伊藤裕美さんのこと。 オフィスHのこと。

 オフィスH(あっしゅ)の伊藤裕美さんにお会いしてきました。

 といっても、名前を前面的に押し出して仕事をされてる方ではないので、伊藤裕美さんとかオフィスHとか言ってもわからない人がほとんどだと思いますが、伊藤裕美さんというのは、これまで約10年にわたって、下北沢トリウッドを拠点にCAF(カナダ・アニメーション・フェスティバル)や海外アートアニメーション特集を通じて、日本にカナダやヨーロッパのアニメーションを紹介してきた方です。

 あるいは、書店の美術書などのコーナーで、『プチシアター』という短編アニメーションを収録したDVDを見かけた人もあると思いますが、あのDVDも、販売こそアップリンクですが、作品のセレクションとかDVDリリースのための権利元との交渉とか、作品収録・DVD製作に関わる一切のことは、実は、伊藤さんの仕事なのでした、

 つまり、約10年にわたって、独力で、日本に短編アニメーションを紹介してきているのが、伊藤裕美さんであり、彼女のオフィスHということになります。

 縁あって、そんな伊藤さんに、お会いすることになり、いろいろと話をお聞きすることができました。

 以下、伊藤さんにお聞きしたことを簡単にまとめてみました。

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 ◆スイスに滞在
 伊藤さんが、大学で専攻したのは、映画でも、フランス語でもなくて、環境経済学だった。仕事(旅行業)に就いてから、本格的にフランス語を学ぶためにスイスに向かい、そのままそこにしばらく住む。特に日本でなければならないという気持ちはなかったし、それは今でも変わっていない。

 ◆短編アニメーションとの出会い
 もともとはアニメーションを見る習慣はなくて、短編アニメーションとの出会いは、コンピュータ・グラフィックスの祭典SIGGRAPHで、当時、勤めていた会社(エイリアス・ウェーブフロント(3DCGソフトMayaを開発した会社))の関係で、SIGGRAPHに参加した。SIGGRAPH自体は専門的ですごく地味な催しばかりだったけれど、唯一CGアニメーションを上映するプログラムだけはとても面白くて、CGを使えば、こんなに面白いものができるのかと、目を開かれる思いがした。

 ◆最初の上映会
 だから、入り口はCGアニメーションで、最初に企画したのも、CGアニメーションの上映会だった。

 フランス大使館のつてを頼って、最初の上映会をしたのが、1999年で、フランス大使館(文化部映像放送課とフランス国立オーディオビジュアル研究所)の主催で行なった、Imagina CGフェスティバルというのがそれ。
 もともとプロモーションの仕事をしていたので、企画を立ち上げて、形にしていくことは好きだった。

 同年に自らの事務所オフィスHを立ち上げ、その年からアヌシー国際アニメーションフェスティバルにも参加するようになり、ちょうと同じ年に短編専門映画館トリウッドをオープンさせた大槻(貴宏)さんと話をして、それ以来、定期的にトリウッドをベースとしてアニメーションの上映会を行なうようになった。

 ◆アヌシー国際アニメーションフェスティバル
 世界にアニメーションの映画祭はいくつもあるけれど、自腹でも行くと決めている映画祭は、アヌシーだけ。

 アニメーションを仕事にし始めてからも、日本のアニメーションとは縁がなくて、日本のアニメーションといっても、昔見た『あらいぐまラスカル』くらいしか思い浮かばなかった。それが、逆に、アヌシーで日本のアニメーションを発見することになった。
 『時をかける少女』は、日本での公開時には観ていなくて、アヌシーでは、実は、間違えて、『時をかける少女』の上映に入ってしまった。しかし、観始めると面白くて、夢中になった。会場でもお客さんが興奮してスクリーンに見入っているのがわかって感動した。
 山村浩二監督の『頭山』が賞を受賞した時や今敏監督の『東京ゴッドファーザー』が特別上映された時にもその場にいて、そういう風にして日本のアニメーションとも出会っていった。日本のアニメーションは、ヨーロッパ人が描かないようなものを描いているから面白いと思う。

 ◆NFB(カナダ国立映画制作庁)
 カナダ・アニメーションの上映会を行なってきたのは、カナダには、短編アニメーションがたくさんあるのと、NFBだと作品管理がとてもしっかりしているから。
 例えば、NFBは、カナダの学校で上映する教材として、作品を使いたいのだがと相談しても、すぐに調べて、便宜を図ってくれるのだそうで、日本での上映に関しても、上映したい作品に関する情報や条件をすぐさま知らせてくれる。

 ◆デジタル
 最近の日本での上映は、元々フィルムで製作された作品でも、すべてデジタルで上映している。フィルムで製作された作品はフィルムで上映した方がいいのはわかっているが、ここ2年くらいの流れはそうなってきていて、作品のやりとりもフィルムやディスクではなく、データで送るからそれをダウンロードして使ってくれと言われることもある。デジタルの方が日本語字幕を入れる作業が簡単だという利便性もある。
 フォーマットが同じカナダとだけ付き合うのであれば便利だが、ヨーロッパとなると日本とフォーマットが異なり、とても苦労させられる。
 デジタルになれば、全世界的にフォーマットが統一されるかと思っていたら、全然そんなことはなくて、やっぱりヨーロッパとはフォーマットが異なるのだ。

 ◆海外と日本
 海外にも中には日本で仕事をしてみたいというクリエーターがいて、その手助けをすることもあるが、日本では全然英語が通じなくて話が進まない。フランス人だって、今は、外国人とは普通に英語を話すようになってきているのに。
 以前、CJax-日加ショートアニメーション・エクスチェンジと題して、カナダと日本のクリエーターを、交換留学生のような形で出して、日本とカナダでそれぞれデビューさせるという企画を実施したが、カナダ・サイドはやる気まんまんなのに、日本人の方は、カナダで発表してと頼んでも、尻込みする人ばかりで困った。

 ◆茶処いとう
 ご両親は今も健在で、実家の埼玉県朝霞市で、日本茶の販売を行なっている。そのお茶は、オフィスHのホームページからも購入することができるが、それは、こういう小売店や、小売店のある商店街をなくしてはいけないと思っているからで、商店街をつぶして、マンションばかり建てても何も生まれない、住民どうしのコミュニケーションがなくなり、街が空洞化していくばかりだ、と考えている。
 映画も同じで、できれば、観たい時にふらっと入って観ることができる映画館がどの街にも欲しいが、そうもいかないので、オフィスHとしては、日本各地の小さな公民館とかそういう公共施設に知識のあるスタッフ(キュレーターや図書館司書のような)が配され、さまざまな映画・アニメーションが上映されることを願っている。

 ◆子供たち
 子供たちは何にだって関心を持つ。だから、オフィスHが紹介してきているような作品も、観せれば喜んで観てくれる。垣根を作っているのはむしろ大人の方で、子供は知らないものは観ないと決めつけてしまっているのは、実は大人の方なんだと思う。

 ◆世界のアニメーションシアター WAT2010
 昨年のカナダ・アニメーション・フェスティバルが第10回を迎え、そこでNFB創立70周年記念上映と銘打った大きな上映会もやることができた。そこで、その次にどう進むべきかと考えたが、今年アヌシーで審査員特別賞を受賞したノルウェーのアニータ・キリ監督の『アングリーマン ~怒る男~』が上映できることになったので、これを核にして上映会を行なうことにした。
 上映会のタイトル自体、「世界のアニメーションシアター WAT2010」として、装いも新たにし、これからは世界のアニメーションを紹介していくことに方向性を定めた。

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 ◆今後の展開
 今は北欧の作品が面白くて、関心は北欧寄りになっている。
 しかし、アジアにも面白い作品が出てきているし、いずれはアジアの作品も紹介していと考えている。

 ※ 上に入れた画像は、「世界のアニメーションシアター WAT2010」の目玉作品の1つであるノルウェーのアニータ・キリ監督の『アングリーマン ~怒る男~』のメイン・ビジュアル((c) Trollfilm AS)です。

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 【オフィスHの主な仕事/上映会】

 1999年7月
 ・ImaginaCG映像フェスティバル
 ヨーロッパ最大のCGフェスティバルImaginaの受賞作品と学生優秀作品の上映会とワークショップ/フランス国立オーディオビジュアル研究所とフランス大使館文化部映像放送課主催

 1999年9月7日-11日
 ・ヨーロッパフィルムギャラリー @WPC Expo 99(幕張メッセ)

 2000年10月17日-21日
 ・ヨーロッパフィルムギャラリー @WPC Expo 2000(東京国際展示場)

 2000年 秋
 ・Epoc in CG from The World @トリウッド
 *公式サイト:http://homepage1.nifty.com/tollywood/epocincg/cgworld.htm

 2001年9月19日-21日
 ・ヨーロッパフィルムギャラリー @WPC Expo 2001(幕張メッセ)

 2001年 秋
 ・Epoc in CG 2001秋 @トリウッド
 *公式サイト:http://homepage1.nifty.com/tollywood/epocincg/CG2001.htm

 2002年 7月6日-7月19日
 ・Epoc in CG 2002 予告編 @トリウッド
 *公式サイト:http://homepage1.nifty.com/tollywood/epocincg/cg2002pre.htm

 2002年10月16日-19日
 ・ヨーロッパフィルムギャラリー @WPC Expo 2002(東京国際展示場)

 2002年 11月3日-11月29日
 ・Epoc in CG 2002 @トリウッド
 *公式サイト:http://homepage1.nifty.com/tollywood/epocincg/cg2002.htm
 ・カナダ・アニメーション・フェスティバル 2002秋 @トリウッド
 *公式サイト:http://homepage1.nifty.com/tollywood/caf/canadafes.htm

 2003年 4月29日-5月23日
 ・カナダ アニメーション フェスティバル 2003春 @トリウッド
 *公式サイト:http://homepage1.nifty.com/tollywood/caf/2003spring.htm

 2003年9月17日-20日
 ・Best of Annecy 2003 @WPC Expo 2003(幕張メッセ)

 2003年11月8日-12月5日
 ・TOLLYWOOD ANIMATION 24DAYS @トリウッド
  Epoc in CG from Europe
  カナダ・アニメーション・フェスティバル CAF2003
  プチシアター
 *公式サイト:http://homepage1.nifty.com/tollywood/caf/24days.htm

 2004年4月30日-5月28日
 ・<日加交流75周年記念イベント> カナダ アニメーション フェスティバル 2004春 @トリウッド
 *公式サイト:http://homepage1.nifty.com/tollywood/caf/2004spring.htm

 2004年10月20日-23日
 ・Best of Annecy 2004 @WPC Expo 2004(東京国際展示場)

 2004年10月30日-11月26日
 ・トリウッド アニメーションの24日間 @トリウッド
  Epoc in CG 2004
  “カナダと日本:75周年記念” カナダ・アニメーション・フェスティバル 2004秋
 *公式サイト:http://homepage1.nifty.com/tollywood/caf/24days-2004autumn.html

 2005年5月5日-5月29日
 ・カナダ・アニメーション・フェスティバル 2005春 @トリウッド
 *公式サイト:http://homepage1.nifty.com/tollywood/caf/2005spring.html

 2005年10月26日-29日
 ・Best of Annecy 2005 @WPC Expo 2005(東京国際展示場)

 2005年10月26日-11月27日
 ・Epoc in CG vol.6 @トリウッド
 *公式サイト:http://homepage1.nifty.com/tollywood/epocincg/cg2005.html

 2006年4月30日-5月26日
 ・カナダ・アニメーション・フェスティバル 2006春 @トリウッド
 *公式サイト:http://homepage1.nifty.com/tollywood/caf/2006spring.html

 2007年 4月28日-6月1日
 ・海外アートアニメーション@トリウッド 2007春@トリウッド
  カナダ・アニメーション・フェスティバル 2007春
  フォリマージュ・レジダンス特集
  ヨーロッパ3大アニメーションスクール特集
 *公式サイト:http://homepage1.nifty.com/tollywood/aa/2007.html

 2008年1月19日-2月8日
 ・坂元友介アニメーション全集@トリウッド
 *公式サイト:http://blogs.yahoo.co.jp/hiromi_ito2002jp/51750694.html

 2008年9月13日-10月10日
 ・海外アートアニメーション@トリウッド
  北欧ショートアニメーション特集
  CAF カナダ・アニメーション・フェスティバル
 *公式サイト:http://homepage1.nifty.com/tollywood/office_h_2008/office_h_2008.html

 2009年9月13日-10月10日
 ・第10回カナダ・アニメーション・フェスティバル CAF10th @トリウッド
  CAF10 NFBアニメーション特集上映
 *公式サイト:http://homepage1.nifty.com/tollywood/caf10/caf10.html
 *公式サイト:http://www.caf10.net/cafscreen.html
  CAFシンポジウム、ティーチイン
 *公式サイト:http://www.caf10.net/caf_sympoteachin-top.html

 2010年11月13日~12月10日
 ・世界のアニメーションシアター WAT2010 @トリウッド
 ・第11回カナダ・アニメーション・フェスティバル ケベック編(CAF11) @トリウッド
 *公式サイト:http://homepage1.nifty.com/tollywood/2010//wat2010/wat2010.html

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 ※関連サイト

 ・オフィスH公式ブログ「オフィスH(あっしゅ)-短編配給業太脚奮闘記」:http://blogs.yahoo.co.jp/hiromi_ito2002jp
 オフィスHの紹介、オフィスHの活動などのほか、彼女が発行している短編アニメーションに関する情報満載(上映会、イベント、DVDリリース情報など)のメールマガジン「あっしゅNews」の再録も行なわれています。

 ・短編映画館トリウッド公式サイト:http://homepage1.nifty.com/tollywood/

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 「世界のアニメーションシアター WAT2010」上映作品についても書きたいと思っていますが、長くなったので、それは記事を改めることにします。

 なお、伊藤さんは、11月12日~14日にMOVIX本牧で開催される「横浜ドイツ・フィルム・デイズ-ベルリン&アニメーション」で、11月13日に催されるイザベラ・プリュシンスカ監督や真賀里文子監督を招いてのトーク・イベント「ベルリンとアニメーション」で、司会をされる予定になっています。(アニメーションの上映は12時半から、トーク・イベントは14時~15時半です)

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 「世界のアニメーションシアター WAT2010」で4作品が上映されるイザベラ・プリュシンスカ監督は、11月13日18時50分からの回にトリウッドで舞台挨拶されることになっています。ここでの司会も伊藤さんです。

 下の画像は、イザベラ・プリュシンスカ監督の『ベルリンの野うさぎ』“Esterhazy”(2009/独・ポーランド)です。(c) ClayTraces, Donten and Lacroix Films

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 *当ブログ記事
 ・「世界のアニメーションシアター WAT2010」:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201011/article_16.html
 ・カナダ・アニメーション・フェスティバル 2002-2010 全ラインナップ:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201011/article_20.html
 ・オフィスHが手がけた短編アニメーション(カナダ映画以外):http://umikarahajimaru.at.webry.info/201011/article_21.html

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