アナマリア・マリンカ インタビュー

 『4ヶ月、3週と2日』に主演したルーマニア出身の女優アナマリア・マリンカは、彼女の現在の活動拠点でもあるイギリスでの同作品の劇場公開に合わせて、数々のインタビューに答えています(たぶんそういう活動をしたのはイギリスのみです)。

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 イギリスでの『4ヶ月、3週と2日』の公開は、2008年1月11日の2館限定公開からスタートし、翌週に22館に拡大。公開週のウィークエンドBOX OFFICEは、28位で7777ポンド(ドルに換算すると15370ドル)を稼ぎ出しています。
 同じ週の封切作品では、『ラスト、コーション』が49館スタートで10位(227221ポンド)、ヴェンダースの『都会のアリス』が1館で32位(5915ポンド)、メキシコ映画“El Violin”が1館で50位(1379ポンド)、バフマン・ゴバディーの“Half Moon”が1館で52位(1112ポンド)となっています。
 同週の1位は『アイ・アム・レジェンド』で458館(2週目)で3740369ポンド、2位が『P.S.アイラヴユー』(日本では5月3日公開)で365館(3週目)で179101ポンド、3位が『魔法にかけられて』で489館(4週目)で1490517ポンドとなっています。
 同週の(日本での)単館系作品の成績を見てみると、『君のためなら千回でも』が2週目194館で8位(467474ポンド)、『アイム・ノット・ゼア』が3週目17館で15位(51796ポンド)、『パラノイド・パーク』が2週目15館で23位(19823ポンド)などとなっています。

 『4ヶ月、3週と2日』のレビューが各媒体に出て、上映劇場が22館となった2週目は、16位で66008ポンド、20館となった3週目は19位で38612ポンドとなっています。

 『4ヶ月、3週と2日』は、3週で162113ポンド稼いでいるわけですが、これがどういう数字かというと、同じパルムドール作品である『うなぎ』の興行収入が62000ポンド、『桜桃の味』が70000ポンド、『永遠と一日』が109000ポンドというのに比べて、圧倒的に好成績ということになります(しかも『4ヶ月、3週と2日』はまだ数字を伸ばしている)。

 まあ、アナマリア・マリンカがイギリスのテレビ・ドラマや舞台に出演していて、イギリスでの彼女の知名度が高くて、『4ヶ月、3週と2日』の注目度も高かったということもあったのでしょうが……。

 ちなみに、フランスでは、2007年8月29日に167館(!)で封切られて、同週末のBOX OFFICEが10位(717633ドル)、2週目が221館に拡大して、9位(434956ドル)、イタリアでは、2007年8月24日に125館で封切られて、同週末のBOX OFFICEが7位(171565ドル)、2週目が123館となって8位(151727ドル)となっています。公開規模も話題性もケタ違いで、比較になりませんね~。フランスやイタリアでは、『4ヶ月、3週と2日』は一般にも普通に知られていて、観て当たり前という映画の1本となっているということになります。

 *参考サイト
 ・BOX OFFICE MOJO:http://www.boxofficemojo.com/intl/uk/?yr=2008&wk=1&p=.htm
 ・myfilmsblog.co.uk:http://www.myfilmsblog.co.uk/blog/2008/01/uk-box-office-2.html#more

 前振りが長くなってしまいましたが、ネット上で見つけたアナマリア・マリンカのインタビューを2つばかり拙訳にてご紹介したいと思います。

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 まずは、Electric Sheep(http://www.electricsheepmagazine.co.uk/features/2008/01/07/interview-with-anamaria-marinca/)のQ&A方式のインタビューから。

カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した『4ヶ月、3週と2日』は、ルーマニアの恐ろしいほど抑圧的な共産主義時代に、中絶をしようとして悪戦苦闘する主人公たちの姿を描いた、パワフルで、心理的なスリラーである。キャストはいずれも優れているが、友人ガビツァのために違法の中絶を手伝うオティリア役を演じたアナマリア・マリンカはとりわけ素晴らしい。以下では、マリンカがこの映画を作ることがいかに重要か、我々に語ってくれた。

サラ・コーエン:あなたの最初の大きな役は『セックス・トラフィック』でした。あなたは、こんな汚れ役ばかりに惹かれるのでしょうか?

アナマリア・マリンカ:確かにそういう役だったけど、私が興味があったのは、アーティストとして私が役に立てるということだったの。どちらも私の国、私の歴史、私のルーツに関わるものだったし、こういう物語を語らなければならないと感じた。これらは今日とても大事だと思うし、1人の人がやって済むことならそれでいいんじゃないかしら。

SC:『4ヶ月~』について確かに言えることの1つは、この映画では道徳的判断が一切されていないということです。この映画はまっさらなキャンバスのように見えますね。

AM:それが私たちの意図したことだったの。それは私にはとても難しいことだったわ。なぜって、どうしても自分の意見を持ちたくなってしまうから。何が真実かということは自分のそれまでの経験によって決まってくる。私たちは、もっと視野を広げて、固定観念を超えようと考えたの。20年後の今だから言えることかもしれないけど、私たちは今この物語を語る知恵と聡明さがある。これが1989年の革命が終わって何年も経っていない頃だったら、こんなに客観的でいられなかったかもしれない。

SC:クリスティアンが言ったことなんだけど、この映画は中絶についての映画でもなければ、共産主義についての映画でもないって。あなたはこの映画の本質はなんだと思う? 自由の抑圧や欠落とか?

AM:それは、真実や自由や価値を追求すること、それから友情や、自己犠牲だと思う。大げさな言葉は使いたくないの。でも、芸術の仕事では何か価値のあるものに自分を捧げなくてはいけない。私たちは、自分たちが暮らしているそのままのリアリティーを超えなくてはいけない。映画に描かれていることだけを観てはいけないの。それを突き抜けて、その向こうにあるものを見なくちゃいけない。少なくともそうすべきだと思う。

SC:中絶するのはガビツァの方だけど、この映画は、実は、あなたが演じた役、オティリアを中心にまわっている。クリスティアンが彼女に焦点を当てたのはなぜだと思う?

AM:それが、私がこの物語に惹きつけられたことの1つだった。彼の見方は違うけど。映像的には、いろんなことがふりかかるのは主人公の方だし、物語は、メインの物語であると思われるもの、つまり中絶、と並行して進む。オティリアだけが何が起こっているのかわかっている。私がとても興味を持ったのは、こういうやり方で語られる物語に参加するということだった。なぜだかわからないけど、私にはこれは楽観的な物語に思えた。要するに、これは、ある人の人生の24時間についての映画で、彼女は自分が経験したことで変わらざるを得なくなる。必ずしもすっかり納得したわけじゃないけど、この経験はまんざら悪いものではなかった、私の考えではね。オティリアは成長し、大人になった。そしてこの文脈で言うと、不幸にして、あの時、あの場所で、彼女はこういうやり方で人生を学んだ。それはとても厳しいものだったけれど。

SC:映画では、お医者さんである、ベベ氏は、両方の娘に、中絶の代償としてセックスを要求する。クリスティアンは、レイプ・シーンを描くよりも、ことが終わった後、あなたがバスルームで体を洗うシーンを見せている。これは、トラウマを見せるやり方としてはとても面白い。小さな演技で登場人物の試練を伝えなければいけなくて、あなたとしては、あのシーンを準備するのは大変だったと思うんだけど。

AM:あなたの言う通りね。だって、観客はセックス・シーンそのものを観るより、ああいうシーンを観た方がより痛みを感じるものだから。誰だって寝室で何が起こっているかはわかる。だからそれを見せる必要はない。それが芸術の芸術たるところだわ。映画の言語は抽象的なのよ。もし映画があらゆる答えを描かなければならないとしたら、つまらないものになる。映画はありのままを映し出さなくていいし、語らなくていいことだったら語らなくてもいい。カメラやフレームを使って見せることができるものは限られているわ。でも頭の中だったらどんなことでも描くことができる。すべてはあなた次第。物語は、幻想であり、矛盾に満ちているの。

SC:この映画での長回しは、心理ドラマを盛り立てるのに実に効果的でした。長時間、キャラクターに入り込まなければならなかったわけだから、個人的により物語に集中しなければならなかったと思うんだけど?

AM:長回しであろうとなかろうと私は個人的にいつも集中してるわ。舞台から戻って、私はこの映画に参加するのが楽しみだった。私には素晴らしい仲間がいたんだもの。ゲームをやっているようなものね。ワクワクして。舞台だったら、1ヶ月とか6週間とか8週間とかリハーサルするけど、ここでは朝の数時間があればいい。狩りのようなものね。だってあらゆることを覚えていなくてはいけないんだから。そんな瞬間なのよ。あらゆるものが限られている。時間が限られている、フィルムも限られている。そしてそのことは十分わかっていて、アドレナリンがあふれてくる。クリスティアンは、私が今まで一緒に仕事をしたアーティストの中では最もリラックスしていた1人だったけど。彼は、自分が世界中の時間を独り占めしてて、これが最も重要なことだって思わせてくれるの。

SC:近年、ルーマニアのフィルムメーカーが注目されています。たとえば“12:08 East of Bucharest”とか、“The Death of Mr. Lazarescu” とか(これには『4ヶ月~』のオレグ・ムトゥが撮影監督として関わってるけど)。あなたやクリスティアンやオレグはみんな若い。ルーマニア映画では今新たなる再生が起こってるの?

AM:何かが起こっているのよ。全く新しい世代というか。たぶんそうだし、そうあってもらいたいんだけど、私たちはまだ穢れていない世代なの。私たちは真実を求めていて、道徳的なメッセージなんかには興味はない。物語を語る方法を模索しているし、失うものは何もない。過去にはたくさんの痛みがあり、それがどうして起こったのか理解したいと思っている。

SC:私も、ルーマニアは本当に最悪の独裁体制にあったと思う。

AM:恐ろしかったわ。特に両親や祖父母の時代のことだけど。彼らが受けた傷跡、目に見えないものもあるけど、それらは今でも毎日目の当たりにできる。私は、私の家族やあらゆるルーマニアの世代があの時代を許せる日が来ればいいと願っているの。彼らから威厳を奪い、自由でいる権利を奪い、代わりに生命への恐怖、どこへ行っても何をしてもつきまとってくる恐怖を植えつけた。どうすればいいのか、私には難しすぎるわ。

SC:あの映画がとてもよくできたものだったとしても、カンヌでパルムドールを受賞したというのは驚きではありませんでしたか?

AM:はい。私にとっては、それは希望でもあった。クリスティアンがパルムドールを受賞した時、彼はこう言った。たとえ援助なんかなくても、自分の考えがあって、伝えたいと思うなら、映画を作ることは可能だ、そうすれば認めてもらうチャンスが得られるし、観てもらうことができる、と。語りたい物語があるなら語ればいい。私たちはこれまでのところ10~15カ国に行っているし、おそらくプロモーションしたり、映画を上映したりする国は60カ国くらいになるでしょう。

SC:この映画は、ある意味、普遍的な物語だと思う。他の国でも通用する部分がある。例えば、カトリック諸国などでは。

AM:まだこういうこと(中絶の禁止と違法な中絶)が行なわれている国があります。ポーランドとかメキシコとか。そこにいれば、困難を感じるし、奮起させられる。自分が期待されていると感じ、声なき声になることができる。自分が何か大事なことをしたいと思うなら、ずっとやり続けなければならない。そうすれば必ず報いがある。そのためには映画は有効よ。だって人々が共有している潜在意識に働きかけるのだから。

SC:ルーマニアはまだヨーロッパの周辺国です。あなたは心配じゃありませんか、まだ東欧に対する偏見があって、デイヴィッド・クローネンバーグの“Eastern Promises”のような映画が犯罪とかギャングとかそういうお決まりのイメージを反復させるから。

AM:あなたが言うように、お決まりのイメージはあるわ。でも、誰かが盗みをしたいとか、レイプしたいとか、人殺しをしたいとか思うなら、それは肌の色がどうだろうと、どこの国であろうと、関係ないの。問題なのはそれが大きなスケールで行なわれる場合の方よ。もちろん、私たちが夢中になってやっている戦争こそ社会にとってずっとずっと危険なものだけど。私たちはより大きな問題について焦点を当てなければいけない。

SC:イラクでの戦争についての映画を作ることに興味があるということ?

AM:その通り。私にとっては、話をすることも、映画を作ることも、お芝居をすることも、絵を描くことも、新しい音楽を作曲することも、芸術を通して自分を表現するなら、どんなやり方であっても、理解に向けての第一歩になる。私たちは理解し合わなければならない。だって、今のやり方を続けるなら、私たちは互いに滅ぼし合うことになるだけだから。

 ※2つ目のインタビューは次の記事にアップします。

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  • 【2008-103】4ヶ月、3週と2日(4 LUNI, 3 SAPTAMANI SI 2 ZILE)

    Excerpt: 人気ブログランキングの順位は? 1987年 ルーマニア・・・ 独裁政権下の自由を奪われた社会 ルームメイトを助けるために 彼女の長い一日が始まる> これは、二人だけの秘密─.. Weblog: ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!! racked: 2008-05-04 15:16
  • 『4ヶ月、3週と2日』'07・ルーマニア

    Excerpt: あらすじ1987年の冬のある日、チャウシェスク政権下のルーマニアで、大学生のオティリアは寮のルームメイトのガビツァとせわしくなく動き回っていた。寮を出たオティリアはホテルへ行くが、予約が入っていない事.. Weblog: 虎党 団塊ジュニア の 日常 グルメ 映画 ブログ racked: 2009-02-03 20:20