クストリッツァがオープニング! 第1回ルーマニア国際映画祭!

 第1回ルーマニア国際映画祭(Festivalul Internaţional de Film din România Ro-IFF)は、2009年9月25日から10月4日にかけて、ルーマニアのアラドで開催された映画祭で、黒海周辺の国々で制作された作品のコンペティション部門と、女性映画のコンペティション部門を作り、それぞれに長編部門、ドキュメンタリー部門、短編部門というサブ・カテゴリーを設けた、ユニークな映画祭です。

 コンペ部門以外には、フォーカス部門があり、今年はエミール・クストリッツァのレトロスペクティヴが行なわれ、映画祭のオープニングとして、ノー・スモーキング・オーケストラのライブも開催されました。

 こういうプログラムで今後も毎年ちゃんとやっていけるのかどうかはわかりませんが、こういうプログラムで映画祭がやれるんじゃないかと企画するあたりに、近年の黒海諸国の映画製作の充実を感じさせます。

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 記念すべき第1回の受賞結果は以下の通りです。

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 【コンペティション部門/黒海映画部門(CineBlackSea)】
 黒海周辺の諸国―ロシア、モルドヴァ、ウクライナ、グルジア、アルメニア、アゼルバイジャン、ブルガリア、トルコ、ギリシャ、ルーマニア―で制作された作品を対象とするコンペティション。

 ◆長編部門

 ・“Katalin Varga”(英・ハンガリー・ルーマニア) 監督:ピーター・ストリックランド
 ・“Gagma napiri / The Other Bank”(グルジア・カザフスタン) 監督:George Ovashvili
 ・“Poltory komnaty ili sentimentalnoe puteshestvie na rodinu / A Room and A Half”(ロシア) 監督:Andrej Khrzanovski
 ・“Sonbahar / Autumn”(トルコ・独) 監督:Özcan Alper
 ・“Anarak vordu veradardz / The Return of The Prodigal Son”(アルメニア) 監督:Nariné Mkrtchyan、Arsen Azatyan
 ・“40-ci qapi / The 40th Door”(アゼルバイジャン) 監督:Elchin Musaoglu
 ・『牛は語らない/ボーダー』“Sahamn / Border”(アルメニア) 監督:ハルチュン・ハチャトゥリアン
 ・“Süt / Milk”(トルコ・仏・独・ベルギー) 監督:Semih Kaplanoğlu

 ◎最優秀監督:George Ovashvili “The Other Bank”(グルジア・カザフスタン)

 物語:テドは、12歳で、7年前に、グルジア-アブハズ紛争を逃れて、故郷アブハズを離れ、今は、母とともにトビリシ近郊に住み、一緒に自動車修理工場を手伝うことでなんとか生計を立てている。しかし、ある日、母が恋人らしい男性といるのを見てショックを受け、病気のために一緒に来ることができなかった父のことを思い出し、父を探しに行こうと決める……。

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 ベルリン国際映画祭2009のジェネレーション部門でワールドプレミアされた作品で、モスクワ国際映画祭2009ではMoscow Euphoria部門に、カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭2009ではイースト・オブ・ウエスト部門に出品されていた作品。
 パリ映画祭2009 審査員グランプリ受賞。
 ヨーロッパ映画賞2009 ディスカバリー賞ノミネート。
 米国アカデミー賞2010外国語映画賞グルジア代表作品。

 審査員の言葉:「無垢な子供の目を通して、戦争によって歪められた世界を的確に描き出している。特に、強烈な映像と登場人物たちがすばらしい。」
 "For the accuracy of revealing the distorted world of war through the eyes of an innocent child using particularly strong images and characters."

 ◎最優秀俳優:Hilda Peter “Katalin Varga”(英・ハンガリー・ルーマニア)

 物語:カタリン・ヴァルガは、カルパチア山脈を馬で進んでいた。彼女の胸中にあるのは夫に対する怒りであった……。

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 ベルリン国際映画祭2009 コンペティション部門出品作品。芸術貢献賞受賞(サウンドトラック)。
 トランシルヴァニア国際映画祭2009出品、カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭2009出品。
 ブリュッセル国際映画祭2009 パフォーマンス賞受賞(Hilda Peter)。
 ブリティッシュ・インディペンデント・フィルム・アワード2009 新人監督賞ノミネート(ピーター・ストリックランド)。
 ヨーロッパ映画賞2009 ディスカバリー賞ノミネート。

 審査員の言葉:「矛盾した感情を持ちながら、誠実さと威厳を失わない人物を演じたことに対して」
 "The award for best actress goes to Hilda Peter for keeping the integrity and dignity of a strong character through a wide range of conflictive emotions."

 ◆ドキュメンタリー部門

 ・“Women from Georgia”(グルジア) 監督:Levan Koguashvili
 ・“On The Way To School”(トルコ) 監督:Orhan Eskiköy、Özgür Doğan
 ・“Cartierele din Balcic / Quarters of Balchik”(オランダ・ルーマニア) 監督:Ileana Stănculescu、Artchil Khetagouri
 ・“+156”(ルーマニア) 監督:Ionel Simioană
 ・“Живі / The living”(ウクライナ) 監督:Serghei Bukovski
 ・“Azi eram frumoasă, jună / Today I was young and pretty”(ルーマニア) 監督:Alexandra Gulea
 ・“Goleshovo”(ブルガリア・英) 監督:Ilian Metev
 ・“Lilit'in kizkardesleri / Sisters of Lilith”(トルコ) 監督:Emel Çelebi
 ・“Constantin şi Elena / Constantin and Elena”(ルーマニア・西) 監督:Andrei Dăscălescu
 ・“Среща при Айфеловата кула / See zou at the Eiffel tower”(ブルガリア) 監督:Valentin Valchev
 ・“Evropolis: Gradyt na deltata / Europolis : The town of the Delta”(ブルガリア・オーストリア) 監督:Kostadin Bonev
 ・“Rassvet/zakat : Dalai Lama XIV / Sunrise/sunset: Dalai Lama XIV”(ロシア) 監督:Vitali Manski
 ・“Կովկասի զարմուհին / My niece from Caucasus”(アルメニア) 監督:Levon Kalantar
 ・“Louomenoi / Bathers”(ギリシャ) 監督:Eva Stefani

 ◎最優秀ドキュメンタリー:“On The Way To School”(オランダ・トルコ) 監督:Orhan Cskikoy & Ozgur Dogan

 2007年9月から2008年6月まで、あるトルコ人教師の1年を追ったドキュメンタリー。教師は、トルコの田舎のクルド人の村にトルコ語の学校教師として派遣される。しかし、教師はクルド語ができず、子供たちはトルコ語が話せない。教師は、異文化の中でただ1人島流しに遭ったような孤独な状況に陥るが、ゆっくりとであるが次第にコミュニケーションが取れるようになってくる……。

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 パリ映画祭2009 トルコ映画特集で上映。
 Antalya Golden Orange Film Festival 2009 グランプリ受賞。

 審査員の言葉:「大げさではない方法で、現実に対処したこの作品の映画的アプローチに対し、審査員は全会一致でこの作品を最優秀ドキュメンタリーに選んだ。」
 "The jury unanimously choose ON THE WAY TO SCHOOL for its cinematic approach to deal with reality in an nonexaggerated way."

 ◆短編部門

 ・“Museum of Broken Relationships / Museum of Broken Relationships”(ボスニア・ヘルツェゴビナ) 監督:Iulia Rugină
 ・“Dadimebulebi / Speechless”(グルジア) 監督:Salome Jashi
 ・“Renovare / Renovation”(ルーマニア) 監督:Paul Negoescu
 ・“Nunta lui Oli / Oli's wedding”(ルーマニア) 監督:Tudor Cristian Jurgiu
 ・“O familie ... / A family ...”(ルーマニア) 監督:Emanuel Pârvu
 ・“Aristera dexia / Left right”(ギリシャ) 監督:Argyris Germanidis、Stavros Raptis
 ・“De unică folosinţă / One time use only”(ルーマニア) 監督:Alexandru Gherman
 ・“Altzaney”(グルジア) 監督:Nino Orjonikidze、Vano Arsenishvili
 ・“Annem sinema öğreniyor / Mz mother learns cinema”(トルコ) 監督:Nesimi Yetik
 ・“Омлет / Omelette”(ブルガリア) 監督:Nadejda Koseva

 ◎最優秀短編:“Omelette”(ブルガリア) 監督:Nadejda Koseva

 物語:オムレツを無事に完成させることの難しさ。

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 サンダンス映画祭2009 Short Filmmaking Award - Honorable Mention。
 ソフィア映画祭2009 観客賞受賞。

 審査員の言葉:「この作品は、個人の物語を語りながら、変化と危機にどう対処したらいいかということを、サスペンスとオリジナリティーを交えつつ、凝縮して描いている。」
 "The award for best short goes to OMELETTE for telling an individual story representing the problems of transition and crisis in a condensed way with a lat of suspense and originality."

 *審査員:Nadja Rademacher(goEast – Festival of Central and Eastern European Film in Wiesbaden/Frankfurtのディレクター)、Susanna Harutyunyan(映画批評家/アルメニア映画批評家協会会長/ Golden Apricot Yerevan International Film Festival.芸術監督)、ロナ・ハートナー(『ガッジョ・ディーロ』などで知られるルーマニア人女優)、Dumitru Marian(モルドヴァの映画監督)、Andras Salamon(ハンガリーの映画監督)

 【女性映画部門(Women in Cinema)】

 ◆長編映画部門

 ・“Jas sum od Titov Veles / I am from Titov Veles”(マケドニア) 監督:Teona Strugar Mitevska
 ・“Handsome Harry”(米) 監督:Bette Gordon
 ・“Little Zizou”(インド) 監督:Sooni Taraporevala
 ・“Snijec / Snow”(ボスニア) 監督:Aida Begic
 ・“Timer”(米) 監督:Jac Schaeffer
 ・『カメレオン』“Chameleon”(ハンガリー) 監督:クリスティナ・ゴダ
 ・『パンドラの箱』“Pandora’nin Kutusu / Pandora's Box”(トルコ・仏・独・ベルギー) 監督:イェスィム・ウスタオウル
 ・『フィッシュ・チャイルド―ある湖の伝説―』“El ninõ pez / Fisch child”(アルゼンチン・西・仏) 監督:ルチア・プエンソ

 ◎最優秀監督:ルチア・プエンソ(Lucía Puenzo) 『フィッシュ・チャイルド―ある湖の伝説―』“El Nino Pez”(アルゼンチン・仏・西)

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 審査員の言葉:「腐りきった世界で、若者の、ワクワクするような、親密な愛の肖像が描かれている。監督は、確信犯的に、複雑な登場人物たちと状況を作り出し、作品を多重構造化させている。」
 "For creating a riveting and intimate portrait of young love in an emotionally corrupt world. With confidence the director constructed a deeply layered film filled with complex characters and situations."
 *ラテンビートフィルムフェスティバル2009で上映。

 ◆ドキュメンタリー部門

 ・“Omar Porras, sorcier de la scéne / Omar Porras, wizard of the scene”(スイス) 監督:Miruna Coca-Cozma
 ・“Humoresca / Humoresque”(ルーマニア) 監督:Diana Deleanu
 ・“Un jour mon prince viendra / Some day my price will come”(ベルギー) 監督:Marta Bergman
 ・“Carmen meets Borat”(オランダ) 監督:Mercedes Stalenhoef
 ・“Imra'ah min Dimashq / Dolls – A woman from Damascus” (シリア・デンマーク) 監督:Diana El Jeioudi
 ・“Min dattler terroristen /My dauther the terrorist”(ノルウェー) 監督:Beate Arnestad
 ・“Lamut B'Yerushalaim / To die in Jerusalem”(イスラエル・パレスチナ) 監督:Hilla Medalia
 ・“Het moeras / The swamp”(オランダ) 監督:BarBara Hanlo
 ・“GAUCHOS: El que no sube, na cae / Gauchos:If you don’t get on, you don’t fall off”(独) 監督:Jana Richter、Yana Drouz
 ・“Nombre secreto: Mariposas / Code name : Butterflies”(ドミニカ・米) 監督:Cecilia Domeyko
 ・“Boris Ryzhy”(オランダ) 監督:Aliona van der Horst

 ◎最優秀ドキュメンタリー:“Gauchos: If You Don't Get On, You Don't Get Off”(独) 監督:Jana Richter
 いつも危険と背中合わせの生活をしているアルゼンチンのガウチョについてのドキュメンタリー。

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 審査員の言葉:「この作品は、人間と動物が調和して共存している世界に我々を導いてくれる。監督は、ワイルドな世界に、マジックのようなユーモアとやさしさを見出し、そして、肉体が調和しているなら、魂もまた調和しているということを自然が教えてくれると、強い情熱で提示している。」
 "Takes us into a universe where men and animals coexist in harmony. The filmmaker captured moments of magic humour and tenderness in a brutal world and displayed a strong passion for her subjects who teaches us if the body is in balance, the soul is in balance too."

 ◆短編部門

 ・“Dandelion Dharma”(米) 監督:Veronica DiPippo
 ・“Silence”(アイスランド・独) 監督:Ava Lanche
 ・“Circles of confusion”(米) 監督:Phoebe Tooke
 ・“In control”(カナダ) 監督:Ana de Lara
 ・“The maid”(エジプト・米) 監督:Heidi Saman

 ◎最優秀短編:“Museum of Broken Relationships”(ボスニア ヘルツェゴビナ) 監督:Iulia Rugina

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 審査員の言葉:「この監督は、厳しい状況で普通であるということがいかにおかしいかということを教えてくれる。」
 "The director helped us find humour in what is normally a difficult situation."
 ※女性映画部門の短編部門は、黒海映画部門の短編作品をも含めて審査されたようです。

 *審査員:Alain Zaloum(カナダの監督)、Mara Nicolescu (ルーマニアの女優)、Claudia Nedelcu Duca(ルーマニアの編集者)

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 ◆批評家賞(Critics)

 ◎優秀賞(Best film Diploma):“Room And A Half”(ロシア) 監督:Andrej Khrzanovski

 ノーベル賞作家ヨシフ・ブロツキー(1940~1996)と彼の家族に関するポートレイト。

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 カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭2009 East of The West賞受賞。
 モントリオール世界映画祭2009 ワールド・グレイト部門出品。

 審査員の言葉:「この作品は、ノーベル賞作家ヨシフ・ブロツキーの、セミ・フィクション的なポートレイトを示すのに、優れて、ユニークで映画的なアプローチを用いている。この作品の巧みなところは、エモーショナルでありながら、ドキュメンタリーとしての実写部分と、詩人ヨシフ・ブロツキーが見たソ連の文化世界というイメージ世界を想像力でうまくミックスしたことにある。」
 "For an outstanding and unique cinematographic approach of addressing a semi-fictional portrait of Nobel Prize winner Josef Brodsky. Film is a masterful blend of emotionally gripping and widely imaginative mixture of documentary life-action and archival footage through the eyes of poet Josef Brodsky of the cultural world of the Sovjet Union."

 ◎スペシャル・メンション:『牛は語らない/ボーダー』“Border”(アルメニア) 監督:ハルチュン・ハチャトゥリアン

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 審査員の言葉:「難民であることの悲劇を、革新的に、言葉を用いずに描いている。」
 "For innovative and non-verbal way of depicting the tragedy of being a refugee."
 *東京国際映画祭2009 natural TIFFで上映。

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 【フォーカス部門】

 エミール・クストリッツァ レトロスペクティヴ
 ・『アリゾナ・ドリーム』
 ・『黒猫・白猫』
 ・『ライフ・イズ・ミラクル』
 ・『Super 8』
 ・『アンダーグラウンド』
 ・『ジプシーのとき』
 ・『パパは出張中!』
 ・“Guernica”(1978)

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 春のトランシルヴァニア国際映画祭、秋のルーマニア国際映画祭という風に、ルーマニア映画界のイベントとして定着していけば、ルーマニアとしても、バルカン諸国の映画界としてもいいと思うのですが、ルーマニア映画の普及と振興に努めているはずのRomania Film Promotionがこの映画祭に完全にノータッチで、公式HPのNews欄でもこの映画祭のことについて一切触れていないというのが気がかりです。なんらかの確執があったりするのでしょうか……。

 ま、素人目にもプログラムの組み方に難しさがあるんじゃないかという風に見えるので、そういう意味でも来年以降の開催が危ぶまれるのですが、今後の動向を見守りたいと思います。

 特に、女性映画部門は第1回からしてプログラム作りに苦労しているように見えるので、われこそはと思う日本の女性監督は、作品をエントリーされてみてはいかがでしょうか。

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 *当ブログ記事
 ・トランシルヴァニア国際映画祭2009 ラインナップ:http://umikarahajimaru.at.webry.info/200905/article_15.html
 ・トランシルヴァニア国際映画祭2009 受賞結果:http://umikarahajimaru.at.webry.info/200906/article_10.html
 ・映画祭&映画賞カレンダー 2009年5月~2010年5月:http://umikarahajimaru.at.webry.info/200905/article_6.html

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