウェーデン語を読めるはずもないので、飯島直子がやったことは、誰かが下訳したものを、飯島直子が目を通して、自分の読みやすいようにいくつかの言葉を直したという程度のことだと思いますが。
 邦訳本の紹介文は以下のようになっています。
 「両親の過剰な期待によって、注目されるべき仕事をし、ひとかどの人物にならなければ意味がないと考えるようになってしまった主人公、ミス・リマーカブル(注目されたい人の意)。
 競争率の高い学校や有名人ばかり集めた職場に通って実績を上げようとしますが、思い通りにいかないことばかり。
 次第に彼女は追い詰められていきます。
 果たして彼女がたどりつく道とは…? そして彼女は何を見つけるのでしょうか。」

 ヨアンナ・ルービン・ドランゲルは、日本で言うと、『ガロ』系な感じでしょうか。
 こういうものを見つけ出してきて、翻訳を出すワニブックスもなかなかやりますね~。でも、ただ普通に出しただけでは売れないと考えたから、ウリとして、形だけでも翻訳者として飯島直子の名前を使わせてもらったということなのでしょう。

 監督/原作者のサイトもあります。
 http://www.joannarubindranger.com/
 サイトとしては凝りすぎていて、欲しい情報がどこになるのかがわかりにくくなっていますが、作風や作品の雰囲気はつかむことができます。日本語版『わたしを探しに―本当の自分を見つけるココロの旅』も紹介してあります。

画像
    (c) Lisbet Gabrielsson Film AB, Bullittfilm, A Man & Ink Ltc

 ・『リディンゴ島のこどもギャング』“Lidingoligan(The Gang of Lidingo)”(2009/スウェーデン) 監督:マヤ・リンドストレム Eプロ

 ルーカス・ムーディソンの『エヴァとステファンとすてきな家族』につながる作品ということができるでしょうか。時代背景的には、『リディンゴ~』の方が、設定が、5~6年後ということになるかと思いますが。
 個人的には、もう少し違うオチ(もうちょっと痛快なもの)を期待しないこともありませんでした……。

画像
   (c) Garagefilm International AB

 ・『アングリーマン~怒る男~』“Sinna mann(Angry Man)”(2009/ノルウェー) 監督:アニータ・キリ Bプロ

 端的に言ってしまえば、この作品は、DVを行なう男性と、その妻と息子の物語で、それを息子の視点から描いている作品だということになります。

 この作品がユニークなのは、DVを行なう父親も自分の暴力癖を自覚していて、自分が、自分の中の「怒る男」に負けてしまうことによって、暴力をふるってしまうのだと理解し、息子も「お父さん、『怒る男』に負けないで」と祈る、という風に描かれているところでしょうか。
 無自覚に暴力をふるうのではなく、そこから一歩進んで、自分でも自分の暴力性を自覚しつつ、それでもそれを自分で抑えることができず、自分でも苦しみ、奥さんにつらい思いをさせ、息子も悲しませている。
 主人公の少年がけなげにも小さな胸を痛めているところがじんわりと伝わってきますね。(タイプは違いますが、私は映画『Dearフランキー』を思い出しました。)

 起承転結の「転」の部分は、ちょっとファンタジックにも思いましたが(実は、「問題」がどういう風に解決されたのかも、伏せられているわけですが)、実話に基づいている話だったんですね。「願いを聞いてくれたハラルド5世への感謝を込めて」と本編の最後に出てきて、「どういうことなんだろう?」と思ったりしますが、(ノルウェーだとよく知られている話かもしれませんが)これは日本人には説明が必要だったかもしれません。公式サイトを読めば、実話に基づいていることがわかって、そういう意味だったのかと納得しますが。

 カットアウト・アニメーションも作品に面白い効果を上げていて(でもそれだけではなくて)、どういう風にこの作品を作ったんだろうかと興味を持って、オリジナルの公式サイトを見てみましたが、プロダクション・ノート(英語)が11ページもあって、読み応えがあります。
 *http://www.trollfilm.no/new/eng_sinna_ide_3.html

 それによると―
 ・監督は、本物の脚本は書いたことがなくて、自分ひとりのためにストーリーボードを作るところから始めた。
 ・この作品のストーリーボードは、最終的に45×60cmの紙4枚になったが、それにイラストを描いた小さなイメージ画を貼り付けていって、その下にメモや台詞、時間などを書き込んでいった。
 ・制作に時間をかけることで、途中でよりよい解決案が浮かぶことがある。
 ・テクニックとしては、メインがカットアウト・アニメーションで、そのほかに、ドローイング、オブジェクト、シルエット、ライト、ペーパー、セルをミックスして使った。テキストに合わせて、異なる効果を使って、物語を進めた。
 ・オリジナル原画は、スヴェイン・ニーフース(Svein Nyhus)が描いているが、この作品のために描かれたものだけではなく、彼の前作“Victor”やボイが登場する“The World has 4 Corners”に出てくるキャラクターも捨てがたかった。
 ・唯一オリジナル原画のキャラクターを生かしたのは、ママで、ママは文句なく美しかった。
 ・ボイの人形は、8方向から3サイズずつ作った。
 ・キャラクターによって、人形の素材が変えてある。
 ・壁の家具は絵だが、椅子だけは違う。
 ・撮影は、物語の順番に行なっていく。そうすれば、ストーリーやデザインの変更に対応できるから。
 ・自分が話す時、どういう口をするか鏡の前で自分の口の形を観察して、リップシンクの参考にした。
 ・撮影には28ヶ月かかった。最初の4ヶ月は、Nukufilmから来たTriin Sarapiikと2人で行ない、次の7ヶ月は1人で行なって、それから10ヶ月の出産休暇を取った。それから、モスクワからやってきた、アニメーションの学位を持つMaral Charyeva と14ヶ月間、ダブル・シフトで撮影に望んだ。
 ・音楽は、前作『マレーネとフロリアン』“The Hedge of Thorns”(2001)でも音楽を担当したミュージシャンHege Rimestadにお願いした。彼女には、撮影中からDVDを渡して、彼女のスタジオでバイオリンやシンセサイザーを使って曲作りを進めてもらった。
 ・アニメーションの音入れは難しいと思う。なぜなら、編集したフィルムには、実写作品と違って、最初は全く音が存在しないから。
 ・ノルウェー語版のボイの声は、実は監督の娘Runi Arnekleivにやらせている。撮影を始めた2003年には彼女はまだ監督のお腹の中にいたが、2008年になって声を入れる段階になって、ひょっとしてと思って、彼女にやらせてみた。
 ・ノルウェー語版の隣人の声は、原作者のグロー・ダーレが担当している。
 ・英語版のママの声は、リブ・ウルマンが担当している。
 ……

 原画のイラストを描いたスヴェイン・ニーフース(Svein Nyhus)のサイトもあって、監督はこのブログからインスパイアされることも多いと発言しています。
 ここには、彼の原画が映画化に当たって、どう変わっていったかが示されていたりもします。
 *http://sveinnyhus.blogspot.com/2009/03/bildebokskolen-12-mer-fra-bok-til-film.html

 原作絵本の日本版も準備されているらしく、それは、既に刊行が決定しているということなのかどうかわかりませんが、その価値はあると思うし、発売されたら、ちょっと見てみたいですね。

 あと、この監督の別の作品も観てみたいと思います。

画像
    (c) Trollfilm AS

 ・『サンドピクシー~おやすみ前のアニメーション~』“Die Sandmanzen(The Sandpixies)”(2010/独・カナダ) 監督:ラルフ・ククラ Gプロ

 作品のタイプもタッチも違いますが、コ・ホードマンの『砂の城』を思い出させます。

画像
   (c) Balance Film GmbH, ZABELLE inc, Facteur7

--------------------------------

 映画祭初日に間に合わせたかったので、「世界のアニメーションシアターWAT2010」の記事はこのくらいにしておきますが、後日、もう少し関連記事を書いてみたいと思っています。お楽しみに!

 *この記事がなかなか参考になった!と思ったら、人気ブログランキングにクリックをお願いします。
 ↓ ↓ ↓ ↓
 
 ↑ ↑ ↑ ↑
 応援してね!

 *当ブログ関連記事
 ・伊藤裕美さんのこと。オフィスHのこと。:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201011/article_15.html
 ・カナダ・アニメーション・フェスティバル 2002-2010 全ラインナップ:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201011/article_20.html
 ・オフィスHが手がけた短編アニメーション(カナダ映画以外):http://umikarahajimaru.at.webry.info/201011/article_21.html

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック