美しくも悲しい…… チェン・カイコー『阿虎(アフー)篇』

 『阿虎(アフー)篇』は、Yahoo!中国が、2006年にチェン・カイコーとフォン・シャオガンとジャン・ジージョン(張紀中)という3監督に発注した短編のうちの、チェン・カイコー篇です。
 主役の少女を、『墨攻』などで知られるファン・ビンビン(范冰冰)が好演しています。



 【物語】
 都会から遠く離れた山村に行っていた少女が、帰ることになる。
 少女は、仲良くなった村の娘と犬のアフーに別れを告げ、長距離バスに乗り込む。
 しかし、バスが発車しようとした時、アフーが駆け出して、少女の乗ったバスを追う。
 1日目の停泊所に着いた時、ドアの向こうには、少女がバスから落としたタオルをくわえたアフーがいて、少女を驚かせる。
 少女は、運転手にアフーも一緒に連れて行けないかと交渉するが、認められない。
 その晩、少女はアフーとともに過ごす。
 2日目。少女とアフーとの2度目の別れ。
 その日は、大雨となって、川も増水したりする。
 それでもその日の停泊所にアフーが駆けつける。
 少女は、戸外で料理をしている調理人の目を盗んで、アフーに食べ物を投げてやったりする。
 3日目。
 バスの中でうたたねをしていた少女は、本を落として、目を覚ます。
 3日目の停泊所に着くが、今日はアフーの姿がない。
 少女は、アフーのことが急に心配になって、バスがやってきた道をとぼとぼと戻っていく……。

画像

 ◆解説
 台詞が中国語なので、このままでは、単に少女と犬の別れを描いただけの作品に見えますが、実はこれは、文化大革命時に地方に下放された少女が都会に帰る(帰城)ことになった
という、そういう作品です。そう思って見直すと、作品が全く違って見えてきます。

 本人の意思とは無関係に強制的に送られた地方だったけれど、暮らしてみると愛着が湧き、いざ帰るという段になると、やはり後ろ髪を引かれる思いをする、というそういう感情を犬に託して描いたということになるのでしょう。地方での美しい思い出を象徴するかのように、風景も、感動的な美しいものだけが切り取られています。

 実際に雲南省に下放されたチェン・カイコーの経験がベースになった作品だとも伝えられています。

 Yahoo!中国が、作品を発注した時に3監督にどういう条件をつけたのかはわかりませんが、他の監督が作品中にYahoo!で検索するシーンがあるのに対して、チェン・カイコーは文化大革命時代に物語を設定した時点で物語の中にYahoo!を登場させることはできなくなり、犬の名前をYahoo!(雅虎)に似たアフー(阿虎)にするにとどまっています。

 この作品には、CMとしても使えるように15秒バージョンと60秒バージョンも作られていて、他の監督の作品とともに、公式サイト(http://ys.cn.yahoo.com/sx/minisite/video.html)で観ることができます。

 これら3作品に対して、ネット上で人気投票も行なわれていたのですが、『阿虎篇』は、他の2編に大差をつけられて破れるという結果に終わっています。これは、作品の出来というよりも(他の2編はエンタテインメント性が強い作品になっています)、一般的にはネガティブにとらえられている下放を美しく描いたことに対する反発なのかもしれません。

 ちなみに、下放運動を扱った映画には、チェン・カイコーの『子供たちの王様』のほか、『シュウシュウの季節』や『太陽の少年』『延安の娘』『青春祭』『中国の小さなお針子』『胡同のひまわり』など、数多く存在する。

 ◆作品データ
 2006年/中国/6分50秒
 北京語台詞あり/日本語字幕なし
 実写作品(CM)

 この作品は、現時点ではチェン・カイコーの唯一のCM作品です。これが果たしてCMと呼べる作品なのかどうかということはありますが。

 
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 ◆監督について
 チェン・カイコー 陳凱歌/Chen Kaige
 チャン・イーモウ、ティエン・チュアンチュアン監督らとともに中国第五世代を代表する監督の1人。
 文化大革命以降の激動の中国を舞台に、歴史に翻弄される庶民の生き方を、独特の様式美で描いた一連の監督作品によって、(それまで国際的にはほとんど注目されていなかった)中国映画にスポットライトを当てるきっかけを作った。

 1972年、北京生まれ。
 父は、北京映画製作所に所属する映画監督チェン・ホアイアイ、母はシナリオ編集者。
 文化大革命時代に少年期を迎え、紅衛兵として父を糾弾したりもしている。その後、雲南省の山村に下放して農作業に従事、1970年に軍隊に入った。
 1976年に北京电影洗印廠(ラボ)の仕事に就く。
 1978年、再開された北京電影学院の監督科に入学(同期にティエン・チュアンチュアン(田壮壮)、ウー・ツーニウ(呉子牛)、チャン・チュンチャオらがいる)。在学中にはテレビ・ドラマの助監督なども経験した。
 卒業後、1982年に北京映画製作所に入り、1984年に最初の長編『黄色い大地』を発表。この作品は、ハワイ、香港、ナント、ロカルノの各国際映画祭で高い評価を得て、大きな注目を浴びた。
 監督第二作の『大閲兵』(1985)は、1987年のモントリオール国際映画祭で審査員賞を受賞し、翌年のベルリン国際映画祭で、チャン・イーモウの『紅いコーリャン』が金熊賞を受賞したのと合わせて、中国第五世代の登場を世界に強く印象づけることになった。
 1993年には、『さらばわが愛、覇王別姫』でカンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞し、人気と実力を決定的にした。
 その後は、作品のスケールも大きなものになり、国際的なプロジェクトが組まれることが多くなったが、実際のところ、成功した作品は多くはない。盟友のチャン・イーモウが次々と新境地を開拓して名声を得ていくのに対し、チェン・カイコーも、サスペンス、CGを駆使したアクション大作、歴史物など、様々なタイプの作品を手がけているが、商業的失敗や酷評などもあって、かつてのチェン・カイコーらしさは見失われつつある。

 著書に『私の紅衛兵時代 : ある映画監督の青春』(講談社現代新書)がある。

 【フィルモグラフィー】
 ・1984年 “強行起飛”<TV>[監督]
 ・1984年 『黄色い大地』[監督]
 ・1985年 『大閲兵』[監督]
 ・1987年 『子供たちの王様』[監督/脚本/出演]
 ・1991年 『人生は琴の弦のように』[監督/脚本]
 ・1993年 『さらば、わが愛/覇王別姫』[監督/製作]
 ・1996年 『花の影』[監督]
 ・1998年 『始皇帝暗殺』[監督/製作/脚本/出演]
 ・2001年 『キリング・ミー・ソフトリー』[監督]
 ・2002年 『夢幻百花』(『10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス』)[監督]
 ・2002年 『北京ヴァイオリン』[監督/脚本/出演]
 ・2004年 『北京バイオリン』 [芸術総監督] 
 ・2004年 『三国志 呂布と貂蝉』<TV>[監督] 
 ・2005年 『PROMISE プロミス』[監督/製作/脚本]
 ・2006年 『阿虎(アフー)篇』[監督]
 ・2007年 『チュウシン村』(『それぞれのシネマ』)[監督]
 ・2008年 “梅蘭芳”[監督・脚本]

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