映画『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』に関する約40の覚え書き

 ユニークな設定に導かれて、2時間47分の長尺を、ほとんど退屈することもなく一気に見せられてしまうけれど、面白く観終わった後で、果たしてこの映画はどういうことを言いたかったんだろうと思わなくもなかった映画『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』。

 フィンチャーらしいとか、らしくないとか、『フォレスト・ガンプ』に似てるとかそうでもないとか、いろいろ議論もあるようですが、いろんなレビューを読んでみても、全体としてこの映画についてうまく言い表している、と思えるようなものはあまりなかったような気もします……。

 なので、ここでは、そんな私にとっての、「もっともっと映画『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』に近づくための覚え書き」を書き出してみることにします。

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 ◆ベンジャミン・バトンという名前

 主人公ベンジャミン・バトンの名前は、原作でもベンジャミン・バトン(Benjamin Button)で、原作者のフィッツジェラルドが、登場人物に一々意味を考えて命名するかどうかは知らないのですが、(ベンジャミンという名前がありきたりなもので、ありきたりな人物であることを示すのにそういう名前を与えられているらしいのに対して)“Button”=ボタンは、ベンジャミンの実父の工場で作られている製品という以上に意味がありそうで、この映画自体もたくさんのボタンで画面が埋め尽くされる、というところから始まっています。
 考えられることの1つは、「ボタン」がベンジャミンの人生のメタファーになっているんじゃないか、ということです。
 今では、ボタンなんて、古くなった服と一緒に服ごと捨てられるものですが、ちょっと前まではそうではなくて、着られなくなった服を捨てる時にも、ボタンだけは外して取っておいて、別の服のボタンが取れてしまった時などに取り出してきて使う、ということが普通に行なわれていました。つまり、服が次々新しくなっていっても、ボタンだけはずっと同じで変わらないわけで、これは、まわりの時間の流れに逆行して自分だけ若返っていくベンジャミンの人生にちょっと似ています。

 ◆デイジー

 原作で、デイジーに当たる役の名前は、デイジーではなく、ヒルデガルド・モンクリーフ(Hildegarde Moncrief)。ただし、デイジーがベンジャミンとつかず離れずという関係なのに対し、ヒルデガルドはベンジャミンを見限って物語から退場してしまうのですが。
 「デイジー」は、たぶん原作者フィッツジェラルドへの目配せで、『グレート・ギャツビー』のヒロインの名前からの転用です。

 ※ satohideさんのブログ「satohide’s log cabin」(http://d.hatena.ne.jp/satohhide/20090209/1234170489)には、デイジーのモデルはマリア・トールチーフではないか、という指摘があります。
 *マリア・トールチーフに関するWikipedia:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%81%E3%83%BC%E3%83%95

 ◆エリザベス・アボット

 satohideさんのブログ「satohide’s log cabin」には、エリザベス・アボットが、女性初のドーバー海峡横断泳者になったGertrude Ederleをモデルにしているのではないか、という指摘もあります。

 ◆原作との主な相違点

 ・原作では、ベンジャミンは1860年に生まれて、1920年に死ぬ。映画では、ベンジャミンは1918年に生まれて、2003年に死ぬ。
 ・原作では、ベンジャミンは60歳(くらい)で生まれ、映画では80歳(くらい)で生まれる(逆算すると75歳?)。
 ・原作の舞台はボルチモア、映画の舞台はニューオリンズ。
 ・映画では、ベンジャミンがデイジーに送った手紙をデイジーの娘キャロラインが読むという形で、現在(2005年)と過去を行ったり来たりしつつしてベンジャミンの人生が紹介されるのに対して、原作では、ベンジャミンの人生が三人称で時系列的に語られる。
 ・デイジーに当たるヒロインは原作では途中でいなくなってしまう。
 ・原作では、ベンジャミンは、姿だけではなく、老人の意識を持って生まれ、いきなりしゃべり始める。映画のベンジャミンは、姿は老人でも内面は子どもだったりする。
 ・映画ではベンジャミンは生まれてすぐ捨てられて、養老院で働く夫婦に育てられることになるが、原作ではずっとバトン家で育てられる。

 ◆ガトー氏が作ったニューオリンズ駅の時計

 第一次世界大戦においてマルヌで死んでしまった息子を、叶うなら生き返らせたいという願いを込めて、逆回りするようにガトー氏が作ったニューオリンズ駅の時計は、ベンジャミン・バトンの生涯に伴走するかのように時を逆に刻み、1918年から動き始め、2002年に取り外される。

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 ◆物語の舞台の変更

 原作では、物語の舞台はボルチモアなのが、映画ではニューオリンズに変えられてある。
 これには、ニューオリンズには1920年代といっても通用する古い町並みが残っていたということと、ルイジアナ州で撮影すると映画ロケにかかる州消費税が後から返ってきて製作費が節約できるという2つの側面があり、それだったら、ハリケーン・カトリーナをストーリーに盛り込むのはどうかという案が浮上した。
 ハリケーン・カトリーナをストーリーに盛り込むことで、「人為的なものであれ、天災であれ、運命のいたずらであれ、人はいつ何時どういう不運や不幸に見舞われるかはわからない。しかし、そういう個人ではどうすることもできない運命の下でも人は精一杯生きていかなければならない」というメッセージがリアルなものとして強調され、それと同時に、ハリケーン・カトリーナの被害を被った多くの人々への応援(&レクイエム)になっている。
 ちなみに、カトリーナ以降、ニューオリンズが映画のロケに使われたのは、デンゼル・ワシントンの『デジャヴ』に続いて2本目。

 ◆20世紀アメリカ現代史

 ベンジャミンの人生は、第一次世界大戦以降の20世紀現代アメリカ史と重ね合わせられている。「ベンジャミン・バトンを通して、20世紀現代アメリカ史を描いている」という言い方もあるけれど、同じ脚本家(エリック・ロス)による『フォレスト・ガンプ/一期一会』ほど20世紀現代アメリカのエポックをたどっていっているわけでもない。
 織り込まれているアメリカ史は―
 ・第一次世界大戦の終戦(1918年)~ベンジャミンの誕生
 ・太平洋戦争勃発(1941年)~チェルシー号も米海軍に組み込まれる
 ・マーキュリー9号打ち上げ(1963年5月/マーキュリー計画の最後。宇宙開発計画はジェミニ計画、アポロ計画に引き継がれる)
 ・エド・サリヴァン・ショーへのビートルズ出演(1964年2月)
 ・ハリケーン・カトリーナ(2005年8月)

 ◆社会的弱者からの視点

 映画『ベンジャミン・バトン』は、根強い人種差別のあったルイジアナ州を舞台にしていながら、差別的な(ことがあったというような) 描写は一切なく、むしろ、マイノリティーや社会的弱者(盲人、クレオール、老人、子ども、女性、ピグミー、ネイティブ・アメリカン、障害者)といった視点から世界が描かれている。

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 ◆ビルドゥングスロマン

 『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』は、主人公が、世界中を旅していろんな経験をし、たくさんの人から話も聞き、それらを通して、人間的に大きく成長していく、という「ビルドゥングスロマン」の形式を取っている。ビルドゥングスロマンの代表的な例としては、ゲーテ『ヴィルヘルム・マイスターの修行時代』、ディケンス『デイヴィッド・カッパーフィールド』『大いなる遺産』、トーマス・マン『魔の山』などがある。
 原作とは違って、ベンジャミンが最初に親から捨てられるという設定は、とてもディケンス的、ともいえる。

 ◆人は外見でなく、年齢でもない

 ほとんど目の見えなかった時計職人のガトー氏、ガトー氏とクレオール人女性との結婚、老人の姿をしているが内面は子どものベンジャミン、白人の赤ん坊を育てることにする黒人夫婦……

 デイジー:You're so young. (あなたはとても若く見えるわ)
 ベンジャミン:Only on the outside.(外見だけだよ)

 ◆ピアノを教えてくれたおばあさんの言葉

 BENJAMIN:What if I was to tell you I wasn’t getting older -- I was getting younger than everybody else...
 THE WOMAN:Well, I’d feel very sorry for you... to have to see everybody you love, die before you. That would be an awful responsibility...
 BENJAMIN BUTTON:I had never thought about life or death that way before...
 THE WOMAN:Benjamin... We’re meant to lose the people we love. How else would we know how important they are to us.

 ベンジャミン:ぼくが年をとっていかないで、だんだん若返ってるって言ったらどう思う?
 老女:そうね、あなたが愛した人があなたより先に死ぬのを見届けなくてはいけないというのはかわいそうなことだと思うわ。それって大きな責任を背負い込むことにもなるわね。
 ベンジャミン:今までそういう風に生や死について考えてみたことはなかったな。
 老女:ベンジャミン……愛している人を失うっていうことはそういうことよ。私たちがその人をどんなに愛していたかって、それ以外にどうやって知ることができるっていうの?

 ◆雷に7回打たれても死ななかった老人Mr.Dawの言葉

 Blinded in one eye; can't hardly hear. I get twitches and shakes out of nowhere; always losing my line of thought. But you know what? God keeps reminding me I'm lucky to be alive.
 目も見えなく、耳も聞こえなくなった。どこでも体が引きつったり、震えたりするし、思考も途切れがちになる。だけど、わかるかな? 神様は、私に生きてるだけで幸運だってことを思い出させてくれるんだ。

 ◆7回の落雷シーン

 1. 一度は屋根を直していた時(Once, when I was fixing a leak on the roof.)
 2. 一度は郵便を取りに行こうとして道を渡っていた時(Once, when I was crossing the road to get the mail...)
 3. 一度は野原で牛の面倒を見ていた時(Once, when I was in a field tending to my cows.)
 4. 一度はトラックの中でラジオを聴いていた時(Once I was sitting in my truck listening to the radio.)
 5. 一度は犬を散歩させていた時(Once, I was walking my dog along a country road.)
 6. (ベンジャミンの最後の台詞のところ)

 7回と言いながら、実は、映画の中では6回分しか示されていません。
 Daw氏がボケちゃっていて、本当は6回なのを7回と思い込んでいるのか、7回なのにあと1回がいつだったか忘れてしまっているのか、詮索好きな映画ファンのために1つのネタとして7回と言いながらわざと6回しか出さなかったのか、デイヴィッド・フィンチャー&ブラッド・ピットの映画だからラスト1回を残して“Seven”ということにしたのか……。

 ちなみに、『エイリアン3』から数えて、『セブン』『ゲーム』『ファイト・クラブ』『パニック・ルーム』『ゾディアック』ときて、『ベンジャミン・バトン』は、デイヴィッド・フィンチャーの7本目の長編になります(ただし、デイヴィッド・フィンチャーには、『エイリアン3』以前から現在まで、ミュージック・ビデオのような作品がいくつもあります(マドンナ、エアロスミス、ジョージ・マイケル等))。

 ※ satohideさんのブログ「satohide’s log cabin」には、「老人ホームにいた7回雷に打たれたという老人って、アメリカ独立戦争(1775年)、米英戦争(1812年)、米墨戦争(1846年)、南北戦争(1861年)、米西戦争(1898年)、米比戦争(1902年)、第一次世界大戦(1917年)という、建国からその時点までアメリカが行った主だった戦争の数じゃなかろうか」という指摘があります。

 ◆ハチドリ

 この映画ではハチドリは3回登場します。マイク船長のタトゥーとして、そして船長が死ぬ時とデイジーがいまわの瞬間。
 船長が死ぬ時に現れるハチドリは船長の魂のようであり、デイジーが死ぬ時に現れるハチドリはデイジーの死を見届けに来たベンジャミンの魂のようにも見えます。
 このハチドリを『フォレスト・ガンプ』に登場する白い羽根と同じようなものととらえる人も多いようです。

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 CAPT. MIKE:This idn’t just anoter bird! Its heart rate’s twelve hunerd beats a minute...! Its wings beats eighty times a second...! If you was to stop their wings from beatin, they would be dyin’ in less than ten seconds...This is no ordinary bird, this is a frikkin’ miracle!

 マイク船長:こいつはほかの鳥とは違うんだ。こいつの心臓は1分間に1200回も脈打つんだぜ。羽も1秒間に80回も羽ばたかせる。もしこいつの羽をとめようとでもしてみろ、こいつは10秒以内に死んでしまうぞ。この鳥は普通じゃない、こいつはすげぇ奇跡なんだ。

 ◆ベンジャミンの最後の言葉

 BENJAMIN:I figured out one thing. If you’re growing older or getting younger it really doesn’t make any difference. Whichever way you’re going you have to make the most of what this is. Along the way you bump into people who make a dent on your life... Some people... get struck by lightning...Some are born to sit by a river. Some have an ear for music...Some are artists...Some swim the English Channel.. Some know buttons... Some know Shakespeare...Some are mothers...And some people can dance...I’m going...

 ベンジャミン:ぼくにはわかったことが1つある。年を取るにしても、若返るにしても、本当はそこに大きな違いはないんだ。どっちにしても自分でできる最善のことをするしかない。その途中で、自分の人生に変化を与えてくれるような人に出会ったりもするものだ。雷に打たれた人もいれば、川べりに座ってばかりいるような人もいる。すぐれた音楽を聞き分ける人もいれば、芸術家もいる。ドーバー海峡を泳いで渡る人もいれば、ボタンについてよく知っている人もいる。シェイクスピアについて知っている人もいれば、お母さんもいるし、踊りが得意な人もいる。そしてぼくは……。

 ◆『ベンジャミン・バトン』の映画化企画

 ・この原作の映画化が最初に浮上したのは1994年。
 ・1990年代には、主演=トム・クルーズ、監督=スピルバーグで映画化が企画された。
 ・1998年には、主演=ジョン・トラボルタ、監督=ロン・ハワードで映画化が企画された。
 ・この映画の監督として、スパイク・ジョーンズの名前が挙がったことがある。
 ・デイジー役には、レイチェル・ワイズの名前が挙がっていたが、スケジュールの都合で、降りざるを得なかった。

 ◆ロビン・スウィコード

 映画『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』の脚本に関しては、エリック・ロスの『フォレスト・ガンプ/数奇な人生』との類似性ばかりが指摘されているけれど、“story”としてクレジットされているロビン・スウィコードの役割も無視できないはずで、物語に出入りするたくさんの登場人物をさばいていくやり方はスウィコードの『若草物語』や『ジェイン・オースティンの読書会』を思い出させ、主人公が数奇な運命をたどっていくというのはスウィコードの『マチルダ』や『SAYURI』を思い出させる。
 ほんの偶然で人の運命が大きく変わってしまう、具体的にはデイジーが事故に遭うシーンは、『ジェイン・オースティンの読書会』の冒頭部分と似たニュアンスを感じさせる。
 他方、エリック・ロスの得意とするところは、男の半生を描くこと(『ALI アリ』『グッド・シェパード』)と大きな事件や陰謀を描くこと(『インサイダー』『ミュンヘン』)、か?

 ◆スクリプトの最後の部分

 A storage room. Old track signs. Old waiting room chairs. The discarded, and forgotten. And lying on its side under an old tarpaulin -- is “Mr. Cake’s” clock...the angel still pushing the hands... running backwards...forever...

 物置、昔の鉄道標識、古びた待合室のベンチ。捨てられたもの、忘れ去られたもの。古い防水布の下から端っこが見えているもの……ガトー氏の時計。天使はまだその手を押し続け、逆周りを続けている、永遠に……

 ◆映画のスクリプト

 ・PDF版:http://www.paramountguilds.com/movies/script/CCBB_Screenplay_WGA.pdf

 ◆ネットで読める原作

 ・http://www.readbookonline.net/read/690/10628/

 ◆F・スコット・フィッツジェラルドの邦訳リスト

 当ブログ記事:http://umikarahajimaru.at.webry.info/200902/article_12.html

 ◆F・スコット・フィッツジェラルド (ほぼ)全作品リスト

 当ブログ記事:http://umikarahajimaru.at.webry.info/200902/article_13.html

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 ◆映画『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』に関するトリビア

 ・チェルシー号に乗っているベンジャミンが読んでいる小説は、その挿絵からフィッツジェラルドの『冬の夢』“Winter Dream”であることがわかる。

 ・ベンジャミンが乗ったバイクは、1956年モデルの650cc Triumph T110である。

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 ・ドナ・ドゥプランティエ(Donna DuPlantier)は、ブランシェ・デヴェルー(Blanche Devereux)という役を演じているが、これは“The Golden Girls”(1985)という作品で彼女が演じた役と全く同じ名前である。

 ・この映画は、デイヴィッド・フィンチャーの作品で、PG-13(親の指導があれば13歳以上の青少年が観てもよい)となった初めての作品である。

 ・デイジーが踊り、ベンジャミンが鑑賞している舞台は、ロジャース&ハマースタインの「回転木馬」で、アニエス・デミル(Agnes DeMille)が振り付けを行なったという設定になっていて、これ以前のシーンで、デイジーがアニエス・デミルの名前を口にしている。

 ・ブラッド・ピットは、メイキャップに毎日5時間を費やした。

 ・映画『ベンジャミン・バトン』の脚本には、知られているだけで第10稿まであり、それぞれホワイト(06年10月23日版)、ブルー(06年10月31日版)、ピンク(06年11月13日版)、イエロー(07年4月11日版)、グリーン(07年4月29日版)、ゴールデンロッド(07年6月15日版)、バフ(buff:淡褐色/07年8月18日版)、チェリー(07年10月30日版)、タン(tan:黄褐色/07年10月30日版)と色の名前がつけられている。

 ・ベンジャミンとデイジーが見ているテレビに映っているビートルズは、1964年のエド・サリヴァン・ショー出演時のもの(曲目は「ツイスト&シャウト」)。ちなみに、この放送は、いまでもアメリカのテレビ放送の最高視聴率の上位にとどまっている。



 ・ケイト・ブランシェットは、デイジーの声を少女時代のものからすべて自分ひとりで吹き替えている。

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 ・ベンジャミンがインドを放浪するシーンは、『ザ・セル』『落下の王国』のターセム(インド出身)が撮影している。

 ・ベンジャミンとデイジーの間に生まれた子として出演している赤ん坊は、ブラッド・ピットの実子。

 ・日本ではこの映画のタイトルを「数奇な人生」を略して『ベンジャミン・バトン』と一般的には呼んでいるけれど、英米では原題“The Curious Case of Benjamin Button”を頭文字を取って“CCBB”と略している。

 ・英米では、原作の“The Curious Case of Benjamin Button”が、版権フリーになっていることもあって、古くからあるもの、映画化を機にリリースされたもの、収録作品数の違うもの、ペーパーバック、ハードカバー、という風に、同じ表題のつけられた本が各種あり、さらにノベライズやシナリオも販売されている。(↓はほんの一部)

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 ◆映画『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』を観て、思い出されてくる作品のいろいろ

 ・主人公の人生を通してアメリカの現代史を描くという試み
 ロバート・ゼメキス 『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994)
 スティーブン・ヘレク 『陽のあたる教室』(1995)
 ティム・バートン『ビッグ・フィッシュ』(2003)
 他
 『フォレスト・ガンプ/一期一会』と『ベンジャミン・バトン』とは、脚本家がともにエリック・ロスであるということのほかに、実は共に米国アカデミー賞13部門にノミネートされているという共通点があります。13部門のうち11部門が重なっていて(作品・監督・主演男優・脚色・撮影・編集・美術・メイキャップ・録音・視覚効果・作曲)、『フォレスト・ガンプ』はこのうち作品・監督・主演男優・脚本・編集・視覚効果の6部門で受賞しています。『フォレスト・ガンプ』のみのノミネートは助演男優と音響編集、『ベンジャミン・バトン』のみノミネートは助演女優・衣裳。

 ・若返りを扱った作品
 フランシス・コッポラ 『コッポラの胡蝶の夢』(2007)

 ・主人公の持って生まれた宿命もあって、主人公を残して主人公の愛する人がどんどん死んでしまうというストーリー
 クリス・コロンバス 『アンドリューNDR114』(1999)
 スティーヴン・スピルバーグ 『A.I.』(2001)
 『アンドリューNDR114』の脚本家ニコラス・カザンは、実は『ベンジャミン・バトン』
の脚本家の1人であるロビン・スウィコードの夫でもある。

 ・何らかの事情によって、主人公(の能力だけ)が激変して、疎外感を味わうことになる物語
 ダニエル・キイス『アルジャーノンに花束を』(映画化題『まごころを君に』(1968))

 ・特殊な能力/特異な運命を持って生まれた主人公と、主人公の物語に巻き込まれた人々の死
 トム・ティクヴァ 『パフューム』(2006)
 主人公の悲劇的な宿命、特異性を表わす仕掛けとして、主人公に関わった登場人物が次々と死んでいくという設定は多くの映画・小説で使われます。そうすることで、主人公は何か特殊な星の下に生まれた存在であることを観客や読者に感じさせ、主人公に孤独で過酷な運命を与えることによって、シンパシーを抱かせやすくする効果があるからですが。『ベンジャミン・バトン』では、ベンジャミンの出産とともに母が死に、歩けない彼に奇跡を起こそうとした神父も、チェルシー号の船長も死んでしまいます。『パフューム』で主人公の母はお産で死んでしまうわけではありませんが、主人公の誕生後まもなく死に、そのほかの登場人物も不可抗力的に死にみまわれていきます。
 同様の「仕掛け」が施された作品は多々ありますが、すぐに思い出される作品として、たとえば、『赤い薔薇ソースの伝説』(1992)、『エンジェル・アット・マイ・テーブル』(1990)などが挙げられます。

 ・人間ばなれした(美しき)ブラッド・ピット
 マーティン・ブレスト 『ジョー・ブラックをよろしく』(1998)

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 この映画に対して、何かしっくりこないというところがあって、もやもやとし、それは何だろうとずっと考えていたんですが、どうやらそれは、若返っていくというベンジャミンの宿命に対して、本人もまわりの人も全く何もしないこと、なんじゃないかということに思い当たりました。

 まわりの人も「また若くなったんじゃない?」とか口にしたりするものの、ベンジャミンがそういう特殊な人間であるということを特に不思議とも思わず、そういうこととして本人もまわりも運命として受け入れて、全くリアクションしたりしません。

 これって(リアルに考えると)とても異常なことなんじゃないでしょうか。

 「僕には子どもは育てられない」と言ってデイジーの元から去ったりするベンジャミンですが、そういう形で彼も苦悩しているらしいことはほのめかされたりはしても、はっきりとは描かれていません。ベンジャミンであれ、デイジーであれ、クイニーであれ、そういう運命に対してどう思っているのかということを示すちょっとした描写があってもいいのに。(これが、そういう描写を必要としない『フォレスト・ガンプ』との差、でしょうか?)

 なぜ?と疑問をはさませる余地なく、「若返っていく」という運命を持って生まれたベンジャミンを、(まずそういう設定ありきだとはいえ)作り手の提示するままに、すっかり受け入れさせられてしまっていることが、この映画のマジックであり、私をもやもやさせていた原因だったんですね。

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 ◆リンク集(上で示した以外のもの)

 ・CG Society(英語):http://features.cgsociety.org/story_custom.php?story_id=4848

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 The Time Picayune 『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』特集
 ・ニューオリンズでの撮影について(動画/英語)http://blog.nola.com/mikescott/2008/12/ccbb_day_1.html
 ・アレクサンドル・デプラ(音楽)インタビュー(動画/英語):http://blog.nola.com/mikescott/2008/12/ccbb_day_2.html
 ・メイキャップについて(動画/英語):http://blog.nola.com/mikescott/2008/12/ccbb_day_3.html
 ・ジャクリーン・ウエスト(コスチューム・デザイナー)インタビュー(動画/英語):http://blog.nola.com/mikescott/2008/12/ccbb_day_4.html
 ・ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット インタビュー 年を取ることについて(動画/英語)http://blog.nola.com/mikescott/2008/12/ccbb_day_5.html
 ・タラジ・P・ヘンソン インタビュー(動画/英語)http://blog.nola.com/mikescott/2008/12/ccbb_day_6.html
 ・若返っていくことについて(動画/英語)http://blog.nola.com/mikescott/2008/12/ccbb_day_7.html

 ・ジャクリーン・ウエスト(コスチューム・デザイナー)インタビュー The Envelope:http://theenvelope.latimes.com/awards/oscars/env-en-style28-2009jan28,0,1411954.story

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この記事へのコメント

2009年08月12日 01:58
こんばんは、ウォーリーの時以来二度目のトラックバックとなります。

再度ブログを見ながら、『ベンジャミン・バトン』を見直したのでですが、どうも『スッキリ晴れやか』と言う気持ちになれなかったです。この映画深いですね(笑)


毎回国内外に通じた素晴らしい記事、興味深く拝見させて頂いています。今後の記事も楽しみにしております。陰から応援させて頂きたいと思います。

もし宜しければリンクをさせて頂いても宜しいでしょうか?

宜しくお願いします。
umikarahajimaru
2009年08月12日 03:02
higeさま
コメント&TBありがとうございます。
応援してくださるのは、「陰から」でなくても大丈夫ですよ~(笑)。
リンクはもちろん大歓迎です。
ren
2019年08月21日 19:35
お詳しいですね。
大変勉強になりました。
(特に、思い出されてくる作品のいろいろ)
感謝いたします。

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