ブラザーズ・クエイ 『アナモルフォーシス』

 特集上映「ブラザーズ・クエイの幻想博物館」より『アナモルフォーシス』。

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 この作品は、絵画技法の「アナモルフォーシス」を解説した短編ドキュメンタリーで、(ブラザーズ・クエイの短編には珍しく)英語の台詞がありますが、「アナモルフォーシス」とはどういうものかを説明しているだけなので、台詞がわからなくても、どういう内容か、そして、ブラザーズ・クエイがどんなことに興味を持っているのか、は映像だけで見て取ることができます。なお、「アナモルフォーシス」については、Wikipediaなどでも簡単に知ることができます。



 アナモルフォーシスは、一見、ただの模様に見えたりする絵の箇所が、角度を変えて見たり、円筒に投影して見たりすると、元々描きこまれていた絵が浮かび上がって見えるという技法のことで、16~17世紀に宗教画や風刺画等で流行(現代でも福田繁雄などがアナモルフォーシスを使った作品を発表している)。本作では、アナモルフォーシスの技法と代表的な作品が紹介されています。

 紹介されている作品は――
 ・ANAMORPHOSIS OF A CHAIR AFTER NICERON(ジャン=フランソワ・ニスロンに基づいたアナモルフォーシス的椅子),1638

 ・ERHARD SCHON TWO PICTURES PUZZLES BOTH WOODCUTS(エアハルト・ショーン 2つのパズル 2つの木片),c1535
 PORTRAITS OF CHARLES Ⅴ,FERDINAND OF AUSTRIA,POPE PAUL Ⅲ &FRANCIS Ⅰ(カール5世、オーストリア公フェルディナンド、法王パウロ3世 & フランシス1世の肖像)

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 IN OUT YOU OLD FOOL(内側と外側 バカな年寄り)

 ・ANOYMOUS SOUTH GERMAN(作者不詳 南ドイツ),c1550
 PERSPECTIVE ANAMORPHOSIS(透視図法的アナモルフォーシス)

 ・EMMANUEL MAIGNAN SAINT FRANCIS OF PAOLA ANAMORPHOSIS FRESCO(エマヌエル・メニャン パオラの聖フランシス アナモルフォーシス フレスコ画),1642
 SS TRINITA DEI MONTI ROME(ローマのサンタ・トリニタ・デイ・モンティ教会)

 ・HANS HOLBEIN THE AMBASSADORS(ハンス・ホルバイン 「大使たち」),1533

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 本作が、ブラザーズ・クエイの発案による作品なのか、誰かから発注されて制作した作品なのかはわかりませんが、彼らがアナモルフォーシスに何らかの知的好奇心を寄せていると考えてみると、そこに、ブラザーズ・クエイと、アルチンボルドに惹かれ続けているヤン・シュヴァンクマイエルとの興味の方向性の違いが見えてきて、面白いように思います。

 つまり、アナモルフォーシスは、画家が絵に描きこんだ徴(しるし)を読み込んでいく知的作業なのに対し、アルチンボルドは、「物の形」に潜むマジックへの未分化とも言える衝動であり、前者が作者が予め仕込んだ仕掛け(シンボリズム)に対する知恵比べ的なものを感じさせるのに対し、後者は神秘主義にも似た、人知を超えるものへの好奇心が感じさせるからで、言ってみれば、ブラザーズ・クエイの関心は、人知を尽くしたものに寄せられ、ヤン・シュヴァンクマイエルの関心は人知を超えたものに注がれる、と言ってもいいかもしれません。ブラザーズ・クエイは自らの教養や文学趣味、知的好奇心から作品を制作しているのに対し、ヤン・シュヴァンクマイエルは強迫観念から作品を作っているようなところがあって、そもそものスタート地点が違うといえば違うのですが。

 ブラザーズ・クエイの興味関心の広がりが、彼らにヤン・シュヴァンクマイエルを「発見」させたが、その逆というのはあり得ず、また、ヤン・シュヴァンクマイエル本人から、ブラザーズ・クエイのやっていることは、自分のやっていることとはまるで違うことで、彼らのやっていることには違和感を感じる、と言われてしまうのは、ここらへんにも理由がありそうです。

 *参考サイト
 ・アナモルフォーシスに関するWikipedia(日本語):http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%8A%E3%83%A2%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%82%B9
 ・Anamorfosi per riflessione.Cilindro:http://math-info.criced.tsukuba.ac.jp/museum/MathematicalInstruments/macchine/095dbib.htm
 ・Projected Perspective:http://www.c3.hu/perspektiva/vetites/quaysen.html

 ◆作品データ
 1991年/英/13分43秒
 英語台詞あり/日本語字幕なし
 ドキュメンタリー

 *この作品は、2008年の特集上映「ブラザーズ・クエイの幻想博物館」で上映されました。

 [スタッフ]
 Art Historian:Roger Cardinal
 Art Historian Consultant:Sir Ernst Gombrich(http://www.gombrich.co.uk/index.php
 作曲(Music Composition):レゼック・ヤンコフスキ Leszek Jankowski
 *レゼック・ヤンコフスキは、『ストリート・オブ・クロコダイル』『失われた解剖模型のリハーサル』『櫛』『ベンヤメンタ学院』などを手がけるポーランドの音楽家(http://www.lechjankowski.com/)。画家でもある。
 ナレーション:Witold Schejbal
 Sound Montage:Larry Sider

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 ◆監督について
 ブラザーズ・クエイ (スティーヴン&ティモシー・クエイ)
 人形を使った幻想的なストップ・モーション・アニメーションで知られる映像作家。英国怪奇ロマンの異端、映像の錬金術師とも呼ばれる。

 1947年 アメリカ ペンシルベニア州ノリスタウン生まれ。
 1965-69年 フィラデルフィア芸術大学でイラストレーションを学んだ後、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(Royal College of Art/英国王立美術大学)で学ぶためにイギリスに移り(徴兵を逃れるため、という説もある)、以後、イギリスを主な活動拠点とする。
 ロイヤル・カレッジ・オブ・アートで初期短編(“Der Loop Der Loop”、“II Duetto”、“Palais En Flammes”)を製作するが、現在は残っていない。
 70年代はオランダでブック・デザインなどをして過ごし、その後、イギリスに戻って、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートで同窓であったキース・グリフィスと3人で、Koninck Studiosを設立した。
 1979年、BFIの出資で『人工の夜景』を製作。以降、人形を使ったストップ・モーション・アニメーションを次々と発表。1995年には、実写による初めての長編作品『ベンヤメンタ学院』を手がけた。

 特に東欧の芸術文化への関心が高く、そこから作品のモチーフを選ぶことも多い。
 彼らが好み、影響を受けたとされる芸術家は、ヤン・シュヴァンクマイエルを筆頭に、ポーランドのアニメーション作家であるヴァレリアン・ボロズィック(Walerian Borowczyk)やヤン・レニッツァ(Jan Lenica)、ポーランドの作家ブルーノ・シュルツ、フランツ・カフカ、スイスのドイツ語詩人・作家ロベルト・ヴァルザー(Robert Walser)、フランドルの劇作家ミシェル・ド・ゲルドロード(Michel De Ghelderode)、ロシア出身のアニメーション作家Ladislas Starevich、ボヘミアの人形師Richard Teschner、チェコの作曲家レオス・ヤナーチェク、シュヴァンクマイエル作品で知られるチェコの作曲家ズデニェク・リュシュカ、ポーランドの作曲家レゼック・ヤンコフスキ(Leszek Jankowski)など。

 映画の制作のほか、演劇やオペラの装飾、イラストレーション、ブック・デザイン、CM等も手がけている。

 受賞&ノミネート歴は、『ストリート・オブ・クロコダイル』がカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品(22分の作品ながら長編部門にエントリー!)。
 シッチェス・カタロニア国際映画祭では『ストリート・オブ・クロコダイル』が短編部門Caixa de Catalunya受賞、『イン・アブセンティア』“In Absentia”が最優秀短編映画賞を受賞。
 ロカルノ国際映画祭では、コンペティション部門に長編2作品を出品し、『ピアノチューナー・オブ・アースクエイク』“The Piano Tuner of Earthquakes”が特別賞&ヤング審査員特別賞を受賞。
 クラクフ映画祭では、『イン・アブセンティア』“In Absentia”で特別賞受賞、2003年にドラゴン・オブ・ドラゴンズ名誉賞を受賞。

 日本では、1988年にイメージフォーラム フェスティバルで初紹介。
 翌1989年にシネ・ヴィヴァン・六本木で、『ストリート・オブ・クロコダイル』というタイトルで短編4作品(『レオス・ヤナーチェク』『ヤン・シュヴァンクマイヤーの部屋』『ギルガメッシュ/小さなほうき』『ストリート・オブ・クロコダイル』)がレイトショー公開され、約4ヶ月にも及ぶロングランを記録した。
 上記4作品に『失われた解剖模型のリハーサル』を加えた5作品がダゲレオ出版より『ストリート・オブ・クロコダイル』としてVHSで発売されたが、8000円近い価格にも拘らず、10000本を越えるセールスを記録。日本では未だにDVD化はされていない。その後、VHS『ブラザーズ・クエイ短編集vol.2』が、同じくダゲレオ出版から発売された(『人工の夜景』『櫛』『スティル・ナハト2』『スティル・ナハト3』『スティル・ナハト4』を収録)。
 1996年に『ベンヤメンタ学院』が劇場公開された時には、10作品の短編を2プログラムに分けて上映するプログラムも組まれた(Aプロ:『レオス・ヤナーチェク』『ヤン・シュヴァンクマイヤーの部屋』『ギルガメッシュ/小さなほうき』『ストリート・オブ・クロコダイル』 Bプロ:『失われた解剖模型のリハーサル』『人工の夜景』『櫛』『スティル・ナハト2』『スティル・ナハト3』『スティル・ナハト4』)。

 ピーター・グリーナウェイは彼らをモデルとして映画『ZOO』を作り、テリー・ギリアムはベスト・アニメーションの1本として『ストリート・オブ・クロコダイル』を選んでいる。

 2007年4月に、Zeitgeist FilmsよりDVD“Phantom Museums: The Short Films of the Quay Brothers”が発売された。これは、彼らの30年近い活動の集大成的な短編集で、13本の短編(全261分)に、インタビュー、オーディオ・コメンタリー、クエイ事典を含む24ページのブックレットつきで、34.99ドル。日本未発売。

 ・1979年 『人工の夜景』“Nocurna Artificiala”
 ・1980年 “Punch & Judy: Tragical Comedy or Comical Tragedy(Punch & Judy)”
 ・1980年 “The Falls” [出演/監督:ピーター・グリーナウェイ]
 ・1981年 “Ein Brudermord”
 ・1981年 “The Eternal Day Of Michel de Ghelderode”
 ・1983年 “Stravinsky - The Paris Years”
 ・1983年 『レオス・ヤナーチェク』“Leoš Janáček : Intinate Excursions”
 ・1984年 『ヤン・シュヴァンクマイヤーの部屋(ヤン・シュヴァンクマイエルの部屋)』“The Cabinet of Jan Svankmajer”
 ・1985年 『ギルガメッシュ/小さなほうき』“This Unnameable Little Broom(Epic of Gilgamesh/ Little Songs of the Chief Officer of Hunar Louse)”
 ・1986年 『ストリート・オブ・クロコダイル』“Street of Crocodiles”
 ・1986年 「ハニーウェル」 [CM]
 ・1986年 「スレッジハンマー」[協力][PV/監督:スティーヴン・ジョンソン]
 ・1987年 “The Films of the Brothers Quay(Tales of the Brothers Quay/ The Brothers Quay Collection)”
 ・1987年 「ウォーカー・チップス」 [CM]
 ・1987年 「デュラックス防水液」 [CM]
 ・1988年 “Stille Nacht I”
 ・1988年 『失われた解剖模型のリハーサル』“Rehearsals for Extinct Anatomies”
 ・1989年 “Ex-Voto/The Pond”
 ・1990年 『櫛』“The Comb(From The Museums Of Sleep)”
 ・1991年 『アナモルフォーシス』“De Artificiali Perspectiva(Anamorphosis)”
 ・1991年 “The Calligrapher”
 ・1991年 『スティル・ナハト2』“Stille Nacht II: Are We Still Married? ”
 ・1992年 “Long Way Down (Look What The Cat Drug In)”
 ・1992年 『スティル・ナハト3』“Tales from the Vienna Woods(Stille Nacht III)”
 ・1993年 『スティル・ナハト4』“Stille Nacht IV(Can't Go Wrong Without You)”
 ・1995年 “The Summit”
 ・1995年 『ベンヤメンタ学院』“Institute Benjamenta, or This Dream People Call Human Life(Institute Benjamenta/ Institute Benjamenta, or This Dream Which One Calls Human Life)”[長編]
 ・1996年 『悦楽共犯者』 [音楽(music co-operator)/監督:ヤン・シュヴァンクマイエル]
 ・2000年 『サンドマン』“The Sandman”[TV]
 ・2000年 『デュエット』“Duet”
 ・2000年 『イン・アブセンティア』“In Absentia”
 ・2000年 『フリーダ』 [アニメーション/監督:ジュリー・テイモア]
 ・2002年 “Celluloid Dreams” [出演/監督:James Dunnison]
 *ジャン=ピエール・ジュネ、デイヴィッド・リンチ、ガイ・マディンらについてのドキュメンタリー
 ・2003年 『ソングス・フォー・デッド・チルドレン』“Songs for Dead Children”
 ・2003年 『ファントム・ミュージアム』 “The Phantom Museum: Random Forays Into the Vaults of Sir Henry Wellcome's Medical Collection” [TV]
 ・2005年 『ピアノチューナー・オブ・アースクエイク』“The Piano Tuner of Earthquakes” [長編]

 ※特記なしは、短編監督作品。

 ◆参考サイト

 ・ブラザーズ・クエイに関するWikipedeia:http://en.wikipedia.org/wiki/Brothers_Quay

 ・senses of cinema:http://www.sensesofcinema.com/contents/directors/04/quay_brothers.html

 以前は、公式サイトもあったのですが、閉鎖されてしまったようです。

 ◆参考書籍

 ・滝本誠『映画の乳首、絵画の腓』(ダゲレオ出版) p40-53

 ・『夜想34 パペット・アニメーション』(ペヨトル工房)

 ・ 『ユーロ・アニメーション』(フィルムアート社) p74-79

 ・ 『アートアニメーションの素晴らしき世界』(エスクァイア マガジン ジャパン) p130-135

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