海から始まる!?

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zoom RSS これは遠い国の空想好きの少年の話です 手塚治虫 『人魚』

<<   作成日時 : 2008/04/15 20:12   >>

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 手塚治虫が1964年に発表した短編『人魚』。タイトルと手塚治虫という名前から想像されるものもあるかと思いますが、まずはご覧ください。



 【物語】
 「これは遠い国の空想好きの少年の話です」
 海面。
 海辺から海を眺めていた少年が砂浜に打ち上げられてはねている小魚を見つける。
 少年は、小魚を助けて水たまりの中に放してやる。
 水の中を元気に泳ぐ小魚を、うれしそうに眺める少年。少年が水の中に手を入れると、魚もそれに応える。
 やがて水の中から手が伸びて、少年の前に人魚が姿を現す。少年は人魚の手を取って、引き上げ、挨拶を交わす。そして空に浮かぶ雲を取ってオカリナに変え、彼女のために音楽を奏でる。人魚も目に見えないピアノでそれに合わせる。
 二人だけの楽しい時間。海中で遊ぶ二人。
 やがて少年は、人魚に一緒に街に行こうと誘う。
 人魚は、それはできないと断るが、少年は水槽があるから大丈夫と言い、人魚も少年に抱き上げられるともう否も応もない。
 少年は家に戻り、水槽に彼女を放す。そして両親にガール・フレンドを連れて来たよと言って見せるが、両親には、水槽の中のそれは、人魚などではなく、ただの小魚にしか見えない。
 「その国では自由な空想はゆるされませんでした」
 少年は、連行され、尋問される。
 係官が、あれは人魚などではなく、ただの小魚だと認めろと少年に迫るが、彼は人魚だと言って聞かない。
 少年はさらに上の組織に連れて行かれる。
 しかし、彼は、自分の主張を変えない。
 少年は、拷問にかけられるが、それにも屈することはない。
 監獄の中で、食事に魚が出されると、少年はショックで倒れてしまう。
 「でも少年は、人魚をわすれませんでした」
 「べつの方法がえらばれました」
 少年には、次々と本が与えられる。本を読むうちに、少年の頭の中から、人魚のイメージが薄らいでいく。
 少年はそれが怖くなって家へと逃げ出すが、家の水槽にいるそれは、彼にももう小魚にしか見えない。
 絶望に打ちひしがれる彼。
 彼は小魚をすくって、海に連れて行き、水たまりの中へ放つ。
 彼がじっと水たまりの中を覗いていると、彼を探す警官たちがやってくる。
 少年は、手の中に小魚をすくって、一緒に海の中へ。
 小魚は、海の中で人魚へと姿を変える。
 岸から、水平線の上を飛び跳ねる人魚を見やる警官たち……。
 END

画像

 ◆解説
 この作品は、1961年に手塚治虫がアニメーションのためのプロダクションを作ってから、4年目に当たる1964年に作られた作品で、自らが演出した短編映画としては『おす』に次いで2本目の作品ということになります。前年には日本初のテレビアニメシリーズ『鉄腕アトム』の放映をスタートさせていますが、テレビでできることとは違ったことをやろうとして作ったのが、この短編映画のシリーズで、まとめて「実験映画」と称されることもあります。

 この作品が発表された1964年の前年1963年は、『鉄腕アトム』のほかに『鉄人28号』『狼少年ケン』『エイトマン』などの放映が始まり、また舟木一夫「高校三年生」、三波春夫「東京五輪音頭」、梓みちよ「こんにちは赤ちゃん」、三田明「美しい十代」、ハナ肇とクレイジー・キャッツ「ホンダラ行進曲」、ザ・ピーナッツ「恋のバカンス」、真理ヨシコ「おもちゃのチャチャチャ」、坂本九「見上げてごらん夜の星を」などのヒットがあった年で、いわゆる「巨人・大鵬・玉子焼き」の時代でもあります。その一方で、この1963年という年は、「吉展ちゃん誘拐殺人事件」「狭山事件」「ケネディ大統領暗殺」「力道山刺傷事件」などがあった年でもあり、誰もが新しい時代の息吹を感じつつも、漠然とした不安も心のどこかで抱いていた、そんな時代だったというところでしょうか。

 『人魚』は、国家の統制によって、人々の想像力が失われていくのを危惧した作品、ということになりますが、同様のテーマを持った作品として、ラウル・セルヴェの『クロノフォビア』(1965)や『人魚(シレーヌ)』(1968)、イジー・トルンカの『手』(1965)も思い出されてきます。これは、つまり、互いのことを知っているとは思えない(少なくともこの時点では)3人が、ほぼ同時期に、同じようなテーマで作品を発表しているということになり、国家によるコントロール、そして、その結果としての人間疎外が、同時代的に、国を超えて意識されていたということになります。

 この作品を観て『カッコーの巣の上で』を思い出す人も多いと思いますが、『カッコーの巣の上で』も実は同時代的な作品で、映画こそ1975年に公開されていますが、原作自体はケン・ケッシーが1962年に発表しています。また、映画『カッコーの巣の上で』の監督は、ミロシュ・フォアマンですが、彼は、チェコ出身で、イジー・トルンカが『手』を発表した3年後に起こったチェコ事件を機にチェコ(スロバキア)からアメリカに亡命しているわけで、フォアマンは、トルンカやケッシーらの危機意識を受け継ぎ、自らの体験も踏まえて作った作品が『カッコーの巣の上で』ということになるのかもしれません。

 この作品は、いろんな映画を想起させる作品なのですが、ラストシーンを含め、アルベール・ラモリスの『白い馬』(1952)に似ているところがあるということは指摘しておいてもいいことかもしれません。

 ◆作品データ
 1964年/日本/8分18秒
 日本語の字幕あり/英語による併記あり
 アニメーション

 原案・構成・演出・作画:手塚治虫
 製作:富岡厚司(虫プロのプロデューサー)
 原画:山本繁
 動画:沼本清海
 撮影:佐倉紀行
 音楽:冨田勲(ドビュッシー「牧神の午後の前奏曲」より)

 この作品は、最近では、仙台短編映画祭2005(http://www.shortpiece.com/2005/work.html)にて、『ある街角の物語』『おす』『人魚』『しずく』『創世記』『ジャンピング』『おんぼろフィルム』『プッシュ』『自画像』とともに「手塚治虫 10の実験フィルム」というプログラムで上映されました。

 また、この作品は、実験アニメーション全13作品を収めたDVD『手塚治虫 実験アニメーション作品集』に収録されています。

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 ※当ブログ関連記事
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 ◆監督について
 手塚治虫
 漫画家、アニメーター、医師。
 1928年11月3日 大阪府豊中市生まれ、1989年2月9日没
 父の家庭用映写機で、幼い頃からディズニー作品などのアニメーションにも親しんでいたとされる。
 漫画家としてのデビューは1946年。
 アニメーションとの直接の関わりは1960年の東映動画による『西遊記』から。
 1961年 アニメーション制作のためのプロダクション 手塚動画プロダクション設立。1962年に同プロダクションを虫プロダクションと改称。
 1963年 虫プロで日本初のテレビアニメシリーズ『鉄腕アトム』を制作(『鉄腕アトム』自体は1959年に実写版が放映されている)。
 1965年 日本初のカラーアニメシリーズ『ジャングル大帝』放送開始(手塚自身は直接関わっておらず、原作のみ)。
 1968年 漫画業務を扱うために、虫プロとは別に手塚プロダクションを設立。
 1971年 虫プロ社長から退任。劇場公開作品の興行的失敗などにより1973年虫プロ倒産。 以後、手塚プロにて、実験的な短編の制作を行なう。

 アニメーションにおける手塚治虫の功績としては、名実ともに日本に「テレビアニメ」を切り開いたこと、プロダクションを通じて、日本のアニメーションを担うことになる多くの人材を輩出したこと、などが挙げられます。「アニメーターとしても活躍し、映画監督もこなす漫画家」としても草分け的存在ということになります。

 以下には、演出、監督、総監督、製作、製作総指揮とクレジットされている作品のみ書き出してみました。
 ・1960年 『西遊記』[演出]
 ・1962年 『ある街角の物語』[製作] 38分
 ・1962年 『おす』[製作] 3分9秒
 ・1963〜1966年 『鉄腕アトム』[総監督・演出]
 ・1964年 『人魚』[演出] 8分18秒
 ・1964年 『めもりい』 [演出] 5分40秒
 ・1965年 『新宝島』<TV> [演出]
 ・1965年 『しずく』 [演出] 4分17秒
 ・1965年 『たばこと灰』[製作] 3分50秒
 ・1966年 『展覧会の絵』 [総監督] 39分
 ・1966年 『W3 ワンダースリー』<TV> [総監督・演出]
 ・1967年 『リボンの騎士』<TV> [総監督・演出]
 ・1968年 『創世記』[製作] 3分42秒
 ・1969年 『千夜一夜物語』[製作総指揮]
 ・1970年 『クレオパトラ』 [監督] 113分
 ・1970年 『やさしいライオン』[製作]
 ・1978年 『100万年地球の旅 バンダーブック』<TVM> [演出]
 ・1979年 『海底超特急マリン・エクスプレス』<TVM> [演出]
 ・1980年 『フウムーン』<TVM>[製作]
 ・1980年 『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』 [総監督]
 ・1980〜1981年 『鉄腕アトム』<TV> [演出]
 ・1981年 『ブレーメン4 地獄の中の天使たち』 <TVM> [監督] 90分
 ・1983年 『緑の猫』<OV> [監督] 24分
 ・1983年 『雨ふり小僧』<OV> [監督] 24分
 ・1984年 『大自然の魔獣 バギ』<TVM> [演出]
 ・1984年 『ジャンピング』 [監督] 6分20秒
 ・1985年 『るんは風の中』<OV> [監督] 24分
 ・1985年 『おんぼろフィルム』 [監督] 5分37秒
 ・1986年 『山太郎かえる』<OV> [監督] 24分
 ・1987年 『森の伝説PART-1』 [監督] 29分20秒
 ・1986年 『銀河探査2100年ボーダープラネット<TVM> [監督] 73分
 ・1987年 『村正』 [監督] 8分44秒
 ・1987年 『PUSH おす』[監督] 4分18秒
 ・1988年 『自画像(セルフ・ポートレート)』[監督] 10秒
 ・1989年 『青いブリンクあなたが夢をつかめる世界なら』<TV> [総監督]
 ・未完 『パーティー』
 ・未完 『モスキート』
 *すべての作品に関するストーリー、解説、データの詳細、ビデオ化情報など、下記公式サイトに詳しく書かれています。動画の一部も観ることができます。

 *参考サイト
 ・手塚治虫公式サイト 手塚治虫@ワールド:http://ja-f.tezuka.co.jp/index.html
 ・手塚治虫に関するWiki:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%89%8B%E5%A1%9A%E6%B2%BB%E8%99%AB
 ・虫プロに関するWiki:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%99%AB%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%80%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3
 ・手塚プロダクションに関するWiki:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%89%8B%E5%A1%9A%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%80%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3

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