「見せない」ことで考えさせる 「メキシコ」 アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ

 映画『11'09''01 /セプテンバー11』で、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥが担当したのが「メキシコ」。タイトルは「メキシコ」ですが、メキシコの映像など一切出てきません。それどころか、ほとんど映像はなく、「闇」をバックに各国語での言葉のやりとりがわずかに聞こえてくるだけで、与えられたわずかな材料だけで、見る者に「何が起こっているのか」を考えさせる短編になっています。



 【物語】
 ささやきが重なって、何か祈りのように聞こえる。
 時々、「ブツッ」という音。
 (2分19秒)チラッと映るビル。
 飛行機が上空を飛びすぎる音。
 驚き、そして絶叫の声。
 各国(語)で世界貿易センタービルに旅客機が突っ込んだことを伝える報道。
 さらに「今、また2機目が」というアナウンサーの声。
 (3分54秒)ビルの映像。
 (4分7秒から断続的に)ビルから飛び降りる人の映像、そしてそれを伝える報道。
 「愛してる」と悲痛な声で伝える電話。
 (5分55秒)ビルの側面を飛び降りる人。
 交信らしい声。
 (7分3秒)一切のノイズが消える。そして、崩落するビルと巻き上がる煙の柱。
 (7分44秒)弦楽奏による音楽が静かに流れてくる。
 (9分30秒)アラビア語で、続いて英語で、“Does God’s lights guide us or blind us !”(神の光は我々を導くのか、あるいは、我々を盲目にするのか)

画像

 ◆解説
 私もこの映画は1回観ただけだったので、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥの作品がこの作品であることはすっかり忘れていました。
 何が起きているのかわからない不安感、ビルから人が次々と飛び降りているという映像への衝撃、そしてビルの崩落。
 9.11のことはもちろん忘れることはありませんが、この作品を観ると、衝撃を新たにし、胸に痛みを感じます。あの日、この事件を知った時のことも思い出されてきます。

 作品としては、「見せる」ことより、「見せない」ことで観る者に考えさせるという趣向の作品で、前回当ブログでもご紹介した“Anna”と同じ手法だということになります(作られたのは“Anna”の方が後ですが)。

 タイトルの「メキシコ」は、監督自身があの日メキシコにいて、伝えられる断片的な映像や情報から受けた衝撃をそのまま作品化した、というくらいの意味でしょうか。

 エンディング近くで流れてくる(天からの啓示とも聞こえる?)音楽は、ずっとイニャリトゥとパートナーを組むグスタボ・サンタオラヤによるもの。
 編集は、監督自身と、『ザ・セル』や“The Hire”のジョン・フランケンハイマー編である“Ambush”などを手がけるロバート・デュフィー(Robert Duffy)、そしてエジプト人編集者であるSherif Ezzat。
 音響は、監督自身と、イニャリトゥ関連のほとんどの作品を手がけるマーティン・フェルナンデス(Martín Hernández)。
 視覚効果は、『スター・ウォーズ エピソード1』『13ゴースト』『ランダウン』『ブレード3』『ザスーラ』『ファイナル・デッドコースター』『ファイアー・ドッグ』などを手がけるグレッグ・バクスター(Greg Baxter)[コーディネーター]と、『チャーリーズ・エンジェル フル・スロットル』『シービスケット』『ホステージ』のスティーヴン・シュミット(Steven Schmidt)[アシスタント]。
 プロダクション・コーディネーターとして、コリーヌ・ゴールデン・ウェーバー(Corinne Golden Weber)も参加しています。

 ◆作品データ
 2002年/メキシコ/9分57秒
 多言語による台詞あり/日本語字幕なし
 実写作品

 *この作品は、『11'09''01 /セプテンバー11』として日本でも劇場公開されました。

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 ◆監督について
 アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ Alejandro González Iñárritu

 メキシコ出身の映画監督。社会矛盾を背景に、人間の内なる葛藤、欲望、挫折感、気持ちのすれ違い等を描く手腕には定評がある。
 主人公の異なるいくつかの物語をからみ合わせて、より大きな物語やテーマを描くスタイルが特徴的。
 俳優の才能を引き出す能力にも長け、『アモーレス・ペロス』では、ガエル・ガルシア・ベルナルを一躍注目のスターにしたほか、『21g』でナオミ・ワッツとベニチオ・デル・トロを、『バベル』で菊地凛子とアドリアナ・バラーザを、それぞれ米国アカデミー賞ノミネートに導いた。

 1963年 メキシコシティ生まれ。
 1984年 メキシコのラジオ局WFMのDJとしてキャリアをスタートさせる。
 同時期に映画製作や演劇についても学ぶ。
 1980年代後半には6本のメキシコ映画の作曲を手がける。
 1990年代には、テレビ製作会社Televisaの最年少のプロデューサーとして活躍。
 1991年にTelevisaを辞め、自身の製作会社Zeta Filmsを起こし、CMやテレビ番組を手がけるようになる。(その頃手がけたCMには、コカコーラ、フォルクス・ワーゲン、マルボロ、スプライト、バーガーキングなどがある)
 一方で、映画製作についてもロサンゼルスやメインで学び続けていて、1995年にはTelevisaのために中編“Detrás del dinero”を監督。
 脚本家ギジェルモ・アリアガの書いたメキシコの矛盾を描く11の物語の中から3つを選び、最初の長編『アモーレス・ペロス』を完成させる。
 『アモーレス・ペロス』は、カンヌ国際映画祭批評家週間グランプリ受賞、米国アカデミー賞外国語映画賞ノミネートをはじめ、世界的に高い評価を受け、商業的にも成功した。
 2003年には、ハリウッドで『21g』を監督。
 2006年の『バベル』は、カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品されて、監督賞とエキュメニカル審査員賞を受賞。2007年米国アカデミー賞では、作品賞と監督賞にノミネートされ、監督賞にノミネートされた最初のメキシコ人となった。
 2007年には、ベネチア国際映画祭の審査員を務めた。

 アルフォンソ・キュアロン、ギジェルモ・デル・トロとは仲がよく、互いの監督作品をサポートし合っている。

 脚本家ギジェルモ・アリアガとは『アモーレス・ペロス』“The Hire:Powder Keg”『21g』『バベル』と組み、作曲家グスタボ・サンタオラヤとは、『アモーレス・ペロス』「メキシコ」『21g』『バベル』で組んでいる。

 CMも多数手がけていて、ブラッド・ピットを起用したEDWINのCMもその1つ。

 【フィルモグラフィー】
 ・1986年 “Un Macho en la cárcel de mujeres”(監督:Víctor Manuel Castro) [作曲]
 ・1987年 “Un Macho en el salón de belleza”(監督:Víctor Manuel Castro) [作曲]
 ・1987年 “Fiera solitaria”(監督:Hernando Name)[作曲]
 ・1989年 “Garra de tigre”(監督:Hernando Name)[作曲]
 ・1995年 “Detrás del dinero”(TV)[監督・脚本]
 ・1996年 “El Timbre”[監督・脚本]
 ・2000年 『アモーレス・ペロス』[監督・製作]
 ・2001年 “The Hire:Powder Keg” [監督・脚本]
 ・2002年 「メキシコ」(『11'09''01 /セプテンバー11』) [監督・製作・脚本]
 ・2003年 『21g』[監督・製作]
 ・2005年 『美しい人』(監督:ロドリゴ・ガルシア) [製作総指揮]
 ・2005年 “Toro negro”(監督:Carlos Armella、Pedro González-Rubio) [製作総指揮]
 ・2006年 『バベル』[監督・製作・脚本]
 ・2007年 “Anna”(『それぞれのシネマ』) [監督・脚本]
 ・2008年 “Rudo y Cursi”(監督:Carlos Cuarón)[製作]
 ・2008年 タイトル未定 ロドリゴ・ガルシア作品[製作]
 ・2009年 タイトル未定 アルフォンソ・キュアロン作品[製作]
 ・2009年 タイトル未定 [監督・製作・脚本]

 *参考サイト
 ・'Boards:http://www.boardsmag.com/articles/magazine/20020201/directorinarritu.html?print=yes

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