祝・アカデミー賞ノミネート! 『ピーターと狼』 スージー・テンプルトン

 『ピーターと狼』は、セルゲイ・プロフィエフ作曲の同名作品を人形アニメーション化したもので、2007年のアヌシー国際アニメーションフェスティバルで短編部門のグランプリを受賞し、先頃発表された米国アカデミー賞でも短編アニメーション賞にノミネートされています。

 アカデミー賞短編アニメーション賞にノミネートされている監督の旧作でもあればなあと思って動画サイトをチェックしてみたところ、2006年作品である『ピーターと狼』はノミネート作品そのものを観ることができました。とはいうものの、こういう作品は、すぐ動画サイトから削除されてしまうのが常なので観られるうちに、観てしまいましょう。




 【物語】
 ピーターは、おじいさんと2人で暮らしている貧しい少年。友だちといえば家で飼っているアヒルくらいしかいない。
 ある日、ピーターは町で風船をもらうが、それにカラスが飛びついてきて、風船のひもにからまってしまう。
 (町のゴミ捨て場に放り込まれたはずのピーターはなぜか家の裏庭に戻っていて――)カラスは、ひもがからまったまま、ピーターに家の裏木戸を開けてくれ、と頼むような素振りを見せる。
 ピーターは、裏木戸の向こうに雑木林が広がっていることは知っていたが、おじいさんからそこに入るのは禁じられていたため、今まではそこに入ったことはなかった。
 おじいさんが眠っているのを確認すると、鍵を持ち出して、裏木戸を開ける。
 そこだけはなぜか春の陽が注いでいるような暖かな世界が広がっている。
 なんだか楽しくなってしまうピーター。
 彼は、ひものからまったカラスを助けてあげようとするが、カラスはなかなか助けさせてくれようとはしない。
 一方、家で、おじいさんが飼っているネコがカラスに目をつけ、家から飛び出してくる。しかし、ネコは、太っていて重いのと衝撃を与えてしまったのとで、池に張った氷を割り、水の中に落ちてしまう。
 ネコは慌てて、池から這い出てくるが、企みが失敗したことが恥ずかしいのか、自分はドジなんか踏まなかったというように澄まして見せる。
 家で眠っていたおじいさんが目を覚ます。おじいさんはピーターが裏木戸の外に出ていることに気づいて、彼を家の中へ連れ戻す。ネコとアヒルとカラスはまだ裏木戸の外にいて、ピーターは、木戸のすきまから3匹の様子を外の様子を眺めることしかできない。
 どこからともなく3匹を狙って狼が現れる。
 最初、狼は、ネコを追いかけるが、ネコが木に登ってしまうと、今度はアヒルに目をつける。ピーターはアヒルを手招きするが、アヒルは逃げ遅れて、あっけなく狼に呑み込まれてしまう。
 狼は、なおもネコとカラスを狙っている様子で、じっと2匹を眺めやる。それを見たピーターは古い網を持って塀によじ登り、自力で裏木戸の外に出ようとする。
 塀から枝を伸ばしている木に飛び移るピーター。
 そんなピーターに驚いたカラスは木から落ちてしまう。落ちた先は狼の鼻の上。狼の歯が風船をとらえて、風船に穴が開き、その勢いでカラスは宙を舞い、今度は狼の背中に落ちる。
 ピーターは、狼のしっぽにひもをひっかけて狼をつかまえようとする。ひもは見事に狼のしっぽにはまるが、ピーターはバランスを崩して木から落ち、狼とともにひもを介して木からぶら下がるかっこうになる。
 狼はそのままの姿勢でピーターに飛び掛り、ピーターは頬をひっかかれてしまう。
 ピーターは木の上によじ登ろうとするが、狼は自分が近づくとピーターが下に下がるのを知っているのか、再びピーターの方向に向かい、ピーターを襲う。ピーターは地面に落ちていた網をつかむとそれを狼に投げる。
 網がからまる狼。すぐ近くをハンターたちが通りかかるが、ハンターは一度は狼に銃を向けたものの、すぐに逃げ去ってしまう。
 騒ぎを聞きつけたおじいさんが裏木戸を開けて姿を覗かせ、ピーターを助ける。おじいさんは狼を銃で仕留めようとするが、ピーターはおじいさんを制してやめさせる。
 夜の街。
 おじいさんとピーターが、車に狼の入った檻を積んで、狼を売りにやってくる。
 ピーターは集まってくる子どもたちに誇らしそうに捕まえた狼を見せる。
 しかし、肉や毛皮や剥製がつるされた町の店先を眺めているうちに、ピーターは誇らしげな気分が消えていくことに気づく。
 ピーターは、檻の外からライフルで狼をこずいていたハンターに網をかぶせて、それをやめさせる。
 何かを訴えるように空を舞うカラスを見て、ピーターは自分がなすべきことを悟る。
 ピーターは、檻を開けて、狼を外に放つ。
 檻を囲んでいた人々は、狼とピーターのために道を開ける。狼は一度だけピーターを振り返るが、すぐに暗闇の中に駆け去るのであった。

 【コメント】
 この曲の名前は知りませんでしたが、有名な曲なんですね。私もこの作品を観てみて、「ああ、この曲がそうなのか」と初めて知りました。
 子どもの音楽教育のために演奏する際には、それぞれの登場人物に、各キャラクターを表わす楽器があてがわれているそうです。

 物語としては、観る者にハラハラドキドキさせる仕掛けがあり、また、少年の成長物語にもなっています。最終的にはおじいさんの助けを借りたものの、ピーターは、おじいさんが守ってくれる世界から自力で出て、初めて自分の知恵と力で世界と闘うことを知った、ということになります。

 ラストで、狼を助けたピーターは、檻の中の狼に自分を、そして手の出せない狼をなぶるハンターに世間を重ねた、と考えることができます。死闘を尽くして闘った相手を何もしていないヤツに貶められたくない、という心情はヘミングウェイの『老人と海』にも通じています。

 登場人物(動物も含む)と、町の風景などの美術が、(おそらく別の人間が手がけたからでしょう)一体感がなくて、それが作品に若干の違和感を与えていますが、それを除けば、キャラクターの目玉が動いたり(ピーターは薄っすら涙をためたりもする)、リアルに影ができたり、氷の上に姿が映ったりと、かなりよく作りこまれた作品であることがわかります。
 これで背後の林の木々が風にそよいだりしたら文句はなかったのですが、そこまで求めるのは贅沢というものでしょうか。

 制作会社のひとつBREAKTHRU FILMSは、アニメーション制作のほかに、短編映画の制作や、長編映画のFXも手がけている映画会社で、前者には2003年にカンヌ国際映画祭等で高く評価された“The Most Beautiful Man In The World”があり、後者には『エディット・ピアフ ~愛の讃歌~』があります。

 共同製作にポーランドがクレジットされていますが、これは社名でいうと、セマフォルで『おやすみ、クマちゃん』を製作した会社として知られている映画会社です。

画像

 ◆作品データ
 2006年/英・ポーランド/29分15秒
 台詞なし/字幕なし
 人形アニメーション

 この作品は、アヌシー国際アニメーションフェスティバルで短編部門グランプリ&観客賞を受賞したほか、Rose d'Or Light Entertainment Festival2007でGolden Rose受賞、BAFTAアワード2007短編アニメーション部門と2008年米国アカデミー賞短編アニメーション部門にもノミネートされています。

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 ◆監督について
 スージー・テンプルトン Suzie Templeton

 人形アニメーションを手がけるアニメーション作家。
 人形の造形(肌のタッチ、血管が浮き出ているところまで表現した手など)がリアルで、動きも自然(おそらく人間の骨格と関節の動きを細かく研究していると見られる)。特に目を中心にした感情表現が豊かで、言葉少ないキャラクターの、抑えた感情(不安や葛藤など、どちらかと言えば陰鬱なもの)を浮き彫りにするのがうまい。
 イギリスの伝統的なプロレタリア的アプローチというよりは、東欧を中心とした表現主義的なアプローチにシンパシーを抱いているのではないかと考えられる。

 1967年イギリス、ハンプシャー生まれ。

 アニメーションに本格的に関わるのは、20代になってからで、キャリアの最初は、チャンネル4で、Sylvie BlingasとOrly Yadinの“Silence”(1998)やAlejandra Jimenezの“Andares Time of War”(1999)の制作に関わったこと。
 ほぼ同時期に、Surrey Institute of Art & Designファーナム校(http://www.eigotown.com/university_guide/UK/siad.shtml)に入学し、アニメーションを専攻。1999年に“Stanley”を制作した。この作品は2000年度ブリティッシュ・アニメーション賞の最優秀学生映画に対するマリ・クットナ賞の最終選考3作品に残ったほか、数々の映画祭で高く評価された。
 さらに、彼女はRoyal Art of College(RAC)のアニメーション学科に進み、自らの技術を磨いた(2001年卒業)。キャロライン・リーフにサンド・アニメーションを試したらどうかと言われ、サンド・アニメーション作品“Inside”を作るが、自分には合わないと断念し、独自のスタイルを追求することに決める。
 RACでは、卒業制作として“Dog”(2002)を制作。この作品は、在学中に知り合ったBecalelis Brodskisと共同で立ち上げたプロダクションDoctorpussで制作した作品で、この作品もまたたくさんの国際映画祭に招待され、BAFTAアワード2002最優秀アニメーション賞ほか多数の映画賞に輝いた。
 卒業後は、アニメーションの監督として制作を続ける傍ら、The National Film and Television School、London College of Communication、California Institute of the Arts、The Royal College of Artなどで、アニメーションを教えている。
 ベネチアのCinema Jove Film Festival やフロリダで開催されるFort Lauderdale International Film Festival では審査員を務めた。
 2003年のアヌシー国際アニメーションフェスティバルでは選定委員を務めた。
 最新作『ピーターと狼』(2006)は、ポーランドで、通訳を介しながら100人ものスタッフで作った作品で、制作費を稼ぐのに3年、脚本に2年、制作に1年かかっているという。この作品は、2007年のアヌシー国際アニメーションフェスティバルの短編部門グランプリ&観客賞を受賞したほか、BAFTAアワード2007短編アニメーション部門および、米国アカデミー賞2008 短編アニメーション部門にノミネートされた。

 【フィルモグラフィー】
 ・1999年 『スタンリー』“Stanley”
 ベルリン国際ショートフィルムフェスティバル2000 最優秀アニメーション賞受賞、カリフォルニアSUN国際アニメーションフェスティバル2001 GOLDEN SUNアワード受賞、マラガ国際ファンタシーフィルムフェスティバル2002 最優秀短編アニメーション賞受賞、他受賞歴多数
 ・2000年 “Inside”
 ・2002年 “Dog”
 エジンバラ国際映画祭2001 マクラレン・アワード・フォー・ニュー・ブリティッシュ・アニメーション受賞、オタワ国際アニメーションフェスティバル2001 NATIONAL FILM BOARD OF CANADAグランプリ受賞、Royal Television Society National Student Television Awards 2001最優秀アニメーション賞受賞、カリフォルニアSUN国際アニメーションフェスティバル2002 最優秀実験的(EXPERIMENTAL)アニメーション賞受賞、広島国際アニメーションフェスティバル2002 広島賞受賞、メルボルン国際アニメーションフェスティバル2002 最優秀OVERALL FILM受賞、パームスプリングス国際短編映画祭2002 最優秀学生アニメーション作品賞受賞、BAFTAアワード2002最優秀アニメーション賞受賞、タンペレ映画祭2003 最優秀アニメーション賞受賞、その他受賞歴多数
 ・2006年 『ピーターと狼』“Peter & the Wolf” (2006)
 アヌシー国際アニメーションフェスティバル 短編部門グランプリ&観客賞受賞、Rose d'Or Light Entertainment Festival2007 Golden Rose受賞、BAFTAアワード2007短編アニメーション部門ノミネート、米国アカデミー賞2008 短編アニメーション部門ノミネート。

 *関連サイト
 ・『ピーターと狼』公式サイト:http://www.breakthrufilms.co.uk/peterandthewolffilm/index.html
 ・BREAKTHRU FILMS:http://www.breakthrufilms.co.uk/suzie_templeton.htm
 ・日経トレンディネット:http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/special/20070718/1001587/?ST=ent&P=2
 ・Nick Carlson:http://ncarson.wordpress.com/2007/07/21/poetry-in-motion/

この記事へのコメント

のんのん
2008年08月18日 19:55
ピーターと狼、初めて話を知りました。深いですねぇ・・・・

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