外見は派手ですが…… ウォン・カーウァイ “There's Only One Sun”

 ウォン・カーウァイは、2007年のカンヌでお披露目になった『マイ・ブルーベリー・ナイツ』以降もたくさん短編やCMを手がけていて、数日前に取り上げたディオールのCMもその1つですが、今のところ確認できている最新の短編が“There's Only One Sun”ということになります。



 【物語】
 車の中にいる男と女。
 女は視力を失っているが、なぜそういうことになったのかと男は女に尋ねる。
 「見てはいけないものを見てしまったからよ」
 それは約1年前のこと――
 女は、人間衛生部中央局のエージェント006で、「ライト」というコードネームの男を探し出して「駆除」しろという指令が与えられる。
 「ライト」は人に顔を見られることを嫌うので、彼女は失明した状態で、彼を見つけ出し、そして「駆除」しなければならない。彼女には「ライト」を探すための装置「ライトキャッチャー」が与えられた。
 「ライトキャッチャー」の信号は弱く、なかなか「ライト」にはたどりつけない。
 ようやく「ライト」にめぐりあった時、2人は恋に落ちる。
 2人は、2人で一緒にいるためにはどんなことでもしようと誓い、2人で国境を越えて逃げようと決める。
 国境を越えるには、許可証が必要だったが、彼女は2人分あった許可証についてなぜか「1人分しかない」と嘘をついてしまう。
 国境の手前で、彼は、彼女を撃ち、彼は1人で国境を越えて行った……。
 そういう終わり方が彼女の理想だったのだが、現実は違った。
 彼女が彼を裏切って彼を射殺したのだ。
 物事には、2つの面がある。1つの面は明るく、もう1つの面は暗い。
 スクリーンで観たことも、あるものはどんどん記憶から失われていくが、あるものは逆にどんどん存在感を増していく。
 当局は、彼女の中から彼の記憶を消した。だが、彼女は彼の暖かなぬくもりを覚えている。
 「太陽は1つだけ。しかし、太陽は毎日地球のまわりを回る。
 この太陽は私だけのもの。絶対に手放したくはない。
 ――マリーナ・ツヴェターエワ」

画像

 ◆解説
 “There's Only One Sun”は、オランダの家電メーカー ロイヤル・フィリップス・エレクトロニクス(Royal Philips Electronics)が新型フラットテレビ「Aurea」の発売を記念して、企画した“Seduction by Light”(光に魅せられて)というキャンペーンの一環で制作された短編です。

 「Aurea」というのは、画面に合わせて、テレビの枠にはめ込まれたLEDの色彩が変化するという機能を備えたテレビで、そういう機能によって、よりテレビに集中できるという効果があるのだそうです。いちいちテレビの枠の色が変わったりしたら、落ち着いて番組が楽しめないじゃないかとは誰しも考えるところだと思いますが、まあ、ある程度の市場調査はしているのでしょうからきっと大丈夫なのでしょう。日本に輸入しようという動きはないようですが。

 それはともかく、そうした流れで作られた“There's Only One Sun”は、極彩色というか、色とりどりのネオンカラーが鮮やかで、一見これがウォン・カーウァイか!というような作品に仕上がっています。

 しかし、そうした外見の派手さとは裏腹に、ストーリー自体は、殺さなければならない男を愛してしまった女(彼が私を殺してくれればよかったのに、結局私が彼を殺すことになってしまった、しかし、それによって彼は永遠に私だけのものになった)の悲哀を描いた作品で、よくあると言えばよくある古典的なパターンの物語です(物語の結末は、ちょうど同じ時期に発表された『ラスト、コーション』の真逆ですが)。言ってみれば、古典的なノワール風の物語を、近未来を舞台にして、SF的な味付けをしたのが、“There's Only One Sun”ということになるのでしょうか。

 色鮮やかな世界が映し出されることを期待しているメーカーに対して、主人公の恋する運命にある男性を太陽に喩え、彼に接近するためには彼女は盲目でなければならない、とした発想がユニークですが、これは、ひょっとして、映画や映画館を愛するウォン・カーウァイがテレビのキャンペーンのために短編を作るということへのささやかな抵抗(皮肉?)なのでしょうか。

 ラストで示されるマリーナ・ツヴェターエワは、過酷な人生を生きたロシアの女性詩人で、日本でも伝記(http://www.michitani.com/books/ISBN4-89642-179-5.html)が出版されています。

 なお、上では“There's Only One Sun”をウォン・カーウァイの最新作としていますが、2008年のプロモーション用の来日で、カーウァイは「めざましテレビ」内で番組用に1分程度の作品を作っています(タイトルは、「マイ・ブルーベリー・モーニング」?)。

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 ◆キャスト&スタッフ

 出演 主人公006がフランス人女優のアメリ・ドーレ(Amélie Daure)、そのほかに、Gianpaolo Lupori(「ライト」?)、Stefan Morawietz(006の話の聞き手?)。

 撮影監督:フィリップ・ル・スール 代表作は『パリの確率』『エイリアンVSヴァネッサ・パラディ』『プロヴァンスの贈りもの』。アシスタント時代の作品として『スタン・ザ・フラッシャー』『デリカテッセン』『ビフォア・ザ・レイン』『ロスト・チルドレン』『魅せられて』。

 美術・衣裳・編集:ウィリアム・チャン
 ウォン・カーウァイ組の常連で、監督、プロデューサーから美術、衣裳、編集、アート・ディレクターまでこなすマルチ・アーティスト。カーウァイ作品では、美術は『いますぐ抱きしめたい』から、編集と衣裳は『恋する惑星』から参加。ほかの作品では、『異邦人たち』『愛さずにいられない』『ディバージェンス』(以上、美術)、『バタフライ・ラヴァーズ』『たまゆらの女』(編集)、『夜半歌聲/逢いたくて、逢えなくて』『ブレード』『かちこみ!ドラゴン・タイガー・ゲート』(衣裳)、『金玉満堂』(アート・ディレクター)、『暗戀桃花源』(美術・衣裳)、『藍宇』(美術・編集)など。

 アシスタント・エディター:Geoffrey Sledge

 カラーリスト(色彩の補正をするオペレーター):ステファン・ソネンフェルド(Stefan Sonnenfeld)とCompany 3
 ステファン・ソネンフェルドは、日本ではデータベースにすらその名前が挙がってこないほど「無名」の人ですが、数多くの大作・話題作にカラーリストとして関わっている知る人ぞ知る存在。主な作品は、『マルコヴィッチの穴』『60セカンズ』『ザ・セル』『スパイゲーム』『パイレーツ・オブ・カリビアン』3部作『バッドボーイズ2バッド』『マイ・ボディガード』『キング・アーサー』『コラテラル』『ダイヤモンド・イン・パラダイス』『宇宙戦争』『アイランド』『ドミノ』『アンダーワールド:エボリューション』『M:i:Ⅲ』『X-MEN ファイナル・デシジョン』『マイアミ・バイス』『テキサス・チェーンソー ビギニング』『デジャヴ』『300』『ドリームガールズ』『ヒッチャー』『ザ・シューター』『トランスフォーマー』『ラッシュアワー3』『ジェイン・オースティンの読書会』『クローバーフィールド』などなど。

 音楽:Mark Slater

 音響効果:クロード・ルテシエ(Claude Letessier) 
 今回のスタッフの中では数少ないウォン・カーウァイ組の1人で、カーウァイとは“The Follow”で出会い、以後『2046』『愛の神、エロス』『マイ・ブルーベリー・ナイツ』"I Travelled 9000 km To Give It To You"で組んでいる。その他の作品としては『ラスト・デイズ』『プリンス・オブ・エジプト』『シン・レッド・ライン』『ヒューマン・ネイチュア』『ブルー・クラッシュ』『アンダーワールド』『ファイナル・カット』『ランド・オブ・プレンティ』『炎のメモリアル』など。『エイリアンVSヴァネッサ・パラディ』では製作総指揮も務めている。

 ポスト・プロダクション:Digital Domain

 エグゼクティブ・プロデューサー:デイヴ・モリソン(Anonymous Content)

 プロデューサー:ジャッキー・パン(ジェット・トーン・プロダクション)

 アソシエイト・プロデューサー:Kerry Haynie

 head of production:Sue Ellen Clair

 ライン・プロデューサー:アリス・チャン

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 ◆作品データ
 2007年/オランダ?香港?/9分35秒
 フランス語・ロシア語/英語字幕あり・日本語字幕なし
 実写作品

 *この作品は、<SHORTSHORTS FILM FESTIVAL & ASIA 2008>のAJ-Bプログラムで『たった一つの太陽』という邦題で上映されました。

 *参考サイト
 ・Dunkan’s TV Ad Land:http://www.duncans.tv/2007/philips-seduction-by-light
 ・Hong Kong Cinemagic:http://www.hkcinemagic.com/en/movie.asp?id=9764

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 ◆監督について

 ウォン・カーウァイ 王家衛(Won Kar-Wai)

 1958年、上海生まれ。
 1963年、5歳の時、末子のウォン・カーウァイだけが母親と一緒に香港へ移住。彼は、北京語と上海語は話せたが、広東語がなかなか話せなかった(13歳くらいまで)ということもあり、母親と毎日映画館へ通うようになる。
 1980年に香港理工学院を卒業し、香港のTV局TVBへ入社。アシスタントと脚本を手がける。
 1980年代半ばには、TVBを辞め、The Wing Scope Co. 、アラン・タンのプロダクションIn-gear Film Production Companyで、脚本家/監督として活躍するようになる。
 1988年に『いますぐ抱きしめたい』で監督デビューするまでに10本以上の脚本を手がける。
 1990年に監督第二作『欲望の翼』を発表。この作品で初めて組んだオーストラリア出身の撮影監督クリストファー・ドイルと組み、彼の、手持ちカメラという撮影スタイル、および、画面構成と色彩設計が、ウォン・カーウァイ作品と分かちがたく結びついて、認識されていくようになる(2人のコンビは『2046』まで続いた)。
 1992年にクランクインした『楽園の瑕』の製作が難航し、1994年にゲリラ的に撮影した『恋する惑星』が先に完成し、公開。
 『恋する惑星』(日本公開は1995年7月)は、これまでの香港映画にはない、新しい映像センス、カッコよさを持った作品として日本でも記録的なヒットとなり、ウォン・カーウァイは日本でも人気の高い監督の1人となった。『恋する惑星』は、クエンティン・タランティーノが惚れ込み、自社でアメリカ公開した。
 1992年にジェフ・ラウとともにジェット・トーン・プロダクションを設立。同社は、『大英雄』『恋する惑星』『天使の涙』『初恋』『ブエノスアイレス』『花様年華』『2046』『マイ・ブルーベリー・ナイツ』などの作品を手がけている。
 1998年の『ブエノスアイレス』では、カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞し、同賞を受賞した初めての中国人となった。
 2007年の『マイ・ブルーベリー・ナイツ』でアメリカに進出した。
 ウォン・カーウァイは、脚本家としてデビューしながら、自作ではちゃんとした脚本もないままに撮影を始めるという方式を取っている。
 近年は、CM、ミュージック・ビデオ、短編作品を手がけることも多く、2000年の『花様的年華』“Hua yang de nian hua”はベルリン国際映画祭の短編部門に出品された。

 【フィルモグラフィー】

 ・1982年 “彩雲曲/Choi wan kuk(Rainbow Could Song)”[脚本](監督:アグネス・ホアン)
 ・1983年 “空心大少爺/Kong xin da shao ye(Just For Fun)”[脚本] (監督:フランキー・チェン)
 ・1984年 “伊人再見/Yi ren zai jian(Silent Romance)”[脚本・出演] (監督:フランキー・チェン)
 ・1985年 “吉人天相/Ji ren tian xiang (Chase a Fortune)”[脚本](監督:Wai Hung Liu)
 ・1985年 『レスリー・チャン あの日にかえりたい(美人スリに御用心))』<未> [脚本] (監督:ガイ・ライ)
 ・1985年 『ファンタジー・フォックス・ストーリー』<未>“小狐仙/Xiao hu xian(Unforgettable Tantasy)”[脚本](監督:フランキー・チェン)
 ・1986年 『傷だらけのメロディー』<未> [脚本] (監督:ノーマン・ロウ)
 ・1986年 “我要金龟婿/Wo yao jin gui xu(Sweet Surrender)”[脚本](監督:フランキー・チェン、ノーマン・ロウ)
 ・1986年 『ユン・ピョウ in ポリス・ストーリー(俺たちに明日はある!?)』[脚本](監督:チェン・タンチョウ)
 ・1986年 “悪男/E nan”[脚本](監督:フランキー・チェン)
 ・1987年 “最后一战/Zui hou yi zhan(The Final Test)”[脚本](監督:Kin Lo)
 ・1987年 『バンパイア・コップ』<未> [脚本] (監督:ラウ・チェンウェイ)
 ・1987年 『最後勝利』<未> [脚本] (監督:パトリック・タム)
 ・1987年 『マカオ極道ブルース』<未> [脚本] (監督:チェン・タンチョー)
 ・1988年 『バンパイア・コップ2』<未> [脚本・出演] (監督:ジェフ・ラウ)
 ・1988年 “猎鹰计划/Lie ying ji hua(Walk on Fire)”[脚本](監督:ノーマン・ロウ)
 ・1988年 “愛情謎語/Ai qing mi yu(Chaos by Design)”[出演](監督:アンジェラ・チャン)
 ・1988年 『いますぐ抱きしめたい』[監督/脚本]
 ・1988年 “Motolora”[監督](CM)
 ・1990年 『欲望の翼』[監督/脚本]
 ・1990年 『アンディ・ラウ/武闘派列伝』<未> [脚本] (監督:チョン・ファンツォ)
 ・1991年 『神鳥伝説』 [原案] (監督:デイヴィッド・ライ、ユン・ケイ、ジェフ・ラウ)
 ・1993年 『大英雄』<未> [製作総指揮] (監督:ジェフ・ラウ)
 ・1994年 『楽園の瑕(きず)』 [監督/脚本]
 ・1994年 『恋する惑星』[監督/脚本]
 ・1995年 『天使の涙』 [監督/脚本]
 ・1996年 『wkw/tk/1996@7'55''hk.net』 [監督](短編)
 ・1997年 『初恋』[製作] (監督:エリック・コット)
 ・1997年 『ブエノスアイレス』 [監督/製作/脚本]
 ・1999年 『ブエノスアイレス 摂氏零度』 <未> [出演] (監督:クアン・プンリョン、アモス・リー)
 ・2000年 『花様年華』[監督/製作/脚本]
 ・2000年 「花様年華MTV」[監督](ミュージック・ビデオ)
 ・2000年 『花様的年華』 “Hua yang de nian hua”[監督/製作](短編)
 ・2000年 “Suntime Wine(新天葡萄酒)”[監督](CM)
 ・2000年 JCDecaux “Un matin partout dans le monde”[監督](CM)
 ・2001年 “The Hire:The Fellow”[監督](短編)
 ・2001年 Orange France“Dans la ville”[監督](CM)
 ・2002年 “天下無双/Tian xia wu shuang (Chinese Odyssey 2002)”[製作]
 ・2002年 “Six Days”[監督/脚本](ミュージック・ビデオ)
 ・2002年 ラコステ “La Rencontre”[監督](CM)
 ・2004年 『愛の神、エロス』[監督/製作/脚本]
 ・2004年 『2046』[監督/製作/脚本]
 ・2005年 クリスチャン・ディオール 香水“Capture Totale”[監督](CM)
 ・2007年 ランコム・パリ 香水 “Hypnôse Femme”[監督](CM)
 ・2007年 ランコム・パリ 香水 “Hypnôse Homme” [監督](CM)
 ・2007年 『マイ・ブルーベリー・ナイツ』[監督/製作/原案/脚本]
 ・2007年 "I Travelled 9000 km To Give It To You"(『それぞれのシネマ』)[監督・脚本]
 ・2007年 ソフトバンクCM [監督](CM)
 ・2007年 クリスチャン・ディオール 香水“Midnight Poison”[監督](CM)
 ・2007年“There's Only One Sun”[監督](短編)
 ・2009年 “The Lady from Shanghai”[監督/脚本]

 *参考サイト
 ・Allcinema Movie & DVD Database:http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=5248&ct=
 ・IMDb:http://us.imdb.com/name/nm0939182/
 ・Wikipedia:http://en.wikipedia.org/wiki/Wong_Kar-wai
 ・「ウォン・カーウァイ FILMOGRAPHY」:http://members.jcom.home.ne.jp/baht/wkw_filmo_j.html
 ・香港影庫HKMDB:http://www.hkmdb.com/db/people/view.mhtml?id=5243&display_set=eng

この記事へのコメント

2008年05月13日 00:33
umikarahajimaruさん☆

こんばんは~♪
わ~お、さすがですね~この記事。
すごーく細かく書かれてる。わたしが観た報告するまでもないか(笑)
いやいやこの記事その際にはリンクいれさせてもらおうかな、、、?
レビューは簡単に書こうかなと思ってるので
まだじっくり読まないでおきますね。
ショートムービー記事へのコメントありがとうございます♪
umikarahajimaru
2008年05月13日 07:53
migさま
コメントありがとうございます。
ここでは動画つきで作品を紹介していますが、スクリーンで日本語字幕つきで観るという楽しみもありますよね。私も一度くらいは映画祭に足を運びたいと思っています。

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