映画『ハート・ロッカー』に関するあれやこれや

 『ハート・ロッカー』について、いくつかの項目に関して、まとめてみました……。

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 ◆ベネチア国際映画祭での評価と米国アカデミー賞での評価

 ご存知の通り『ハート・ロッカー』は、2008年のベネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品されて、無冠でこそなかったものの、主要な賞を逃し、同じアメリカ映画の『レスラー』に金獅子賞を奪われているわけですが、そんな作品が米国アカデミー賞作品賞&監督賞&脚本賞を受賞する、ということが、どういうことなのか、ちょっと考えてみたくなったりもします。

 米国アカデミー賞は、映画賞レースの流れやプロモーション活動、その時々のハリウッドの雰囲気に大きく左右され、映画祭は、コンペ部門のラインナップや審査員の顔ぶれに左右されるものですが、少なくとも、ベネチア国際映画祭の時点で、審査員たちは、『ハート・ロッカー』よりも『レスラー』を最優秀作品として選んだ、ということになります。

 2008年のベネチア国際映画祭の、審査員の顔ぶれ、および、コンペティション部門のラインナップ(&受賞結果)は以下の通りです。

 審査員:ヴィム・ヴェンダース(審査員長)、Juriy Arabov(ロシアの脚本家)、ヴァレリア・ゴリーノ、Douglas Gordon(ビデオ・アーティスト)、ジョン・ランディス、ルクレチア・マルテル、ジョニー・トー

 【ベネチア国際映画祭2008 コンペティション部門ラインナップ】

 ・マルコ・ベキス 『赤い肌の大地』“BirdWatchers”(伊・ブラジル)
 C.I.C.T. UNESCO Enrico Fulchignoni Award

 ・プーピ・アヴァーティ 『ボローニャの夕暮れ』“Il papà di Giovanna”(伊)
 男優賞(シルヴィオ・オルランド)、Francesco Pasinetti (SNGCI) Award 男優賞(シルヴィオ・オルランド)、Leoncino d'oro Award 2008 (Agiscuola)、Nazareno Taddei Award、Don Gnocchi Award スペシャル・メンション(エッジオ・グレッジオ)

 ・パッピ・コルシカート(Pappi Corsicato) “Il seme della discordia(不一致の種)”(伊)

 ・フェルザン・オズペテク“Un giorno perfetto(最良の日)”(伊)
 Francesco Pasinetti (SNGCI) Award 女優賞(イザベラ・フェラーリ)

 ・Patrick Mario Bernard、ピエール・トリヴィディク(Pierre Trividic) “L’Autre”(仏)
 女優賞(ドミニク・ブラン)

 ・バルベ・シュローデル 『陰獣』“Inju, la Bête dans l’ombre”(仏)

 ・ヴェルナー・シュレーター “Nuit de chien(犬の夜)”(仏・独・ポルトガル)
 特別獅子賞(SPECIAL LION for Overall Work)(ヴェルナー・シュレーター)

 ・クリスティアン・ペツォルト(Christian Petzold) “Jerichow”(独)

 ・アレクセイ・ゲルマン Jr. “Bumažnyj soldat (Paper Soldier)”(露)
 銀獅子賞(監督賞)、オゼッラ賞:撮影賞(Alisher Khamidhodjaev、Maxim Drozdov)

 ・Semih Kaplanoglu “Süt”(トルコ・仏・独)

 ・Tariq Teguia “Gabbla (Inland)”(アルジェリア・仏)
 国際批評家連盟賞

 ・ハイレ・ゲリマ(Haile Gerima) “Teza”(エチオピア・独・仏)
 審査員特別賞、オゼッラ賞:脚本賞(Haile Gerima)、SIGNIS Award スペシャル・メンション、Leoncino d'oro Award 2008 (Agiscuola) Cinema for UNICEF commendation、“The circle is not round. Cinema for peace and the richness of diversity” Award

 ・ギジェルモ・アリアガ 『あの日、欲望の大地で』“The Burning Plain”(米)
 マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)(ジェニファー・ローレンス)

 ・キャスリン・ビグロー 『ハート・ロッカー』“Hurt Locker”(米)
 SIGNIS Award、La Navicella – Venezia Cinema Award、Human Rights Film Network Award、Arca Cinemagiovani Award作品賞

 ・ジョナサン・デミ 『レイチェルの結婚』“Rachel Getting Married”(米)
 Biografilm Lancia Award(フィクション部門)、CinemAvvenire作品賞

 ・アミール・ナデリ 『ベガス』“Vegas: Based on a True Story”(米)
 SIGNIS Award スペシャル・メンション

 ・ダーレン・アロノフスキー 『レスラー』“The Wrestler”(米)
 金獅子賞

 ・北野武 『アキレスと亀』(日)
 Bastone Bianco Award (Filmcritica)

 ・宮崎駿 『崖の上のポニョ』(日)
 Mimmo Rotella Foundation Award、観客賞、Future Film Festival Digital Award スペシャル・メンション

 ・押井守 『スカイ・クロラ』(日)
 Future Film Festival Digital Award

 ・ユー・リクワァイ 『PLASTIC CITY プラスティック・シティ』“Dangkou (Plastic City)”(中・ブラジル・香港・日)

 『ハート・ロッカー』が2009年の賞レースのメイン・コンテンダーとなったのは、ひとつには、外国での映画祭の受賞結果を踏襲することをアメリカの映画人(アカデミー会員)が嫌う傾向にある、ということと無関係ではないかもしれません。2007年のカンヌ国際映画祭のコンペ部門に出品されて無冠に終わった『ノーカントリー』が、米国アカデミー賞作品賞&監督賞&脚色賞を受賞したのと、非常によく似ています。

 『ハート・ロッカー』がベネチア国際映画祭で主要な賞を逃したのは、
 1つには、『ハート・ロッカー』は、インパクトはともかくも、ドラマ部分が弱いから。
 1つには、審査員が現代の戦争の殺伐さに辟易していたから。
 1つには、コンペ部門には、直接・間接に現代の戦争やテロに触れた作品が多く(“Un giorno perfetto”、“Gabbla (Inland)”、『レイチェルの結婚』、『スカイ・クロラ』)、また、異文化の衝突や対立を描いた作品も多く(『赤い肌の大地』『PLASTIC CITY プラスティック・シティ』)、『ハート・ロッカー』は、その中に紛れてしまった。
 1つには、『ハート・ロッカー』の描く世界があまりにも一面的だから(イラクにもいろんな思想・信条の人がいるでしょうが、『ハート・ロッカー』ではイラク人を人間の皮をかぶったエイリアンか何かのように描いている。)
 それよりは、日常の中に潜む人間ドラマや生きる希望のようなものを審査員が評価したいと考え、最終的に『レスラー』を選んだ。

 まだ半数のコンペ作品が日本では観られないわけですが、私個人としては、それでもどうしようもならない自分と折り合いをつけて生きていかなくてはいけない主人公の内面を描いた『レイチェルの結婚』が、その世界観、家族観ともに興味深く感じられ、『レイチェルの結婚』が金獅子賞で、米国アカデミー賞作品賞であってもよかったような気がします。

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 ◆“敵”の描き方、など

 『ハート・ロッカー』を観ていて、私が特に気になったのは、主人公たちの精神性、および、“敵”の描き方でした。
 以下、ちょっととりとめもない感じですが、考えるところをざっと書き出してみると――

 ・“敵”は確かに存在して、主人公たちにトラップを仕掛け、命を危険にさらすけれど、明確な姿や形を見せることはない、それに対して主人公たちは怒りを露にすることもなく、泣くことも嘆くこともなく、ただ淡々と“仕事”をこなしていく。まるで、職務(会社)に忠実なサラリーマンのように。

 ・主人公たちは、その“仕事”を誰かがやらなければいけないという理由だけで、自らを危険な状況に追い込んで、行ない、そういう状況を作った国際関係や政治、自分たちをここに送り込んだ国、そして“職務”そのものについては、一切疑問を呈することはしない。
 映画それ自体も、こういった状況を作り出した原因はもちろん、アメリカ側のイデオロギーも、イラク側のイデオロギーも一切問題にしない。少なくとも表面的にはそういう問題には踏み込もうとはしていない。

 ・物語の設定から、主人公たちがそこに送り込まれた状況も理由も、“敵”がなぜ主人公たちを苦しめるのかも(たぶん)わかってはいるけれど、それはあくまで外部情報であって、映画の中に書き込まれてはいない。

 ・“戦場”はリアルに描き込まれてはいるけれど、物語自体は、(主人公が職務に疑問を抱かないことも含めて)まるでゲームの中のできごとのよう、というかゲームそのものようで、プレーヤーは、失敗すれば、ゲーム・オーバーとなる極限的状況を1面ずつクリアしていくだけ。そして、ゲーム・オーバーとなれば、また、新たなプレーヤーが参加してゲームを続けていく……。

 ・主人公たちは、“敵”のことも、“敵”が何を考えているかも、一切考えない。
 “敵”は、人間の姿をしているけれど同じ人間ではなく、ただ主人公たちを襲う“絶対的な悪”として描かれている。理解もできず、交渉することも、理性的に話し合うこともできない、まさに“絶対的な悪”(こちらに対して邪悪な意思をむき出しにしてくる、わけがわからない邪悪な存在)。
 それは、いわば、監督の元夫ジェームズ・キャメロンが描いた『エイリアン』におけるエイリアンのようであり、『遊星からの物体X』における、人間に変異した宇宙生命体のようであり、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』で主人公たちを追い詰めた“不気味な存在”のようであり、あるいは、『ゴースト&ダークネス』の人喰いライオンのようでもある。(『ハート・ロッカー』の編集者が、これまでほとんどホラー映画しか手がけたことがなかった人であるという事実は、ちょっと示唆的でもある。)

 『ハート・ロッカー』は、これが事実かどうか、現実はどうだったかはともかく、そういう存在として、イラク人をとらえている映画、ということになる。少なくとも、主人公たちには、そういう風に見えていた、という風に描かれている。

 アジア人を理解のできない存在、顔のない存在(顔の区別ができない存在)、何を考えているか、いつ襲ってくるかわからない恐るべき存在として描く映画は、これまでもあったけれど(もう25年も前の映画になる『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』なんかを観ると、「アジア人て、個々に顔がなくて、なんて恐ろしいんだ」と思わされる)、ここまで究極の悪としてアジア人を描いた映画はこれまでなかった。(『ハート・ロッカー』を観た人に、アジア人(もしくはアラブ人)とはそういうものであると意識・無意識に植えつける効果は想像ができないくらいに大きい。たとえ製作サイドがそれを狙っていないとしても。)

 ・だから、「ドラマ」の中心は、主人公たちVS“敵”ではなく、主人公たちの淡々とした任務の遂行と、極限状況における主人公たち内部の対立・葛藤となる。(これも『エイリアン』の物語構造に似ています。)
 “敵”の一部(ベッカム)に心を通わせようした主人公は、勝手な思い違いから裏切られたように思い、這う這うの体で逃げ帰ることにもなります。

 ・ただ、『ハート・ロッカー』では、物語の性質上、“敵”は、イラク人、アラブ人に特定されるけれど、アメリカ人が、自分たちの“外部の者”に対して、根源的な恐怖心を抱いているのは事実で(銃社会、あるいは外的な脅威を扱った映画を見れば明らかなように)、そういう精神性が『ハート・ロッカー』にも反映されている、ということもできるかもしれません。

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 ◆エンディング

 最初に「失敗」させることで、爆弾の威力を見せて(観客に緊張感を味わわせて)、あとは、だんだんと登場人物たちを困難な状況に追い込んでいく。
 主要な登場人物は少ないのだから(基本的には3人)、彼らは少なくとも映画の終わり近くまで死んでしまったりすることはせず、このまま物語を担っていく(ことになるだろう)。
 ――ということは、物語の前半で、大体予想ができます。
 あとは、どういうエンディングを持ってくるのか。
 オープニングもセオリー通り、その後の展開もそう。だとすれば、エンディングもこの種の映画のセオリー通りとなるはずで、とすれば、冒頭にループする形で、終わるんじゃないか。私は、そういう風に予想しながら、『ハート・ロッカー』を観ていました。

 可能性のあるパターンとしては――
 任務終了間際で、もうこれ以上大きな事件が起こってくれるなよと思っていて、帰国後の夢なんかを語っているところで、何かベッカムにからむ形で、ジェームズ軍曹が犠牲になり、新たな班長、もしくは新たな爆発物処理班が赴任してくるところで終わる……。

 実際のエンディングは、私の予想とは当たらずといえども遠からずで、考えてみれば、セオリーに忠実なのは、私が予想していたものより、実際のエンディングの方でした。

 ま、それはともかく、原田眞人監督のHP(http://www.haradafilms.com/)に『ハート・ロッカー』のありうべきエンディングについての言及があって、ちょっと興味深く読んだので、以下に書き出してみます(HPの2009年8月20日のDIARYのところ)。


見終わった後、「急」で何が足りなかったかを、作品に残っている要素から繋ぎ合わせてみると、次のようになった。

①爆破処理のプロの職人描写が素晴らしく、彼は彼なりのトロフィーを集めている。これが宙ぶらりんのルースエンドとなっている。
②ゲストのデーヴィッド・モースが職人から無理矢理引き出した数字、爆発物処理件数873(だったっけ?)がそこだけの話題で終わっている。
③爆発処理の装備服は昔の潜水服のように重たそうだが、微妙な処理をするため指先は出している。当然ながら、我々一般観客は無防備な指先がやたらと気になる。同時にこの指が職人の「道具」であることを忘れないでほしい。
④任務期間終了直前の最後の爆発物処理はクライマックスである。それまで見たことも聞いたことないイラク人の体につけられた爆発物の処理で連帯の絆はラストステージを迎えていいのだろうか。

①と②の関連性からみで考えるならばポイントはひとつに絞られる。

爆発物は仕掛けるものがいるから除去するものがいる。

例えば、釘師とパチプロの関係。わかりやすい対決のドラマにしろといっているのではない。が、②の「873」が示唆するものは「伝説」である。伝説のアメリカ人爆破処理職人がいるならば、テロリストの心理として、彼を倒すことに意識がむいて不思議はない。何しろ、映画が序と破で見事に描写しているように職人の仕事は衆人環視の中で遂行される。テロリストの目もある。となれば、アメリカン・レジェンドは破壊されるべきではないのかい?戦争の遂行とはそういうものだろう。美しい戦場にも汚い戦場にも宣伝工作は存在する。であるならば、テロリスト側の狙い、殊に爆破のプロがいるとすればその狙いはひとつ、職人である。職人を誘拐する。職人を一番不面目な形で処刑する。

映画では米兵誘拐を描いている。テロリストの宣伝放送に使っていたと思しき場所も出て来る。なぜ、ジェレミー・レナーを誘拐するという発想にならなかったのか。

つまり④の、クライマックスに於ける爆発物処理は職人の体に巻き付けられた爆発物の処理ということになる。

物語に関係ないイラク人を連れて来て、ワイヤーが複雑すぎて信管を外せないからカギをひきちぎるしか方法がない、ところがカギが多すぎてすべて外す時間がない、だからごめんアラーの神に祈って、どかん。

こんなみっともない展開にするよりは、マッキーとゲハティーのいる前でレナーが拉致された。翌日、爆発物を身につけたレナーが米軍監視所近くで発見された。時限爆弾。マッキーが現場に着いたときには残り数分。全員が避難せざるをえない。アメリカン・レジェンドは衆人環視のなかで爆死するのか。しかし、マッキーは屈しない。無理だ、他の連中のように避難しろ、というレナーの言葉を無視して、ワイヤー外しにとりかかる。指導するのはレナー。指を使うのはマッキー。

こういう状況はCORNYではない。映画の物語性の王道だ。レナーとマッキーふたりの名演に報いるクライマックスであったと思う。

③の指の使い方は演出のポイントとして、最初から最後まで押さえておかなくてはいけない。つまり、導入部の爆死では無防備な指が先ず吹き飛ばされるのではないか。様々なアングルからハイスピードでの爆死をビグロウは描いてはいるが、強調すべきは指であった。専門的に大きな爆発で指は飛ばないというのなら、小さなエピソードで小さな爆発を描き、体はだいじょうぶだが指は全部飛んでしまったというやつを描くことが重要だ。

さらに、指のデリカシーと言えば、ロバート・ミッチャムの入れ墨の指がある。ハードコアの映画ファンならご存知だね。L-O-V-EとH-A-T-Eですね、これをそのまま彫るのもレナーらしいが、もっと象徴的に、左手指にG-O-D-S、右手指にP-L-A-Yとかなんとか、だよね。それにしても爆発物処理作業、ショットの手数は多いのに、指先の魔術が見られなかったのはビグロウのお粗末な感性の一環である。

さて、文句はつけたが、「ハート・ロッカー」が年間ベストテンの一本に値する作品であることはほぼ間違いがない。要は、神話となる要素がすべてあったのに、祈りが届かなかったということなのだ。


 う~ん、どうなのかな。

 そんなエンディングもあったのか、と一瞬思いましたが、これまで、ジェームズ軍曹の視点を中心に描き、サンボーンとエルドリッジの視点でそれを補佐するようにして物語を進めてきたのに、エンディングでジェームズ軍曹を誘拐させてしまっては、視点が主従入れ替えなければならなくて、映画としておかしなことになるのではないでしょうか(視点を入れ替えなくてもできないこともないけど)。

 また、これまで、“敵”を理解できない存在として描いてきたのに(“敵”の心理や思考には踏み込まないできたのに)、ここでジェームズ軍曹を誘拐してしまっては、“敵”が論理的に秩序だった行動をしていることになってしまい、これまで描いていた(あるいは描かれていなかった)“敵”のイメージとズレてしまいます。

 やっぱり、原田式のエンディングは、この映画とは合わない気がしますね。

 ただ、そのエンディングの方が通俗的だし(という言い方が悪ければ、「カタルシスがあるし」と言い換えてもいい)、『ハート・ロッカー』がアカデミー賞を獲らなかった場合、そちらのエンディングの方が映画としてはヒットしたと思いますが。

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 ◆イラク人のキャスト

 『ユナイテッド93』の時も感じましたが(http://umikarahajimaru.at.webry.info/200609/article_4.html)、こうした映画で“敵”側の役を演じることにリスクはつきまとうもので、いったいどんな人がこういった役を演じているのか、ちょっと気になったりもします。(『ワンス・アンド・フォエバー』でベトナム人中佐を演じたドン・ズオンが、そのためにベトナム映画界から追放されてしまったというようなこともありましたし。)

 『ハート・ロッカー』にクレジットされている主なイラク人役の俳優は3人です。

 ・Suhail Aldabbach:黒いスーツの男(Black Suit Man)
 ・Christopher Sayegh:ベッカム(Beckham)
 ・Nabil Koni:ナビル教授(Professor Nabil)

 Suhail Aldabbach
 これまでのキャリア・フィルモグラフィーなどは不明。

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 Christopher Sayegh
 これまでのキャリア・フィルモグラフィーなどは不明ですが、アメリカの子役のようです。

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 Nabil Koni
 3人の中では、職業俳優らしいことがわかっている唯一の人物で、ニック・ブルームフィールドの“Battle for Haditha”(2007/英、サンセバスチャン国際映画祭2007 監督賞受賞作)でイラク人を演じているほか、サンダンス映画祭ほか多くの映画賞を受賞したヨルダン映画『キャプテン アブ・ラエド』にも小さな役で出演しています。アラブ人役で、ヨーロッパや中東を中心に活躍している国際派の俳優ということなのでしょう。

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 ◆映画『ハート・ロッカー』に登場する爆弾について

 IED:Improvised Explosive Device(即席爆発装置)

 Wikipedia(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%B3%E5%B8%AD%E7%88%86%E7%99%BA%E8%A3%85%E7%BD%AE)に詳しく書かれています。日本語版より英語版の方がより詳しい。

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 ◆『ハート・ロッカー』のスクリプト(英語)

 http://content.thehurtlocker.com/20100103_01/hurtlocker_script.pdf

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 ◆巻頭言

 The rush of battle is often a potent and lethal addiction, for war is a drug. ――Chris Hedges

 戦闘が続くと、気分が高揚し、死と隣り合わせの状態が病みつきになる。というのも、戦争とは麻薬だからだ。――クリス・ヘッジス

 クリス・ヘッジス(Chris Hedges)は、1956年生まれのアメリカのジャーナリスト、作家、戦場特派員で、専門は中東。2002年には、ニューヨーク・タイムズのチームの一員としてピュリッツァー賞を受賞したほか、同年、アムネスティ・インターナショナル・グローバル賞(Amnesty International Global Award for Human Rights Journalism)も受賞しています。
 引用されたのは、彼の著書『戦争の甘い誘惑』“War is a Force That Gives Us Meaning”(2002/日本では2003年に河出書房新社より刊行)から。

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 ◆映画『ハート・ロッカー』に関するトリビア

 ・撮影は、ヨルダンで行なわれた。一部、クウェートの米軍基地で撮影される予定だったが、拒否された。

 ・撮影は、3、4台のスーパー16mmの手持ちカメラで行なわれ、全部で約200時間分のフッテージが残された。

 ・ヨルダンは、平和なため、当初は必要と考えられた俳優用のボディーガードは用意されなかった。映画のセキュリティーのためにヨルダン軍が参加することもなかった。映画の美術・セットとしてのセキュリティーは、私企業が行なっている。

 ・映画のクランクインは、夏のヨルダンで始められたため、最初の週に起きた熱波で、撮影監督のバリー・アクロイドが倒れている。

 ・ジェレミー・レナーは、イラク人の少年の遺体を運ぶシーンで、階段から落ちてしまい、足首を痛めて、数日、撮影を休まなければならなかった。

 ・イラクの難民(のエキストラ)を乗せたバスが撮影に向かう途中で横転してしまうという事故があったが、重症者は出ず、数人がケガし、1人が鼻を折っただけだった。

 ・アメリカ人のキー・クルーの何人かは、ヨルダンからアメリカの空港に戻る時に、手荷物検査で足止めをくらい、質問を受けた。プロデューサーの1人も、ロサンゼルスに戻る際に質問を受けている。

 ・撮影期間中にラマダンがあり、イスラム教徒は、日の出から日の入りまで食事をすることができなかった。非イスラムのクルーは、ラマダン期間中もテントやホテルで食事を摂ることはしたが、イスラム教徒に敬意を表し、ヨルダンの法律(ラマダン期間中、日中、公共の場での、喫煙や飲食は禁じられていて、みつかると投獄される)に従う意味で、窓をカーペットで覆うなどして、中の様子が外部には漏れないようにした。

 ・コリン・ファレル、ウィレム・デフォー、シャーリーズ・セロンのキャスティングが予定されていた。

 ・この映画には、Ministryというバンドの10枚目のアルバム“Rio Grande Blood”から3曲 (‘Fear (Is A Big Business)’、‘Palestina’、‘Khyber Pass’) が使われている。これらは、イラク戦争とブッシュ政権を批判したものである。

 ・この映画をキャスリン・ビグローが監督すればいいと考えたのは、元夫のジェームズ・キャメロンである。ビグローは、別のプロジェクトに取り掛かっていて、当初はこの作品に関心を示さなかったが、脚本を読んだキャメロンに薦められて、監督することになった。

 ・この映画に関わったクルーには、アメリカ人、ヨルダン人、レバノン人、イギリス人、アイルランド人、ドイツ人、モロッコ人、デンマーク人、チュニジア人、南ア人、アイスランド人、イラク人、リベリア人、サーカシア人、パレスチナ人、アルメニア人、スウェーデン人、オーストラリア人、ニュージーランド人がいる。

 ・『ハート・ロッカー』は、完成した翌年度のアカデミー賞作品を受賞した3本目の映画である。(他の2本は『カサブランカ』と『クラッシュ』)

 ・『ハート・ロッカー』は、フィクション作品として、イラク戦争を描いてアカデミー賞を受賞した初めての映画である。

 ・『ハート・ロッカー』は、第一次世界大戦でもなく、第二次世界大戦でもなく、ベトナム戦争でもない現代の戦争を描いてアカデミー賞作品賞を受賞した最初の映画である。

 ・『ハート・ロッカー』は、戦争をモチーフにしてアカデミー賞作品賞を受賞した作品としては『イングリッシュ・ペイシェント』(1996)以来である。

 ・『ハート・ロッカー』は、戦争をモチーフにしてアカデミー賞監督賞を受賞した作品としてはロマン・ポランスキー(『戦場のピアニスト』(2002))以来である。

 ・「ハート・ロッカー」“Hurt Locker”とは、トラブルや痛みを伴う状況を指す既存のスラングで、ベトナム戦争にまで遡る。公式サイトによると、イラクに駐留していた兵士が、爆発について話す時に“sending you to "the hurt locker"”.(棺桶送り)というような使い方をしていたのだという。

 ※以上、IMDbより抜粋。

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 ◆『ハート・ロッカー』劇場パンフ目次

 ※『ハート・ロッカー』の日本公開は、アカデミー賞受賞決定以前から始まっていますが、3月末に私が購入した劇場パンフには、「第82回アカデミー賞 6部門受賞 作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞、音響編集賞、録音賞」と記載されています。

 00/01 INTRODUCTION
 02/03 爆発物処理班
 04/05 STORY 「イラク、バグダッド郊外―。世界で最も危険な仕事に就く、アメリカ軍爆発物処理班の2004年、夏。」
 06/07 高橋諭治:「莫大な製作費にもスターにも頼らずに完成した戦場映画が突きつける衝撃」
 08/09 CAST STUFF PROFILES
 10/11 PHOTO(カラー)
 12/13 笹川英夫(軍事フォト・ジャーナリスト):「現代のアメリカ軍がおかれた戦争の真実」
 14/15 PHOTO(カラー)
 16/17 鷲巣義明(映画文筆家):「ハードボイルドな生きざまを表現し続けるキャスリン・ビグロー監督の真髄」
 18/19 PHOTO(カラー)
 20/23 PRODUCTION NOTES
 24/25 田中昭成(映画評論家・軍事研究家):「『ハート・ロッカー』にちりばめられたイラク侵攻の問題点」+「アメリカ軍死者・負傷者」棒グラフ(2003年3月~2010年1月)、「2004年に至る主な出来事」年表
 26/27 PHOTO(カラー)
 28 CAST STUFF クレジット
 29 PHOTO(モノクロ)

 イントロダクション、STORY、キャスト&スタッフ・プロフィール、プロダクション・ノート、キャスト&スタッフ・クレジットという通常コンテンツに、作品論1つ、作家論1つ、作品の背景に関わるエッセイが2つ、という構成になっています。

 本当なら、監督・脚本家・主演男優のインタビューが欲しいところですが、インタビューを取ることも、どこかのインタビューを転載することも叶わなかったということでしょうか。(ただし、プロダクション・ノートの中にそれぞれのコメントはちりばめられていますが。)

 米国アカデミー賞受賞結果とゴールデン・グローブ賞のノミネーション以外は、一切、本作の受賞&ノミネーションの記録は記載されておらず、本作が、ベネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品されたこともどこにも記載がありませんでした。

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 『ハート・ロッカー』に関して、若干、私の感想を付け加えておくなら――

 上記、2つの項目に関連して、現実の出来事、現実の戦場を元にしているのにも拘わらず、映画『ハート・ロッカー』の感触は、まるで、未知の脅威に対して絶望的な戦いを挑む主人公たちを描いたSFやサスペンス映画のそれに似ている。

 それは、たぶん、キャスリン・ビグローの感受性とも無関係ではないはずで、監督が、ポール・ハギスやブライアン・デ・パルマ、サミュエル・フラーあたりだったら、(アカデミー賞が獲れたかどうかはわからないけれど)もう少し違った映画になっていたのではないかと思える。

 社会性、同時代性、これまでになかったようなやりかたで戦争を描いてみせたこと、作品の持つインパクトなどで、『ハート・ロッカー』が高い評価を受けることは頷けるけれども、アカデミー賞6部門受賞は多すぎるかもしれない。6部門のうちのいくつかは、その部門で最も優れていたからというより、たぶん、作品のパワーがその部門にまで及んだからにすぎない。

 現実がどうなのかはともかく、この映画によって、イラク人、アラブ人が理解できない相手、理性的に話し合うことができない相手であるという認識が助長されるのが恐ろしい。

 男性原理VS女性原理の戦いで女性原理が勝利する『アバター』と、男性原理が支配する『ハート・ロッカー』の戦いでは、少なくともアカデミー賞では『ハート・ロッカー』が勝利したけれども(『アバター』の侵略者側に『ハート・ロッカー』の主人公側が重ならなくもない)、案外、『アバター』が勝利した方が素朴でよかったかもしれない。

 ま、ジェレミー・レナー、アンソニー・マッキー、ブライアン・ジェラティという3人の俳優を“発見”できたことはよかったでしょうか。今後、俳優として、彼らがどういう道を歩んでいくかはわかりませんが、3人の中では、アンソニー・マッキーは一番使い勝手がよさそうなので、期待してもいいんじゃないでしょうか。

 *当ブログ関連記事
 ・キャスリン・ビグローはノースリーブがお好き:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201002/article_29.html
 ・キャスリン・ビグロー 米国アカデミー賞監督賞受賞スピーチ:http://umikarahajimaru.at.webry.info/201003/article_18.html

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  • 被害者意識だけの「ハート・ロッカー」

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