鐘の音が街の記憶を呼び起こす チェン・カイコー 『夢幻百花』

 『10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス』より、チェン・カイコー篇の『夢幻百花』(“100 Flowers Hidden Deep”)。



 【物語】
 運送会社のスタッフが、大きなマンションの前で引越しの荷物を運んでいると、フェンという男性に声をかけられる。
 「運送を頼めるか」というフェンに対して、「お金さえ払えばな」と運送会社のボス。
 引越し作業が終わって、ボスはフェンを車に乗せる。
 フェンは、「百花通りへ行ってくれ」というが、向かう途中で、まわりの景色を見て、「道がわからなくなった」と言い始める。
 「街の変化が早いんだ」とボスはフェンの言うことをあまり気にしない。
 百花通りが近づくと、フェンもようやく場所がわかったらしいが、今度は運送会社の男たちが驚く番で、フェンが示す場所は更地にされていて家など全く見当たらない。
 「頭がおかしいんだ」とフェンを置いて、運送会社の男たちは帰ってしまおうとする。
 帰路の途中で、上司から「トラックを走らせたんだから金は取って来い」と命令され、仕方がなくトラックをフェンの元へ。
 「トラックを走らせたんだから金を払ってくれ」というと、「荷物を運んでくれたら払うよ」とフェン。
 男たちは、フェンの指示に従って見えない荷物を運ぶ。
 まるでパントマイムのように引越しの作業をして、最後に、家宝の花瓶が残される。
 しかし、運んでいた男が、仲間に「火をくれ」と言われて、花瓶を持っていたはずの手を離して、ライターを放り投げたために、見えない花瓶が落ちて割れてしまう。
 ショックで落ち込むフェン。
 フェンは、動き出した車の中で金を差し出すが、ボスは「花瓶の弁償金にしてくれ」と言って受け取らない。
 急に「そこには溝があるから気をつけて」とフェンが叫ぶ。
 「溝なんか見当たらないじゃないか」とボスが言うが、実際にトラックは溝にはまってしまう。
 トラックを掘り出そうとしたところで、フェンは家に下がっていた鐘を見つけ出す。
 これに先に拾っていた振り子の金具を取り付けると、鐘が出来上がり、往時の音を甦らせる。
 すると、この音に誘われるかのように、かつてこの地に建っていた屋敷が男たちの目の前にも姿を現わす。
 幻の屋敷は一瞬にして消え、後には屋敷の中庭に立っていた1本の樹が残るのみ。
 しかし、フェンは「家を引越しした」と大喜びで走り回るのだった。

 ◆コメント
 「時」をテーマにした各10分の短編で構成される『10ミニッツ・オールダー』の中で、チェン・カイコーが選んだのは、開発によって失われた家屋敷が、一見狂人にも見える男性と1つの鐘の音によって、かつてそこにあった幻の姿を現出させるという物語でした。

 小さな物語の中にも、時代を語り、国家を語るというのは、チェン・カイコーの得意とするところですが、そうした作品群の中でも、この作品は、『北京バイオリン』以前では、チェン・カイコーが現代中国を扱った初めての作品になりました。

 舞台となっているのは、こうしたテーマ(=古きよき町並みが都市開発で失われていく)で度々映画にも取り上げられる(『胡同の理髪師』など)北京の胡同で、チェン・カイコーが幼少時を過ごした地でもあります。

 現代から過去へ、そして過去から現代へと思いを巡らせる物語は、余韻もあって、『10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス』の7編のうちの最後に置かれています。

画像

 【キャスト&スタッフ】
 フェン役が『新北京物語』『パープル・バタフライ』などの作品で知られるフォン・ユアンチョンで、彼はチェン・カイコーの最新作“梅蘭芳”にも出演しています。
 運送会社のボスを演じているのは、コン・ラーで、『太陽の少年』『北京ロック』などの出演作があります。

 脚本はTan Zhang(プロフィール不詳)。

 撮影は『孔雀 我が家の風景』や“鶏犬不寧”、ワン・シャオシュアイの初期作品などを手がける舒陽(シュー・ヤン)。

 美術は、チャン・イーモウ作品で知られるツァオ・ジュウピンで、主な作品には『ハイ・ジャック 台湾海峡緊急指令』『菊豆』『上海ルージュ』『紅夢』『秋菊の物語』『キープ・クール』『あの子を探して』『初恋のきた道』『北京ヴァイオリン』『中国の小さなお針子』などがあります。

 3-Dアニメーションは、Tagoo Studio(詳細不詳)。

 ◆作品データ
 2002年/中国/9分16秒
 北京語台詞あり/日本語字幕なし
 実写作品

 *この作品は『10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス』として劇場公開され、『10ミニッツ・オールダー イデアの森』と合わせて、DVD『10ミニッツ・オールダー コレクターズ・スペシャル』としてリリースされています。

 ◆『10ミニッツ・オールダー』 INDEX
 アキ・カウリスマキ 『結婚は10分で決める』
 ビクトル・エリセ 『ライフライン』
 ヴェルナー・ヘルツォーク 『失われた一万年』
 ジム・ジャームッシュ 『女優のブレイクタイム』
 ヴィム・ヴェンダース 『トローナから12マイル』
 スパイク・リー 『ゴアVSブッシュ』
 チェン・カイコー 『夢幻百花』
 ベルナルド・ベルトルッチ 『水の寓話』
 マイク・フィギス 『時代×4』
 イジー・メンツェル 『老優の一瞬』
 イシュトヴァン・サボー 『10分後』
 クレール・ドゥニ 『ジャン=リュック・ナンシーとの対話』
 フォルカー・シュレンドルフ 『啓示されし者』
 マケル・ラドフォード 『星に魅せられて』
 ジャン=リュック・ゴダール 『時間の闇の中で』

 
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 ◆監督について
 チェン・カイコー 陳凱歌/Chen Kaige
 チャン・イーモウ、ティエン・チュアンチュアン監督らとともに中国第五世代を代表する監督の1人。
 文化大革命以降の激動の中国を舞台に、歴史に翻弄される庶民の生き方を、独特の様式美で描いた一連の監督作品によって、(それまで国際的にはほとんど注目されていなかった)中国映画にスポットライトを当てるきっかけを作った。

 1972年、北京生まれ。
 父は、北京映画製作所に所属する映画監督チェン・ホアイアイ、母はシナリオ編集者。
 文化大革命時代に少年期を迎え、紅衛兵として父を糾弾したりもしている。その後、雲南省の山村に下放して農作業に従事、1970年に軍隊に入った。
 1976年に北京电影洗印廠(ラボ)の仕事に就く。
 1978年、再開された北京電影学院の監督科に入学(同期にティエン・チュアンチュアン(田壮壮)、ウー・ツーニウ(呉子牛)、チャン・チュンチャオらがいる)。在学中にはテレビ・ドラマの助監督なども経験した。
 卒業後、1982年に北京映画製作所に入り、1984年に最初の長編『黄色い大地』を発表。この作品は、ハワイ、香港、ナント、ロカルノの各国際映画祭で高い評価を得て、大きな注目を浴びた。
 監督第二作の『大閲兵』(1985)は、1987年のモントリオール国際映画祭で審査員賞を受賞し、翌年のベルリン国際映画祭で、チャン・イーモウの『紅いコーリャン』が金熊賞を受賞したのと合わせて、中国第五世代の登場を世界に強く印象づけることになった。
 1993年には、『さらばわが愛、覇王別姫』でカンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞し、人気と実力を決定的にした。
 その後は、作品のスケールも大きなものになり、国際的なプロジェクトが組まれることが多くなったが、実際のところ、成功した作品は多くはない。盟友のチャン・イーモウが次々と新境地を開拓して名声を得ていくのに対し、チェン・カイコーも、サスペンス、CGを駆使したアクション大作、歴史物など、様々なタイプの作品を手がけているが、商業的失敗や酷評などもあって、かつてのチェン・カイコーらしさは見失われつつある。

 著書に『私の紅衛兵時代 : ある映画監督の青春』(講談社現代新書)がある。

 【フィルモグラフィー】
 ・1984年 “強行起飛”<TV>[監督]
 ・1984年 『黄色い大地』[監督]
 ・1985年 『大閲兵』[監督]
 ・1987年 『子供たちの王様』[監督/脚本/出演]
 ・1991年 『人生は琴の弦のように』[監督/脚本]
 ・1993年 『さらば、わが愛/覇王別姫』[監督/製作]
 ・1996年 『花の影』[監督]
 ・1998年 『始皇帝暗殺』[監督/製作/脚本/出演]
 ・2001年 『キリング・ミー・ソフトリー』[監督]
 ・2002年 『夢幻百花』(『10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス』)[監督]
 ・2002年 『北京ヴァイオリン』[監督/脚本/出演]
 ・2004年 『北京バイオリン』 [芸術総監督]
 ・2004年 『三国志 呂布と貂蝉』<TV>[監督]
 ・2005年 『PROMISE プロミス』[監督/製作/脚本]
 ・2006年 『阿虎(アフー)篇』 [監督]
 ・2007年 『チュウシン村』(『それぞれのシネマ』)[監督]
 ・2008年 “梅蘭芳”[監督・脚本]

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