あまりにもリアルで…… “Dog” スージー・テンプルトン

 前回の記事で、今年のアカデミー賞短編アニメーション賞にノミネートされたスージー・テンプルトンの『ピーターと狼』をご紹介しましたが、この監督って“Dog”の監督だったんだ!と、旧作の動画をチェックしていて、ようやく気がつきました。

 “Dog”というのは、こまめに動画サイト(特に短編アニメーション)をチェックしていれば必ずひっかかってくる短編アニメーションの1つなのですが、英語の台詞があって、しかもちょっと聞き取りづらいので、ここでアップするのにはためらっていたのでした。

 “Dog”は、登場する人形がちょっと人形とは思えないリアリティーを醸し出している作品で、山村浩二監督も自身のサイト「知られざるアニメーション」で、「この主人公の少年の人形は、魂を持っている。冒頭のベットの中の潤んだ瞳の表情にゾクゾクと恐ろしい程の『感情』を感じた。この点だけでもこの作品の人形アニメーション史での意義と価値がある」と書いています。



 【物語】
 少年がベッドに臥せっている。
 少年は、父と犬と一緒に狭いアパートに暮らしているのだが、どうやらつい最近母を病気で亡くし、そのショックから立ち直れないらしい。
 父は、「母さんは安らかに亡くなった」と言うことでしか息子を元気づけることができない。
 少年が少し外に出ようという気になったある日、少年は、犬が病気で体を衰弱させているらしいことを知り、ショックを受ける。
 父もまたそのことでショックを受けるが、彼は、犬が死んでいく姿を見せて、これ以上息子を悲しませたくないと考える。夜、息子が眠っている間に、父は祈りの言葉を捧げつつ、病気の犬を撲殺するのであった。

画像

 【解説】
 暗がりの中に浮かぶ少年の憔悴した表情、それにさらなるリアリティーを与える消え入りそうな少年の声、何かを訴えかけるような犬のたたずまい……。いずれも見事で、その暗い作品のトーンとともに、何の予備知識もなく観始めた人であれば、ほぼ例外なく、圧倒されてしまうことでしょう。それが証拠に、この作品は全世界の映画祭でおびただしい数の賞を受賞しています。

 この作品は、友人が飼っていた犬を獣医によって安楽死させたというのをスージー・テンプルトンが聞いて、そこから発想した物語であるようです。

 子役の声を演じたジョシュア・オキーフについてはわかりませんが、父親役の声を演じたトニー・フィッシュは、スージー・テンプルトン作品ほかでアニメーションの編集を担当するスタッフで、既に35年以上のキャリアがあります。

 ◆作品データ
 2002年/英/5分38秒
 英語台詞あり/日本語字幕なし
 人形アニメーション

 *この作品は、エジンバラ国際映画祭2001 マクラレン・アワード・フォー・ニュー・ブリティッシュ・アニメーション受賞、オタワ国際アニメーションフェスティバル2001 NATIONAL FILM BOARD OF CANADAグランプリ受賞、Royal Television Society National Student Television Awards 2001最優秀アニメーション賞受賞、カリフォルニアSUN国際アニメーションフェスティバル2002 最優秀実験的(EXPERIMENTAL)アニメーション賞受賞、広島国際アニメーションフェスティバル2002 広島賞受賞、メルボルン国際アニメーションフェスティバル2002 最優秀OVERALL FILM受賞、パームスプリングス国際短編映画祭2002 最優秀学生アニメーション作品賞受賞、BAFTAアワード2002最優秀アニメーション賞受賞、タンペレ映画祭2003 最優秀アニメーション賞受賞、など多数の受賞歴があります。

 *この作品は、2002年に広島国際アニメーションフェスティバルで上映されているほか、イメージフォーラムフェスティバル2003でも上映されています。

 *この作品は、DVD『The BEST of RESFEST-RESFEST Shorts Vol.2』に収録されています。

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 ◆監督について
 スージー・テンプルトン Suzie Templeton

 人形アニメーションを手がけるアニメーション作家。
 人形の造形(肌のタッチ、血管が浮き出ているところまで表現した手など)がリアルで、動きも自然(おそらく人間の骨格と関節の動きを細かく研究していると見られる)。特に目を中心にした感情表現が豊かで、言葉少ないキャラクターの、抑えた感情(不安や葛藤など、どちらかと言えば陰鬱なもの)を浮き彫りにするのがうまい。
 イギリスの伝統的なプロレタリア的アプローチというよりは、東欧を中心とした表現主義的なアプローチにシンパシーを抱いているのではないかと考えられる。

 1967年イギリス、ハンプシャー生まれ。

 アニメーションに本格的に関わるのは、20代になってからで、キャリアの最初は、チャンネル4で、Sylvie BlingasとOrly Yadinの“Silence”(1998)やAlejandra Jimenezの“Andares Time of War”(1999)の制作に関わったこと。
 ほぼ同時期に、Surrey Institute of Art & Designファーナム校(http://www.eigotown.com/university_guide/UK/siad.shtml)に入学し、アニメーションを専攻。1999年に“Stanley”を制作した。この作品は2000年度ブリティッシュ・アニメーション賞の最優秀学生映画に対するマリ・クットナ賞の最終選考3作品に残ったほか、数々の映画祭で高く評価された。
 さらに、彼女はRoyal Art of College(RAC)のアニメーション学科に進み、自らの技術を磨いた(2001年卒業)。キャロライン・リーフにサンド・アニメーションを試したらどうかと言われ、サンド・アニメーション作品“Inside”を作るが、自分には合わないと断念し、独自のスタイルを追求することに決める。
 RACでは、卒業制作として“Dog”(2002)を制作。この作品は、在学中に知り合ったBecalelis Brodskisと共同で立ち上げたプロダクションDoctorpussで制作した作品で、この作品もまたたくさんの国際映画祭に招待され、BAFTAアワード2002最優秀アニメーション賞ほか多数の映画賞に輝いた。
 卒業後は、アニメーションの監督として制作を続ける傍ら、The National Film and Television School、London College of Communication、California Institute of the Arts、The Royal College of Artなどで、アニメーションを教えている。
 ベネチアのCinema Jove Film Festival やフロリダで開催されるFort Lauderdale International Film Festival では審査員を務めた。
 2003年のアヌシー国際アニメーションフェスティバルでは選定委員を務めた。
 最新作『ピーターと狼』(2006)は、ポーランドで、通訳を介しながら100人ものスタッフで作った作品で、制作費を稼ぐのに3年、脚本に2年、制作に1年かかっているという。この作品は、2007年のアヌシー国際アニメーションフェスティバルの短編部門グランプリ&観客賞を受賞したほか、BAFTAアワード2007短編アニメーション部門および、米国アカデミー賞2008 短編アニメーション部門にノミネートされた。

 【フィルモグラフィー】
 ・1999年 『スタンリー』“Stanley”
 ベルリン国際ショートフィルムフェスティバル2000 最優秀アニメーション賞受賞、カリフォルニアSUN国際アニメーションフェスティバル2001 GOLDEN SUNアワード受賞、マラガ国際ファンタシーフィルムフェスティバル2002 最優秀短編アニメーション賞受賞、他受賞歴多数
 ・2000年 “Inside”
 ・2002年 “Dog”
 エジンバラ国際映画祭2001 マクラレン・アワード・フォー・ニュー・ブリティッシュ・アニメーション受賞、オタワ国際アニメーションフェスティバル2001 NATIONAL FILM BOARD OF CANADAグランプリ受賞、Royal Television Society National Student Television Awards 2001最優秀アニメーション賞受賞、カリフォルニアSUN国際アニメーションフェスティバル2002 最優秀実験的(EXPERIMENTAL)アニメーション賞受賞、広島国際アニメーションフェスティバル2002 広島賞受賞、メルボルン国際アニメーションフェスティバル2002 最優秀OVERALL FILM受賞、パームスプリングス国際短編映画祭2002 最優秀学生アニメーション作品賞受賞、BAFTAアワード2002最優秀アニメーション賞受賞、タンペレ映画祭2003 最優秀アニメーション賞受賞、その他受賞歴多数
 ・2006年 『ピーターと狼』“Peter & the Wolf” (2006)
 アヌシー国際アニメーションフェスティバル 短編部門グランプリ&観客賞受賞、Rose d'Or Light Entertainment Festival2007 Golden Rose受賞、BAFTAアワード2007短編アニメーション部門ノミネート、米国アカデミー賞2008 短編アニメーション部門ノミネート。

 *関連サイト
 ・日経トレンディネット:http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/special/20070718/1001587/?ST=ent&P=2
 ・Nick Carlson:http://ncarson.wordpress.com/2007/07/21/poetry-in-motion/

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