空想の映画祭?! 日本初のシンガポール映画特集を企画してみました!

 昨年シンガポールでナンバーワン・ヒットとなり、米国アカデミー賞外国語映画賞シンガポール代表にもなった『881 歌え!パパイヤ』が日本でも8月に劇場公開されますが、今年はカンヌ国際映画祭で、エリック・クーの“My Magic”がシンガポール映画として初めてコンペティション部門に選出されたこともあって、アジア圏で次にブレイクするのはシンガポール映画ではないか、と今、静かにシンガポール映画が注目を集めつつあります(6月14日から開催される上海国際映画祭でもシンガポール映画が特集されます!)。

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 そこで、ここでは、ブーム到来に先駆けて、シンガポール映画祭、もしくはシンガポール映画の特集上映を企画するとしたらどんなものができるか、考えてみることにしました。

 イメージは、東京国際映画祭「アジアの風」部門で、2006年に企画された<マレーシア映画新潮>、2005年に企画された<台湾:電影ルネッサンス>、もしくは、2006年8月に開催された<アルメニア・フィルム・セレクション>のような形のもので、シンガポール映画の今と、シンガポール映画界の新しい才能を伝えるという趣旨のものです。

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 まず、簡単にシンガポール映画に関する概況をまとめておくと――
 シンガポールでは、1978年から1991年まで全く国産映画が作られない空白期間があり、その後、1990年代になってようやく1本2本と作られるようになりました。
 これ以降が新生シンガポール映画なわけですが、それは、①インディペンデント映画作家の登場、②資本・技術型工業国家から知的集約型文化国家へと転身を図ろうとする政府が、ようやく重い腰を上げて、映画にも目を向け、映画産業復興に動き出したこと、③シンガポール国際映画祭のスタート(1987年)やシネコン時代の到来といった外的な刺激、などによって誕生しました。
 1本2本と作られるようになった国産映画が途切れずに、一過性のブームに終わらなかったのは、1998年に作られた“Money No Enough”がシンガポール歴代3位の興行成績となる記録的ヒットとなり、これにより多くの私企業が映画産業に乗り出すようになった、ということがあったためです。

 ①のインディペンデント映画作家を代表するのが、今年のカンヌのコンペに選出されたエリック・クーで、シンガポール国際映画祭で初めて賞を受賞したシンガポール人監督も彼なら、カンヌ国際映画祭で初めて作品が上映されたシンガポール人監督も彼で、シンガポール映画人として数多くの「初めて」を成し遂げたパイオニア的存在となっていて、国際的にも最もよく知られています。『881 歌え!パパイヤ』の監督ロイストン・タンは彼の仲間で、ロイストン・タンはエリック・クーのプロデュースで作品を制作しています。
 一方、“Money No Enough”は、シンガポールの人気コメディアン、ジャック・ネオの主演作で、ジャック・ネオは、エリック・クーの『12階』で映画デビューし、その後、監督業にも進出して、安定した動員が期待できるほとんど唯一のシンガポール人俳優/監督となりました。シンガポール国産映画の興行ランキング トップ10のうち実に5本がジャック・ネオ監督作品で、2本が彼の主演作となっています。

 若きシンガポール映画は、ほとんどまだ15年くらいしか歴史がなく、ようやく年に10本強の長編映画が作られるようになっただけで、コンスタントに映画を撮ることのできる監督というのは、今のところこのエリック・クーとジャック・ネオ、そしてロイストン・タンと、以前当ブログでもご紹介したケルヴィン・トンくらいしかいません(新生シンガポール映画は全部併せても長編だと150本にも満たず、そうした状況ではコンスタントに映画を撮り続けられている人の数は限られてしまいます)。

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 というわけで、今、シンガポール映画の特集上映を企画するとなると、目玉は、エリック・クーの“My Magic”であり、エリック・クー・レトロスペクティブが上映の核となるのが自然の流れだろうと思われます。

 企画① エリック・クー レトロスペクティブ
 エリック・クーは、個々の作品が日本でも何らかの機会に上映されている恵まれた映画作家なのですが、ロードショー公開は未だにゼロで、作家紹介という形でまとめて上映されたこともなく、特集上映する価値は十分あるだろうと考えられます。
 今のところ、長編が4本、オムニバス映画が1本、あとは短編です。

 以下に、エリック・クーのフィルモグラフィーをまとめておきます。

 ・『バービーちゃんの彼はG.I.ジョー』 “Barbie Digs Joe” (1990) [短編]
 1992年東南アジア映画祭 コンペティション・プログラムにて上映

 ・“Hope and Requiem” (1991) [短編]

 ・『8月』 “August” (1991) [短編]
 1992年東南アジア映画祭 コンペティション・プログラムにて上映

 ・『カルカス』 “Carcass”(1992)[短編]
 1993年 山形国際ドキュメンタリー映画祭93にて上映

 ・『パンク・ロッカー・アンド…』 “The Punk Rocker and...”[短編]
 1992年東南アジア映画祭 コンペティション・プログラムにて上映

 ・『シンフォニー』 “Symphony 92.4 FM” (1993) [短編]
 1993年 山形国際ドキュメンタリー映画祭93にて上映

 ・“The Watchman” (1993) [短編]

 ・『ペイン』 “Pain” (1994) [短編]
 1995年 第9回福岡アジア映画祭にて上映

 ・『ミーポック・マン』 “Mee Pok Man”(1995)
 1995年第9回福岡アジア映画祭にて上映
 2000年第22回ぴあフィルムフェスティバルにて上映

 ・『12階』 “12 Storeys”(1997)
 1997年 第10回東京国際映画祭 ヤング・シネマ・コンペティションにて上映

 ・“Drive”(1998)[TVシリーズ]

 ・“Moments of Magic”(2000) [ミュージック・ビデオ]

 ・“Home VDO”(2000) [短編]

 ・『一緒にいて』 “Be with Me”(2005)
 2005年第18回東京国際映画祭 「アジアの風 新作パノラマ」にて上映

 ・“No Day Off”(2006)[中編](『デジタル三人三色』の一編)
 2007年 第3回フィルム・エキシビション in OSAKAにて上映

 ・“My Magic”(2008)

 他にWei Kohと共同で監督を手がけた作品として“One Leg Kicking”(2001)があります。

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 企画② 既知の映画作家の中から
 シンガポールの国産映画(合作は除く)で日本で劇場公開されたのは、2000年の『フォーエバー・フィーバー』、2007年の『メイド ~冥土~』、2008年に<アジア新星流FOCUS First Cuts>の1本として『LOVE STORY』があるだけで、後はバラバラに映画祭等で限定上映されただけです。なので、これまで映画祭等で限定上映された作品をこの機会でまとめて上映するという企画も考えられます。
 ・ロイストン・タン短編集 『881 歌え!パパイヤ』公開時に劇場で上映されない場合のみ。これまでロイストン・タンの短編がまとめて上映されたのは北海道のみです。
 ・ロイストン・タン『4:30(フォー・サーティ)』 『881 歌え!パパイヤ』公開時に劇場で上映されない場合のみ。これまでは、『4:30(フォー・サーティ)』は、2005年 NHKアジア・フィルム・フェスティバル、2006年 アジアフォーカス・福岡映画祭2006、2007年第2回札幌短編映画祭で上映されたのみです。
 ・ケルヴィン・トン『1942 怨霊』 ビデオ・スルー作品。ひどい出来だという噂もありますが。
 ・アン・ソッコン短編集 アン・ソッコンはアムステルダムで活躍する映画作家で、2006年の福岡アジア映画祭で6作品が上映されたことがあります。

 企画③ 食をめぐる映画特集
 シンガポールは、食が豊富で、おいしいものを食べることに貪欲なお国柄です。それを反映して、食をモチーフにした映画も多いので、そうした映画を集めて上映するという企画も考えられます。
 ・エリック・クー『ミーポック・マン』(1995)
 ・ケルヴィン・トン、サンディ・タン、ジャスミン・ン『美食漫遊』(1996) 山形国際ドキュメンタリー映画祭97にて上映
 ・チーク『チキンライス・ウォー』(2000) 2000年 福岡アジア映画祭、アジアフォーカス・福岡映画祭にて上映
 ・ケネス・ビィ『ライス・ラプソディ』(2004) 2004年 第17回東京国際映画祭コンペティション部門にて上映
 

 企画④ 新作から
 ・ロイストン・タン 最新作“After the Rain”(2007)[短編]

 ・ケルヴィン・トン “Men in White”(2007)
 ・ケルヴィン・トン “Rule #1”(2008)

 ・Boo Junfeng 短編集 Boo Junfengは、シンガポール国際映画祭シンガポール短編映画部門で、2005年に作品賞、2007年に審査員特別賞、2008年に作品賞&監督賞を受賞していて、今後最も注目される新鋭の監督です(Boo Junfengは、7人の若手監督によるオムニバス映画“Lucky7”にも参加しています)。

 ・トニー・エアーズ 『ホーム・ソング・ストーリーズ』(2007)(オーストラリアとの合作) トニー・エアーズの自伝的な内容の作品で、アカデミー賞外国語映画賞のオーストラリア代表に選ばれています。主演のジョアン・チェンはこの作品で第2回アジアン・フィルム・アワード主演女優賞を受賞。日本では劇場未公開のまま、シネフィル・イマジカで放映されました。

 ・Sherman Ong “Hashi”(2008) シンガポールと日本とマレーシアの合作。

 ・Han Yew Kwang “18 Grams of Love”(2008)
 Wee Li Lin “Gone Shopping”(2008)
 Jean Yeo “The Leap years”(2008)
 Teo Eng Tiong “Truth Be Told”(2008)
 John Radel “Dance of the Dragon”(2008)
 2008年の第11回上海国際映画祭では、これに『881 歌え!パパイヤ』を加えたシンガポール映画6作品が特集上映されます。このうち“18 Grams of Love”と“Gone Shopping”は、Asia New Talent Awardにノミネートされています。

 以上のような企画の中から、6作品~8作品、あるいは12作品くらい上映可能であれば、映画祭/特集上映として一応の頭数は揃うと思うのですが、どうでしょうか? 果たして、年内に実現できるでしょうか?

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 *参考サイト
 ・List of Singaporean filmsに関するWikipedia:http://en.wikipedia.org/wiki/List_of_Singaporean_films
 ・Singapore Film Commission:http://www.sfc.org.sg/main.html

 *当ブログ関連記事
 ・シンガポール国際映画祭 受賞作品リスト:http://umikarahajimaru.at.webry.info/200804/article_2.html
 ・第21回シンガポール国際映画祭:http://umikarahajimaru.at.webry.info/200804/article_1.html
 ・ケルヴィン・トン:http://umikarahajimaru.at.webry.info/200803/article_5.html

 
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 追記:
 6月14日(土)15日(日)に、JR昭島駅前 モリタウンにてシンガポール・フェスティバル2008が開催され、15日13時半からと15時から、『881 歌え!パパイヤ』主演のパパイヤ・シスターズによるトーク&ソング・ショーが行なわれます!

 追記2:
 上に挙げたBoo Junfengの2つの短編『家族の肖像』(2004)と『カントン・フーガ』(2006)は、東京レズビアン&ゲイ映画祭2008の「アジア短編集」というプログラムで上映されます。

この記事へのコメント

cinemasia
2008年06月14日 00:44
この企画、ぜひ実現させて下さい!
できればジャック・ネオのレトロもぜひ。
彼の映画はシンガポール庶民を知る上で欠かせませんが、特に『梁婆婆』は政治風刺がバリバリに効いた抱腹絶倒の快作&怪作で◎推薦です。
umikarahajimaru
2008年06月14日 02:19
cinemasiaさま
ありがとうございます。
私が直接何かできるわけではないのですが、個人的には、実現に向けて、できることはできるだけやりたいと考えています。
どういった形で上映が実現するかはわかりませんが、今、シンガポール映画には追い風が来ているので、何らかの成果は得られるのではないでしょうか。注目してお待ちください。
2008年06月14日 09:07
面白い企画ですね。
「881~」の予告をネットで見たときは東京国際で見れたら、と期待していたのですが、まさか一般公開とは!
楽しみです。

ちなみに、宣伝となりますが、今年の東京国際L&G映画祭ではBoo Junfengの短編を2本上映します。残念ながら最新作の「Keluar Baris (Homecoming)」ではないのですが...
umikarahajimaru
2008年06月14日 09:34
TILGFFさま
ありがとうございます。
監督名で検索されてこちらまでたどりつかれたのでしょうか。
Boo Junfengの作品、日本でも2作品観られるんですね。
私は、『アジア短編集』と『愛のうた、パリ』を観に行こうかな。
あと、公式サイトを見せていただきましたが、それぞれの作品について監督名の併記がないのが、ちょっと残念ですね~。

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