恐るべし! ロイ・アンダーソン 『ワールド・オブ・グローリー』

 ヨーロッパの悪夢。



 【物語】
 全裸でトラックの荷台に乗せられている多くの人々。1人の子供がそれに抵抗しているが、結局押し込まれ、扉が閉められる。排気口から伸びるホースが後部扉につけられた穴につながれたあと、トラックが走り出す。トラックはどこへ向かうということもなく、広場をただぐるぐると回る。

 病院の母を見舞っている中年男性(トラックを見送っていた人々の1人)。母を目の前にして自分のことを語り始める。
 「これは私の母です。私は母が大好きでした。父は私が14歳の時に死んでしまいました。」

 墓地。
 同じ男性が父のために買った墓に墓参りをしている。

 入浴中の彼。
 「私は不動産屋をしています。なんらかの需要があるのでなんとかやっていけています。」

 何も置かれていないアパートの中。
 「このアパートは人気の物件です。特に若者に。しかし、彼らはお金を持っていません。お金がなくてはアパートは持てません。」

 ベッドに腰かける男。
 「私のベッドです。私はここで私の妻と眠ります。向こうの台所でささやかな食事をとります。ラウンジで招待客とお茶を飲んだりもします。」

 車の前の男。
 「これが私の車です。とても満足しています。いい車ですから。」

 製図室のようなところにいる男。1人の男を前に出させる。
 「これは私の兄弟です。彼はかけがえのない友人でもあります。」

 ビルの中。
 「人にはお金が必要です。お金は何も求めてこないし、与える必要もありません。」

 床屋で。
 「人生は短いものですよね。」「そうですね。」

 部屋の中で少年が頭に刺青を入れてもらっている。
 「私の息子です。才能があるんです。その才能は伸ばさなくてはいけません。私たちは10歳の時からそれに務めています。そうなんだよ、トマス!」

 レストランの中。
 1人だけデーブルの下で「私にはもうわからない。助けて!」と叫んでいる男性がいるが誰も彼のことを気にとめない。
 やがて男2人にテーブルの下から引きずり出されるが、それは不動産屋の男性であった。
 彼は、自らを嘲笑するように力なく笑う。

 靴屋の中。
 「私はとても恐ろしいことをしていまいました。ぞっとすることです。もうわかりません。」

 ミサに出ている男。
 彼は、一度ワインを口にすると器から口を離そうとしない。まわりから無理やり引き離される。

 闇の中に男がたたずむ。
 「誰かが叫んでる!誰かが叫んでる!」
 「行って横になりなさい」という女性の声が聞こえる。「眠りなさい。眠らないと死んでしまいます。」
 まだかすかに叫び声が聞こえている。

画像

 ◆コメント
 ショッキングなシーンから始まって、その後、そのシーンを目撃した(結果的に共犯者となってしまった)男性の日常が淡々と綴られていきます。

 冒頭のシーンは、もちろんホロコーストの象徴で、トラックを取り巻いていた人は、ホロコーストを目撃しながら知らないふりを決め込んでいたヨーロッパ人ということになり、すべてのヨーロッパ人に、ホロコーストに対する罪を問い、罪悪感を思い出させる作品になっています。冒頭以外は、淡々とした日常が描かれるだけですが、それは、いまある幸福な日常がどういう過去を基に築かれているか、を考えさせるための仕掛けだと考えられます。

 作品の中では、主人公は、女性の声でやさしく「お眠りなさい」と囁かれますが、それは「許し」なのか? それとも、「許されたい」と思いつつも、その罪悪感からは逃れられないということを示しているのか?判断は分かれるところだろうと思われます。狂わんばかりの主人公の絶望感を出しただけで終わっていたら、作品の印象はまた違っていたかもしれません。

 取り返しのつかないことに対して、何ができたか、これから何ができるか、この経験から何を学ぶことができるか、など、いろいろと考えさせてくれる作品です。

 タイトルは、もちろん、逆説的な意味合いでつけられています。

 ロケ地、起用している俳優、照明、撮影、作品のリズム、ぼそぼそっとしゃべる台詞のトーンなどは、実は、ロイ・アンダーソンの他の作品(コメディー作品やCM)とほとんど変わらないものなのですが、作品のテーマや基調(と音楽)を変えるだけで、こんなにも作品のイメージが変わるものか、と驚かせられます。

 ◆作品データ
 1991年/スウェーデン/15分43秒
 スウェーデン語台詞あり/フランス語字幕あり
 実写作品

 この作品は、クレモンフェラン短編映画祭でCanal+賞とプレス賞を受賞し、クレモンフェランが選ぶ10本の短編映画にも選ばれています。

 *関連サイト
 ・Reverse Shot:http://www.reverseshot.com/article/world_of_glory

 
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 ※参考:「tantano 短編映画を楽しむ」を楽しむ
 ・「tantano 短編映画をたのしむ」INDEX
 ・「tantano 短編映画をたのしむ」 人気動画 トップ39!

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 ◆監督について
 ロイ・アンダーソン(ロイ・アンデルソン) Roy Andersson

 1943年スウェーデンのヨーテボリ生まれ。
 スウェーデン・フィルム・インスティテュートで文学と映画を学ぶ。
 69年に同校を卒業後、最初の長編作品『スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー』(1970)を発表。この作品は15歳の少年と14歳の少女の初々しい恋を描いたもので、ベルリン国際映画祭に出品されて、Interfilm Award - Recommendation、ジャーナリスト特別賞ほかを受賞した(この年は審査員の辞任騒ぎがあり、審査員による各賞の選出はなかった)。一転して、第二長編“Giliap”(1975)は、ダーク・コメディーで、カンヌ国際映画祭監督週間に出品されたが、興行的にも批評的にも失敗し、以後25年以上もの間、彼は長編映画から離れることになる。
 続く70年代~90年代は、CMの世界に身を置き、カンヌ国際広告祭で8度のグランプリを受賞するなど、CM界の巨匠となった。手がけたCMは、エール・フランスやボルボ、シトロエンなど世界各国におよび、作品数は、現在までに400本を越える。
 1981年には自身のプロダクション「スタジオ24」をストックホルムに設立。
 80年代、90年代に1本ずつ短編を発表した後、1996年から第三長編『散歩する惑星』にとりかかり、2000年に完成したこの作品でカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した。第四長編『愛おしき隣人』は、2007年のカンヌ国際映画祭のある視点部門でワールド・プレミアされた。

 25年も長編映画を撮ることができなかったことについてロイ・アンダーソン自身は、「多く人は、私が“本物の”映画を撮ることができなくて残念に思っていると思うが、実際のところは私は幸運だったのだ。そのおかげで、私は伝統的な映画業界に染まることはなかったし、そうしていれば妥協してばかりで心の平安が得られなかったかもしれない。もちろん、結果として生活は厳しいものになったが、慣習に流されたくはなかったんだ」と語
っている。

 彼の作品は、シリアスな状況でもファニーな笑い(時に暴力的、時に残酷で、毒が含まれることも多い)があるのが特徴で、「ヴィレッジ・ヴォイス」誌は、彼に「スラップスティックなイングマール・ベルイマン」の称号を贈っている。

 【フィルモグラフィー】

 ・1967年 “Besöka sin son”[短編]
 ・1968年 “Hämta en cykel”[短編]
 ・1968年 “Den vita sporten”[短編]
 ・1969年 “Lördagen den 5.10”[中編](卒業制作)
 ・1970年 『スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー』(初公開時タイトル『純愛日記』) “En Kärlekshistoria/ A Swedish Love Story”
 ・1975年 “Giliap”
 ・1987~1993年 “Någonting har hänt/ Something Happened”[短編]
 ・1991年 “Härlig är jorden/ World of Glory”[短編]
 ・2000年 『散歩する惑星』“Sånger från andra våningen/ Songs from the Second Floor”
 ・2007年 『愛おしき隣人』“Du levande/You,the Living”

 ・CM集

 *参考サイト
 ・ロイ・アンダーソン公式サイト(スウェーデン語/英語):http://www.royandersson.com/
 ・Sanalforum.com(英語):http://www.sanalforum.com/arsiv/roy-andersson-collection19702007-t73477.0.html

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