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zoom RSS 日本人が監督した注目のアート・フィルム 『ハーブ&ドロシー』

<<   作成日時 : 2009/06/12 08:12   >>

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 トランシルヴァニア国際映画祭2009でも上映されたドキュメンタリー“Herb & Dorothy”が12日より北米各地で上映されます。

 この作品は、日本人のササキメグミさんが監督した作品で、当ブログではトランシルヴァニア国際映画祭2009のところでも紹介しましたが、劇場公開記念として、もう少し詳しく書いておきたいと思います。

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 ◆ハーバート&ドロシー・ヴォーゲルについて

 “Herb and Dorothy”というのは、ハーバート・ヴォーゲル(Herbert Vogel)とドロシー・ヴォーゲル(Dorothy Vogel)という夫妻のことで、ハーバートは郵便局員をし、ドロシーは図書館司書をしています。

 この夫妻が注目されるようになったのは、彼らが1960年代から集め始めた現代アートのコレクションが4000点以上になり、作品を買った当時無名だった芸術家たちもその後どんどん有名になって、コレクションの中に重要な作品がたくさん含まれていることがわかったからで、その作品は、芸術家たちの展覧会やレトロスペクティヴ、マスコミでの取材などがある度に、借り出されていくということもよくあり、彼らのコレクションは美術業界やマスコミでは有名で、素人のコレクションでありながら、知る人ぞ知るコレクションになっていたそうです。

 芸術家が仕事として制作している以上、お金があれば、たいがいの作品は買うことができるはずですが、彼らのコレクションが凄いのは、それらを金に飽かせて買ったわけではなく、じっくり何度も何度も見て、気に入った作品だけを手の届く範囲で(自分たちの給料の中から)お金を出して買う、ということにあります。

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 彼らが作品を買うのには、条件があるそうで、それは――
 1. 手頃な値段で手に入れられるもの
 2. 自分たちのアパートに納まる作品であること
 という2つです。

 「自分たちの給料の中から」というのは、実際には、ハーバートの給料分で、生活費はドロシーの給料で賄っていたそうです。

 具体的には、コレクションの中にどんな作品があるかというと――
 Lucio Pozzi:ミラノ出身のアメリカの画家。公式サイト:http://www.luciopozzi.com/
 ロバート・マンゴールド(Robert Mangold):ミニマル・アートの抽象画家。映画監督ジェームズ・マンゴールドの父親。
 シルヴィア・マンゴールド(Sylvia Mangold):ロバート・マンゴールドの妻。主に風景画を手がける。
 パット・ステア(Pat Steir):画家、版画家。Wikipedia:http://en.wikipedia.org/wiki/Pat_Steir
 ロバート・バリー(Robert Barry):インスタレーション、パフォーマンス・アートを中心に活躍するアーティスト。Wikipedia:http://en.wikipedia.org/wiki/Robert_Barry_(artist)
 チャック・クロース(Chuck Close):フォトリアリスト、写真家。Wikipedia:http://en.wikipedia.org/wiki/Chuck_Close
 リンダ・ベングリス(Lynda Benglis):ワックス・ペインティング、床にラテックスを垂らして作る作品などで知られる彫刻家、画家。Wikipedia:http://en.wikipedia.org/wiki/Lynda_Benglis
 ジェームス・シエナ(James Siena):ニュー・ペインティング、グワッシュを手がける画家。
 ヴィル・バーネット(Will Barnet):主に人物画や動物画を手がける画家。Wikipedia:http://en.wikipedia.org/wiki/Will_Barnet
 リチャード・タトル(Richard Tuttle):ポスト・ミニマリストの画家、彫刻家、インスタレーション・アーティスト。Wikipedia:http://en.wikipedia.org/wiki/Richard_Tuttle
 クリスト&ジャンヌ=クロード(Christo and Jeanne-Claude):「梱包」「アンブレラ・プロジェクト」などで知られるフランスの美術家夫婦
 ローレンス・ウェイナー(Lawrence Weiner):コンセプチュアル・アートを手がける芸術家。Wikipedia:http://en.wikipedia.org/wiki/Lawrence_Weiner

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 コレクションがアパートいっぱいになり、もうこれ以上収納できなくなった1992年に夫妻は、数百万ドルの価値のあるコレクションのすべてをワシントン・ナショナル・ギャラリー(The National Gallery of Art in Washington D.C. )に寄贈し、その後、再び、新たなコレクションをスタートさせたそうです。

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 ◆監督について

 ササキメグミさんは、元々はフリーのジャーナリストで、1989年のベルリンの壁崩壊に際しては、3ヶ月の取材をして、東欧の現状に関する10回にわたるレポートを読売新聞に連載しています。

 その後、1992年に、NHKに入社し、「おはよう日本」でニュース・ディレクター、リポーターなどを務める。

 1996年には再びフリーになり、NHKの「NHKスペシャル」や民放各局のドキュメンタリー番組のディレクターやプロデューサーとして活躍。手がける題材は、クリスト&ジャンヌ=クロード、経済のグロバール化、捕鯨問題、高齢化社会、臓器移植、自殺支援と死ぬ権利、北朝鮮の核開発など多岐にわたっています。

 2002年には、製作会社Fine Line Mediaを設立。“Herb & Dorothy”はその第1回作品です。

 これまでに訪れた国は40カ国以上で、現在の活動拠点はニューヨーク。

 彼女が、ヴォーゲル夫妻のことを知ったのは、日本のテレビ番組に向けてクリスト&ジャン=クロードについて取材している時で、その時は、郵便局員と司書の給料で世界的なクレクションを手に入れられることが信じられず、それをマンハッタンのアパートに収納しているということに驚いた、と言います。

 彼女が、実際に夫妻に会ったのは2004年になってからで、夫妻の人柄と「現代のおとぎ話」に惹かれる。

 小さな作品を作ろうと思って撮り始めたドキュメントは、しかし、簡単にはケリをつけることができず、撮影は4年にもわたり、撮影時間も120時間を越える。資料はキャビネット2つ分にもなり、集めたアート作品の映像は、アーティストとしては約200人、作品数にして約4000。
 撮影を始めて、彼女は、彼ら夫妻が決して「小さな人」などではなく、「巨人」なのだ、ということに気づいたのだという。

 完成した“Herb & Dorothy”は、2008年ハンプトンズ国際映画祭でゴールデン・スターフィッシュ・アワード(ドキュメンタリー部門のグランプリ)&観客賞を受賞。2008年のシルバードックス映画祭と2009年のフィラデルフィア・シネフェストでも観客賞を受賞。2009年のパームスプリングス国際映画祭では、ベスト・オブ・フェストに選ばれています。

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 彼女は、indeieWIREのインタビューで、後進のフィルメーカーヘのアドバイスとしてこう答えています。
 「努力すること。許すこと。感謝すること。敵を作らないこと。勝つための争いをしないこと。常に自分の内側の声に耳を傾け、それに従って行動すること。障害物や限界はむしろ歓迎すべきもので、それらを乗り越えようとすることで、それらが逆に自分を新たな地平に連れて行ってくれる。」

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 ◆スタッフ

 ・アクセル・バウマン(Axel Bauman)(撮影)
 ドイツ生まれのカメラマン。『I LOVE ペッカー』のセカンド・ユニット・カメラマンなどを経て、撮影監督として独立。ナショナル・ジオグラフィックTV、ディカバリー・チャンネル、サンダンス・チャンネル、BBCなどのドキュメンタリー、CM、ミュージック・ビデオなど様々なジャンルで活躍している。“Liberia: An Uncivil War”(2004)ではエミー賞にノミネートされた。

 ・バーナディン・コリッシュ(Bernadine Colish)(編集)
 数々のドキュメンタリーの編集を手がけ、その編集手腕を高く評価されている編集者。
 代表作に“The Bafallo War”(2001)、『Body of War』(2007)など。

 ・David Majzlin(音楽)
 数々の映画やテレビ・ドラマの音楽を手がける音楽家。最近では『サンシャイン・クリーニング』(2008)にも音楽を提供している。

 ・カール・カッツ(Karl Katz)(製作総指揮)
 ニューヨーク・メトロポリタン美術館の教育部からキャリアをスタートさせ、1958年にはエルサレムのイスラエル国立美術館設立にも関わる。1969年よりニューヨークのジューイッシュ美術館のディレクターに就任。
 1971年にメトロポリタン美術館に戻り、スペシャル・プロジェクトのチェアマンに就任。のちに、映画&テレビ部(Museum's Office of Film and Television)を設立し、ディレクターとなった。以降、美術に関する約40本の映画を製作している。
 1992年には、非営利団体MUSE Film and Televisionを設立し、芸術や文化に関わる映画やデジタル作品を製作している。

 ・キャサリン・プライス(Catherine Price)(製作総指揮)
 政治団体や慈善団体、映画製作などのリサーチやマーケティング、マネージメントなどを行い、のちに、MUSE Film and Television設立に加わる。
 MUSE Film and Televisionでは、マネージング・ディレクターとして製作・配給などを手かげている。

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 ちょっと面白そうだし、不景気の時期に、こういう慎ましくて、しかも夢のある話というのは受け入れられやすいはずで、日本でも上映されていいのではないかと思うのですが、どうでしょうか。監督もきっと日本でも上映されればいいなあと思っていると思いますし。

 上映の可能性は、いくつか考えられると思います。
 ・ストレートに劇場公開される。
 ・夫妻のコレクションの展覧会とセットで限定上映される。
 ・映画祭で上映される。
 ・NHKあたりでテレビ放映される。
 ・アート系のレーベルからDVDでリリースされる。

 現実的には、山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映されて、その後、それが劇場公開につながるというラインが考えられます。上映の可能性は決して低くないと思います。

 MUSE Film and Televisionが製作した作品が日本で公開されたことはないようですが、この作品の全米公開を手がけるArthouse Filmsが手がけた作品としては、過去に『ミキリタニの猫』(2006)、『ビューティフル・ルーザーズ』(2008)があります。

 アカデミー賞にノミネートされる可能性も高い、などという売り文句があれば、この文章としても格好がつくのですが、この映画が賞を受賞している映画祭で上映された他のドキュメンタリー作品は、すでに2008年度のアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞候補に挙がっていたりするので、この作品にはもうそういう資格はないのかもしれません。ま、アカデミー賞の規定がどういうことになっているのかはよくわからないので、ひょっとするとまだエントリーされる可能性は残っているのかもしれませんが。11月にははっきりするはずです。

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 ◆全米での上映予定
 美術館での上映が多いようです。

 ・6月12日 トーブマン美術館(バージニア州)
 ・6月19日〜21日 プロヴィンスタウン映画祭(マサチューセッツ州)
 ・6月19日〜25日 ランドマーク・シアター ブアーズ(フィラデルフィア州)
 ・6月19日〜25日 ランドマーク・シアター リュミエール・シアター(サンフランシスコ)
 ・6月19日〜25日 ランドマーク・シアター シャトック(バークレー)
 ・6月25日 オレンジ・カントリー美術館(カリフォルニア州)
 ・6月25日 シネマ・アート・センター(ニューヨーク州ハンティントン)
 ・6月26日 クリテリオン・シネマ(コネティカット州ニューヘヴン)
 ・6月27日〜28日 ギルド・シネマ(アルバカーキ州)
 ・7月3日、5日、7日 ジーン・シスケル・フィルム・センター(シカゴ)
 ・7月3日 ランドマーク・シアター E−ストリート・シネマ(ワシントンDC)
 ・7月10日〜 ランドマーク・シアター ニューアート(ロサンゼルス)
 ・7月10日、12日 ポートランド美術館(メイン州)
 ・7月16日 デンバー・フィルム・ソサイエティ ドック・ナイト
 ・7月17日 スターツ・フィルム・センター(デンバー)
 ・7月19日 マイアミ美術館
 ・7月26日〜26日 オクラホマ・シティ美術館
 ・7月31日 タワー・シアター(ソルトレーク)
 ・7月31日 シアトル・ノースウエスト・フィルム・フォーラム(ワシントン州)
 ・7月31日 グランド・シネマ(タコマ)
 ・8月4日 オガンキット美術館(メイン州)
 ・8月9日 デラウェア美術館
 ・8月16日 アスペン・フィルム・シリーズ
 ・9月15日 コクラン・アート・ギャラリー(ワシントンDC)
 ・9月16日 ウォーカー・アート・センター(ミネアポリス)
 ・9月18日〜20日 シンシナティ美術館(オクラホマ州)
 ・9月26日〜28日 ヒューストン美術館
 ・9月30日 ウェクスナー・アート・センター(オクラホマ州)

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 ◆参考サイト

 ・公式サイト:http://www.herbanddorothy.com/
 ・監督インタビュー「indieWIRE」:http://www.indiewire.com/article/a_triumph_of_passion_herb_dorothy_director_megumi_sasaki/
 ・ニューヨーク・プレミア時のフォト「Zombio」:http://www.zimbio.com/Dorothy+Vogel/pictures/pro
 ・映画『雪の下の炎』の楽真琴監督のブログ「Fire Under the Snow」:http://fireunderthesnow.blogspot.com/2009/06/herb-and-dorothy.html

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 追記
 シネマトゥデイが監督に取材を行なっています(http://cinematoday.jp/page/N0018299)。
 で、ササキメグミ=佐々木芽生と判明してみると、彼女に関する情報が、出てくるわ、出てくるわ。上に書き出した以上に彼女に関する情報がたくさんあることがわかりました。
 一番詳しいのは、i See NY(http://www.iseeny.com/success/success_30.html)でしょうか。
 トランシルヴァニア映画祭についての記事を書いた時点(5月29日)では、“Herb &Drothy”で検索しても、ヒットする日本語サイトはゼロだったので、現在得られる情報(のほとんど)はそれ以後にネット上にアップされたものだと思われます。(それ以前に書かれたものもあったようですが、なぜか“Herb &Drothy”での検索ではヒットしませんでした)

 佐々木芽生監督 プロフィール追記
 北海道出身。
 高校時代に1年間アイオワの高校に留学。
 大学は東京の大学に進学(仏文科)。
 東北新社営業制作部勤務するが、2年半で退社。
 4ヶ月のインド旅行を経て、ニューヨークに落ち着く(1987年)。



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内 容 ニックネーム/日時
大変詳しい記事で、この映画について色々知ることが出来ました。ありがとうございます。
lifeonmars
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2009/06/17 21:52

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