ウォン・カーウァイが手がけたミュージック・ビデオはやっぱりこんな感じ!

 “Six Days”は、ミュージシャン、DJとして活躍するDJシャドウの楽曲で、独立した作品としてはウォン・カーウァイが手がけた唯一のミュージック・ビデオになります。



 【物語】
 着衣のまま水の中をゆるやかに泳ぐ女。
 溶接工(?)らしい男。
 水辺でじゃれ合うようにして愛し合う男と女。
 時計が4時27分から4時26分に変わる。
 通り過ぎる女をじっと見つめる男。
 緑色の部屋で壁にもたれかかって座る2人。
 女の脇の下に426と刺青を刻む男。女はうれしそう。
 彫った刺青を鏡に映してみる女。鏡にペンキで426と描いてもみる。
 一瞬サンドバックの映像が挿入される。
 海の中で戯れる2人。
 それを見つめるような男の視線。
 海の中で戯れる2人。
 炎が反射している男の体。
 水に向かって、もがくような、つかみかかるような手のシルエット。
 目の前を過ぎ去るものを睨みつけるかのような男。
 愛し合う2人。
 体を上下させている男。
 水辺で愉悦の表情を浮かべている女。
 ベッドでうずくまる男。
 まわりにたくさん426と書かれたサンドバッグを蹴ったり殴ったりしている男。
 蹴った男の足の裏には426という文字が見える。
 男はとがったもので足の裏の426を削ろうとしている。
 バスルーム。
 男は426と書かれた鏡を割る。
 水辺で愉悦の表情を浮かべている女。
 カンフーごっこをする2人。
 大きな氷を破壊している男。
 カンフーのシーンと氷を破壊するシーンが交互に。
 ベッドで、上下逆に寝そべった形でキス。
 ハンマーで氷を破壊する男。
 緑色の部屋で壁にもたれかかって座る2人。
 女は寄り添っていた男から体を離し去る。
 後には男だけが残される。
 男は白熱灯にも426と書かれているのを見て、蹴飛ばして割る。

画像

 ◆解説
 ミュージック・ビデオであるわりには、DJシャドウが唄う映像など一切挿入されず、歌詞と映像のシンクロも一切なし、曲の内容との関連性もなしで、単にDJシャドウの“Six Days”をBGMに使った短編映画のような作品になっています。

 この作品は、元々ウォン・カーウァイとDJシャドウが互いのファンであったところから生まれたコラボレーションらしく、いわゆるプロモーション・ビデオっぽい作品でなくてもいいからという約束でDJシャドウがウォン・カーウァイに発注したのだと思われます。

 作品としては、大胆な構図、鮮やかな色彩構成などが印象的で、とりたててストーリーのない、ラブ・ストーリーっぽいイメージ・ビデオだったかと(一度観たくらいでは)思ってしまうのですが、繰り返し観るとちゃんとしたストーリーが語られていることに気づかされます。

 この作品をよりわかりにくくしているのは、実は、チャン・チェンが1人2役しているからで、彼は、元カレと今カレの2役を演じています。元カレが「水の男」で、今カレが「火の男」。前者を「愛し合っている男」、後者を「ムッツリしている男」と言い換えてもいいかもしれません(前者の世界はカラフルで、後者の世界は単色系、という言い方もできます)。「火の男」が女に残る「水の男」の痕跡にいらだち、すっかりパラノイアになり、躍起になって「水の男」の痕跡を消そうとしているというのが、このミュージック・ビデオのストーリー、ということになります。
 「水の男」を象徴するのが「426」の文字で、本当にあるのか、幻覚なのかはわかりませんが、「火の男」はそればかり気にして疲れてしまい、最後には女にも去られてしまいます。
 2人の男をチャン・チェン1人に演じさせたのは、実は2人ともどこにでもいるような男で、どちらがどう優れているというわけでもない、ということを示したかったからでしょうか。
 「426」の意味するところも気になりますが、このミュージック・ビデオだけからでは読み取れませんでした。

 この作品の中の「キス・シーン」は、『マイ・ブルーベリー・ナイツ』のラストでセルフ・コピーされています。

 出演は、男の方がチャン・チェン(ウォン・カーウァイ作品では『ブエノスアイレス』『2046』『愛の神、エロス』に出演)で、女の方がダニエル・グラハム(母が中国人、父がアイルランド人というハーフで、クアラルンプール生まれの女優)。

 撮影はクリストファー・ドイル、編集はウィリアム・チャンが担当しています。

 制作はAnonymous Contentというアメリカのプロダクションで、ここはカーウァイも参加した“The Hire”のシリーズを制作したところで、同シリーズでつきあいの始まったアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトウとは『バベル』でも組んでいます。

 シングルのリリース当時は、DJシャドウの公式サイト(http://www.djshadow.com/)でも観られたようですが、現在は削除されていて、代わりに最新のビデオがアップされています。

 楽曲の方の“Six Days”は、9.11や対イラク戦争についての歌で、そうした事実への諦めにも似た気持ちを唄っています(下記の歌詞参照)。
 ただし、9.11(2001年9月11日)は火曜日で、対イラク戦争が始まった2003年3月20日は木曜日なので、歌詞の「曜日」は2番と3番で入れ替わっています。あからさまにあてこするのは避けたかったのか、あるいはそもそもそんなに厳密である必要を感じなかった、ということなのでしょうか。
 また、タイトルは“Six Days”なのに、歌詞では月曜日と火曜日と木曜日という3日間しかありません。元々の歌詞は6番まであるのに、シングルでは3番までにしたのか?とも考えられますが、そうではなくて、これは、おそらく7日目=「安息日」は来ないということを意味しているのでしょう。

 歌詞の内容からは、9.11や対イラク戦争関係のドキュメント映像をちりばめたメッセージ・ソング的なミュージック・ビデオにもできたはずですが、そうはしなくてこういう作品に仕上げたのは、果たして楽曲にとってプラスとなったのかどうか……。少なくともウォン・カーウァイ・ファンには評判はよいようです。

 ◆作品データ
 2002年/米/3分42秒
 英語台詞あり/日本語字幕なし
 ミュージック・ビデオ

 *この作品はテッサロニキ国際映画祭で上映されています。

 なお、ウォン・カーウァイには、編集のみを手がけたミュージック・ビデオ BrownEyesの「Already a year...」という作品があります。

 *参考サイト
 ・DJシャドウに関するWikipedia:http://ja.wikipedia.org/wiki/DJ%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%89%E3%82%A6
 ・LYRICS DOWNLOAD:http://www.lyricsdownload.com/dj-shadow-six-days-lyrics.html
 ・DJシャドウの公式サイト:http://www.djshadow.com/

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 ◆歌詞

 週の初め
 首脳連中のお話を聞く
 ただの月曜日なのに
 交渉は壊れかけ
 指導者たちはしかめっつら
 殺し合いになるかもしれない1日

 明日なんて来ない 来たってもう手遅れなのさ

 おしゃべりしながらのランチ
 ニュースを聞いて打ちのめされる
 ただの火曜日なのに
 戦争に行くことになるなんて思ってもみなかった
 すっかり決まった後で知ることになるのさ
 エイプリル・フールなんだ

 明日なんて来ない 来たってもう手遅れなのさ
 明日なんて来ない 来たってもう手遅れなのさ

 頭上に口笛のような音が尾を引いて響く
 あなたは生きてるのか死んでしまったのか
 ただの木曜日なのに
 地面が揺れる
 何百万本ものロウソクが焚かれる
 誕生日でもないのに

 明日なんて来ない 来たってもう手遅れなのさ
 明日なんて来ない 来たってもう手遅れなのさ
 明日に期待したって もう手遅れだと思うけどな

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 ◆Lyrics

 At the starting of the week
 At summit talks you'll hear them speak
 It's only Monday
 Negotiations breaking down
 See those leaders start to frown
 It's sword and gun day

 Tomorrow never comes until it's too late

 You could be sitting taking lunch
 The news will hit you like a punch
 It's only Tuesday
 You never thought we'd go to war
 After all the things we saw
 It's April Fools' day

 Tomorrow never comes until it's too late
 Tomorrow never comes until it's too late

 You hear a whistling overhead
 Are you alive or are you dead?
 It's only Thursday
 You feel a shaking on the ground
 A billion candles burn around
 Is it your birthday?

 Tomorrow never comes until it's too late
 Tomorrow never comes until it's too late
 Make tomorrow come I think it's too late

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 ◆監督について

 ウォン・カーウァイ 王家衛(Won Kar-Wai)

 1958年、上海生まれ。
 1963年、5歳の時、末子のウォン・カーウァイだけが母親と一緒に香港へ移住。彼は、北京語と上海語は話せたが、広東語がなかなか話せなかった(13歳くらいまで)ということもあり、母親と毎日映画館へ通うようになる。
 1980年に香港理工学院を卒業し、香港のTV局TVBへ入社。アシスタントと脚本を手がける。
 1980年代半ばには、TVBを辞め、The Wing Scope Co. 、アラン・タンのプロダクションIn-gear Film Production Companyで、脚本家/監督として活躍するようになる。
 1988年に『いますぐ抱きしめたい』で監督デビューするまでに10本以上の脚本を手がける。
 1990年に監督第二作『欲望の翼』を発表。この作品で初めて組んだオーストラリア出身の撮影監督クリストファー・ドイルと組み、彼の、手持ちカメラという撮影スタイル、および、画面構成と色彩設計が、ウォン・カーウァイ作品と分かちがたく結びついて、認識されていくようになる(2人のコンビは『2046』まで続いた)。
 1992年にクランクインした『楽園の瑕』の製作が難航し、1994年にゲリラ的に撮影した『恋する惑星』が先に完成し、公開。
 『恋する惑星』(日本公開は1995年7月)は、これまでの香港映画にはない、新しい映像センス、カッコよさを持った作品として日本でも記録的なヒットとなり、ウォン・カーウァイは日本でも人気の高い監督の1人となった。『恋する惑星』は、クエンティン・タランティーノが惚れ込み、自社でアメリカ公開した。
 1992年にジェフ・ラウとともにジェット・トーン・プロダクションを設立。同社は、『大英雄』『恋する惑星』『天使の涙』『初恋』『ブエノスアイレス』『花様年華』『2046』『マイ・ブルーベリー・ナイツ』などの作品を手がけている。
 1998年の『ブエノスアイレス』では、カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞し、同賞を受賞した初めての中国人となった。
 2007年の『マイ・ブルーベリー・ナイツ』でアメリカに進出した。
 ウォン・カーウァイは、脚本家としてデビューしながら、自作ではちゃんとした脚本もないままに撮影を始めるという方式を取っている。
 近年は、CM、ミュージック・ビデオ、短編作品を手がけることも多く、2000年の『花様的年華』“Hua yang de nian hua”はベルリン国際映画祭の短編部門に出品された。

 【フィルモグラフィー】

 ・1982年 “彩雲曲/Choi wan kuk(Rainbow Could Song)”[脚本](監督:アグネス・ホアン)
 ・1983年 “空心大少爺/Kong xin da shao ye(Just For Fun)”[脚本] (監督:フランキー・チェン)
 ・1984年 “伊人再見/Yi ren zai jian(Silent Romance)”[脚本・出演] (監督:フランキー・チェン)
 ・1985年 “吉人天相/Ji ren tian xiang (Chase a Fortune)”[脚本](監督:Wai Hung Liu)
 ・1985年 『レスリー・チャン あの日にかえりたい(美人スリに御用心))』<未> [脚本] (監督:ガイ・ライ)
 ・1985年 『ファンタジー・フォックス・ストーリー』<未>“小狐仙/Xiao hu xian(Unforgettable Tantasy)”[脚本](監督:フランキー・チェン)
 ・1986年 『傷だらけのメロディー』<未> [脚本] (監督:ノーマン・ロウ)
 ・1986年 “我要金龟婿/Wo yao jin gui xu(Sweet Surrender)”[脚本](監督:フランキー・チェン、ノーマン・ロウ)
 ・1986年 『ユン・ピョウ in ポリス・ストーリー(俺たちに明日はある!?)』[脚本](監督:チェン・タンチョウ)
 ・1986年 “悪男/E nan”[脚本](監督:フランキー・チェン)
 ・1987年 “最后一战/Zui hou yi zhan(The Final Test)”[脚本](監督:Kin Lo)
 ・1987年 『バンパイア・コップ』<未> [脚本] (監督:ラウ・チェンウェイ)
 ・1987年 『最後勝利』<未> [脚本] (監督:パトリック・タム)
 ・1987年 『マカオ極道ブルース』<未> [脚本] (監督:チェン・タンチョー)
 ・1988年 『バンパイア・コップ2』<未> [脚本・出演] (監督:ジェフ・ラウ)
 ・1988年 “猎鹰计划/Lie ying ji hua(Walk on Fire)”[脚本](監督:ノーマン・ロウ)
 ・1988年 “愛情謎語/Ai qing mi yu(Chaos by Design)”[出演](監督:アンジェラ・チャン)
 ・1988年 『いますぐ抱きしめたい』[監督/脚本]
 ・1988年 “Motolora”[監督](CM)
 ・1990年 『欲望の翼』[監督/脚本]
 ・1990年 『アンディ・ラウ/武闘派列伝』<未> [脚本] (監督:チョン・ファンツォ)
 ・1991年 『神鳥伝説』 [原案] (監督:デイヴィッド・ライ、ユン・ケイ、ジェフ・ラウ)
 ・1993年 『大英雄』<未> [製作総指揮] (監督:ジェフ・ラウ)
 ・1994年 『楽園の瑕(きず)』 [監督/脚本]
 ・1994年 『恋する惑星』[監督/脚本]
 ・1995年 『天使の涙』 [監督/脚本]
 ・1996年 『wkw/tk/1996@7'55''hk.net』 [監督](短編)
 ・1997年 『初恋』[製作] (監督:エリック・コット)
 ・1997年 『ブエノスアイレス』 [監督/製作/脚本]
 ・1999年 『ブエノスアイレス 摂氏零度』 <未> [出演] (監督:クアン・プンリョン、アモス・リー)
 ・2000年 『花様年華』[監督/製作/脚本]
 ・2000年 「花様年華MTV」[監督](ミュージック・ビデオ)
 ・2000年 『花様的年華』 “Hua yang de nian hua”[監督/製作](短編)
 ・2000年 “Suntime Wine(新天葡萄酒)”[監督](CM)
 ・2000年 JCDecaux “Un matin partout dans le monde”[監督](CM)
 ・2001年 “The Hire:The Fellow”[監督](短編)
 ・2001年 Orange France“Dans la ville”[監督](CM)
 ・2002年 “天下無双/Tian xia wu shuang (Chinese Odyssey 2002)”[製作]
 ・2002年 “Six Days”[監督/脚本](ミュージック・ビデオ)
 ・2002年 ラコステ “La Rencontre”[監督](CM)
 ・2004年 『愛の神、エロス』[監督/製作/脚本]
 ・2004年 『2046』[監督/製作/脚本]
 ・2005年 クリスチャン・ディオール 香水“Capture Totale”[監督](CM)
 ・2007年 ランコム・パリ 香水 “Hypnôse Femme”[監督](CM)
 ・2007年 ランコム・パリ 香水 “Hypnôse Homme” [監督](CM)
 ・2007年 『マイ・ブルーベリー・ナイツ』[監督/製作/原案/脚本]
 ・2007年 "I Travelled 9000 km To Give It To You"(『それぞれのシネマ』)[監督・脚本]
 ・2007年 ソフトバンクCM [監督](CM)
 ・2007年 クリスチャン・ディオール 香水“Midnight Poison”[監督](CM)
 ・2007年 “There's Only One Sun” [監督](短編)
 ・2009年 “The Lady from Shanghai”[監督/脚本]

 *参考サイト
 ・Allcinema Movie & DVD Database:http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=5248&ct=
 ・IMDb:http://us.imdb.com/name/nm0939182/
 ・Wikipedia:http://en.wikipedia.org/wiki/Wong_Kar-wai
 ・「ウォン・カーウァイ FILMOGRAPHY」:http://members.jcom.home.ne.jp/baht/wkw_filmo_j.html
 ・香港影庫HKMDB:http://www.hkmdb.com/db/people/view.mhtml?id=5243&display_set=eng

この記事へのコメント

noname
2014年05月05日 00:51
DJ SHADOWのファンですが、ミュージックビデオについて調べていて、こちらにたどり着きました!

『恋する惑星』の監督だと知って、映像の世界観に納得しました!大変参考になりました!
umikarahajimaru
2014年05月05日 13:46
nonameさま
コメントありがとうございました。
久々に自分の書いた文章を読み直して、なかなか頑張ってたなあなんて思ったりもしました(笑)。
いろんなミュージックビデオについて書いているはずなので、あちこち覗いてみると、お気に入りのものが見つかるかもしれません。よかったらチェックしてみてください・

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