キャベツを偏愛する男 『スタンリー』 スージー・テンプルトン

 1999年製作の短編アニメーション『スタンリー』は、今年の米国アカデミー賞短編アニメーション賞にノミネートされたスージー・テンプルトンの初監督作品です。



 【物語】
 スタンリーは、妻と2人暮らしの老人。
 彼は、キャベツを育てることが生き甲斐で、ポラロイド・カメラで写真を撮って、キャベツの成長日誌をつけたりもしている。キャベツに対する思いは、妄想にまで達し、赤ん坊を入浴させるかようにキャベツをお風呂に入れてやるというような夢を見たりもする。
 スタンリーの妻は、そんな夫を異常なものを見るような目で見つつ、今日も肉料理をこしらえている。
 ある日、妻は、キャベツと肉のレシピ(Boiled Beef with Cabbage)を見つけ、夫の育てているキャベツに思い至る……。
 夜、スタンリーは思いつめた表情で、キャベツのところに向かう。目からは涙も流れている。彼の手には包丁が握られているが、彼はどうしてもそれを愛するキャベツに振り下ろすことができない。彼は、キャベツのことで妻と口論になって、妻を殺してしまい、キャベツともども死んでしまおうと思ったのであった。

画像

 【コメント】
 動画の画面が暗いので、「スタンリーではない方の人物」が女性で、彼女がスタンリーの妻であることが少々わかりにくく(ちょっとピーター・フォークにも似ている?)、最初に私が観た時は仲の悪い2人のおじいさんの物語かと思ってしまいました(笑)。

 終わってしまえば、キャベツを愛するあまり奥さんを殺してしまうおじいさんの話だったわけですが、個人的な感想としては、果たしてこんなホラーかスリラーを思わせる演出が必要だったのだろうかという気もしますね。
 夫のキャベツへの偏愛に気がつかなかった奥さんが夫の踏み込んではいけない領域に踏み込んで夫の殺意を招くというのを、もっとオーソドックスに始めて、夫の、妻への殺意を作品のクライマックスになるように構成すればよかったのではないか、とも思います。
 作品としても、ブラックユーモアなのかシュールさを狙った物語なのか、わかりにくくて、ストップ・モーション・アニメーションとしてはかなりよくできている短編なので、ちょっと残念ですね。

 モチーフとしては、いくらキャベツが好きだって、キャベツの一生なんて知れているのだから、偏愛がエスカレートすると言ってもたかが知れているのではないか(どうせすぐ枯れるのだし)と思ったりもします。これがキャベツではなくて、ペットとして、例えばブタでも飼っているというのだったらまだわかりますが……。

 とはいうものの、人間の偏愛の物語としてこうしたものを思いついたという点、その対象をキャベツとした発想はなかなかユニークで面白く、『オテサーネク』や『悦楽共犯者』などのシュヴァンクマイエル作品、あるいは『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』などに通じる作品としてけっこう楽しむことができました。

 監督のスージー・テンプルトン自身が、この作品についてどういう感想を持っているのかはわかりませんが、この後の作品を観ると、こうした作品世界(グロテスク趣味やフェティシズム)をさらに推し進めることはせず、より一般的な物語へと向かっていることがわかります。
 『Dog』『ピーターと狼』”『ピーターと狼』にも、劇的だったり、残酷だったりするシーンはあるわけですが、テンプルトンは、エキセントリックな物語や風変わりな人々を描きたいのではなく、どちらかといえば、「孤独で不運な人々の内に秘めた思い」というようなものにシンパシーを感じている、ということなのかもしれません。

 ◆作品データ
 1999年/英/7分3秒
 台詞なし/字幕なし
 人形アニメーション

 この作品は、ブリティッシュ・アニメーション賞の最優秀学生映画に対するマリ・クットナ賞の最終選考3作品(2000年度)に残ったほか、ベルリン国際ショートフィルムフェスティバル2000 最優秀アニメーション賞、カリフォルニアSUN国際アニメーションフェスティバル2001 GOLDEN SUNアワード、マラガ国際ファンタシーフィルムフェスティバル2002 最優秀短編アニメーション賞、などたくさんの賞を受賞しています。

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 ◆監督について
 スージー・テンプルトン Suzie Templeton

 人形アニメーションを手がけるアニメーション作家。
 人形の造形(肌のタッチ、血管が浮き出ているところまで表現した手など)がリアルで、動きも自然(おそらく人間の骨格と関節の動きを細かく研究していると見られる)。特に目を中心にした感情表現が豊かで、言葉少ないキャラクターの、抑えた感情(不安や葛藤など、どちらかと言えば陰鬱なもの)を浮き彫りにするのがうまい。
 イギリスの伝統的なプロレタリア的アプローチというよりは、東欧を中心とした表現主義的なアプローチにシンパシーを抱いているのではないかと考えられる。

 1967年イギリス、ハンプシャー生まれ。

 アニメーションに本格的に関わるのは、20代になってからで、キャリアの最初は、チャンネル4で、Sylvie BlingasとOrly Yadinの“Silence”(1998)やAlejandra Jimenezの“Andares Time of War”(1999)の制作に関わったこと。
 ほぼ同時期に、Surrey Institute of Art & Designファーナム校(http://www.eigotown.com/university_guide/UK/siad.shtml)に入学し、アニメーションを専攻。1999年に“Stanley”を制作した。この作品は2000年度ブリティッシュ・アニメーション賞の最優秀学生映画に対するマリ・クットナ賞の最終選考3作品に残ったほか、数々の映画祭で高く評価された。
 さらに、彼女はRoyal Art of College(RAC)のアニメーション学科に進み、自らの技術を磨いた(2001年卒業)。キャロライン・リーフにサンド・アニメーションを試したらどうかと言われ、サンド・アニメーション作品“Inside”を作るが、自分には合わないと断念し、独自のスタイルを追求することに決める。
 RACでは、卒業制作として“Dog”(2002)を制作。この作品は、在学中に知り合ったBecalelis Brodskisと共同で立ち上げたプロダクションDoctorpussで制作した作品で、この作品もまたたくさんの国際映画祭に招待され、BAFTAアワード2002最優秀アニメーション賞ほか多数の映画賞に輝いた。
 卒業後は、アニメーションの監督として制作を続ける傍ら、The National Film and Television School、London College of Communication、California Institute of the Arts、The Royal College of Artなどで、アニメーションを教えている。
 ベネチアのCinema Jove Film Festival やフロリダで開催されるFort Lauderdale International Film Festival では審査員を務めた。
 2003年のアヌシー国際アニメーションフェスティバルでは選定委員を務めた。
 最新作『ピーターと狼』(2006)は、ポーランドで、通訳を介しながら100人ものスタッフで作った作品で、制作費を稼ぐのに3年、脚本に2年、制作に1年かかっているという。この作品は、2007年のアヌシー国際アニメーションフェスティバルの短編部門グランプリ&観客賞を受賞したほか、BAFTAアワード2007短編アニメーション部門および、米国アカデミー賞2008 短編アニメーション部門にノミネートされた。

 【フィルモグラフィー】
 ・1999年 『スタンリー』“Stanley”
 ベルリン国際ショートフィルムフェスティバル2000 最優秀アニメーション賞受賞、カリフォルニアSUN国際アニメーションフェスティバル2001 GOLDEN SUNアワード受賞、マラガ国際ファンタシーフィルムフェスティバル2002 最優秀短編アニメーション賞受賞、他受賞歴多数
 ・2000年 “Inside”
 ・2002年 “Dog”
 エジンバラ国際映画祭2001 マクラレン・アワード・フォー・ニュー・ブリティッシュ・アニメーション受賞、オタワ国際アニメーションフェスティバル2001 NATIONAL FILM BOARD OF CANADAグランプリ受賞、Royal Television Society National Student Television Awards 2001最優秀アニメーション賞受賞、カリフォルニアSUN国際アニメーションフェスティバル2002 最優秀実験的(EXPERIMENTAL)アニメーション賞受賞、広島国際アニメーションフェスティバル2002 広島賞受賞、メルボルン国際アニメーションフェスティバル2002 最優秀OVERALL FILM受賞、パームスプリングス国際短編映画祭2002 最優秀学生アニメーション作品賞受賞、BAFTAアワード2002最優秀アニメーション賞受賞、タンペレ映画祭2003 最優秀アニメーション賞受賞、その他受賞歴多数
 ・2006年 『ピーターと狼』“Peter & the Wolf” (2006)
 アヌシー国際アニメーションフェスティバル 短編部門グランプリ&観客賞受賞、Rose d'Or Light Entertainment Festival2007 Golden Rose受賞、BAFTAアワード2007短編アニメーション部門ノミネート、米国アカデミー賞2008 短編アニメーション部門ノミネート。

 *関連サイト
 ・日経トレンディネット:http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/special/20070718/1001587/?ST=ent&P=2
 ・Nick Carlson:http://ncarson.wordpress.com/2007/07/21/poetry-in-motion/

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