左側に気をつけろ! "Left Turn” ショーン・エリス

 青春コメディー『キャッシュバック』、ミュージック・ビデオ“Never Ever”と、ファッション・フォトグラファー ショーン・ヤングの作品をご紹介してきましたが、この2作品に間に“Left Turn”という彼が初めて撮った短編映画があります。

 この作品は、『キャッシュバック』とも“Never Ever”とも違い、サイコ・スリラーに属する作品です。

 ショーン・ヤングは、“Harper’s Bazaar”誌でデイヴィッド・リンチとコラボレーションしたことがあるということですが、彼もリンチ・ワールドが好きなんだろうなと思わせてくれる作品に仕上がっています。

 英語の台詞はありますが、あまり気にしないでも物語はわかりますし、映像世界を楽しめばいいのではないかと思います。

 前半


 後半


 【物語】
 雨の夜。暗い湖に女性の全裸死体が上がる……。
 ジュリーは、建築家の妻で職場も同じ。しかし、出社・退社は互いの都合もあって別々にしている。
 ジュリーは、今日も夫ジョンを残して先に帰ることにする。
 その夜は激しい雨で、ジュリーは歩道に黄色いレインコートを着て重そうなカバンを持ち、ずぶ濡れになっている老女らしい人を見つける。気の毒に思った彼女は、老女を車に乗せてあげることにする。
 しかし、ジュリーが声をかけても、老女はいっこうに口を利こうとしない。
 彼女も何か心配になってきたが、車を信号で止めた時に、ふいに老女は車から降りて去ってしまう。
 ジュリーは、ホッとするが、車の中に老女の持っていた大きなカバンがあることに気づき、警察に届けることにする。
 夫のジョンも車で帰路についていたが、目の前に黄色いレインコートの女性が倒れているのを見つけ、車に乗せてあげることにする。
 警察で、ジュリーは事情を話すが、警察官には、彼女が何を訴えようとしているのかよくわからない。仕方がないので、警察官は彼女の持ってきたカバンを開けることにする。
 「中身を確かめたの?」
 「いいえ」
 カバンの中からは次々と刃物が出てくる。出刃包丁、枝切バサミ、調理用包丁……。
 一方、ジョンの運転する車の中では、レインコートの老女が懐から何かを取り出して、ジョンに……。
 警察では、ジュリーも警察官もカバンから出てきた刃物に途方にくれている。
 ジョンの車は道路脇に寄せて止められ、ドアを開けて、中からレインコートの老女が降りてくる。その車の隣を別の車が通り過ぎていくが、ジョンの車はいっこうに動き出す気配がない……。

画像

 【解説】
 冒頭で思わせぶりに女性の全裸死体を見せておいて、主人公ジュリーが犠牲になるのかと思うと、物語は予想外の展開を見せる……。

 作品の中で何らかの「解決」を期待すると肩透かしをくらってしまいますが、ショーン・エリスはもちろん意図的にわざとこれをやっているのでしょう。

 未解決の猟奇的事件、大雨の日のヒッチハイカー、黄色いレインコートの謎の人物、カバンに詰まったたくさんの刃物……。小道具の使い方、スリラーとしての緊張感の高め方もうまく、ショーン・エリスの狙いもたぶんそこにあるのだろうと思われます。
 物語や事件を解決しなくてもいい。雰囲気を高め、観客を煽り、翻弄し、ぐっとひきつけておいて、突然放りだすというスタイルはデイヴィッド・リンチに近いといってもいいでしょうか。

 ホラーやスリラーには、謎解きをされてしまうととたんにつまらなくなるものがありますから、ショーン・エリス(やデイヴィッド・リンチ)はそういうことをしなくてもいいんじゃないかと考え、その結果、作品をこういう方向に導いている、ということなのかもしれません。

 タイトルの“Left Turn”は、「左に曲がれ」ではなく、「左を向け」で、ジュリーやジョン、そして誰か見知らぬ人を助手席に乗せているかもしれない“あなた”に注意を促しているわけです(笑)。

 ジュリーを演じるのは、ルーシー・ラッセルで、フランソワ・オゾンの『エンジェル』で主人公の個人秘書ノラ役を演じているイギリスの女優です。他にも、『トリスタンとイゾルデ』『バットマン・ビギンズ』『アイ・アム・デビット』『グレースと公爵』など出演作は多数ありますが、この“Left Turn”は彼女の初期の作品ということになります。

 この作品の撮影を手がけたアレックス・バーバー(Alex Barber)は、新進の撮影監督で、この作品の前にはクリス・カニンガムの“Flex”を手がけたことがあるくらいで、本作で認められて『ミーン・マシーン』(2001)、『スウェプト・アウェイ』(2002)などを手がけ、ショーン・エリスとは短編版“Cashback”で再び組んでいます。

 この“Left Turn”は、長編版“Cashback”(『フローズン・タイム』)で、眠れない主人公ベンが観るテレビに映っている作品だそうです。

 ◆作品データ
 2001年/英/15分
 英語台詞あり/日本語字幕なし
 実写作品

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 ◆監督について
 ショーン・エリス Sean Ellis
 1970年 イギリス・サセックス州ブライトン生まれ。
 11歳から写真を撮り始め、スティール・カメラマンとしてキャリアをスタートさせる。
 1994年にロンドンに移り、スティール・カメラマンの経験を生かして、ファッション写真へと転身し、“The Independent”紙・日曜版では、イギリスのフォトグラファー トップ10の1人に数えられるまでになる。

 ファッション・フォトグラファーとしての主な活動媒体は、“i-D”、“The Face”、“Arena”、“Arena Homme Plus”、“Visionaire”、“Dazed and Confused”、“Numero”、“Vogue”(フランス版、イギリス版、日本版、アメリカ版)、“Harper’s Bazaar”、“Big Magazine”など。

 過去に手がけた人物写真は、エルトン・ジョン、北野武、トレント・レズナー、カイリー・ミノーグ、エリック・バナ、ステラ・マッカートニー、Air、Kosheen、リチャード・アシュクロフトなど。
 “Harper’s Bazaar”誌では、ファッション・イメージのシリーズでデイヴィッド・リンチとコラボレーションしたりもしている。

 1年間毎日写真を撮るというアイデアで1999年に撮りためた写真を写真集“365-A Year in Fashion”としてまとめる(第一写真集)。

 元々写真にストーリー性を持ち込むことを得意としていたが、それがミュージック・ビデオやCMへの移行を容易にした。
 1997年に手がけたAll Saintsのビデオ“Never Ever”は、1998年 Brit Awardのビデオ部門を受賞している。
 CM作品としては、ジャン・ポール・ゴルティエ、ランド・ローヴァー、リンメル、O2など。

 リドリー・スコットのプロダクションRSAのプロデュースで、2001年に最初の短編“Left Turn”(サイコ・ホラー)を発表。続いて2004年に“Cashback”を発表した。
 “Cashback”は、米国アカデミー賞短編部門にノミネートされたほか、シカゴ国際映画祭の短編部門でゴールド・ヒューゴー賞(グランプリ)を受賞するなど、高評価を受け、2006年に長編版“Cashback”(邦題『フローズン・タイム』)を制作した。

 ◆フィルモグラフィー
 ・1997年 “Never Ever”[ミュージック・ビデオ]
 ・2001年 “Left Turn”[短編]
 ・2001年 “Gabriel”[ミュージック・ビデオ]
 ・2004年 “Cashback”[短編]
 ・2006年 『フローズン・タイム』“Cashback”
 ・2006年 “Lila”[短編]
 ・2008年 “The Brøken”

 *参考サイト
 ・ショーン・エリス公式サイト:http://www.sean-ellis.com/contents.html
 ・SEAN ELLIS PHOTOGRAPHER:http://www.seanellis.co.uk/index.asp
 ・“Cashback”(長編版)公式サイト(英語):http://www.cashbackthemovie.com/
 ・『フローズン・タイム』公式サイト:http://www.frozen-time.jp/
 ・ショーン・エリスに関するWikipedia(フランス語):http://fr.wikipedia.org/wiki/Sean_Ellis
 ・デザイナー 岡沢高宏さんのブログ honeyee.com(ハニカム):http://blog.honeyee.com/tokazawa/archives/2007/12/sean_ellis.html

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